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1、プロローグ

初めまして。よろしくお願いします。

「あーあ…。飲みすぎたなぁ、もうバス終わったよな」


  新しい職場での初めての忘年会。もう1軒行こう! の誘いを断りきれず、ついつい3軒目までお付き合いしてしまった。


 ん? 僕? 光田 翔太、27歳。数ヶ月前に念願が叶って、やっと転職したばかりのバーテン見習いなんだ。

 いずれ独立して、小さくても居心地の良いバーを経営したいという野望を、ひそかに抱いている。


 

(さて、タクシーを待つか、それとものんびり歩いて帰るか?)


 今夜は、お酒が入っていることもあって、寒くはない。タクシー乗り場の行列を横目でにらみつつ、僕はぼんやりと、キラキラ光る街のイルミネーションを眺めていた。


 クリスマス前の街は、歩道の柵にも下の方まで電球がたくさん巻き付けてある。足元までピカピカしていて、とてもキレイだった。


「あれ? なんかいる?」


  僕は ふと足もとに目を落とすと、ゴソゴソと動く生き物を見つけた。

 猫? にしてはちょっと変わっている。なんだろう? 僕の知る猫とはずいぶん雰囲気が違う。新種か?


 目が合うと、ヤツは前足でポスポスと猫パンチをしてくる…。なんだか僕に、助けてと言っているような気がした。

 

「なに? どしたの? 迷い子?」


  しゃがみこんで、頭を撫でようとしたら、スッとかわされた。


(す、すばやいっ! 忍者か)


 ヤツは その次の瞬間、少し先の道ばたに 一瞬で移動し、そしてこちらをジッと見ている。


「あれ? いま何? キミ、もしかしてワープしたの? いや、まさかね、僕、やっぱり酔ってるのかな? 幻覚が見える」


  目をゴシゴシこすってる間に、またさらに遠くに移動している。そして、まるでついて来いと言われているような……なんだかそんな気がした。


「あれ? また? ワープした? どこ行く気? ってか、ついて来いってこと?」


  そう聞いても当然、ヤツが答えるわけはなく、ただただジッと、僕の方を見ている。


「はぁ…。まぁ、いいよ。帰る方向そっちだし。タクシーは諦めて、酔い覚ましに付き合ってあげるよ」


  だが、しばらくついて行くと、突然ヤツが僕の視界から消えた。


「あれ? やっぱ、酔って、幻覚? でも……あっ…」



  突然の強い光に目を閉じると同時に、僕はグラリと強いめまいを感じた。


 あれ? 足の感覚がおかしい? 浮いてる? ハッと目を開けた……するとなぜか、足の下の方に星空が見えた。


「げっ? わっ! これは? も、もしかしたら、真っ逆さまに落ちてる? な、なに? なにーっ?」


  僕は焦ってジタバタと手足を動かすが、何も触れない、何も見えない。そして……景色が消えた。






「おーい! いつまで寝ておるのじゃー」


 のんきな女性の声が聞こえる。あたまが痛い。目がチカチカする。やはり二日酔いか、変な夢を見たな…。今日は休みだったよな。うん、二度寝しよう。


「夢じゃないのじゃ! おーい! 寝るなー! 起きるのじゃ! 時間がないのじゃ!」


(ん? どういうこと? あれ? ここどこだっけ?)


「ここは、妾の城じゃ。キミのことは、妾がここに呼んだのじゃ」


「なぜ? 突然?」


「キミに、重要極秘任務を頼みたいのじゃ。波長の合う者がなかなか見つからなくて、困っておったのじゃ。じゃが、やっとアイツの後任を見つけた! というわけじゃ。妾の落とし物を拾いに行ってくれぬか?」


「へ?」

 

(なんで、知らない女性の落とし物を拾いに行かなきゃならないわけ?)


「と言っても、キミはこの世界で生きていくには、いろいろな能力が……はっきり言って、とんでもなく低い。だから、妾の落とし物を探して拾ってくるために必要なアレコレは、ちゃんと用意するから安心するのじゃ」

 

「あの……僕、休みは今日だけだから、明日からは、また、仕事に行かないといけないのです。ごめんなさい」


「ん? あちらの世界のキミは、もう居ないのじゃ。だから、仕事へ行く必要はないのじゃ」


「へ?」


(もしかして僕は死んだってこと?)


