表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/286

12、女神の城 〜 ライトの覚悟

 女神イロハカルティアの城には、転生者とその家族のための居住区が2つある。


 ひとつは、城の周りに広がる農業主体の町。さまざまな作物をこの城では消費しきれないほど作っている。スローライフを楽しみたい人達が多く住んでいる。


 もうひとつは、城内にある商業主体のオシャレな街。どこからか不思議な物を仕入れてきて売っている。コンビニのような店まである。こちらは、アクティブな人が多い。




 僕は、いま、城内の居住区の、とあるレストランにいる。外観はカフェ風でオシャレ、中はファミレスのような感じの居心地のよい店。


 そして、もう3個目だろうか? パフェをスプーンで突きながら次のメニューを悩んでいる女性と、その女性をからかうのが趣味だという女性…。僕はそのふたりの女性と、この店の一番広い個室にいる。


 ふたりはとても美しく、この状況は、両手に花……なんだけど、正直なところ、ちょっと…。



「あの、結局、僕はなぜここにいるんでしたっけ?」


「む? 妾が、キミをわざわざ迎えに行って、城に連れて来てやったからじゃろ?」


「…もしかしたら、パフェをおごらせようと?」


「なっ! 妾が本気で おねだりをするとでも思っておったのか?ま、まぁ、馳走になる方がパフェは美味くなるという不思議な食べ物じゃが…」


「えーっと…」


「いろはちゃん、バレバレよ?」


「………。」


「あ、そうだ!あの……さっきの黄色のオーラのことなんですが、黄色だとどうなるのですか?」


「妾とお揃いじゃ」


「で?」


「ん?」


 あれ? イロハカルティア様がスプーンを持ったまま、固まってしまった……壊れた?


「ライトくん、これね、複数と通信中よ〜」


「通信中? ですか?」


「ライトくんも、いろはちゃんから念話で話しかけられたことあるでしょ? あれ、3つ以上同時にやり始めると、こうなるのよ〜」


「そうなんですね。突然、壊れた人形のように固まるから、驚きました」


「あははっ。確かにねー。あ、このときはイタズラしちゃダメよ? 無意識に反撃されるから。これで、タイガってば死にかけたのよね、ぷぷっ」


「えっ! そんな危険な状態なんですか」


 僕は、そーっと、女神様から距離をとった。



「あ、さっきのお話だけどね。ライトくん、太陽が赤と青ふたつあるの知ってるわよね?」


「はい」


「だからよ、黄色のオーラ持ちは、支配されないの」


「え? 太陽に? ですか?」


「神々よ。この星は、赤い太陽系と青い太陽系の狭間にあるの。どちらの星系の神々も、この星を支配したいのよ。ずっとね、争いになってるの」


「っ…。そうなんですね」


「赤いオーラ持ちは赤い太陽系の神々に、青いオーラ持ちは青い太陽系の神々に、支配されやすいの」


「そして、オレンジやピンクも赤い神々に、緑や水色は青い神々に、紫は両方の神々に、影響を受けやすいの」


「絵の具みたいな関係ですね」


「絵の具?」


「あ、色は、混ぜるといろいろな色に変化するから。絵の具というものが僕の世界にはあったんです」


 赤と黄でオレンジ、赤と白でピンク、青と黄で緑、青と白で水色、赤と青で紫。僕は、図工の時間を思い出した。


「へぇ。じゃあ、意味は、わかるわよね」


「はい」


「黄色は、彼らからすれば厄介者なの。特にチカラを持っているとね……だから、消そうとされる。たぶん、それでライトくんには、チカラを与えなかったのね」


「えっと…?」


「物理攻撃を得意とするのが赤の神々、魔法攻撃を得意とするのが青の神々なの。自分の得意分野で、高い能力を持つ者を見つけると、配下にしようとするの。でも支配できないなら、殺そうとするの」


