108、迷宮 〜 遭難者が見つからない理由
「さぁ、行くぞ!」
「「ラジャー」」
フリード王子の掛け声により、僕の振り分けられた隊は、分かれ道の真ん中の道を進み始めた。
僕も、タイガさんやベアトスさん、あとセシルさんに軽く会釈をして、彼らに続いた。
「ライト、人の姿はどこかに見えないか?」
フリード王子を始め、王宮の調査隊の主要メンバーは、僕達の『眼』のことを知っている。だからこそ、タイガさん、ベアトスさんと、別々の隊に振り分けられたようだった。
遭難者を探し出すのが今回の目的だ。僕達神族の、透視、遠視能力が、今回の調査では重要な役割を担っているんだ。
「フリード王子、近くには居ないです。ちょっと探してみます」
僕は、進行方向を『見た』が、この道の先に魔物がいることはわかったが、人族はいない。
「この道の少し先に、魔物が道をふさぐように待ち構えていますが、人族の姿はありません。もう少し探してみます」
「魔物? どれくらい先だ?」
「ん〜、数百メートル位でしょうか?」
「わかった。全員、警戒せよ」
「「ラジャー」」
僕は『見る』範囲を左右に広げ、そして魔物がいる場所のさらに奥を『見て』いった。
しかし、どこもこの迷宮は、なんだか岩肌が粗いというか、ぶつかると痛そうだ。ん? 岩肌……あれ?
ゴツゴツした岩壁は、透視できない場所があった。ぽっかりと、見れない場所があり、でも、その先は見えるんだ。
単純にそういう性質の石なのかもしれないが、あそこに、何かありそうな気がする。
ただ、口に出すと、壁から見張っている神々にバレてしまうかな…。
とりあえず、もっと近づいてから話すことにしよう。僕に指揮官の役割を与えられたんだから、それとなく、あちらへ誘導していけばいいんだよね。
「そろそろだな。バリア張ってくれ」
フリード王子がそう言うと、護衛エリート警備隊のひとりが、フリード王子と、警備隊全員にバリアを張った。えっ? 冒険者は無視?
「はぁ、あんた、バリアできる?」
冒険者のひとりに声をかけられた。
「あ、はい。かけますね」
僕は、冒険者3人と自分に、バリアをフル装備でかけた。
「おっ? 物魔両方のバリアか?」
「はい。僕ができる最大限のバリアをフル装備しました」
「ははっ、助かるよ。ただ、そこまでするほどの相手でもなさそうだがな」
「えーと…」
「いや、文句じゃねーよ? あんたの魔力が切れると困るからな」
「あ、それは大丈夫です。お気遣いありがとうございます。僕はポーション屋なので、魔ポーションも少し持ってますから」
「なんだ、そうか。それなら遠慮はいらねーな」
「はい」
僕が話していると、前方で剣を抜く音が聞こえた。
警備隊エリート達が、道をふさいでいた魔物達をバッサバッサと斬り倒していった。すごっ!
「さすがだな、生意気なだけじゃねーな」
「そうですね、すごいウデですね」
冒険者達も、それぞれ剣を抜き、魔物達へと向かっていった。彼らも、半端なく強い。すごっ!
僕も、自分の役目を果たさないと! と言っても、何もすることがないよね。
この場所は、少し広い空間になっていた。暗いのでわかりづらいが、道の右側、少し離れた場所には沼のようなものもあり、草木も生えているようだ。
(ちょっと寒いな)
僕は、セシルさんから譲り受けたローブをはおった。かなりあたたかい。
一応、まわりの様子には気を配りつつ、その戦闘を眺めていた。
僕と警備隊の魔導士を除く8人が、瞬く間に魔物達をすべて討伐してしまったんだ。
「あっけなかったな」
「気配を消して奇襲するタイプの魔物だ。居るとわかっていれば、ただのザコだからな」
「このメンバー、最強だな、がははは」
(あ、何か来る)
「皆さん、また来ます!」
「は? 何も危機探知にかかってないぞ?」
「ライトが指揮官だ、警戒を緩めるな!」
「いやいや、フリード王子、なぜそこまでコイツを?」
「さっきも、見てただけじゃねーか」
「見るだけだろ? アイツの役割は……っぐはっ」
突然、油断していた警備隊のひとりが倒れた。バリアを張っていたはずなのに、飛んできた何かで太ももを貫かれている。
僕は、フリード王子にバリアをフル装備でかけた。警備隊がかけたものを上書きすることになった。あれ? ダブルバリアにはならないのか…。
「ライト、ありがとう。物理バリアしか張っていなかったから、助かる……うわっ」
警備隊の足を貫いたものと同じ、長い投げ槍のようなものが、右の沼の方から何本も飛んできた。
彼らは、その槍みたいなものを剣で、次々と叩き落して始めた。その槍みたいなものは叩き落とされると、スッと消える。魔力で作られた槍なのだろうか。
「灯りを!」
フリード王子の指示に従い、警備隊エリートの魔導士が、照明弾のような魔法を使った。すると、沼の方からの攻撃はおさまった。
小さな太陽みたいなものが空間内を照らしている。急に明るくなったから、『眼』の能力を使っていた僕は眩しすぎて、目がくらんだ。
もしかしたら、沼の方の奴らも、僕と同じく目がくらんだのかもしれない。
「うわぁ!」
誰かの叫び声とともに、突然、天井が崩れ落ちてきた。僕はとっさに霊体化!を念じた。
ガラガラ! ドドーン!!
