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106、ハデナ火山 〜 バックルの爆弾発言?

 僕はいま、タイガさん、ベアトスさん、そして王宮のセシルさん達と、迷宮調査のために、その入り口のあるハデナ火山のふもとにいる。


 ただ、僕は困ったことに、甘えん坊なケトラ様に、きゅーっと、しがみつかれていて、身動きがとれないんだ。


 ケトラ様は、守護獣として偵察に来たところを、王宮の人達から攻撃され、あちこち怪我を負っていた。

 そんな時に知り合いの僕が来て、ホッとしたのかもしれない。



「お兄さん、ハデナに登るの?」


「ケトラ様、今日は、別件なんですよ」


「ハデナに登らないの?」


「休憩施設のまわりが完成する頃に、また来ます」


「うん、わかったの。じゃあ、どこに行くの?」


「迷宮の調査のお手伝いなんです」


「えっ? 寒いとこ?」


「うーん…。行ったことないから、わからないですけど」


「ここに集まってる人達は、お兄さんと同じ用事?」


「はい、たぶんそうだと思います」


「じゃあ、ふもとの裂け目に潜るんだ。あれは、あちこちにできてるの」


「ん? ハデナのあちこちに?」


「違うの。あちこちの守護獣のテリトリーのギリギリ外に、できてるの。みんな言ってるの」


「他の守護獣の方々がですか?」


「うん。裂け目がないのは、イーシアくらいかも。イーシアは、おねえちゃんが、いつもテリトリーの外まで巡回してるから」


「アトラ様が…。守護獣のテリトリーということは、精霊のすみかから少し離れた場所に、裂け目があるんですか?」


「うん、そうなの」


「精霊の、守護獣のチカラが及ぶ場所には、裂け目は作れないってことですよね」


「うん? わかんないの」


「ケトラ様、すごい情報ありがとうございます。僕、少しわかってきました」


「そう? うん、あ! あれ、欲しいの〜」


「ん? 何ですか?」


「前にくれたポーション!」


「ふふっ、あれから新作も増えたんですよ〜」



 僕は、ケトラ様に、いつもの3種を渡した。


 モヒート風味の10%回復、カシスオレンジ風味の火無効つき1,000回復、パナシェ風味の1,000回復クリアポーション。


「わ! 呪い解除?」


「はい、他にもあるんですが、変な呪いや効果付きばかりで、まともなのはこの3種だけなんですよ」


「ふぅん。もう1本ずつちょうだい」


「ふふっ、ケトラ様は、前も2本ちょうだいって言ってましたね〜。はい、どうぞ」


「うん、ありがとう。1本は誰かにあげるかもなの」


「そうなんですね。ケトラ様は優しいですね」


「うんっ!」




 突然、ケトラ様の頭の上の耳がピクッと動いた。何かを見つけたケトラ様が、固い表情を浮かべた。その視線の先には、こちらに近づいてくるタイガさんの姿があった。


「おい、ライト! いつまでワンコとじゃれとんねん」


「あ、すみません。久しぶりに会ったんで…」


「おまえ、二股は、ややこしなるから気ぃつけろや」


「は?」


「はぁ、まぁええわ。行くで」


「あ、はい。ケトラ様、また〜」


「お兄さん!」


「ん? はい」


「アトラと、会った?」


「え? あ、はい。イーシアには水汲みと薬草を摘みに行くので…」


「そう。まだ、アトラのこと好き?」


「えっ? あ、はい、好きですよ」


「じゃあ、あたしのことは、どう思ってるの?」


「ケトラ様は、頑張り屋さんでエライと思ってますよ」


「好きじゃないの?」


「嫌いなわけないでしょ?」


「うん。でも、おねえちゃんは好きなんだ」


「はい。でもケトラ様のことも、やんちゃな妹みたいで、かわいくて好きですよ」


「妹…」


「ダメですか? 妹みたいって思ったら…」


「あぅ…… ううん、いいよ。あたし、おねえちゃんより綺麗になるんだから!」


(ん? よくなさそう?)



