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128、女神の城 〜 世界の勢力図

「もう、そんなんほっといて、行くで」


「えっ、あ、いえあの、族長さんが」


「紹介は終わっとるやろ」


「えっ?」


 あ、いつの間にか、族長さんが僕の肩から、女神様の肩に移動していた。そっか、念話か…。それで小さなレディ、もとい、女神様は、ずっと静かだったのか。


「ライト、これを忘れるでない」


 改めて渡されたパフェの伝票…。値段を見て僕は少し驚いた。高いぞと言われていたのは本当だった。たかがパフェに、銅貨20枚、2,000円って……高っ!


(まぁ、仕方ないか…)


 小さなレディが女神様だったんだから、おごる理由はないと思うんだけど、そう言うとたぶんまた拗ねるよね…。


「わかりました。族長さんとお話が済んだら、広場に放してやってくださいね」


「うむ」


 そして、僕はレジで銅貨20枚を支払って、タイガさんと店を出たのだった。



「おまえ、ババアに引っかかって災難やったな」


「えっ、あー、はぁ」


「まぁ、衰えた能力が少しずつ元に戻ってきて、舞い上がっとんねん。許したれや」


「そうですね、しかし驚きました」


「驚いたんは、おまえのポーションや。リュックは主人の発想を具体化するだけやからな、おまえの感覚が、ぶっ飛んでるっちゅうことや」


「えーっと、それ、褒めてます?」


「めっちゃ褒めたってるやないけ」


「あはは、はぁ。そうは聞こえないですけど」


「おまえ、耳悪いんちゃうか」


「ははっ、はぁ…」




 タイガさんに連れられ、僕は、居住区の通ったことのない道を歩いていた。

 今までは大通りしか通ったことがなかったんだけど、いま歩いているのは民家が並ぶ細い道だった。


 僕達が通ると、あちこちの家から顔が出てくる。珍しいのかな? チラッと見て、顔はすぐに引っ込むんだけど。


「着いたで」


「あ、はい」


 古めかしい民家の前で、タイガさんは立ち止まった。普通の家に見えるんだけど…。


 タイガさんは、引き戸を開けて、でっかい声で叫んだ。


「爺さん、生きとるかー」


 声を聞いて、若いお兄さんが出てきた。魔導士風のローブを着た、愛想のよさそうな人だ。


「タイガさん、いま、ちょっと無理みたいです」


「あー、じゃあ、上がらせてもらうで」


「えっ、いえ、あの…」


「ライト連れてきたんや。どうせ、腰痛やろ?」


「昨日から、アレの後遺症で……いま嫁が治療院の先生を呼びに行ってます」


「発作の方かー」


「そうなんです。こないだの発作を散らしたせいで、今回はキツイみたいで…」


「ふぅん、そうか。ちょうどええわ、上がるでー」


「いや、でも近寄ると…」


「俺、クリアポーション持ってるから平気や。ライト、治したれ」


「えっ? 僕ですか?」


「おまえ、医者やろ」


「いや、医者になったつもりはないんですが…」


 タイガさんは、気にせず、家の中に入っていった。僕も、戸惑いつつも、お兄さんに軽く会釈をして、家の中にお邪魔した。


 そして、タイガさんは勝手を知っているようで、勝手に2階に上がっていった。僕も、そろそろと、それについていった。


 一番奥の部屋が扉が閉められていて、その手前に立入禁止のような印が置かれていた。


「爺さん、客連れてきたで。生きとるなら出てこいや〜」


「タイガか? バカ者! ワシはいま動けないと聞いておらんのか」


「ライト連れてきたんやけどな、その扉、封印解いてくれや」


「ダメじゃ。ほんとに脳筋だな、おまえは」


「ッチ。ライト、爺が恥ずかしがって出てこんから、おまえから行ったってくれ」


「あの、どういう状況なんですか?」


「古傷がたまに悪さするらしいわ。爺は、呪い殺されたことあるからな」


「えっ! えっと……ということは、発作って呪い状態なんですか? 」


