127、女神の城 〜 女神様の遊び
僕は、いま困っている。タイガさんに呼び出されて、女神様の城に生首達のクッションでワープして来たんだ。
そして、虹色ガス灯広場で、生首達の族長さんがいることがわかり、いま、一緒に居住区のカフェに来ているんだ。
族長さんは、僕が前に生首達のワープでこの城に来たときに、女神様から次は長を連れてくるようにと言われていたらしく、女神様に会うために一緒に来たそうだ。
僕は、タイガさんを探しているんだけど、女神様と一緒にいるだろうと思って、族長さんも連れてきたんだ。
広場や居住区で、女神様らしき人をカフェで見たと聞いたんだけど、残念ながら、居ないみたいだ。
でもナタリーさんが居て、タイガさんがもうすぐここに来ると言うので、空いてる席でご一緒させてもらうことになったんだ。
だけど、困ったことに、同じ席にいた5〜6歳の女の子と少し話したんだけど、僕が変なことを言ったのか、彼女が拗ねてしまったんだ。
ナタリーさんは、笑ってるだけだし、お嬢さんは、ふんっと拗ねてるし……どうしよう。あ、チビっ子って言ったから、怒ってるのかな? 失言だったな…。
「あ、あの…」
「なんじゃ」
「チビっ子って言ったり、お母さんがどうとか、子供扱いしたから怒ってますよね、ごめんなさい、悪気はないんです」
「は?」
「小さくても、女性ですもんね。すみません、言葉遣いに気をつけますから、ご機嫌直してもらえませんか?」
すると、小さなレディは、少し思案顔だったが、何かを思いついたのか、パッと表情が明るくなった。
「じゃあ、季節のパフェをおごってくれるのか?」
「えっ? あ、はい。失礼な態度をとったお詫びに、なんでもご馳走します」
「ほんとか! なんでもよいのか?」
「はい」
「特製ごきげんパフェでもよいのか? 高いぞ?」
「はい、いいですよ」
すると、パァ〜っと満面の笑みを浮かべ、すぐさま店員さんを呼んでいた。
自分でオーダーできるんだ。すごい、しっかりした利発な子だなぁ。
「ライトくん、甘やかしちゃダメよー」
「でも、僕の失言ですし…」
「そんなことないわよ。ほんとにもう、いろ…」
「オババ! 黙るのじゃ」
(ん? いろ…?)
「はぁ、もうほんとに知らないわよー」
「ライトが悪いのじゃ」
「あ、はい。すみません…」
しかし、この女の子、誰かに似てるような気がするんだよね。でも、こんな綺麗な子の親って……うーむ。
「ライトくん、体調はどうなのー?」
「あ、はい。まだダル重い感覚は抜けないですが、だいぶ回復しました」
「そう、よかったわ〜。クマちゃんも心配してたわよー」
「あ、ベアトスさん、あれから会ってないですもんね。たぶんもう3ヶ月くらい経ってますよね」
「そうね、3ヶ月は余裕で越えてたと思うわ〜。でも、ライトくん、回復が早いわよー」
「そうなんですか?」
「うんうん、タイガは、半年は動けないだろうって言ってたもの」
「完治するにはそれくらいかかるんでしょうか」
「うーん、暴走で魂の生命エネルギーをほとんど使っちゃった人達を見てると、だいたい完治には3年くらいかかってるわよ」
「えっ? 3年ですか」
「ライトくんみたいに、闇を大暴走させた人はみんな消滅しちゃったから、闇の暴走の回復はまた違うかもだけど…」
「えっ……みんな消滅…」
「そうよ、だから、完治するまではもう闇は使っちゃダメよ? ワープワームの前の持ち主のレア退治で暴走したでしょ?」
「えっ、あ、はい…」
