103、イーシア湖 〜 奴らが実演をする
僕は、僕は、僕は!!
アトラ様に、いきなりプロポーズをしてしまったんだ。順番を間違えた気はする。でも、精霊イーシア様が復活したら、いいよって、彼女は言ってくれたんだ。
そして、生首達は、それを祝福するかのように、ピカピカ光って、まるでクリスマスのイルミネーションのように輝いたんだ。
アイツら、こんな芸もできるなんて知らなかった。とても優しい気持ちになれた、そんなとても綺麗なイルミネーションだったんだ。
しかし、アイツら、なぜずっとここに居るんだろう? いつもなら、ワープが終わるとすぐに消えるのに。
「ライト、水汲みに来たんじゃないのー?」
「あ! そうでした。それに時間があまりないんだった」
「ん? この後の予定が入ってるんだ」
「はい。明日の朝から、王宮の調査の補佐に行くことになってるんです」
「そっか。それで水汲みと、薬草も?」
「はい」
「よぉし、じゃあ、薬草摘み、手伝おうかな」
「えっ、そんな、大丈夫ですよ?」
「だって、一緒にやりたいんだもん」
(くぅ〜、かわいい!)
「うん、じゃあ、お願いします」
「うんうん、まかせてー」
僕が水汲みを始めると、アトラ様はその近くで薬草を摘んでくれた。あんな告白の後に、彼女と一緒に共同作業をするって……僕は少し、くすぐったい気分になった。
(いいなぁ、こういうのって)
そして、僕はひたすら水汲みを続け、アトラ様は、ときどきそんな僕の様子を見ながら、ぷちぷちと薬草を摘んでくれた。
水汲みをしながら、リュックくんの進化のこと、反抗期かもしれないこと、変なポーションばかり作ること、などなど、僕はいろいろな話をした。
アトラ様は、ケラケラ笑いながら、うんうんと、楽しそうに聞いてくれた。
しばらくすると、水汲みはもういいとリュックくんが言うので、僕も、アトラ様と一緒に薬草摘みを始めた。
「えーっ! リュックくんって、ライトと喋れるんだ」
「はい。だから、便利になったんですよ。必要な素材も教えてくれるから」
「へぇ、かしこいんだー」
摘んだ薬草をリュックに入れようとすると、完成品を出せと、リュックくんがうるさいので、中身を魔法袋に移すことにした。
アトラ様と、話しながら移していたから、数は正確には数えてなかった。
クリアポーションがほとんどで、200本くらいだろうか? あとは変身ポーションが20本ずつ出来ていた。
「かなり、ポーションの種類が増えたんだねー」
「はい、でもポーション屋としては、売りにくいものが多くて、困ります」
「ふふっ、また、次の進化はあるのかなー」
「たぶん。でも、次の進化はかなり先になるみたいです。第1進化は、早いって言ってましたから」
「そっかー。次の進化のときは、売りやすいものを作ってくれたらいいね」
「はい、ほんとに」
僕達が、せっせと薬草を摘んでいるまわりで、アイツらは、ふわふわ、ふらふら、へらへらとしていた。
いつもなら、カチンとくる光景なんだけど、不思議と腹が立たなかった。アトラ様と一緒にいるからかな?
「あの子達、おとなしいね。普通のワープワームと、全然違うよ」
「そうですか?」
「うん、普通なら、精霊のすみかを襲撃したり、火を吐き続けたりして、とにかく目を離すと大変なことになるの」
「へぇ」
「でも、ライトの子達は、精霊のすみか付近でも、チラチラ見てるだけで何もしない。弱ってる精霊を喰いたがる魔物は多いんだけど」
「んー、叱ったことがあるからだと思います」
「そうなの?」
「玉湯で、火を吐きまくってたから…」
「ふぅん。じゃあ、あの子達は、人には危害を加えないのね」
「たぶん…。僕が怒ることはしないと思います」
「そっかー。ん? そういえば、あの子達、来たときと少し変わったねー」
「ん?」
僕は、奴らを見てみた。ん? どこか変わったかな? あ! そういえば、あまりビクビクしていない? イーシアに慣れてきた?
