第弐回廊 独鳴曲
清々しい朝を迎えたが、颯人は憂鬱だった。
頭の中は混乱していて、考えることが出来ない。実家から持ってきた壁時計を見る。そろそろ皆が食堂に集まる時間だった。壁にかけてある制服に袖を通し、食堂に向う。
奇妙なことに通り道は知り合いは一人もでくわさなかった。いつもなら嫌でも会ってしまうのに。
「おはよう諸君」
朝の食堂での挨拶は凌のうざったい一言から始まった。
「おっす」
「うむ、おはよ」
「・・・おはよ」
「ちゃー!!」
「おはよう」
昨日座った席に着く。
隣の席を見るが、そこに向井氏たちつまり四天王の姿はなかった。当たり前だ。昨日のうちに四天王を抜け、普通の学生生活を送ると態度で示されたのだから。四天王を作り、そして解散させた張本人である凌は爽やかに何事もなかったように輝いていた。
昔からそうだった。人を巻き込むのに急に突き放し、何事もなかったように接する。それが颯人にとって理解しがたいことだった。更に、巻き込まれた人間は決して凌を責めたりはしない。颯人の一番の謎だった。
「さて、それでは今日からの活動の内容を発表する。・・・ジャラララララララララララ、ララン!!」
「・・・メンバー集め」
「俺の台詞がああああぁぁぁぁぁぁははぁん!!」
「今日一日で見つかるとは思えないが・・・・」
「やれるだけやってみようか!!」
「ところでよ。アレどうする?」
琉杜が暴れている凌を指す。
「無視」
「うむ」
「応っ!」
「・・・うん」
「OK!!」
5人揃って食堂を出ようとする。それに気がついた凌は走り、颯人の肩を掴み、叫ぶ。
「無視するな!少しはつっこめよ!!悲しくなるだろ!!!いつからそうなった颯人ぉぉぉぉぉぉ!!」
「五月蠅い。黙れ。ウザイ。消えてくれ」
「・・・・・。うおおおおぉぉぉおぉぉぉ!!!!」
嘆き叫びながらかけて行く凌。
「颯人ってよぉ。時たま残酷だよな」
凌の姿が見えなくなるまで見つめていた。
凌を追う為に歩く。一方凌は曲り角に隠れ、驚かそうと狙っていて、計画通りに実行したのはよいのだが、それに驚いた魅菜から瀕死の一撃を食らった。
渡り廊下を渡る途中に丘の桜が見えた。
(あの桜、何処からでも見えるのか)
どうでもいいことをふと思う。
自分たちの教室に入り、クラスメイトに挨拶をし、颯人の席に座る。集まってきたのは弘太と琉杜。むさ苦しい男だけのメンバーになった。紅葉と魅菜は女子の集団に混ざっている。積極的に混ざる魅菜だが、困惑し、結局颯人たちのもとへ駆けた。それを見た紅葉は詫をいれ、魅菜を追った。
「こっち来たぜ」
「駄目だったか」
「先が思いやられるな」
魅菜が涙めで駆け寄る。
「やっぱり無理ぃ〜」
「・・・魅菜ちゃん」
「ハァ」
呆れて溜息しかでてこない颯人であった。
さて、今考えなくてはいけないことがある。メンバー集めだ。10人以上となっているので最低でも4人は必要になる。入学したばかりの彼らにはかなり厳しいものになる。まだコミュニケーションもとれないクラスメイトたちを誘うのは困難だろう。
「メンバー集めって言ってもよ、どうすりゃいいんだ?」
「確かにそうでござるな。皆どれくらいの成績かもわからぬと言うのに」
手をこまねく状態の時だった。急に話しかけられた。
「お宅ら何考えてんねん?」
関西弁だった。そこにいたのはニット帽をかぶり、薄手の黒マフラーを巻いている。制服と合わせると妙にあう。
「暑くねぇのか?」
「もう慣れたわ。今はこのスタイルはワイのデフォルトや」
「暑い、は、慣れなのか?」
「人それぞれだろうな」
「それはおいといてな。で、さっきの質問の答はなんや?」
「人に質問する前に自分の名を話すのが条理ではないのか?」
「ワイの名って・・・・自己紹介聞いてあられんかったんか?」
「すまぬ。颯人は自分の興味のあることに関係することしか聞かぬのだ」
「・・・・・なるほどな。そらおもろいわ。ワイの名前は荒谷葉磨謙三郎や。ワイを知っとる奴はヨウって呼ぶやつが多い。以上や。神童の布石颯人はん。もう一回聞くわ。で、さっきの質問の答は?」
「さっきの?・・・・・ああ、はいはいさっきの質問の答か。・・・・いや、単純なことだよ。人が必要なだけさ」
普段ならありえないくらいの単略した颯人の答。それは何かの表れなのだろうか。
「ほ〜。なんやわからへんけど、人がいるんやろ?そんならワイはどうや?」
親指を立てて、自己をたてる。とても自信があるようだった。
「いいじゃないか。よかった・・・・・・」
弘太が握手をしようとしたとき下方の方から冷たい声が聞こえた。
「素姓も分からん奴を仲間にするだと?」
皆が皆颯人に対して驚愕した。今まで颯人がこのような態度をとったことがあるだろうか。否、今までを見返してもこのような反応は初めてだった。