霊体化は間に合ったが、僕は、土砂の中に閉じ込められた。まさかの崩落? いや、土魔法? 僕は、さらに透明化! を念じた。
僕は、状況を確認し、怪我人がいれば治療しようと、土砂の中から、他の人達をさがして『見た』が、人がいない。
(えっ? どういうこと?)
もし、土砂に潰されたとしても、絶対、身体は残るはずなのに…。どこかに飛ばされたんだろうか?
「あっれー? 9個しかないよー。10人いなかったっけ?」
「数え間違えたんじゃない? 8人じゃなかった?」
「ん〜、じゃあ、真ん中とって、9個でいいね」
(何? あのふたり…)
突然、どこからか現れた女の子? がふたりが、あたりをキョロキョロと見まわしている。
見た目は、顔は10歳前後の子供のようだが、背は2メールはある。頭の上に耳があって、犬っぽい獣人に見える。
僕はゲージサーチをしてみた。青、青、青、青…の4本ある。外からの迷い子、いや、ここに隠れている神の配下だと考えるのが自然かな。
「これも、全部、壁でいいよね」
「集めに来るのは1,000個たまってからだもんね、壁でいいよね」
彼女達は、土砂をふわっと浮き上がらせ、沼とは反対側の壁に吸収させた。僕も、土砂のまま、壁の中へと移動させられた。
「あといくつ?」
「あっちにも人いたよー」
(この子達、人を石にして集めてるわけ?)
『ライト、なんとかするのじゃ! クマも石にされたようじゃ』
(あ、女神様、えっ?)
『人さらいじゃ! 奴隷にする気じゃろ。だいたいわかったのじゃ。じゃが、わからぬこともあるから、そやつらから情報を集めるのじゃ」
(えっ、でもどうやって?)
『そやつらは、子供じゃ。おそらく同じようにして捕まった奴隷じゃ。忠誠心なんてないのじゃ、知ってることは、上手く聞けばしゃべるのじゃ』
(そんな、むちゃぶり…)
『おぬしは、ワンコ好きなのじゃろ? そやつらもデカイがワンコじゃ。ライトの得意分野じゃ!』
(え、そんな…)
『ということで、よろしくなのじゃ! タイガは、逃げるので精一杯じゃから使えんのじゃ』
(わかりました……できる範囲で頑張ります)
『うむ』
僕は、女の子達の様子を見てみた。なぜか、ひとりが鞄から食べ物を取り出し、食事が始まっていた。
「えー、なんで食べてるのー?」
「だって、お腹すいた」
「叱られるよー」
「大丈夫だよ。ここは見られないんだよ?」
「見張ってるって言ってたよ」
「石を壁にしたら、見えなくなるんだよ」
「だから、同じ場所で石にするの?」
「ん? わかんない。あ、集めやすいからじゃない?」
「ふぅん」
「じゃあ、私も、ごはん食べる」
「うん、その方がいいよ」
ふたりは、地べたにぺたんと座って、お食事タイムが始まった。
僕は、壁を『見て』みたが、やはり人の姿は見つけられない。ただ、あちこちにその先が見えない部分がある。
(透視できないのが人の石なんじゃ?)
この広場の壁は、何層にも連なっているようだった。一番、新しい層には、10ヶ所ほどの透視できない場所がある。僕のいるすぐ近くにもあるんだ。
さっき、あの子達は、数を数えていたから、人の石の見分けができるんだろう。
じゃあ、それを利用しようか…。
僕は、彼女達に話しかけることにした。おそらく石にした人がしゃべっていると思うだろう。
「ねぇ、キミたち」
僕が壁の中から話しかけると、ふたりともビクンと飛び上がり、あたりを警戒し始めた。
「な、なんで、見えないって言ってたのに」
「お腹すいて動けないから」
彼女達は、僕のことを監視者だと勘違いしたようだ。
僕は、監視者のフリをしようかと思ったが、やめた。絶対すぐにボロがでる。石にされた被害者の方が、彼女達も油断するだろう。
「えっ? 意味がわからないですけど、キミたちは何者? 何をしたの?」
「え? あー、石がしゃべってるんだ。びっくりしたよー。ん? しゃべれるの? えー、完全に石化してないんだ」
「石化? 魔法ですか?」
「違うよ。石化の呪いだよ。呪いの棒が溶けると呪いになるの」
「ん? あ、さっき、沼から飛ばしてきた棒ですか?」
「そうだよ」
「なんで棒が溶けるんですか?」
「わかんない。でも、棒を投げたら、すぐに沼に潜らないといけないの」
「キミたちも、石になるから?」
「そうなの。だから、投げたら沼に潜るの」
「石になったこと、あるんですか?」
「うん」
「どうやって元に戻るんですか?」
「戻る水をかけるの」
「その水ってどこにあるんですか?」
「遠いところ」
「他の星?」
ここまでは、気楽に話してくれていたのに、突然、彼女達が警戒し始めた。
「どうして?」
「ん? この星に、そんな水があるなんて聞いたことないですから」
「あ、そうなんだ。内緒だよ〜」
そう言うと、彼女達は、道のさらに奥へと走って逃げていった。あんまり聞けなかったな…。
しかし、石化の呪いか……僕に解除できるのかな?
(はぁ、むちゃぶりだよね…)