「特に違いは、わからないですけど? この地に慣れたのかな?」
「うーん? そう? なんだか、知能が上がってない?」
「さぁ? あまりオドオドしなくなったとは思いますけど…。僕、奴らと話せないんですよ、念話出来ないから…」
「そっか、じゃあ、あたしが、話、聞こうか?」
「えっ? うーん、はい」
「ふふっ、やっぱりライトは、あたしがお世話してあげないとー」
「ん?」
「なんでもないよー、ふふっ」
なんだかよくわからないけど、アトラ様が楽しそうだから、ま、いっか。
もしかして、まだ僕はペット枠から脱出できていないんだろうか? などと少し気になりつつ、念話を始めたアトラ様の横で、僕は、薬草摘みを再開した。
ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……チラッ。
(ちゃんと話せてるのかな? アイツら)
ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……うーん。
(なんだか、長いよね)
ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……はぁ。
(ちょっと長すぎるんじゃないかな)
「きゃはははっ」
ん? 突然、アトラ様が声をあげて笑い出した。うん、かわいい! じゃなくて、何の話してんの?
僕のジト目に気づいた奴らが、少し慌て始めた。すると、アトラ様が僕の方を振り返って、いきなり、ヨシヨシ、なでなでをされた。
「な、なんですか? 突然」
「あははっ、だって〜、ライトかわいいんだもん」
「何の話を聞いたんですか?」
「ふふっ、内緒だよー」
「えー」
ま、まさか、僕がさっき、ペット枠かと気にしていたことを告げ口した?
近くをふらついていた生首を見た。すると、いつもなら焦るくせに、しらじらしく、ぷいっと知らんぷりをする。
何? どういうつもり? 僕がイラッとすると、奴は焦り始めた。
「ライト、いじめちゃダメだよー」
「コイツ、知らんぷりするから」
「ふふっ、ライトは怖くないよって教えたからね」
「えー」
「それに、この子達、もうライトが捨てないってわかって安心したみたい」
「捨てるとコイツらの一族が滅ぶって、女神様に言われたから、それで安心したんだ」
「ん? 違うよ? ライトに認められたって喜んでるよ?」
「え? 何も言ってな……あ! 僕の反省…」
「反省したの?」
「あ、えーと、まぁ…」
「そっかー。それで、この子達、進化したんだね」
「へ? 進化? 何も変わってないですよ?」
「さっき、進化したみたいだよ? たぶん光ってたやつ、あれがそうだよ」
「えっ? あれは、光る芸かと思ってました…」
「あははっ、そういう虫もいるけど、ワープワームは光らないよー」
「そ、そうなんですね」
「この子達ね、ライトが持つ能力をひとつ習得したみたいだよ」
「ん? 何をですか?」
「治癒魔法って言ってる」
「えっ? コイツら、火を吐くしか出来ないのに、治癒魔法?」
すると、奴らは、実演し始めた。
生首Aが、生首Bに火を吐いた。生首Bは火傷を負って地面にポテッと落ちた。そこに生首Cがやってきて、淡い光を吐いた。すると、生首Bの火傷が少し治り、ヨロヨロと浮かび上がった。
でも、完治はしていないようだった。
(火の魔物のくせに火傷するのか…)
「ダメじゃん、治ってないよ」
僕は、仕方なく、生首Bに回復!をかけた。
すると、回復した生首Bは、僕のまわりをクルクル飛び回り、うざいぐらいに、治ったアピールをしてくる。
「ふふっ、ライトに治してもらって、嬉しいみたいだよ」
「はぁ、少しうざいですよー。でも、治癒魔法っていっても、レベルは低いみたいですね」
「そうねー。でもワープワームが治癒魔法を使うなんて、聞いたことないよー」
「そっか、じゃあ、すごい進化なんだ」
「ふふっ、そうねー。一族は、数が多いから、何十体何百体で重ねがけすれば、使えるかもしれないよー」
「なるほど、確かに」
コイツらは弱いけど、数は多い。力を合わせれば、それなりの回復ができるかもしれない。
しかし、コイツら、なんでずっとここに居るんだろう。もしかして、アトラ様と二人きりにさせないつもり?
