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126、女神の城 〜 タイガの呼び出し

 いま僕は、イーシアの獣人の集落にいる。


 イーシアに迷宮の入り口を作ろうとしている奴らは、僕を排除しようと考え、僕と親しげにしていた獣人の巫女を探してこの集落を襲撃していたんだ。


 奴らは、赤の神の配下のようで武闘系だ。いま僕は、奴らを撤退させようと交渉中なんだ。

 暴れられると困るから、ちょうど奴らが作った檻を利用したんだ。


 僕は、集落の女性とアトラ様を捕らえていた鳥かごのような檻を霊体化し、アイツらの方へ移動した。


 檻の中に閉じ込めたのに、奴らは暴れて檻を破壊しようとするから、柵に近寄らせないために、檻にはいま、火のバリアを張っているんだ。



「ライト、伝言が来たよー」


「ん? 巫女様、えっと…」


「後は、やるっす、って言ってくれって」


「え? あ、はい」


(その話し方って、ジャックさん?)


「集落の皆さん、女神様の城から何人か来るみたいです。驚かないでくださいって伝言です」


「巫女様! 女神様って、イロハカルティア様ですか!」


「はい、その側近の方から念話が届きました」


「巫女様、すごい! お知り合いなのですね」


「イーシア様の声だけでなく、女神様の使徒の声まで聞けるなんて、すばらしい!」


「あはは、ありがとうございます」


 アトラ様は、精霊イーシア様の言葉をイーシアの森の集落の人達に伝える巫女として知られているんだ。守護獣アトラだとわかると怖れられるからだと言っていた。

 僕は、守護獣としてのアトラ様のことはあまりよくわからない。タイガさんは、めちゃくちゃ怖がっていたけど…。



 そして、この伝言を聞いた6人の襲撃者は、焦っていた。檻の中の5人は、檻から出ようとして火傷が増えているようだ。

 檻の外にいる魔導士は、この5人を見捨てることもできず、オロオロしていた。


「おい、おまえ、増援を呼ぶなんて卑怯だろ」


「早くここから出せよ」


 檻の外にいる魔導士は、再び檻を消そうと手を上にあげたが、僕がそれを制した。


「あの人達は、あの檻の中にいる方が安全かもしれませんよ? 貴方も入りますか?」


「えっ…」


「僕、まだ闇が安定してないんですよね。カチンとくると、また暴走してしまうかもしれない。理性がほとんど飛ぶので、手加減できなくなるんですよ」


「……どうすれば」


「おとなしくしていてください」


「…は、はい」



 集落の入り口に、フッと数人が現れた。その人達は、制服のようなものを着ていた。

 白というか銀色っぽい軍服のようなカッチリした服にマントがついている。黄色のラインが何本か入っていて、なんだかアイドルの衣装みたいだ。


 それを率いていたのは、ジャックさんだった。ジャックさんはイケメンだから、ほんとにアイドルみたいだ。いいな、羨ましい。



「うわっ! 女神様の軍隊だ」


(ん? 軍隊?)


 集落の人達が慌てて、道を空けていた。


 彼らは、みんな女神様の城の居住区の人なんだろうか? ジャックさん以外は、見たことない人達だった。10人ほどいるが、みんな剣士のようだった。


 ジャックさんの後ろから、彼らが厳しい顔をして歩いてきた。

 ジャックさんもいつもとは違って、キリッとしていた。あ、別にいつもキリッとしていないという意味ではないんだけど。


 そして、彼らは僕の前まで来て、立ち止まり整列した。なんだか、ちょっと威圧感あるよね…。アイドルみたいな服だけど。


「ライトさん、引き取りに来たっす」


「ジャックさん、こんにちは。うーん……彼らをどうするんですか?」


「強制送還っす。相手の星の神にペナルティつけることになるっす」


「彼らに、あちこちで大地に裂け目を作っている奴らを止めさせる必要があります」


「それも、大丈夫っす。だからこの人数で来たっす」


「そうですか、じゃあ、後はお願いします」


「了解っす」


 僕の承諾を得て、ジャックさんは、他の軍隊の人達に指示を出していた。しゃべらず、指だけの合図で……まぁ念話してるんだろうな。


(いいなー、クールでかっこいい。羨ましい…)



