113、ロバタージュ 〜 遭難者の救出作戦
「これで全員か?」
「はい、あちこち確認しましたが、遭難者も全員います」
「ライトさん、準備完了ですよ。でも、ワープワームですよね…」
「セシルさん、大丈夫ですよ。コイツらの族長が可能だと言ってましたから」
「いや、その、突然、魔族の国に拉致されたりとか…」
「大丈夫です。僕が付き添いますから」
「セシル、何ビビってんねん。ここに来るときは楽しそうやったやんけ」
(楽しそうなのは、タイガさんだけだと思う…)
「いや、呆気にとられたというか、その、まさかワープワームに、治癒できるほどの知能があるだなんて…」
「あれ、冗談ちゃうかったんやな。まぁ珍しいけど、主人の能力で一番まともなやつを得ただけや」
「だから、ほんとに実演してたって言ったじゃないですかー」
「はぁ、そーか」
いま僕達は、ハデナの迷宮に居る。ここは、大地にできた大きな裂け目の中なんだ。ちょうど真上に、ここへの入り口がある。
ただ、この壁をよじ登るのは無理だ。ゴツゴツしているというか、強く触ると怪我をしそうな壁なんだ。
地上に戻るには、飛べない人達は、魔法か、転移やワープに頼るしかないようだ。
「じゃあ、ロバタージュに直行でええな?」
「ロバタージュのどこに?」
「ギルド前にしようと思うんですけど」
「あぁ、それでええで。ん? なんや?」
タイガさんが、何かに気づき、通路の方を見ていた。通路に近い場所にいた王宮の人達が、剣を抜く音が聞こえた。
(なに? また、何か来た?)
「おい、おまえら、やめとけ」
通路には、大きな女の子がふたり居た。そしてタイガさんを見つけると、フッとワープしたかのように、そばに寄ってきた。
「あの…」
「なんや? あ、おまえら、上に登られへんのか?」
「いえ、あの…」
「はぁ、俺は、子守はライトだけで手一杯なんやけどな…」
(僕は、子供じゃないよ)
タイガさんが拒絶するようなことを言ったことで、彼女達は、ショックを受けたようだ。そして、何かを言おうとして、迷っているようだった。
「ライト、なんとかせーや。おまえ、ワンコ好きやろ」
「えっ、なんでそうなるんですか」
「だっておまえ、いきなり、あのワンコに…」
「あーわーわー! もう! タイガさん!」
「ふふん、お嬢ちゃん達、あのお兄さんがお世話してくれるって言うてるで」
「えっ……あの人、神が恐ろしいと言っていた坊や…」
彼女達は、僕の方を見て、なんかめちゃくちゃ怖がっている。タイガさんのことより怖がってない? ってか、坊やって…。
僕が彼女達の方を向くと、彼女達はビクッと緊張し、警戒しているようだった。
だが、やはり子供だな。僕よりも圧倒的に身体は大きいけど、不安に押しつぶされそうな顔をしている。今にも泣き出しそうな感じだった。
でもこの子達、この姿では、地上では少し目立つかな? あ、でも、玉湯にはいろいろな姿の人が居たから、僕がまだ行ったことのない土地には、獣人も普通に暮らしてるかもね。
「あの、とりあえず、街に行くけど、貴女達も一緒に来る?」
「え、あ、うー」
「おまえら、ここにおっても、食い物にも困るやろ」
「は、はい」
「そのオジサンが、ごはん食べさせてくれますよ」
「えっ! ほんとに?」
「おい、ライト、おまえなー」
「僕は、救出があるんで、ちょっと無理です。その子達、たぶんかなり空腹ですよ」
「はぁ、もう……しゃーないな」
タイガさんの言葉を聞き、彼女達は目はキラキラと輝かせていた。なんだか、ちょっとかわいい。
尻尾があるなら、ぶんぶん振ってそうな、そんな顔をしている。
僕は、ロバタージュへのワープ準備に入った。頭の中に映像が流れ、僕はロバタージュのギルド前を指定した。
すると、いつもの100倍はいるんじゃないかと思うくらいの生首達が、上からハラハラと降ってきた。
コイツら、雪のフリをするの、気に入ってるのかな? 生首達がふわふわと降ってくると、みんな、感嘆の声をあげる。すると、生首達は得意げにヘラヘラするんだよね。
「コイツらが作るクッションに乗ってください」
僕がそう言うと、みんな、こわごわと足を踏み出していた。まぁ、生首を踏むのはキモイよね、うん。
獣人の女の子達も、タイガさんの見よう見まねで、生首クッションに乗っていた。
まわりを見渡し、全員が乗ったことを確認した。
「では、行きますよ」
そう言って、最後に僕が生首クッションに乗った。その次の瞬間には、全員ロバタージュのギルド前にいた。
僕と、タイガさん以外は、ロバタージュに着いたことがわかっていないようだった。みんな無言で、きょとんとしている。
生首達は、ふわふわと浮かんで、なんだか、きゃっきゃと遊び始めた。アイツら同士で会話でもしているのだろうか?