「えっ」


「ライトくんは、どちらも低いでしょ? だから、ライトくんがいろはちゃんの転生者だとバレても、まぁ無事では済まないだろうけど、生命まで取られることはないと思うわ」


「…っ! なんかすごい世界ですね。ここの雰囲気とはずいぶん違う…」


「ふふっ。いま、かなりこの星マズイのよー。だから、逆にあえて、こんな風になっちゃってるのよね、私達の女神様は…」


「そうなんですか…」


「うん、だから、いま女神のうでわをつけてる人達に、この星の命運がかかってるというわけなの」


「えっ、ど、どういう?」


「あー、まぁ、なるべく早く宝玉、集めてあげて。他の星の神々にバレないように」


「バレるとマズイのですか? 宝玉って……あ、あのビー玉みたいなやつ、宝玉っていうんですね」


「うん、ライトくん達が集めるのは宝玉よ。その星の宝玉はその星の神、つまり、いろはちゃんしか扱えないの。だから他の神々には価値がないんだけど、邪魔されるからね」


「…まじっすか」


「宝玉は、魔力の塊なのよ。あちこちにあの石をばら撒いてあるの、マナを集めるためにね。そして石が、星が生み出すマナを吸収すると『眼』で見えるようになるわ。その宝玉を使えば、女神様はとっても強い魔法を撃てるのよ」


「敵対してるなら、邪魔しますよね…」


「うんうん。だから、女神のうでわを持ってることは、絶対に内緒ね。他の神々にバレちゃったら、隠居決定だからね。じゃないと捕獲されちゃうわ」


「き、気をつけます…」




 ナタリーさんにいろいろ教えてもらっている間、イロハカルティア様は、ずっと固まっていた。

 そして、突如、スプーンが動き始める。


(あ、復活した)


「なんじゃ?」


「いえ、なんでもないです…」


 すっかり溶けてしまったアイスを器用にスプーンですくってらっしゃる。


「いろはちゃん、ストローいる?」


「いらぬのじゃ」


(溶けたアイスをそれでは大変……あれ? だんだんアイスに戻っていってる、なんで?)


「ん? ちょっと凍らせただけじゃ」


「すごっ」


 すると、ふたり同時にこちらを見た。


「え? な、何ですか?」


「ライトくんも、これくらいは出来ると思うんだけど?」


「そうなんですか!」


「その辺のチビっ子でも、できるのじゃ」


「……すごっ、この世界のチビっ子」





 あれ? なんか、急に……イロハカルティア様の様子がおかしい、静かだ。

 そして、彼女はジーっと、どこか明後日の方向を見ている。


 僕は……妙な違和感を感じた。すると彼女は、ふーっと息を吐いた後、今まで絶対に手放さなかったスプーンを置き、僕の方を見た。


「キミの名前は?」


「えっ?」


「だから、キミは誰じゃ?」


「えっ? えっ? 突然、記憶喪失ですか?」


「ちがーう! キミは、翔太か? ライトか? どっちじゃ?」


(ちょっと待って、何? 突然…)


 だが、イロハカルティア様は、ジッとこちらを見ている。その目は真っ直ぐ僕に向けられていて、いつものようなおどけた道化らしさはない。


(試されて……いるのかな)


 僕は、スゥーっと深呼吸した。ナタリーさんは、傍観者に徹している。


(やっぱり……そっか)


 僕が、黄色のオーラの話をナタリーさんから聞いたから、そして女神のうでわを持つことの危険さを知ったから、きっと試されているんだ。


 翔太だと言うと、前世に戻される? でも寿命がもうないんだよね。この姿のまま戻してもらえるのかな?


 ライトだと言うと、受け入れるということか。女神の落とし物係……続ける覚悟があるのか? ということだよね。



 女神様は、僕の頭の中は見えているはずなのに、ジッとこちらを見つめるだけだった。

 反論しないということは、肯定ってことだよね。


 この世界にきて、まだほんの少しだけど、濃い毎日だったな。まだわからないことだらけだけど。


(そういえば、今までイロハカルティア様には一度も名前を呼ばれたこと、ないな)


 これは、彼女なりの配慮なのだろうか。自分で選べという……優しさか。


 そして、僕は覚悟を決めた。



「ライトです」


「うむ。そうか、ライトか」


「はい」


「じゃあ、ライト、こっちにくるのじゃ」


(えっ? 何? ライトって呼ばれた! え?)


