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114、ロバタージュ 〜 族長の警告

 僕はいま、ロバタージュと迷宮を往復している。


 迷宮で、他の星の神が密かに人さらいをしようとして、呪いで人を石に変えて保管していたんだ。


 タイガさんが、その術士である神を殺したことによって、その呪いが解け、体力も魔力もない状態の人が、迷宮のあちこちに溢れてしまった。


 僕は、いま、配下のワープワーム、その見た目から僕は生首と命名しているんだけど、その子達を使っての救出作戦を実行中なんだ。




「ライトさん、あと、何回くらいですか?」


「ちょっと確認しますね」


 僕は、遭難者の映像を見たいと思った。頭の中に流れてきた映像は、2ヶ所だった。


(ひとつはキツそうだな)


 これまでの救出の順番は、僕は一切指定していなかった。生首達が、おそらく族長が指示しているようだ。


 最初のうちは、遭難者がいるだけの場所からの救出だった。だが、回数を重ねる度に、だんだん危険な場所からの救出をすることになっていったんだ。


 そして僕が、今こんなに疲れているのは、さっきの救出の心労だと思う。さっき遭難者は、魔物に囲まれ、喰われそうになっていたんだ。

 だから、僕はとっさにバリアを張ったんだけど、パニックになっている遭難者を生首クッションに乗せるのには、めちゃくちゃ苦労したんだ。



「あと、2ヶ所のようですね。だんだん厳しい場所の救出になってきましたが…」


「そうですか、わかりました。あの、ライトさん、護衛を付けますか?」


「うーん…」



「なんや? ライト、苦戦しとるんか?」


 僕が悩んでいると、食事を終えたタイガさん、ベアトスさんが獣人の大きな少女ふたりと共に現れた。


 獣人の少女達は、ふわふわ飛んでいる生首達を興味深そうに、キラキラした目で見ていたが、僕がいるとわかると、急に焦り警戒し始めた。


(なぜ、そういう反応?)


 怖がられることに慣れていない僕は、とても複雑な居心地の悪さを感じていた。だからと言って、上から目線でこられるのも嫌なんだけど…。



「はい、救出しやすい場所から、まわっているようで…。さっきワープしたら、魔物に囲まれて喰われそうになっている遭難者の目の前だったんです」


「うわ、危機一髪か。それで、どんよりしとるんかいな。あと何ヶ所や?」


「あと、2ヶ所です」


「タイガさん、いま、護衛を用意しようかという話をしていたところでして」


「護衛というより、引きつけ役やろ? ライトのワープを邪魔されんように」


「引きつけ役…」


 何? 護衛を付けますかと言っていて、引きつけ役は困るってこと? 僕にはその違いがわからなかった。


「遭難者のワープが終われば、迎えに来てもらえるんですよね? 引きつけ役は…」


「おまえら、帰還の魔道具、持ってるんちゃうんか」


「我々には、使い捨ての、しかも地上に上がるだけの魔道具しか支給されていなくて…」


「自腹で買えや」


「高いじゃないですか〜。無理です」


(戻る心配か…。なるほど)


 王宮の人達は、互いに顔を見合わせながら、おまえが行けというようなアイコンタクトをしている。



「はぁ、もうしゃーないな、俺が行くわ。ライト、迎えに来いよ?」


「えっ? タイガさんも帰還の魔道具ないんですか?」


「あるに決まってるやろ」


「へ? じゃあ、なぜ……あ、もしかして」


(生首の、ワープしたいだけじゃ?)


「迎えに来るんが、スジっちゅーもんやろ」


「はぁ、わかりました」


(絶対、ワープしたいだけじゃん)



「クマ、そのお嬢ちゃん達の世話、頼むで」


「わかっただ。とりあえず、冒険者登録をさせておけばいいだな」


「あぁ。登録したら、すぐミッションを受注して、付き添いしたれ。じゃないと餓死しよる」


「食費だな。わかっただ」


「おまえらも、わかったな?」


 タイガさんがそう言うと、彼女達は素直に頷き、ベアトスさんの後ろに隠れてしまった。



「ちょっと人見知りがありそうですね」


「はぁ? 何言うとんねん、おまえのことが怖いだけやろ」


「えっ……なぜ僕のことが怖いんですか。タイガさんの方がよっぽど…」


「ライトさん、さっき、飯のときに、この世界の話を教えていただが、そのときにちょっと誤解させるようなことを、タイガさんが言っただよ」


「えーっと、どのような?」


「堕ちた神を、完全消失させて、その配下のワープワームを奪ったって言ってただ」


「俺は、ほんまのことしか言うてへんで」


「タイガさんが殺した神は、今頃もう自分の星で復活しているはずだが、ライトさんが殺した堕ちた神は永遠に復活しないって言ってただ」


「……はぁ」


「事実やろが。それにワープワームは、より強き者にしか従わへんから、堕ちた神よりライトの方が恐ろしいんやって、教えておいたんや」


「……はぁ」


「だから、彼女達は、ライトさんを怖がっているだ。まぁ、実際、タイガさんと敵同士になって殺し合いでもすれば、ライトさんが勝つだ」


「な、なんでそんな極論を…。僕はそもそも人殺しなんて、できないですから」



 僕がそう言うと、獣人の少女達は、ベアトスさんの後ろから少し顔をのぞかせた。もしかしたら、怖くない人かも? と気付いてくれたのかな。


(でも目が合うと、やはり隠れるんだね…)