「じゃあ、タイガさん、あとはよろしくお願いします」
「あぁ、みんな、ここに連れてくるんやな?」
「はい、そのつもりです」
「わかった。段取りしとくわー」
僕は、遊びに夢中になっている生首達に話しかけた。
「他の人達も救出に行きたいんだけど、行ける?」
すると生首達は、クルクルと輪になって飛び始めた。んー、全く意味がわからない。
「さぁ、行くよ!」
僕がそう言うと、フッと足元に生首クッションができた。それを踏むと同時に僕は、迷宮の中に戻ってきていた。
そこは、ハデナの迷宮とは違って、少し蒸し暑く騒がしい場所だった。
狭い人工的に作られたような石室の中に、たくさんの人達が所狭しと座り込んでいた。
この場所担当の生首達がふわふわと、舞いながら、治癒の息を吐いていた。
人々は、その生首達に治癒の息をかけられるたびに、ありがとうと言っている。
そういう感謝の言葉を聞くと、生首達はヘラヘラと笑う。
だが、人々は、まだ完治はしていない。それに、動く気力もないんだろう。
僕はゲージサーチをしてみたが、体力はみな、オレンジに近い黄色だった。30%後半というところかな。
でも、黒に近い赤だったはずだから、かなりの回復だね。
僕が突然、現れたことに気づいた人が、警戒し始めた。
一方で、この場所担当の生首達は、褒めて褒めてというように、僕の周りに集まってきた。
生首達は、褒めてもらえると思ってワクワクしているようだ。
僕は、ちょっと天邪鬼な気分になったが、ここはグッと我慢した。
「おまえら、すごいじゃない。かなり回復できているよ。偉いね」
僕がそう褒めると、生首達は、互いにぶつかりながら、めちゃくちゃに飛び回った。
ヘラヘラしながらそういう飛び方をするって、頭おかしくなったように見えるんだけど…。
まぁ、今回は、仕事を頼んだんだから、ちゃんと褒めておかなければいけないよね。
生首達のこの様子に、僕がこいつらの関係者だとわかったようで、人々の警戒は薄れた。
「あんたは一体…」
「あ、申し遅れました。僕は王宮の手伝いで、遭難者の救出に来ました」
「えっ? お兄さんがか?」
「はい、この子達は、僕の配下の魔物なんですが、基本能力はワープなんです」
「もしかして、ワープワーム?」
「そうです。みなさんをロバタージュに移動させます。そこに、王宮の救護班もいるはずですから」
「やった! 助かるのか!」
「嘘みたいだ! 天使の次は神が現れた!」
(ん? 天使? 神?)
まぁいいや。僕は、生首達に、移動するからここの人達を運べるようにしてほしいと思った。
すると、上からまた、ハラハラと雪のように降ってきた。
どうやら、わざと上にワープしてきて、ふわふわ雪が降るような演出をしているようだ。
そうすると、人々はやはり、感嘆の声をあげる。その声を聞き、生首達はヘラヘラしているのだった。
「すごい、キレイ」
「わぁ〜、雪のようだ。足元に積もってきた」
「みなさん、その子達の作るクッションに乗ってください」
「えっ? 踏んでもいいのか?」
「はい、踏んで大丈夫です」
すると、みんなこわごわながら、生首クッションに乗っていった。
僕は、乗っていない人がないかを確認した。うん、大丈夫だね。
「全員乗りましたか? 乗ってくれないと置き去りになりますよ」
「あぁ、大丈夫だ。全員乗っている」
「じゃあ、行きますね」
最後に僕が、クッションに乗った。その次の瞬間、僕達は、ロバタージュのギルド前にいた。
今回は、特に映像選択を要求されなかったな。生首達は、キチンとやるべきことを理解できているようだった。
ロバタージュのギルド前では、王宮の救護班がスタンバイしていた。
ギルド前の通路は閉鎖され、テントが張られていた。中には簡易ベッドが置かれている。また、水や食料も、集められていた。
僕達が現れると、一瞬、戸惑った顔をしていたが、すぐに、指揮官が指示をとばしていた。
一方で、ワープしてきた遭難者は、まだ頭の整理ができていない様子だったが…。
「ちょっと蒸し暑いところからのワープです。かなり脱水状態だと思います」
「ライトさん、了解しました」
僕がキョロキョロしていることに気づいた王宮の人達が、僕が知りたかった情報をくれた。貴方達はエスパーですか?
「ライトさん、タイガさんとベアトスさんは獣人の少女達と食事に行かれました」
「フリード王子は、護衛と共に王宮に報告に戻られました」
「セシル様は、いま、カールとバックルと共に、ギルドの中にいます。ギルドマスターに状況説明をしているかと」
「あ、はい。わかりました、ありがとうございます」
「すぐに次の救出に行かれますか?」
「はい、水も食料もない中で放置はできませんから」
「では、我々もそのように、準備します。よろしくお願いします」
「はい、僕は救出だけに専念しますね。後の事情説明もお願いします」
「かしこまりました!」
僕は、すでに足元に集まってきていた生首クッションに乗った。
その次の瞬間、迷宮の中に移動する。
そして、突然の登場に驚いた人達に簡単な説明をして、生首クッションに乗せ、ロバタージュへと救出をする。
この作業を、何度も繰り返し、ロバタージュのギルド前は、たくさんの遭難者で溢れていた。
数を数えていた人が救出者が900人を越えたという。あと、もう少しだ。
さすがに疲れてきた。僕も、たぶん生首達も…。あ、生首達は、族長が循環させているんだっけ?
(だよね、元気すぎるよね、コイツら…)