「ライト、はよ、せーや」


「あ、はい!」


「じゃ、お兄さん、休憩施設のまわりが直ったら、また来てね。おねえちゃんには負けないんだから」


「はい、ケトラ様、頑張って直してくださいね。期待してます」


「うん!」


 そう言うと、ケトラ様は赤い光に包まれ、赤く美しい大狼の姿に変わった。そして、瞬く間に空に駆け上がり、休憩施設のある火山の中腹の方へと、飛び去っていった。




「ライト、フリード王子に、一応、挨拶しとけ」


「え? もう来られたのですか?」


「せや、だから呼んどったやろが。王族を待たせると、その取り巻きがうるさいからな」


「わわっ、すみません」



 僕は、タイガさんに連れられて、王宮の調査隊の本隊が打ち合わせをしているところへ挨拶に向かった。


 タイガさんと僕が来たことがわかると、その打ち合わせの場を抜けて、フリード王子がこちらへと出てきてくれた。


 その後ろには、前、僕に絡んできた警備隊のエリートがいた。あまり顔は覚えていなかったけど、雰囲気というか、独特な嫌な感じは覚えていた。


「フリード王子、お待たせしてすみません」


「いや、大丈夫だ。まだ打ち合わせの途中だからな」


「よかったです」


 フリード王子は、僕の姿をじーっと見ていた。何? 服がおかしい? えっと…? 何? あ、もしかして、サーチかな?


「ライト、だいぶ上がったな」


「えっ?」


「あぁ、悪い。勝手に見せてもらった。だが、その数値は偽物だと言う奴もいるが…」


「えーと…」


 僕は、タイガさんの方を見た。すると、タイガさんは、めんどくさそうな顔をしながらも、フリード王子の質問に答えてくれた。


「フリード王子、ライトは女神の番犬なんや。これで答えになるか?」


「番犬だから隠しているということか。だが、本当に番犬? 番犬は、戦闘時の能力で選んでいるのだと認識しているが、選び方が変わったのか?」


「戦闘時、相手によっては俺より強いで、ライトは」


「えっ? あ、失礼。そうなのか、私は、身近な者から、ライトは回復特化の神族だと聞いていたが……情報はやはり直接集めるべきだな」


「王族は、そういうわけにもいかんやろ。側近の質を上げればええだけやで」


「ふっ、相変わらず、おまえはストレートだな」


「俺は、自分に素直なんや」


(ストレートすぎると思う…)



 この会話に、当たり前だけど、フリード王子の側近であるエリート警備隊達は、気を悪くしたようだった。


 彼らは皆、タイガさんをめちゃくちゃ睨んでいたが、誰も特に反論する様子はなかった。タイガさんって、ほんと、怖がられてるよね。


 だが、そのイライラの矛先が、なぜか僕に向いてきてしまった。



「貴方は、白魔導士ですよね? それでどう戦うというのですか?」


「神族だからって、偉そうにして」


「神族だからってだけで、守護獣ケトラも逆らえないんだろ」


「フリード王子を偶然助けたからって、王宮相手に対等に商売をしようだなんて…」


「ガキのくせに、そんな風に思い上がってると、そのうち痛い目にあうぞ」


(なんだか、めちゃくちゃ…)



