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118、トリガの里 〜 ガキんちょのケンカ

「いろはちゃん、私も様子を見てこようかしら?」


「ライトは寝ておるのじゃ」


「ライトくんより、アダンくんの方が心配だわ〜。私、アダンくんのお世話係だもの」


「ナタリーは過保護なのじゃ」


「あの里におるのに、何が心配やねん。飲み食いせんでも、あんだけマナが濃いんや、死なへんで」


「食事も確かに心配だけど、それよりも…」


「アダンは、里長の命で、イーシアの巡回の手伝いをしておるのじゃ」


「はぁ?あのヤンキーが、誰かの命令なんて聞くんかいな」


「里長は、なんでも丸め込む天才なのじゃ」


「話術に長けてるって有名だわよ〜」


「ほな、何も心配いらんやろ」


「里長はよくても、他の守護獣達と、揉め事を起こさないかが心配なのよ〜」


「アダンは、すぐにブチ切れるのじゃ。じゃが、子供達にもよい機会じゃ」


「アイツと一緒に巡回してたら、大抵のことには動じへんようになるってことかいな」


「はぁ〜、心配だわー」






 僕は、地震のような揺れで目を覚ました。ん? 地震なんて珍しいな。窓の外を見ると、澄んだ青空が広がっていた。また、かなり眠ってしまったのだろうか。


 そういえば、雨の日に、僕はベッドに座って、ポーションを飲もうとしたんだった。でも蓋を開けることができず、そのまま力尽きてしまったんだっけ。


 あの日は、なんだか不思議な感じだったな。変な夢もみたし…。でもリュックくんが無事で嬉しかったな。


 僕は、リュックが背中にないことに気づき、あたりを探した。リュックは僕の枕元に置いてあった。僕はあの時、リュックをおろせなかったけど、アトラ様がおろして枕元に置いてくれたのかな。



 僕は、身体をゆっくり起こした。まだあちこち痛いけど、雨の日のような、息が止まるほどの激痛ではなかった。部屋の中を見回してみたが、アトラ様の姿はなかった。


 外がかなり騒がしい。ここが守護獣の里だと聞いた日も、雨の日も、外はとても静かだった。

 外で何かあったのかな? それとも、前に目覚めたときと時間帯が違うのだろうか。


(お腹へった…)


 僕は、とりあえず、水を飲もうと思った。魔法袋に、水や携帯食を入れていたはずだ。あ、でも、水は、瓶入りだっけ。無理かもしれない。

 雨の日、ポーションの蓋を開けられなかったことを思い出した。あのポーションどこ行ったんだろう。


 あ、それよりも、放置してるリュックの中、ちょっと確認しておこう。迷宮でも中身を出してほしそうだったもんね。

 僕は、枕元からリュックを引き寄せ、中を開けた。うん、どっちゃり入ってる。後で魔法袋に移さなきゃね。


(あれ? 浮いてる!)


 僕は左手首のうでわが、いつものように少し浮いていることに気づいた。うでわに触れるとアイテムボックスがスッと開いた。

 僕は、アイテムボックスを閉じた。うん、いつも通りだ。


(よかった、魔力が戻ってる)


 僕は、そーっと立ち上がった。なんだか、身体が固まっているような違和感があったが、ずっと寝たきりだったんだから、当然か。


 僕は、回復! を唱えた。その瞬間、僕の全身に魔力が駆け巡るのを感じた。

 カチカチに固まっていたような身体の違和感は、フッと消えた。


 僕は、部屋の中をそろそろと歩き、腕や足をプルプルと振ってみた。うん、よし、痛くない。まだ、強烈なダル重さがあるけど、なんとか大丈夫なようだ。


 念のため、基本属性の確認もしておこう。火、水、風、土。うん、相変わらずショボいけど使える。

 僕は、シャワー魔法をかけた。ベタベタしていた身体が、さっぱり、スッキリとした。


 頭もちょっとスッキリした。そういえば、ここって、アトラ様の家だって言ってたよね。

 僕は、あまりジロジロと見るのもよくないかと思いつつも、あちこち興味深く見てしまった。


 窓際には、僕が寝ていたベッドがひとつ。そして、大きなテーブルと、椅子が6つ。ということは、家族が6人?