「そのときによって、パターン違うんや。今日は、魔道具で封印しとるから、変なもん出てるんやろ」


「そ、それって…」


「あー、心配せんでも爺は不死者や。闇属性持ちやけど、蘇生かけても死なへんから好きにしてええで」


「むちゃくちゃな…」


「ライトさん、悪いけどまた出直してくれ。これがおさまったら2年は大丈夫なはずだから」


「2年周期の発作ですか」


「まぁな…」


「とりあえず、状態だけでも見せてもらっていいですか?」


「悪いが、封印を解くわけにはいかないからの。ライトさんは通り抜けできないのじゃ」


「あ、闇を封印している?」


「そうじゃ」


「わかりました、闇を出さないようにやってみます」


 僕は、霊体化! を念じた。そして扉を通り抜けようとすると、バチッ! とはじかれた。


(痛っ!)


 あれ? 闇が出てるのかな? 怒ってないんだけどな。


「ライト、おまえ、何を聞いとってん? アンデッドはすべて排除されるんや」


「あ、なるほど。闇を出さないように気をつけてたのに、霊体化そのものがダメなんだ」


「なんとかせー」


「はぁ」


 僕は、バリアをフルで張った。そして透明化! を念じた。これで無理なら、もう手段はないな…。

 そして、通り抜けようとすると、バチッ! とはじかれた。


(ウソ…)


「タイガさん、この封印すごいです。通り抜けられない」


「はぁ、だから封印解いてくれって言うてんのに、頑固ジジイやからな」


 僕は、霊体化、透明化を解除した。そして扉の先を『見る』と、爺さんが椅子に座ってうなだれていて、まわりは闇に包まれている。


(うーん、生首達なら入れるかな?)


 そう考えると、足元に生首達が次々とワープしてきた。ん? 君達チャレンジャーだね。バチッてはじかれたら、かなり痛いよ? 僕は足元の生首クッションに乗った。


 フッと目の前が真っ暗になった。身体中に、ねちっこい何かがまとわりつく。僕は、左手を上に上げた。そしてわずかに僕の闇をまとわせ蘇生!を唱えた。


 ピカッ!


  強烈な白い光で部屋の中は白く染まった。やがて、白い光がおさまってくると、椅子に座り、呆然とこちらを見ている爺さんと目が合った。


「あ、こんにちは。お邪魔しています」


「あ、あぁ、えっ? どうやって入ってきたのだ? 完全にこの部屋と、外は、魔道具で分離していたのに…」


「通り抜けできなかったので、ワープしました」


 すると、自分達を紹介されたと勘違いした生首達がハラハラと上から降ってきた。天井からの、わずかな距離を降ってきても、全然、雪に見えないんだけど。


 爺さんが、感嘆の声を出さなかったからか、生首達は、若干しょんぼりしつつ、ふわふわ漂っている。


「ワープワームか。なんだか、えらく可愛らしいのぅ」


 可愛いと言われて元気になったのか、生首達は、ヘラヘラし始めた。


「はい、ワープワームです。ちょっと『見せ』てもらってもいいですか?」


「ん? 何をだ?」


「えーっと、発作って…」


「あー、消えたのぅ。さっきの白い光は、聖魔法か?」


「はい。闇の反射です。部屋の闇を払う程度の最少出力にしてみました」


「ほう、それでか。清浄の光じゃな」


「はい」


 僕は、爺さんの身体を『見て』みた。黒くなっている所がいくつもあるが、それはすべて何かが被せられていた。


「ん? ワシを『見て』おるようだが、もう発作は消えたぞ?」


「あの、身体のあちこちに黒い所があって、そのすべてに何かが被せられているようですが…」


「その被せられているものが2年周期で外れるんじゃよ。まるでビックリ箱のようでのぅ。何が起こるかわからないのじゃ」


「なぜ、そんなビックリ箱が体内に?」


「あー、ワシはな、いっぺん死んで、女神様に生き返らせてもらったんじゃ。そのときに、仕掛けに気づかなかったんでの」



 ドンドン! ドン!



