125、イーシアの森 〜 獣人の集落
皆様、いつも読んでいただき、ありがとうございます。評価、ブックマークもありがとうございます! めっちゃパワーもらってます。
新元号が決まりましたね。いつだったか、前書きで、私、Kから始まる予想をしていたような気がしますが、Rでしたね。外したかぁ…。でも「令和」ってかっこいい元号だなぁと思いました。
今後とも、よろしくお願いします。
僕はいま、生首達によって、イーシアのどこかの集落にワープしてきたんだ。
僕は、着いた瞬間、透明化! を念じた。
さっきは、生首達の映像で、巫女の姿のアトラ様が他の住人の女の子達と捕まっているように見えたけど、音は送られてこないから状況がわからない。
僕は、いったん冷静に、この状況を把握しようと考えた。
霊体化はしていないから、歩くと音が聞こえてしまう。でも透明化だけなら、アトラ様は僕が近くに居るって気づくと思うんだよね。
僕が着いた瞬間は、男達が何か騒いでいた。それが少し落ち着いたときに、アトラ様はこちらを見た。
あ、たぶん、気配で気づいたかな? あ、ニコッと笑った。うん、かわいい! よし、気づいたね。僕はさらに霊体化! を念じた。
そして、しばらく静観することにした。
「だーかーらー、イーシアの巡回をしている男を連れて来いって言ってるだろ!」
「だから、イーシアをウロウロしている男なんて、大量にいるんです。冒険者だらけですから」
「番犬を連れて来いって」
「その番犬の意味がわからないですって。ここは田舎の集落ですから、街の様子は知りません」
「女神の番犬だぞ」
「女神様は城におられるのです。その側近なら、城にいるはずだと何度も言ってるじゃないですか」
「隠しても無駄だ。番犬は、獣人の女と親しげだった。この付近で獣人の集落は、ここしかないのはわかっているんだ」
「だからと言って、集落の女子を檻に閉じ込め、さらに巫女様まで同じ目に遭わせるなんて!」
「俺達が探しているのは、その巫女ではない。獣人の巫女だ。ここにいるのだろう? どの娘だ?」
だいたい状況は、わかってきた。コイツら、僕を探してるんだ。それで一緒にいた獣人の女性を捕まえようと、ここの集落を襲撃したのか。
ってことは、僕への復讐? だとすれば、他の星の神々の手下かな。そんなことに、無関係な人達を巻き込んでしまうなんて…。
あ、アトラ様がフードを触っている。正体を明かすつもりなんだろうか。でも、ずっと隠していたんだよね。こんなことで……ダメだ。
(襲撃者は、6人か。まぁ、いけるかな)
僕は、久しぶりに魔族の国スイッチを入れた。そう、はったりスイッチだ。
僕は、捕らわれているアトラ様のそばに移動した。そして、耳元で囁いた。
「秘密にしていることは僕が守りますから」
「えっ! あ、うん。無理しないで」
「はい、大丈夫です」
僕は、この檻の中の女性達を守りながら交渉するなら、ここに居る方がやりやすいなと考えた。
僕は、檻の中で、霊体化と透明化を解除した。
奴らのひとりが僕が現れたことに気づき、仲間を呼んだ。
「おーい、番犬が檻に入ってるぞ、がははは」
すると、集落の男達に絡んでいた奴らは、みな檻のまわりに寄ってきた。
「なんだ? こいつ、助けに来て檻に入っちまったってとこか? 頭悪いんじゃねーの」
「ぎゃはは、手間が省けたじゃねーか。これで作業の命令を出せる」
やっぱ、これで正解だったな。めちゃくちゃ油断してるし、聞いてもいないのに作業がどうとか言ってるし。
イーシアの作業ってなんだろう。まさか、精霊イーシア様を襲うつもりじゃ?
僕は、アトラ様と自分にバリアをフル装備、他の女の子達には物防と魔防のバリアを張った。
そして、さっき映像で見た魔法でアトラ様が少し怪我をしていたから回復した。するとアトラ様は、ニコッと笑った。うん、やっぱかわいい!