  あ、どこかから落ちたんだっけ? いやでも、あの辺に落ちるとこなんて あったっけ? ないない、落ちるとしても側溝くらいだ、死ぬわけがない。



「キミには、『眼』と『器』と『能力』を与えるのじゃ。あとは、しょぼい基本魔法も使えるようにしておかねばならぬの。あ、それから、のたれ死にされては困るから、リュックも渡しておくのじゃ。うんうん、よい感じじゃ!」


  目の前の女性は、なんやかんや言いながら、僕にピカ〜っと強い光をあてた。


「ちょ、ちょっと待ってください! どういうことですか? 僕には、何が何だか…。とにかく無理ですから」


 眼って? 僕は視力そんなに悪くないし。

 器って何? 何かの容器?

 能力? 知能とか? かしこくなる?


 そもそも魔法だなんて存在しないし、それって剣と魔法のファンタジーな世界のやつじゃん。

 それにリュックがあると、のたれ死にしないの? なんで? あ、弁当が入ってる? やっぱ、いろいろと話がおかしい。



 いろいろツッコミつつ、グルグル考えていると、ちょっと落ち着いてきた。ふぅ〜っと深呼吸。


 僕はまわりを見てみた。何もない石造りの小さな部屋、なぜか扉も見当たらない。


 そして目の前の女性と目があった。


「うん? まだ受け入れられぬのか?」


「えっと……そんなの無理ですよ、わけがわからないですってば〜」



  さっきから強引に話を進めているこの女性は、少し可愛らしさが残る、優雅で華やかな、なんていうか 、良家のお嬢様のような気品のある雰囲気を持つ美人だ。

 目が合うと、思わず引き込まれてしまいそうな魅力的な目ヂカラがある。


 見た目は20代後半ってとこだろうか。淡いレモン色のシンプルなドレスがよく似合っている。

 だが、しかし、話し方が…。なんというか、顔に似合わないチグハグな印象を受けた。


(これは夢だよね? うん、きっとそうだ)


 僕が拒否しても、その女性は、気にすることなく話を進める。いや、拒否されているのを気づかないフリ……をしているようにも見える。



「まぁ、わからぬことがあれば、女神のうでわに触れるがよい。キミが慣れるまで、しばらくは、なるべくサポートしてやるつもりじゃ。ただ、妾は忙しいのじゃ。あまり甘えるでないぞ、よいな?」


「あの……女神のうでわって何ですか?」


「あー、いまは見えぬじゃろ。いまのキミは霊体だからな。とにかくじゃ、質問は身体を得てからにするのじゃ」


(へ? 霊体って、僕は幽霊ってこと? 身体あるけど?)

 

 そう言われてみると、僕の身体はなんだか、壊れたテレビのようにザザザと揺らいで見える。寝起きで目がおかしいだけかもしれないけど…。




「えっと、あの、ところで、あなたはどちら様ですか?」


「なっ! 妾としたことが、名乗っておらぬかったか?」


「えっと、た、たぶん…」


「そ、そうか! ……こほん。聞いて、驚け! 妾は、この星を守護しておる女神イロハカルティアじゃ!」


「え? いろはカルタ?」


「ちがーう! イロハカルティアじゃ! いろはちゃん、と呼ばせてやってもよいぞ。ただし、きちんと妾の落とし物を拾って来れたらな」


「は、はぁ。いろは…ちゃん……ですか…」


「ちがーう! 妾の落とし物を拾って来るまでは、イロハカルティア様じゃ!」


「はっ、はい! すみません。イロハカルティア様」


(こわっ! いやいや、なんで夢の中でまで叱られてるんだよ僕は…)



「うむ。そろそろ時間じゃ。これは夢ではないぞ、キミの現実じゃ。まぁ、それなりに、よろしく頼むぞ」


 と、強引に締めくくり、いろはちゃん……もとい、イロハカルティア様が、僕に手をかざした。



 ふんわりとした白い霧のような優しい光に包まれ……そして、僕は意識を手放した。



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