「おい、ええ加減に、開けろや、ジジイ」


「あー、うるさい奴を忘れておった」


 爺さんが魔法で何かを操作すると、この部屋の空気感が変わった。と同時に、タイガさんが乱暴に扉を開け放した。


「動けるなら、話は店におりてからや」


「あー、すまん。客人だったな」


 タイガさんに引っ張り出されるように、1階の店へと下りて行った。ちょうどそこに、治療院の先生がやってきた。


「あらら、もうおさまったようですね」


「封じたのではなく、消したぞ、この子が」


 治療院の先生は、手に何かの道具を持っていた。話の流れからすると、おそらく封印道具なんだろう。


「やはり、ライトさんなら消せると思ってたんですよね」


「あの、呪いって…」


「これは、冷徹な神のしわざでしてね。ご存知ないですか? いま、この星を手に入れようとしている神が多いのですよ」


「あ、はい、聞いています」


「女神様は呪いに耐性がないから、呪術系の神に狙われていましてね。神族を何十人と奪われました」


「そうなんですね…」


「拉致され、最後まで抵抗すると爺さんのように、呪い殺されるんです。そしてさらに、女神様が蘇生することを見越して、罠を仕掛けていた」


「罠?」


「生き返ると同時に発動する呪いをかけられていたんですよ。それを解除するには生き返らせた者の元を離れる必要がある」


「えっ」


「そうやって、結局は狙った者を手に入れるんですよ。だが、頑固な爺さんはそれを拒んだ。だから、定期的に、仕掛けが外れて発作が起こるのです」


「ひどい…」


「これを仕掛けたのが、青の中でトップ争いをしている神ダーラなんです。こないだ治療院に現れライトさんが追い払ってくれた神は、そのダーラの下僕です」


「あのスカウト神…」


「俺が、斬ったけどな」


「ダーラは、中立の神を使って、中立の星を攻略しようと考えたようです」


「あの泳がせとる幻術士も、そのコマのひとつにされとるんや」


「えっ? 赤の神の依頼で、中立の神の配下が迷宮を作っているって聞きました」


「赤の神の下僕を持っているのです。いまの勢力図は、青が圧倒的に優位です。すると、赤の中での権力争いから外れた神は、プライドを捨て、有力な青の神に忠誠を誓う者が現れました」


「うわぁ」


「すると、ダーラのような呪術を得意とする神は、より一層有利になってきたのです。人を操ることは、他の魔導系の神より、得意ですからね」


「呪術系というと、アンデッド系ですか?」


「いえ、種としては、呪術系悪魔です。残忍で冷徹、普通の悪魔は呪術は使えないですがね、ダーラは万能神なんですよ。おそらく、この世界の覇権を握るでしょうね」


「そうなんですか…。神様も種族というか特性があるんですね」


「まぁ、イロハカルティア様を見ていると、何の種かわからないですしね」


「あ! 女神様も、特性あるんですか?」


「ババアは、妖精系や。だから闇や呪いに弱いんや」


「妖精! かわいいですね」


「何言うてんねん。妖精ってのは、みんなヒステリックでうるさいだけやんけ」


「そ、そう? なのかな?」


「それより、魔道具を買いに来たん忘れてへんか」


「あ、でも、お爺さんの体内の仕掛けが…」


「ライトさん、作動していない仕掛けは外せないのです」


「あの被せてある所は、作動済みの仕掛けなんですよね?」


「ライト、外せへんで。作動した呪いを封印したら再びリセットされるみたいなんや」


「永遠のメリーゴーランド、という名前の呪術らしい。発作の度に、自分の元へ来いという勧誘が頭に流れてのぅ。抗うのが大変なんじゃよ」


「そんな、ひどい…」


「だが、10の内のひとつは消えたんだ。ライトさんのおかげじゃよ」


「……そうですか」


 僕は……僕は、無力感で苦しくなった…。

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