これに気づいた女の子達は、僕をジッと見ている。敵か味方かを見極めようとしているのかな。
「ライト、この女の子達も守れる?」
「はい、そのつもりです、巫女様」
「ふふっ、じゃあ、あたしは出番がなさそうだね」
「僕、まだ、完治してないですけど〜」
「あ、そっか。ほどほどにね」
「はぁい」
このやり取りを聞いていた女の子達は、ホッとした顔をしていた。アトラ様、さすがだね。
僕がやるべきことは、襲撃者が言う作業が何かを確認し、おそらく仲間がその作業をするだろうから、阻止することかな。
(できれば、話し合いだけで済ませたいな)
まだまだダル重い僕は、たぶん普段よりもさらに残念な戦闘力だと思うんだ。
こんな集落で闇は使えないから、やはり脅すしかないかな。
「おまえ、うっかり檻の中に入ったくせに、女達に囲まれて楽しそうじゃねーか」
「それ、どういう発想ですか? それより作業ってイーシアで何をするんですか?」
「ハンっ、わかってて聞いてくるって、どういう神経なんだ? ずっとおまえが見張りをしていただろう」
「僕は昼寝しに行ってただけですよ?」
「なんだと? 湖のそばで陣取って、森をすべて見渡していたんだろ。とぼけても調査済みだ」
(ん? 森? 精霊を襲うんじゃないの?)
「いつ調査したんです? それに、広いイーシアの森を見渡すなんて無理ですよ」
「俺達は知っているんだぜ。番犬は特殊な眼を持っているってことをな」
「ふぅん、やはり貴方達は、外からの迷い子なんですね」
「なっ? 誘導尋問か? 姑息な真似を」
(勝手にしゃべってるじゃん)
僕は、ゲージサーチをしてみた。あれ? 4本だな。5本かと思ってたけど…。6人とも4本だった。
「6人は、同じ星の住人なんですね」
「な! いつの間に、サーチしたんだ」
「貴方の星の神は、何がしたいんですか。この星に隠れ住みたいわけでもないでしょう?」
「やっぱり、迷宮を我々が作らせていると知っているじゃないか。すっとぼけやがって」
(え? 迷宮絡み?)
「作らせている? 作っている、ではなく?」
「ッハ、いちいちつまらないことばかり…。我々が直接作るのは不可能だとわかっているんだろう? 中立の星じゃないと、この星に入れない。作業員をこの星に秘密裏に入れるだけでも、相当な時間がかかるではないか」
「中立の星に依頼ですか。どの神の星ですか?」
「教えるわけないだろう。ほんとに、とぼけた野郎だな」
「ん〜、まぁいいです。その依頼を取り下げてもらえませんかね? あちこちに大地の裂け目を作られるのは迷惑なんですよね」
「我々がそんなことするわけないだろう」
「なるほど、貴方では決められないと。貴方達の神の指示ですか。てっきり愚かな配下が先走ったことをしたのかと思いましたが」
「な? 愚かな配下だと!」
その男は、僕の挑発に乗って檻があるのも忘れて、斬りかかってきた。魔法で作られた檻はそれをガキンと弾く。その振動が檻全体に響いた。
この檻は、これくらいでは斬れないのか。地面からは檻の振動は感じなかった。ということは、上から被せてあるだけか。
「ちょっと、ボス、やめてください。維持するの大変なんですから」
「あ、悪りぃ。アイツがうざいからつい…」
ふぅん。この人がボスなんだ。そしてあの離れている人が魔導士か。中立じゃないってことは、赤、青、どっちなんだろう? 赤が武闘系、青が魔導系だったよね。
ボスが剣を振るう、檻を作っている魔導士はその剣の衝撃で維持が大変だと文句を言う…。ということは、魔法はあまり得意じゃないんだな。よし、確認してみるか。
「この檻、結構かたそうですね。貴方の星の住人にしては珍しい」
「えっ? なぜ私達が赤だとわかったんですか!」
(チョロい……やっぱ赤か)
「見ていればわかりますよ」