 僕は、この人達を、どう扱うべきかわからなかった。側近5人の警備隊エリート全員に敵意を向けられて、反論すべき言葉も見つからない。


 何を言っても倍返しされそうな気がする。


 前に警備隊レオンさんから、警備隊のエリート達はプライドの塊だから、関わるとロクなことがないと言われたことがあったっけ。

 なんだか、魔族の方が扱いやすいとさえ思えてきたな…。



「やめなさい! おまえ達は、彼に命を救われたのを忘れたのか? 彼がいなければ、あの時ギルドで、我々は焼却されていたはずだ」


「ですが、彼は、王宮への協力もせずに、このコネを使って、ポーションを売って儲けようとしているだけですよ」


「今、彼がここに居るのは、王宮への協力ではないのか? それに、呪いを消す道具が、彼のポーション以外にあると言うのか?」


「しかし!」


 フリード王子は、警備隊のエリート達を叱ってくれた。いや、でも、これって余計に反感を買ってしまったんじゃ…。



「はぁ、男の嫉妬は、ねちこいな〜。おまえら、ええ加減にしとけよ」


「でも、タイガさんならわかりますが、なぜ俺達が、あんなガキの指揮下に入らねばならないのですか!」


(え? どういうこと?)


「はぁ? 何言うとんねん。誰が指揮するって?」


「セシルの提案ですよ。私も、剣士よりも魔導士が指揮する方が、戦闘時には効率的だと考えた」


「それで、こいつら、こんなにゴネとるんか」


「ですが、さっきから、縮こまって何の反論もできない子供に従えだなんて、ありえないですよ?」


(僕もそう思う…)


「ライトは、セシルの補佐で来てるんやから、それなりの地位として扱うんが筋ちゃうか?」


「こんな調子じゃ、指揮どころか、何もできないんじゃないですか? 迷宮に潜るのも怖がるかもね」


(なんか、ボロカス…)


 そう言うと、警備隊のエリート達は、そうだな、などと口々にニヤニヤし始めた。



 呆れ果てたフリード王子が、セシルさんに手招きして、ここに来るよう呼んでいた。


「どうされました? フリード王子」


「彼らの悪い癖が、出てしまってね。なんとかしてくれない? 」


 そして、フリード王子は、セシルさんに、この騒ぎを簡単に説明された。


「なるほど、彼らは、私、セシルをバカにしているということですね。なんなら全員、配置換えさせましょうか」


「えっ? セシルさんをバカになんてしていませんよ、誤解です」


「俺達は、その子供は、指揮どころか迷宮に潜ることも無理じゃないかと、心配していただけですから」


 警備隊のエリート達は、急に慌て始めた。セシルさんに人事権があるのかな?


 セシルさんは、タイガさんをチラ見した後、バックルさんの方を見て、こちらへと手招きした。



「バックル、ライトさんを殺せと言われたら、5分以内に殺せますか?」


「は? 不意打ちなら、可能性はあるかと」


「不意打ちを狙わなければ?」


「無理に決まってるでしょう? はぁ、ったく」


「じゃあ、ここにいる警備隊のひとりを、ということなら?」


「何言ってんの? 5人まとめて、1分もかからないよ」


「そう、だろうね」


「はぁ、疲れること聞かないでくださいよ」


「ははっ、悪いね。で、あなた達の話は、なんでしたっけ? 私が負けを認めたライトさんでは、役不足だと?」


「な、なんの冗談ですか? バックルさんのような異常な魔導士が…」


「そんなこと…」


 反論しようとした警備隊エリートに、バックルは、冷たい視線を向けて黙らせた。


「俺は、コイツを殺して、ワープワームの支配権を手に入れたいんだ。冗談を言う暇があれば、さっさと殺している」


「え……」


 バックルの言い放った冷徹なこの言葉で、警備隊エリート達は、シーンと静まり返った。


「やっと、静かになりましたね。さて、打ち合わせ通りに、隊編成しますからね」


 セシルさんは彼らを見渡し、反論がないのを確認すると、他の調査隊にも指示を出した。


 そして、セシルさん達に続いて、僕達も、迷宮の入り口へと向かった。


 ケトラ様が言っていたように、裂け目が、大地に広がっていた。かなり大きい。


「中に入ってすぐの所に大きな空間があります。そこでルート指示を出します。10分後に集合!」


「「ラジャー」」


(え? そんなとこで現地集合?)

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