「え? あー、うん、わかったー」
「ん? どうしたんですか?」
「ふふっ。ライトがまた何か怒ってるから、なんとかしてほしいんだってー」
「えっ? なんか僕が、いつも怒ってるみたいな…」
「いつも機嫌が悪いって言ってるよー」
「それは、見た目があんな生首だし、キモイし、イラつくことばかりするし…」
「ん? キモイかな? 顔かわいいよ? ライトに似てるし、あたしは好きだなー」
「えっ……アトラ様、アイツらの顔、好き?」
「うん、ライトに擬態してるんでしょ? かわいいと思うよー」
「そ、そうなんですね……そっか」
僕は改めて奴らを見た。うーん……やっぱキモイんだけど…。でもアトラ様がかわいいと言うなら……うーん。
「ふふっ。あ、あの子達が、ずっとここに居るから怒ってるんだよね? ライト」
「えっ? あ、はい、なんか邪魔したいのかなーって」
「あはは、違うよ。湖を囲む草原には、結界を張ってるから、ここから出ると入れないんだよ」
「ん? そうなんですか?」
「そうなんです、ふふっ。だから、出るとライトを迎えに来れないからだよー、だよね? うん、そうだって言ってる」
「わっ、通訳してもらって、すみません」
「ふふっ、いえいえ。こういうの、いいね」
「ん? 」
「ライトと、ずっとおしゃべりしていたいよ」
「はい、僕も…」
「でも、そろそろ時間切れかな?」
アトラ様は、空を見上げていた。僕もその視線を追って空を見上げた。あー、青い太陽がもう沈みかけている。もうすぐ、赤い太陽が昇る…。
「そう、ですね。そろそろ行かないと…」
「うん」
そう言うと、彼女は、きゅっと抱きついてきた。僕は、彼女の背にそっと手を回した。
しばらくの間、僕達は、何も話さなかった。ただただ、じっとしていた。このまま、時間が止まればいいのに…。
(離れたくない…)
「ねぇ、この子達、何体か置いていってよ」
「僕も、そのつもりだったんですよ」
「そうなの?」
「コイツらが居れば、アトラ様は僕の様子を聞ける。そして僕もアトラ様の様子を見れるから」
「あたしの様子を?」
「はい、コイツらは、映像を送ることができるんですよ」
「あ! 偵察魔物だから」
「ん?」
「魔族は、偵察隊として、使ってるみたい」
「あ、権力争いばかりだから」
「うん、支配権の奪い合いも、ハンパないみたいだよ」
「僕が主人になってすぐ、魔族が地底から支配権を取り返しに来ましたし」
「えっ?」
「でも、知り合いと、僕の主君も居て、主人が僕だと確認しただけで帰っていったんです」
「ライトの主君? 女神様じゃなくて?」
「はい、まだ5歳の、悪魔族の主君です。魔族の国で、僕をかばってくれて」
「へぇ、かわいい主君なんだね。ふふっ」
「機会があれば、紹介しますね」
「うん、楽しみにしてるー」
僕は、奴らの方を見た。何体か残って、アトラ様を見守ってほしい、と思った。
すると、10体ほどがアトラ様のそばに寄っていった。
「そいつらを頼みます」
「うん、話し相手ができて、嬉しいよ」
「じゃあ、そろそろ行きますね。また、来ます」
「はーい。気をつけるんだよ」
「はい、アトラ様も〜」
僕の頭の中に、ロバタージュのギルド前の映像が浮かび、足元には、奴らが集まってきた。
そして僕は、ロバタージュに戻った。