「おまえ、何を、どこをどう見ているんだ! そんなサーチ、底知れない能力は気味が悪い」
「じゃあサッサと星に戻って、貴方の神に、計画断念を提案してください。中立の星に、赤の神が迷宮を作らせていることが他の星に知られたら、貴方の神の立場はどうなりますかね?」
「まさか、おまえ、女神に話したんじゃないだろうな」
「さぁね、どうでしょうね」
「っくそ! おまえを殺せば我々の…」
「ん? 僕を殺すんですか? 貴方が?」
「ック、なんなんだよ! 戦闘力も隠しやがって、気味が悪いんだよ!」
なんか僕、気味が悪いキャラにされている…。なんだか、嫌な言い方。アトラ様が近くにいるのに、そんな言い方しないでほしい。
奴らは、警戒を強め、いや、もう怖がってるよね。後ろの人なんて、完全に逃げ腰になってる。僕はまだ檻の中に居るのに。
もう少し怖がらせれば、撤退するかな。コイツらが指示を出さなければ、イーシアの作業は始まらないんだろうし。
僕は、半分霊体化し、檻をスッと通り抜け、檻の前に出た。
「なっ! なんなんだ! おまえ!」
「檻の中だと、貴方達が余裕ありそうな顔をしていたので、出てみました。で? 帰る気になりましたか?」
奴らは僕が攻撃すると思ったのか、ボスを守るようにボスのまわりに集まってきた。そして、僕の方をジッと睨み、警戒している。
(あ、これ利用しよう!)
僕は、すぐ後ろの檻に触れた。ちょっとピリっとくる。まぁいいか。
僕は、鳥かご状の檻の柵、1本を掴んで霊体化!を念じた。檻全体が、壊れたテレビ画面のようになった。
そのまま、そっと引っ張ってみると、綿のようにふわっと動いた。うん、いけるね。
僕は、その檻をさらに引っ張った。檻は彼女達を通り抜けた。僕は、そのまま檻を奴らの方へと移動させた。
檻は奴らを通り抜け、ボスのまわりに集まっていた奴らはその中にすっぽりと入った。
そして僕は檻から手を離した。すると檻は当然、実体化する。
奴らが、ポカンとしている間に、奴らが檻の中に捕らわれた形になった。
「お、おま、な、なにを?」
「お、おい! この檻を消せ!」
(それは困る)
僕は、檻に魔防バリアを張った。キィン! ギリギリ間に合った。
「き、消えません!」
檻の外にいる魔導士は、焦っていた。自分が作った檻を、僕に乗っ取られたと思ったのだろう。
「な? なんだと」
奴らは、中で暴れ始めた。僕は、檻に物防バリアも張った。でも、こんなに武闘系の奴らに暴れられるとバリアも、そうは持たないかも…。
「住人の皆さん、檻から少し離れてください。女性達の知り合いの方は、彼女達を保護してあげて」
そう呼びかけると、呆然と見ていた住人達は、ハッと我に返った。そして、何人かは、さっき檻の中にいた女の子達の方へと駆け寄った。
僕は、檻の魔防バリアを外し、代わりに火のバリアを張った。ボゥワッ! 檻を炎が包んだ。
「おま、おまえ! 何をする気だ。俺達を焼き殺す気か」
(ただのバリアなんだけど…)
だが、焦って暴れている奴らは、勝手に檻にぶつかって火傷をしたようだ。みんな汗が流れている。あー、火に囲まれているから暑いんだな。
檻の外にいる魔導士は、僕と目が合うとカチンコチンに固まってしまった。何? そこまで怖がるようなことしてないよ?
「帰る気になりました?」
僕が、檻の外の魔導士に声をかけると、彼はものすごい勢いで頷いた。
「よかった。あの檻の中の人達も連れて帰ってくださいね」
「わ、私には、そ、そんな権限は…」
「やはり、あのボスの指示が必要?」
「は、は、はい」
「そう…。あのボスがいなくなったら、どうなんですか?」
「えっ! えーっと……個人の判断になるかと…」
「そう…」
僕は短い返事をして、檻に目を向けた。すると、檻の中は急に静かになった。奴らは言葉を失っているようだった。