110、迷宮 〜 墜ちた神の、その先は
僕はいま、透明化、霊体化してベアトスさん達がいるはずの右ルートへ向かっているんだ。
ここは、迷宮、特に名前はないらしい。あちこちに、この入り口があり、どうやら転移魔法陣で繋がっているらしいんだ。
だから、1ヶ所あたりは、そんなに広くはないんだと思う。もしかしたら広い迷宮があるかもだけど、いま、僕がいるハデナの迷宮は、それほど広くはないようだ。
僕は、右ルートにたどり着いた。すると、あの大きな獣人の女の子達がいた。
誰も人の姿はないと思っていたから、僕は驚いた。そういえば、彼女達は、真ん中のルートにも突然現れたっけ…。
(何をしているんだろう?)
彼女達がいる中で、壁の石にされた人の呪いを解除するわけにもいかない。
僕は、早くどこかへ行ってくれないかと思いつつ、少し様子を見ることにした。
「ねぇ、ほんとにこんなことしてて、いいのかな?」
「ん? ここは見られないよ?」
「そうじゃなくて、この星の住人の捕獲だよ…。1,000人捕まえたら、私達を解放するって言ってたけど…」
「うん、自由になれるんだよ」
「1,000人がまた、他の星に捕獲しに行くのかな」
「わかんない」
「でも、ほんとに解放してくれるのかな?」
「神様は嘘はつかないんじゃない?」
「でも、神様なら、こんな誘拐なんてしないんじゃない? 神様じゃないのかも」
「えっ? じゃあ、悪党?」
「もしかしたら、私達、口封じに殺される?」
「えっ? どうして?」
「だって、すべてから解放するって言ってたから」
「ん? だから?」
「ってことは、身体からも解放されたら、魂だけになるよ」
「えっ…」
「そう言ってたよ。どこかの星で捕獲された人が…」
「うそ、どうする?」
「帰ろう。それが無理なら逃げようよ」
「でも、この星からどうやって?」
「ここは、中立の星だから、移住できるよ」
「そうなの?」
「さっき、他の星の人が居たよ。ここの人達の仲間になってた」
(バックルさんのこと?)
「でも……逃げたら、殺されるよ」
「でもでも、1,000人捕まえても殺されるかもしれないよ」
「うーん…」
ふたりは深刻な話をしながら、ずっと何かを食べていた。お腹がすいてるんだろうな…。
どう見ても、この子達は被害者だ。この黒幕の神は、何のために人さらいをしているんだろう。たぶん自分の奴隷を増やすため、だよね。
この子達が自分の星に戻れないなら、逃げてこの星で冒険者として暮らせばいいんじゃないかな。
土砂を壁に押し当てたのも、魔法を使ったんだろうから、冒険者として、充分やっていけると思う。
(女神様、聞こえますかー?)
『うむ。構わぬが、ライトの配下じゃぞ?』
(え? まだ何も言ってませんけど…)
『おぬしの考えくらい、聞かずともわかるのじゃ。その子供達を、逃してこの星の住人にしてもいいかということじゃろ?』
(あー、まぁ、はい。冒険者になれるんじゃないかと思って…)
『ライト、霊体化したまま話していることに、気づいておるのか?』
(あ、魔力をめちゃ使うんでしたね、すみません)
『コーヒー牛乳3本じゃぞ』
(えー、こないだパフェ味たくさん渡したじゃないですか)
『チッ』
(えっ、舌打ち?)
『ところで、そやつらに、奴隷印はついておるか?』
(は? 奴隷印ですか? わからないです)
『ついていれば、その印を破壊せねば自由にはなれぬ』
(破壊すればいいんですね)
『うむ。破壊すれば所有権が破壊者に移るのじゃ』
(えっ…)
『だから、ライトの配下じゃぞ、って言うたではないか』
(でも、それだと、彼女達は、奴隷のままじゃないですか。自由になれない)
『ふむ。もしくは、奴隷印を付与した奴を殺すしかないのじゃ。命が消えれば、奴隷契約は消えてなくなるのじゃ』
(えっ…)
『もしくは、奴隷印を消させるかじゃな』
(それが一番、現実的ですね)
『は? 一番難しいのじゃ。殺す方が楽じゃ。どうせ、神ならすぐに復活するのじゃ。魔力がなきゃ消滅するがの』
(うーん…)
『さっき、タイガにも言ったが、迷宮をいじる神を殺さねば、いつまでも解決せぬのじゃ』
(神殺し……ですか)
『神を殺せば、そやつの能力の一部を奪えるのじゃ。ナタリーは、そうやって強くなったのじゃ』
(えっ!! そ、そうなんですか…)
『大魔王も、神殺しを繰り返しておる。弱い神は、ある意味、エサなのじゃ』
(メトロギウス様も…)
『能力の一部を奪われた神は、それを補うために人の魂を喰うのじゃ。そのために人さらいをしておる』
(えっ?)
『奴隷として働かせ、使えなくなったら魂を喰うのじゃ』
(な、そんな…)
『とことん腐っておるのじゃ! 堕ちた神は、滅ぼさねばならぬのじゃ』
(でも、すぐに復活するんですよね?)
『すべての能力を奪えば、もう神としての復活はできなくなるのじゃ』
(どうなるのですか?)
『だいたいは……魔物になるかの、レアモンスターというやつじゃ。人の魂を喰うという大罪を犯すのじゃ、人にはなれぬ。ライトが、こないだ倒した奴も、もともとは堕ちた神じゃ』
(えっ! 僕は……神殺し?)