 ベアトスさんは、けっこう体格も大きいけど、彼女達の方が大きい。そんなベアトスさんの後ろに、彼女達は縮こまっているんだよね。

 頭隠して尻隠さず…、まぁ、子供だから完璧に隠れているつもりなんだろうけど。


 しがみつかれているベアトスさんは、ちょっと大変そうだった。



「おまえ、ワープワームの支配権を持っとるんやから、そんなことばっかり言うてると、挑戦者が続出して邪魔くさなるで」


「俺も、そう思うだ。ライトさんには手出しできないと思わせないと、これから毎日邪魔くさいだ」


「ん? これから?」


「この救出で、ワープワームの存在と、その能力が、国中に知れ渡るだ。そしたら、みんな欲しがるだ」


「あ、それで、そんな言い方を」


「んだ。じゃないと邪魔くさいだ。それに、これは事実なんだから、噂を広めても問題ないだ」


(いや、広めないで…)


「王宮も、ライトが女神の番犬だということを広めるって言うてたで」


「えっ? どうして?」


「自分達が救出できへん失態を、冒険者から叩かれるんが嫌なんやろ。女神の番犬にしか救出できなかった、ってことにすれば、自分達のプライドにも傷つかんからな」


「邪魔くさいですね…」


「おまえが、ワープワームを従えるからこんなことになるんや。自業自得やで」


「そんなこと言われても…」



「とりあえず、あと2ヶ所、さっさと終わらせようや」


「そうですね」


 僕は、念のため、バリアをフル装備かけた。タイガさんがジッと見るので、僕はタイガさんにもバリアをフル装備かけた。


「ほな、さくっと行こか」


「はい」


 僕は、残りの場所に、タイガさんと共に救出に行きたいと思った。しかし、映像が流れたが、途中でその映像がフリーズした。


「あれ?」


「どないしたんや? はよ、呼べや」


「いや、それが…」


 すると、スッと、目の前に生首が現れた。ヘラヘラしていない。キリッとしている。コイツは族長かも?


『アルジ、キケン デス』


「あ、やっぱり族長さんだ。ん? 危険?」


『ハイ、ツヨキ アクイ ガ、マチ カマエテ イマス』


「僕が来るのを待っているってこと?」


『ハイ』


「ライト、何や? そいつ喋れるんか?」


「はい、族長さんは念話できるんですよ」


「俺には聞こえへんで」


「あ、そっか。残り2ヶ所は危険だと言ってます」


「せやから、俺が行くんやんけ」


「なんか、僕が来るのを待ち構えているって」


「はぁ、星に帰った奴らは、しばらくは戻って来れへんやろから、あとのふたりか」


「ただ、映像では、1ヶ所は魔物がウヨウヨいて、もう1ヶ所は、ただ人々が座っているだけなんですが」


「その座ってるだけの近くに、居るんかもな」


「じゃあ、とりあえず、魔物ウヨウヨの方から救出しますか? そっちの方が遭難者は多いですし」


「せやな。おい、魔物ウヨウヨいる方へ運べや」


 タイガさんがそう命じたが、族長さんはタイガさんをチラ見しただけで無視していた。


「はぁ、無視かよ…」


 族長さんは、僕をジッと見つめている。何かを探るかのような視線だった。

 やがて、ふーっと諦めたような表情を浮かべ、スッと消え……てない? 族長さんは、僕の魔法袋にへばりついていた。


「な、何してんの」


『ゴイッショ シマス』


 そう言うと、族長さんは、魔法袋の紐に化け、僕のベルトに巻きついた。


 そして、足元に生首クッションが現れた。僕は、僕の魔法袋の紐に擬態している族長さんにも、バリアをフル装備かけた。


「ライト行くで」


 タイガさんは、もう剣を抜いて、クッションに乗っていた。

 僕は、軽く頷き、足元の生首クッションに乗った。




 僕達が、ワープしたところは、迷宮の中だと思えないくらい、かなり広い沼地だった。


 そして、突然現れた僕達に、魔物達が気付く前に、タイガさんは、そのあたりの数体を倒していた。


「ライト、さっさと運んで迎えに来い!」


「はい」


 僕は、魔物に囲まれ、引きつっていた人達に簡単に説明をした。さっき映像で見たときよりも、遭難者の数は減っている。


「ここは、人数これだけですか?」


「この倍は居た、でもアイツらに襲われたんだ」


 あちこちに、血の跡がある。間に合わなかったんだ。僕が、もっとさっさと来ればよかった…。


 深く落ち込みそうになったが、まだあと1ヶ所に行かなければならない。

 もう1ヶ所も、もしかしたら映像に映っていない部分に大量の魔物がいるのかもしれない。


「助けてくれ、早く、ここから…」


「落ち着いてください、大丈夫ですから」


 我先にと、僕にしがみつこうとする遭難者達の足元に生首クッションを登場させ、なんとか静かにさせた。僕が他の生存者を探していると、また騒ぎ始めた。


「乗ったぞ、早く、早くワープさせてくれ!」


 この人達は、自分さえ良ければいいのか。クズだな、と思いつつ、僕は、彼らと共にロバタージュへと戻った。


 街に戻ると、彼らは、大量の救出者を見て、なぜ自分達を先に助けに来てくれなかったのかと、グダグダと文句を言い始めた。


(こいつら、クズすぎる…)


 僕は、王宮の人達に、彼らの半数が魔物に襲われたことを話した。

 そして、タイガさんが引きつけてくれているので、迎えに行くから、生存者がいないか探してみると伝えた。


「わかりました。こいつらは、静かにさせておきます」


 王宮の人達も、彼らにはイラついたのだろう。


 そもそも、魔物ウヨウヨな迷宮は、通常冒険者は、出入り禁止なはずなんだそうだ。

 だから、そんな所に入って、遭難しようが命を落とそうが、それは自業自得なのだそうだ。


「よろしくお願いします、では」


 僕は、再び、足元に集まった生首クッションで、タイガさんのいる場所へと、ワープした。


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