「あのときのダメージは、少なかったみたいだけど、それがまだ完治してない間に、また暴走しちゃったから」
「あれは、少し疲れただけで体調崩さなかったし、余裕ありました」
「今回は、半端なく使っちゃったわよね。ライトくんは、相手の戦闘力に合わせて闇を放出しちゃうみたいなの」
「そうなんですか」
「うん、だから、今回は相手が強かったからライトくんのダメージが大きくなったんだと思うわー」
「はぁ」
「ライトくんは、相手をオーバーキルするくらい闇エネルギーを放出しちゃうのよ。たぶんその半分のチカラでも倒せたはずなのに、怒ってたから制御できなかったのね」
「オーバーキル…。僕、相手の戦闘力はわからないから…」
「もしかして、覚醒を考えてる?」
「え?」
「精霊トリガに入れ知恵されたでしょう?」
「あ、氷のクリスタルですか?」
「うん、探しに行くの?」
「いえ、あ、もしかして覚醒すると制御できるようになるんですか?」
「うーん、それはわからないわ。でも、あまりメリットはないわよ。リスクが高いだけで、覚醒する意味はないと思うわ」
「僕は、いまいちわからないんですが、覚醒って強くなるんですよね?」
「ライトくんは、覚醒しても強くならないみたいよ」
「えっ?」
「さっきも話したように、ライトくんは相手によって放出するエネルギーを変えるのよ。だから、相手が強ければ、より強い攻撃をするの」
「じゃあ、覚醒する意味って…」
「タイガは、電池を積むだけだって言ってたわー。意味わからないんだけど」
「あー、なるほど、エネルギーのバックアップってことかな。倒れなくなるかもしれないんですね」
「えーっと、全然わからないわ〜」
僕がナタリーさんとこんな話をしているのを横目で見ながら、小さなレディは、大きな特製ごきげんパフェを黙々と食べていた。
こんな大人の話、つまらないだろうな。でも、おとなしくて偉いよね。誰の子だろう?
まさか、タイガさんの子、じゃないよね? タイガさんは、そういえば、話さなければ渋いちょいワル風なイケメンだ。
でも、タイガさんとはタイプが違うか。もっと上品な育ちの良さそうなお嬢さんだもんね。
僕がジッと見ているのに気づいた小さなレディは、スプーンを止め、僕の方をチラ見した。
「なんじゃ?」
「あ、いえ。あ、そういえばパフェ2つ目ですよね? お腹は大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃ」
「なら、いいんですけど…」
「ライトくん、まだわからないのー?」
「ん? あ、彼女の親が誰かですか? うーん、誰かに似てるような気はするんですけど、こんな綺麗な子の親って…」
「きれいなのか?」
「はい、お嬢さんは大人になると、すっごい美人になりそうですよ」
「ふむ」
「親じゃなくてね、あの…」
「オババ! 黙るのじゃ」
「あはは、なんだか、話し方は女神様に似てますね。そういえば、女神様は今日はどうされているんですか?」
「えっ? えーっと、どう答えたらいいのかしら?」
「あ、話せないことならいいです。ただ、ワープワームの族長さんが付いてきてるので、会えたらいいなと思っただけですから」
「あ、そうなのね、うーん…」
そう言うと、ナタリーさんは、小さなレディをジッと見つめていた。ん〜、念話なのかな? こんな小さな子供でも、念話できるんだろうか。僕はできないのに…。
「あ! わかった! 女神様の子じゃないですか?」
ブフォッ! と、小さなレディがむせた。あれ? 違う? いや、当たり?