「ライトさん、この火、消してください」


「あ、はい」


 僕が、ボーっと羨ましがっていたら、軍隊の人に、急かされた。引き渡しを決めたときに、バリアは解除すべきだったな。


 僕は、檻に張っていたバリアを解除した。すると、軍隊の人が細い剣で檻を斬った。凄い…。


 これは、奴らに対する威嚇効果を狙ったようだ。すっかり、奴らはビビっていた。


 一応、後でごちゃごちゃ言われるのも嫌なので、奴らの火傷を治していった。

 僕が近づき、スッと手を入れるもんだから、一瞬みんな凍りついたような表情を浮かべる。まぁ、こんな顔をされるのにも、慣れてきたなぁ。



「強制送還は、やめてくれ! 身分をはく奪される」


「知りませんよ、規定に従うまでです」


「自分で帰るし、もう絶対この星には来ないから」


「もう遅いです。今頃、女神様が貴方達の星の神と交信しておられるでしょう」


「な、なぜ…」


「逆に感謝してもらいたいくらいですよ? 下手をすれば、身分を失うどころか、命を失っていたかもしれませんよ」


 そう言って、軍隊のその人は、僕の方を見た。


「やはり、アイツは、それほど危険な…」


「ちょっと、なんでそんな風に…」


「うっかり殺しちゃうかもしれないでしょう? ライトさんに闇を使わせるなと、女神様から言われています」


「えーっ。こんな集落の中では、さすがに使わないですよ」


「まだ、暴走後の後始末、できてませんよね?」


「えーっと…」


「完治するまで、使っちゃダメですよ。再び暴走して自我を保てなくなると大変です」


「さっき、自分でもその可能性のことは、脅しのつもりで話していたんですけど…」


「いやいや、ほんとにマズイですからね」


「は、はぁ」



 なんだか僕を危険人物に仕立てて、奴らの抵抗する気力を奪っている? まぁ有効な手段かもしれないけど、この集落の人達まで、僕を怖れている。


(なんか、嫌だな…)



「ライトさん、タイガさんが呼んでたっす。動けるなら、ワンコ連れてこいって」


「えっ? いまですか?」


「まぁ、彼女にも都合があるはずだから、そんなに急ぎじゃないと思うっす」


 僕はアトラ様の方を見ると、アトラ様も怪訝な顔をして、こちらを見ていた。だよね、何の用なんだろ。


「じゃあ、僕だけ行ってみます」


「了解っす。後のことは大丈夫っすよ」


「わかりました。ア……巫女様、ちょっと行ってきますね」


「ライト、また里に戻ってくる?」


「僕の戻る所は、ひとつしかありませんよ」


「うん、わかった!」


 彼女は、そう言うと満面の笑みを見せた。うん、かわいい!