「何をびびっておるのじゃ、はよせい。もう来るぞ」


「えっと、何がですか?」


 という僕の質問は、華麗にスルーし、イロハカルティア様は、こちらに寄ってきた。そして、僕の頭を右手で、むんずと掴み…


「ちょっ! う、うわぁー」


 頭の中に大量の何かが流れ込んできた。読めない文字だ。なんだ…頭が痛い…じゃない…割れる…


 そして、僕は、意識を手放し……その瞬間、女神様は、僕を支える。


「ほんと、コイツは、すぐに寝るのじゃ」


「いろはちゃん、それ、下手すると頭吹き飛ぶわよ? 一気に入れすぎだわ」


「仕方ないのじゃ。コイツがなかなか名前を言わぬから、ライトが悪いのじゃ!」


「ほんと、いつもながら、むちゃくちゃねー」





 僕は、気がついたときはソファ席に転がされていた。リュックを枕にしていたようで、首は痛くならなかった。


(なんだったんだ? 女神様に、頭の中に何か…)


 そして、見覚えのない男性が、女神様、ナタリーさんと話していることに気づいた。3人とも深刻な険しい顔をしている。


(あれ? 何かあったんだろうか)


 僕が目を覚ましたことに女神様が気づく。


「ほんとに、ライトは すぐに寝るのじゃ! 育ち盛りの子供か! って言いたくなるのじゃ」


(…言ってらっしゃるのですが…)


「あ、あの、イロハカルティア様、僕の頭に何を?」


「ん? 別に何もたいしたことはしてないのじゃ。赤子に言葉を教えただけじゃ。それよりライト、妾のことを いろはちゃん、と呼ぶ気はないようじゃな」


「えーっと、意味がよく……あの…」


 何か話していた他の二人もこちらを見た。


(うわっ! この男性、チョイ悪系で、めちゃくちゃシブい。僕の理想そのままじゃん! こんな大人になりたい!)


「むむっ!ライト、おぬし、オトコが好きなのじゃな?」


「は? な、なんでそうなるんですか?」


「いろはちゃん、ライトくんは、あの青いワンちゃんに惚れているらしいって、言ってなかったかしら?」


(えっ……な、なんですと? ってか犬じゃなくて狼だってば)


「イロハカルティア様っ! 僕の…その…あの事件を覗いてたのですかっ。何もツッコミなかったから、セーフだと思ってたのに」


「こ、こら! 意地悪オババ! ばらすでない。妾とて、言っていいことか否かの判断は出来るのじゃ」


「おい、なんやねん? 俺だけわけわからんやないけ?」


(わっ! 関西弁! バリバリ)


「ライトが、面白いってことじゃ! 女子トークにツッコミ入れるでない。無粋じゃ!」


「はぁ? おまえら、女子って歳か?」


「なっ! 妾にケンカ売っておるのか? 買うぞ? 妾は買うぞ?」


「……また、それかいな。売り切れとるって言うたやろ? それくらい覚えとかんかい!」


(わっわっ…やばいんじゃ? どうしよ)


 すると、ナタリーさんが、二人をメニューでしばいた。しかも、角っこで、ゴチンと…。


(えっ?)


「はい、そこまで! ライトくんが驚いてるでしょ? 二人とも、めっ!」


(ナタリーさん……つおっ)


「こほん。ライト、コイツが おぬしのお世話係じゃ。こんな脳筋じゃが、見た目ほどは悪くないのじゃ」


「えっと、あの、タイガさん? ライトです、よろしくお願いします」


「あー、堅苦しいのはなしや、同郷やろ? せや、時代は違うけど、もう一人おるで、日本人」


「そうなんですか!」


「忍び、やったらしいで。伊賀か甲賀か知らんけどな」


「えっ! 忍者! すごっ!」


「まぁ……俺とは合わねぇが」


「タイガと合う人の方が少ないわよ。性格に難ありすぎだものね。ふふっ」


 タイガさんは、ナタリーさんの言葉に、チッと小さく舌打ちをするだけで、特に反論はしなかった。ナタリーさんって、やっぱつおいんだ!





 今日はもう遅いからと、居住区の宿に宿泊することになった。宿代は、女神様が出してくださることになった。その代わり、明日朝のモーニングをご馳走する約束をさせられた。


(宿代を出してでも、おごってほしいのかな?)


 僕はこの世界に来て、初めてベッドで眠った。部屋に入ってすぐに眠ってしまうくらい疲れがたまっていたようだ。


 翌朝、シャワーを浴びてスッキリした。


 あれ? ずっとお風呂に入ってなかったわりに、僕はそんなに汚くなかった。シャワーの魔法でもかけられていたのだろうか?


 そして宿をチェックアウトし、僕は、待ち合わせの店に向かった。なんだか、リュックが異常に重かった…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