『もう奴は神ではなかったのじゃ。ただの魔物じゃ』
(そ、そうなのですか…)
僕は、なんだか、とんでもない話を聞いてしまった。
でも、人を石にして捕獲することだけでも、神としては、あり得ない行動だ。でも、なぜわざわざ石にするんだろう?
さらにその先の展開が、女神様を疑うわけじゃないけど、そんなことは信じられなかった。いや、信じたくなかった。神様って、絶対的に「善」だと思いたい。
『だから、ライトは世間知らずなのじゃ。善人な神だなんて、ほんのひと握りしかおらぬ』
(え、あ、もう覗かないでくださいよー)
『念話中に考えごとをするのが悪いのじゃ』
(はぁ…)
『妾は、中立じゃ。善でも悪でもないのじゃ』
(え? まだ何も聞いてませんよ?)
『ライトの考えくらい、聞かずともわかるのじゃ』
(中立が、善でも悪でもないって、どういうことですか? 善なのではないですか?)
『善人は、その敵から見れば悪人なのじゃ。妾は、干渉せぬ。だから、善でも悪でもないのじゃ』
(わかったような、わからないような…)
『まぁよい。そのうち、理解できるのじゃ。それより、そろそろ決着じゃ』
(え? 何がですか?)
『タイガが、その子達の指示役を倒したのじゃ。その黒幕が出てくるのじゃ』
(えっ! えっと、僕は…)
『神殺し希望なら、行くのじゃ。その気がないなら隠れておるのじゃ』
(え、あ、はい…)
『それから、人さらいが石化を使うのは、石になっている間は食事を与える必要がないからじゃ。保管しやすいのじゃ』
(そんな……人をモノ扱い?)
『そうじゃ、そういう奴らじゃ。あとは、よろしくなのじゃ』
(は、はい)
女神様は、タイガさんの方に集中するんだな…。僕はどうすれば…。
獣人の子供達が、突然、ピクッと、耳を動かした。
「呼んでる……行かなきゃ」
「でも、逃げるチャンスだよ」
「逃げたら殺されるよ…」
彼女達は、顔を見合わせ、そして軽く頷き、奥の方へと走って行った。呼ばれて場所に行ったんだ…。
僕は、とりあえず、ここにいる人達の石化を解除することにした。
透明化、霊体化を解除した。そして透視できない石を探し、スッと手を入れて、回復!を唱えた。
やはり、フリード王子と同じように、ゲホゲホと咳こみ、地面に倒れた。ゲージは赤、赤。
とりあえず、僕は他の石も、解除していった。そして、やっと、お目当てのベアトスさんが現れた。
ベアトスさんをさらに回復!した。
「ライトさん、助かっただ。これは一体…」
「皆さん、石化の呪いをかけられたんです。真ん中のルートも同じ状況でした」
僕は説明しながら、みんなのもとをまわり、回復!をしていった。ポーションを使うよりは早く回復できたが、呪いの影響のダルさは残ってしまっているようだった。
(ポーションの方が、優秀だね)
『まぁな』
おっと、久しぶりのリュック君、登場! 僕は、やはりちょっと嬉しい。反抗期かもだけど、話せるっていいよね。
(完成品、かなり多くなってる?)
『あぁ』
(ごめんね、いま、ちょっと出していられなくて)
『知ってる』
(そっか、また落ち着いた場所でね)
『かける』
(ん? かける? 座るってこと?)
『違う』
(ん? かける? 何を?)
『石に』
(え? 石化した人に?)
『そう』
(クリアポーション?)
『違う』
(ん?)
『赤』
(赤色? 変身ポーション?)
『違う』
(え? もしかして媚薬つきの?)
『そう』
(大変なことになるんじゃ?)
『ならない』
(どうして? タイガさん、怒ってたよ?)
『飲むから』
(あ……かけると、違うの?)
『あぁ』
(わかった、やってみる)
『投げる』
(瓶ごと投げればいいの?)
『あぁ』
(うん、わかった)
僕は、魔法袋から媚薬つきのポーションを取り出し、透視できない石に向かって、投げつけた。パリン!
カンパリの香りが広がる。そして、石の中から、まるで酔っ払ったような人が現れた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、ちょっと頭が痛いが問題ない。これは一体どういうことだ?」
ゲージは、オレンジ、赤。ポーションが回復させたのかな。それに、呪いに呪いをぶつけると、相殺されるようだ。
全く気づかなかった……ってか知らなかった。さすがリュック君だね。
説明は、他の人に任せ、僕は他の人達も、媚薬つきのポーションを投げつけて、呪いの解除をしていった。
「ライトさんのポーション、すごいだ」
「この使い方は、リュック君が教えてくれたんです」
「へぇ、魔人化しているだか?」
「いえ、念話が少しできる程度で…」
「これからが楽しみだな」
「ははっ、はい」
そして、ベアトスさんに、クリアポーションを人数分、渡した。
「あとは、これで、少し楽になると思います」
「わかっただ」
「ここは、まだ人の石がたくさん埋まってるので、外からは見えにくいようです。皆さんは、ここで待機していてもらえますか?」
「あぁ、わかった」
「ライトさんは、どうするだ?」
「僕は……タイガさんの様子を見に行ってみます」
「ん? 戦闘中だか?」
「おそらく、黒幕と…」
「なっ? それは大変だ」
「ええ、ちょっと、行ってきます」
「わかっただ」
僕は再び、透明化! 霊体化! を念じた。
「では、また後で」
「あわわ、全く気配がわからないだ。えっと、気をつけるだ」
「はい、では」
僕は、タイガさんが居る、派手な音が聞こえる奥へと向かった。