 ここはリビングダイニングという感じかな? 扉が3つ。ひとつは出入り口だよね、あとのふたつは…。ダメだ、勝手に覗いちゃだめ。



 ドゴッ!


 ん? また、地震? いや、違う? 外で何かが落ちたような音? 僕は、窓に近づき、外を見てみた。


 でも、窓から見える範囲には特に何もなかった。


(なんだか神秘的なとこだなぁ)


 トリガの里は、守護獣の里だとアトラ様が言っていたけど、なんだか幻想的な雰囲気だった。


 空は澄み渡り、緑が鮮やかで、たくさんの草木が生い茂っている。そしてその木々は、まるで動物かのように、ユラユラ揺れている。

 たくさんの枝をまるで手のように動かして、背中を…幹を、かいているように見える木もある。


(樹木も動けるんだ〜)


 だけど、里全体の低い位置を、霧が覆っているんだ。上を見ると空はあんなに青いのに、里の中は幻想的な霧で視界がさえぎられ、あまり遠くまでは見えなかった。



 ドゴッ! ドカン!


 また、軽く揺れた。これって、どこかで争いが起こっているんじゃ?


 僕は、外の様子を『見て』みた。少し頭が痛いけど、『眼』の能力も使えている。

 少し離れた場所で、数人がケンカかなにかをしているのが『見え』た。取り巻きもいる中で、狼っぽい2体と人が、なんだか戦っているようだった。


 その取り巻きの中には、アトラ様もいた。なんだか、不機嫌そうな顔をしている。


(ちょっと様子を見に行こう)


 僕は、霊体化! を念じた。うん、綿菓子だね、大丈夫。さらに透明化! を念じた。うーん、こっちはできているか自分では確認できないな…。霊体化が大丈夫だったから透明化もできているかな?


 そして、僕は、壁をすり抜け、ふわふわと争いの場へと飛んで行った。




「もうやめときなさいよー。里長に叱られるよ」


 アトラがそう声をかけても、3人のケンカは止まらなかった。


「神族だからって偉そうにし過ぎだよ!」


「おまえら、ワンコよりも俺の方が、種族的にも上位だ! それなのに、おまえらの方が偉そうにしやがって」


 ん? 何やってるのかと思えば、子供のケンカ? それに、なんで悪ガキがいるの? あ、もしかして、女神様のおつかいで来たのかな?


 僕が、ふわふわと浮かんでいても、誰も僕に気づかない。うん、透明化も問題ないみたいだね。

 あ、僕は、声が出ないんだっけ?