 僕は、生首達に、女神様の城に行きたいんだけど、と心の中で呼びかけた。


 すぐにどこからか、奴らは現れて、空からふわふわと雪のように降ってきた。

 また、この演出…。人目があると、これやりたがるんだよね。


 集落の人達は、わぁ〜っと感嘆の声をあげていた。すると、生首達は満足そうに、ヘラヘラしていた。

 僕ひとりがワープするのに、なぜこんな大量に降ってくるのか謎だったけど、まぁいいか。


 僕は、ジャックさんや軍隊の人達に軽く会釈をしてから、足元に出来たクッションに乗った。



 その瞬間、僕は女神様の城の虹色ガス灯広場にいた。突然現れた生首達のもとに、広場に居た人達が集まってきた。


「久しぶりだね、天使ちゃんたち〜」


「ライトさん、こんにちは〜」


「皆さん、こんにちは〜」


「そろそろ来る頃だと聞いて待ってたんですよ。天使ちゃんたち、借りていいですか?」


「あ、はい、どうぞ〜」


 僕がそう返事すると、生首達は数体ずつに分かれ、あちこちの人に愛想を振りまきに行った。


 あー、これがやりたくて、大量に集まったわけね。生首達は、城の居住区の人達にちやほやされて嬉しそうにしていた。


『アルジ、ゴブサタ シテ イマス』


 ん? 突然、目の前に、ヘラヘラしていない生首が現れた。


「あ! もしかして、族長さん? 無事だったの?」


『ハイ、バリア ノ オカゲ デス』


 あ、そういえば、あのとき、族長さんが魔法袋の紐に擬態したから、族長さんにもバリアを張ったんだっけ。


「よかった、無事で」


『アリガトウ ゴザイマス』


「この数多いのは、みんなの意思? ここに来たかったの?」


『メガミ サマ ガ、ツギハ オサ ヲ、ツレテ コイ ト』


「女神様に呼ばれたんだ。もしかして族長さんが移動するときは、数が多くなるのかな?」


『イエ、カッテニ アツマリ マシタ』


「なんだ、やっぱ、ここに来たかったんじゃん」


『アルジ ノ、ヤクニ タチタイ ノデ』


「え、僕の? そうなんだ、ありがとう」


『イエ』


「じゃあ、女神様を探そうかな。一緒に来る?」


『ハイ、ゴイッショ シマス』


 そう言うと、族長さんは、僕の肩にくっついた。えー、生首を肩に乗せて歩くのって、大丈夫? キモくないかな…。


(まぁ、仕方ないか)


 確か、広場以外には、生首を連れてくのはダメっぽかったから、ふわふわさせておくわけにもいかないかな。



 僕は、タイガさんに会いに来たんだけど、たぶん女神様も一緒にいるよね。


 僕は、広場から、居住区の方へと歩いて行った。途中で、知らない人からよく声をかけられた。僕は知らないけど、相手は僕のことを知ってるみたいなんだよね。


 そのたびに、挨拶をして、女神様を探していると言うと、どこかで何か食べているだろうと言われた。ただ、最近は、探すのがちょっと大変なのだと言う。


 隠れているのかな? 女神様らしき人を見たと聞き、いつものカフェにやってきた。


「あら、ライトくん、久しぶり〜」


「あ、ナタリーさん、こんにちは」


「どうしたのー?」


「タイガさんが、動けるなら来いと言っていたと、ジャックさんから聞きまして…」


「あら、何の用かしら? もうすぐここに来るはずだから、待ってたらどうかしら? 席も空いているわよ」


「あ、じゃあ、ご一緒させてもらいます〜」



 空いている席に座ると、すぐそばに、チビっ子が居た。5〜6歳ってとこかな?クライン様と同じくらいだろうか。

 一心不乱に大きなパフェを食べている。すごく綺麗な子だな、ナタリーさんの子だったりして…。



「ナタリーさん、このチビっ子…」


「あー、ふふっ。初めて見るかしら?」


「はい、ナタリーさんのお子さんだったりします?」


「ええー?」


 すると、チビっ子はスプーンを止め、僕の方をチラッと見た。あ、ご挨拶しなきゃね。


「こんにちは、お嬢さん。僕、ライトといいます」


「知っておる」


 居住区の大人だけじゃなく、こんなチビっ子にも知られているのか。僕は、ちょっと驚いた。


「それは、ありがとうございます。お名前、教えてもらってもいいですか?」


「は?」


「えーっと……知らない人に教えちゃダメってお母さんに言われてるのかな」


「オババ、なんとかするのじゃ」


「っぷぷぷ、あははっ、やーだー、ライトくんってば」


「えっと……な、なんですか?」


「ふんっ」


(あれ? チビっ子が拗ねた。ど、どうしよう…)

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