「まぁ、ふふっ、ライトくん、神は、子供作れないわよー。そういう能力はないのよ〜」
「えっ? そうなんですね、知らなかった」
「ふふっ、しかし、ほんとに知らないわよー」
「ん? 何がですか?」
「うーん、口止めされてるのー。何が面白いのかわからないんだけどー」
「ん?」
そこに、ドカドカと大きな足音が聞こえてきた。振り返ると、タイガさんが居た。やっと来た〜。
タイガさんは、ナタリーさんに何か魔法袋のような物を渡していた。
「これで完了や」
「タイガ、ありがとう、助かったわ〜」
「おう、ライト、大丈夫なんかー?」
「はい、だいぶ回復しました。いろいろあれこれ、すみません」
「まぁ、まだ無理せんことやな」
「はい、あの、ジャックさんから聞いたんですが、僕に用って?」
「あ、ワンコは無理やったか。まぁ、せやな、じゃあ、爺さんとこだけにしよか」
「ん?」
「おまえ、金持ってるやろな?」
「えっ……えーと、そんなには…」
「じゃあ、ポーションは?」
「えっと、それなりには…。あの、なんだか、恐喝されてるような気になるんですけど…」
「はぁ? 何言うとんねん。魔道具屋に連れて行くだけや」
「えっ、あ、そういえば、魔道具…」
「おまえ、何も揃えてへんやろ。ええ加減、揃えな、シャレにならへんで」
「えーっと、はい…」
「ほな行くで」
「あ、はい」
僕が席を立とうとすると、小さなレディに呼び止められた。そして、いつの間にか別伝票になっているパフェの伝票を笑顔で渡された。
「忘れ物じゃ」
「あ、はぁい。ふふっ、そういうとこも、女神様に似てますね〜、お嬢さん」
「はぁ? ライト、何言うとんねん。コイツはババアやぞ?」
「えっ?」
「ッチ!」
「あれ? 舌打ち? えっ? あの、えっ? この小さなレディがイロハカルティア様なんですか?」
「だから、そうやて言うてるやろが」
「えーっ!」
僕は、ナタリーさんと目が合った。あー、その顔は……本当なんだ。小さなレディを見ると、知らんぷりをされている…。
「だから言ったじゃないのー」
「はぁ、まだその遊び、飽きへんのか。ガキか」
「あの……いったい? というか、なぜ、その年齢なんですか?」
「おまえの逆転魔ポーションやんけ」
「あ、はい、でも2〜3歳になるはずでは?」
「あー、それで気づかなかったのねぇ」
「それは、美容ポーションや」
「え?」
「おまえ、あの輝き1%付与の意味、わかってへんやろ。衰えた能力が改善されるんやで」
「えーっ!」
「まぁ、1%やなくて、ババアの場合は、星に半分取られるし、残りの半分以上は城の巨大クリスタルに分けとるみたいやけどな」
「もう全盛期の3分の1くらいまで回復しているわよー」
「す、すごい!」
「ライトのポーションが凄いのじゃ」
「えっと、でもなぜ子供の姿なんですか? クリアポーションも渡していたはずですが」
「いちいち、エールを飲むのは邪魔くさいのじゃ」
「もしかして、クリアポーションは、あまり甘くないから嫌いですか? あ、ホップの苦味がイヤなのかな」
「それがねー、居住区の人達が、なかなかいろはちゃんに気づかないものだから、それが楽しくなってるみたいなのよー」
「ん? 意味がよく…」
「ババアだと気づかれないのが、楽しいらしいで。もうひとつのと組み合わせて、男になってるときもあるんや。ほんま、意味わからんわ〜」
「はぁ」
「変装なのじゃ」
「それを言うなら、変身でしょう? 変身ポーションだもの」
「子供の姿で、居住区の子供達と、わーわー遊んどったりもするんや」
「子供達には、すぐに見抜かれるのじゃ。子供の方が鋭いのじゃ」
「えー? いろはちゃんだと見抜かれてるのに、一緒に遊んでるのー?」
「もしかしたら、変身魔ポーションを飲みすぎた副作用かもしれませんね。見た目通りに、精神年齢も下がってきてしまったとか…」
「そうかもしれないわ〜」
「なんでやねん。ババアは、もともと精神年齢低いやんけ」
「えーと…」
「タイガは、野蛮なのじゃ!」
そう言いつつ、いまにも泣き出しそうな顔になっていらっしゃる。あわわ! ほんとに子供に戻ってるんじゃないのかな。
「女神様、呪いの一種ですから、ずっと子供のままでいるのは、やっぱり良くないと思いますよ」
「ふんっ」
(あ、また拗ねた……えーっと、どうしよう…)