「あーあー」


 すると、何人かが、僕の方を振り返った。あ、声、出てる! よかった、ずっと喋れないなんて困るもんね。


 振り返った人達は、不思議そうに首をひねっていた。あ、突然、驚かせてしまったかな。ただの発声練習だったんだけど。


 一方、子供達のケンカは、さらにエスカレートしていた。2体の守護獣の挑発にのったアダンが、闇竜の姿に変わったのだ。デカっ! ってか、翼があるんだな、コイツ。


 ドラゴンの中では小さいのかもしれないが、2体の狼の前では、かなり大きく見える。

 アダンが、闇竜の姿に変わったのを見て、一瞬ひるんだ2体だったが、すぐにまた戦闘態勢に入っていた。


 アトラ様は、ため息をつき、思案顔だった。アトラ様が里で戦うと、被害が凄そうだもんね。



 これは、僕が止めなきゃだよね…。


「アダン! やめなさい! 何してるの」


 僕が、叫ぶと、アダンは動きを止めた。そして2体の狼の子供も、動きを止め、あたりを見回している。


「その声は……おまえ」


「おまえじゃないでしょ! 何やってんの。女神様のおつかいで来たんでしょ?」


「おまえが寝てるからだろ! もうひと月も、おまえが起きるのを待たされてんだよ」


「えっ? そんなに?」


「で、どこにいるんだよ! コソコソしやがって」


「ダル重いんだよね。浮かんでる方がラクだから」


 アダンは、僕を察知しようと何かをしている。でも、見つけられないようだった。



「ライト、目が覚めた? 声も出るようになったね」


「アトラ様、はい、さっき地震かと思う揺れで、目が覚めました。この子達のケンカだったんですね」


「そうなのよー。言うこと聞いてくれなくて」


「すみません。アダンは悪ガキで…」


「ふふっ」


「おい! おまえ! 誰がガキだって? 子供扱いしてんじゃねーぞ」


「子供じゃないなら、こんな騒ぎは起こさないことだね。人型に戻りなさい。闇をまとう闇竜の姿だと、この地の害になりかねない」


「なんだと!」


「もう一度だけ言うよ。アダン、さっさと人型に戻りなさい。戻らないなら、殺すよ?」


「ッチ……卑怯だぞ! おまえ、クズだな、クズ! なんで生きてんだよ、死ねよ! 死ね!」


 そう暴言を吐きながらも、アダンは人の姿に戻った。めちゃくちゃ不機嫌な顔をしているが…。はぁ、ガキんちょだな、ほんと。


「で、何の用事で来たの?」


「クリアポーションを警備隊に運べって」


「ん〜、何本くらい?」


「えっ?」


「ん?」


「知らない…」


「ん? 忘れたわけ?」


「もともと聞いてねーんだよ!」


「あ、そう。じゃあ、適当でいっか。魔法袋に入れてあるから、アトラ様の家に来て」


「えっ、魔法袋に入ってんのかよ」


「そうだよ。売り物のほとんどは魔法袋に入れてる」


「な? それなら俺の1ヶ月はなんだったんだよ! 魔法袋から取り出して、持って行けばよかっただけじゃねーか」


「あー、まぁ、そうかもね」


「くそっ、舐めやがって」


 アダンは、ぶつぶつと文句を言いながらも、アトラ様の家へと歩きはじめた。


 僕は、霊体化と透明化を解除した。突然、現れた僕に、アダンとケンカしていた二人は驚いていた。


「はじめまして、ライトです。アダンが絡んでしまってごめんなさいね」


「えっ、あ、う、うん」


 僕は、取り巻きの人達にも、軽く会釈をして、アダンの後を追った。久しぶりに歩くのは、ちょっとキツイな、まっすぐ歩けない。ヨタヨタ歩いていると、後ろからアトラ様が駆け寄ってきた。


「ライト、大丈夫?」


「アトラ様、はい、なんとか」


「うん、歩くのも大変だろうね。結局、ライトが倒れて、翌日からここに預けられたんだけど、もう2ヶ月経つからね」


「えっ? さっきアダンは、ひと月って」


「あー、アダンが来てからひと月だよー」


「なるほど。ってか、2ヶ月も寝てたんですか…」


「ひと月寝て、半月寝て、また半月って感じだよ」


「そっか。随分と長い間、アトラ様に迷惑をかけてしまったんですね……すみません」


「そんなことないよ、消滅するかもって言われてたから怖かったけど、ライトが一度目を覚ましてからは楽しかったよー」


「えっ? 楽しかった?」


「うん、だって、ライトを独り占めできたから」


「ん? えーっと……ん? 意味がよくわからないよ」


「ふふっ、いいよ、わかんなくて」


「う、うん…」



「おい! さっさと開けろよ、鍵かけてんじゃねーぞ」


「ん? あれ? ライト、どこから出てきたの?」


「あ、壁をすり抜けました」


「はははっ、もう〜」


(ん? なんで叱られた?)



 早くしろとうるさいアダンに、魔法袋からクリアポーションを1,000本出して渡した。アダンは、大きな魔法袋に、それを一気に収納していた。


「何? その魔法袋、すごい」


「ふん、やらねーからな」


(別に、くれとは言ってない…)


 そう言うと、アダンは、ぷいっと出て行った。


「里を出る前に、きちんと挨拶していくんだよ」


「うるせー! 死霊!」


 そう言いつつも、里長らしき人に挨拶をして、スッと消えていった。


(反抗期だね、ったく)


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