「「「・・・・・」」」
「な、なんやいきなり嫌われた?・・・・・・・まぁええわ。気持ちは分からんでもあらへんからな。その気になったら誘ってや」
片手を上げ、去る荒谷。それを見ていた魅菜は颯人を睨む。
「もう!なんでそうも嫌悪するの!!分かってるはずでしょ!」
む〜、と唸る魅菜。
颯人は半目で魅菜を見つめ、外を見る。青空が世界を覆い、太陽が照らす。太陽が照らせば日向と日陰ができる。 そんな歪な世界に颯人は丁度真中にいる。場合によって光にもなり闇にもなる。天の邪鬼。颯人の性格の一部である。颯人はイノセントチルドレンの中で一番扱いにくい人物なのだ。
「分かってるさ。・・・・分かってる」
「?」
興味はあった。学校にニット帽などかぶってくる奴はそういない。だから初日に調べた。人から人を聞いて歩き回って獲た情報は一つだけ。
孤独。
奴と同じ学校の人間は皆無。勿論この学園に友達と呼べる人間はいない。何故かは知らない。だけど一人だった。昼休みになると何処かに行ってしまう。今日は追ってみたくなった。琉杜たちの誘いを断り、荒谷を探した。荒谷を見つけることは簡単に出来た。荒谷のような奴の行く所など予測出来る。立ち入り禁止にはなってはいないものの、誰とてこない屋上に荒谷はいた。荒谷はフェンスに指をかけ、西の方角を見つめている。
「なんでこんなところにいるんだ?」
「・・・・颯人はんか」
こちらを見たがまたもとに戻った。荒谷の隣に立ち、同じ方角を見つめる。後に荒谷が話しだした。
「この方向にワイの故郷がある」
「知ってるよ。・・・・・恋しいのか?」
「逆や。あんな土地もう立ちとうない。・・・・・あの土地には辛さと憎しみしかないさかい」
「・・・・・」
「ワイも・・・昔は好きやった。あんなことさえあらへんかったら」
「何があったんだ?」
「裏切りや」
それは冷たく、憎悪のこもった一言だった。
「この格好は裏切った友達の格好なんや。せやさかいワイは同じ格好になることで見せしめにしたんや」
「それならここにきて見せしめる対象はいなくなったはず。それでもしているのは未だに後悔しているからじゃないのか?」
「・・・・かもしれへんな。せやけどワイはもう友達を信じられんかもしれへんな。ワイ・・友達いいひんのに」
こうして見ると判る。こいつも自分と同じなのかもしれない。何かを抱え、殻に籠ったままで救いの手を待っている。あの頃の自分と同じように。なら今度は自分が助けてみようと思った。
「なら、オレらの仲間に入れ」
「は?」
「オレたちは裏切らない。オレらが教えてやる本当の仲間ってやつを」
「・・・・なんなんや?さっきはえらい嫌悪しよっとったんに急に心がわりしよって」
「変に・・・・あんたが俺に似てるから」
風が吹き、髪を撫で、頬を冷やす。少し俯く荒谷。
黒のマフラーでその表情は詠みとれない。
「まぁええわ。・・・そんなに言うんやったら・・・友達になったる」
捻くれた上から目線の言い方だがその声には震えと潤いがあった。面を上げた時荒谷の表情は笑顔だった。
「よろしゅう!颯人はん!!」
やる必要などなかったが、颯人と荒谷は握手を交わした。
放課後に颯人は皆を教室に集めた。颯人の隣にいる人物に皆は目を丸くした。
「皆に紹介したい人物がいる。荒谷葉磨謙三郎だ」
「みんなよろしゅう」
「兄さんどうゆうこと?」
「・・・あんなに嫌がっていたのに」
「まぁいいじゃないか」
ちょっとした動揺を抑えたのは凌だった。こんな時凌がいるととても頼りになる。凌は優柔不断だが統率力がとても高いので、みんな凌に付いていった。皆から頼りにされ、引っ張っていくリーダータイプ。それが湊凌という人物だった。
「メンバーが増えたんだ。これは喜ぶことだぞ?皆も颯人を見習うように」
「今回コイツは何もしてねーだろうがよ!!」
「そう、だよね」
魅菜が珍しく琉杜に反発することなく、逆に賛成していた。
「まぁ、メンバーが少しでも集まったんだからな。文句なしだ。さて、明日からの活動はメンバー集めだけでなく、他の活動もやろうと思う」
「すんません。ワイ、明日は無理や」
「・・・どうして?」
「写真部の活動日なんや。せやから勧誘は厳しいと思うわ」
「なら写真部のやつでも勧誘したらいい」
「いや、写真部はワイ一人や」
「なに!?」
そのことを聞いて過剰に反応する。そして次に出る行動を悟った。
「よし。イノセントチルドレン全員入部だ!!!」
(((((やっぱり)))))
颯人は溜息をつき、外を見る。
雨雲どころか雲一つない晴天の空。外で活動をしている部活動にとって過ごしやすい気候だ。心地良い春風が木々を揺らし、葉の歌が心を癒す。鳥たちも声を合わせて囀る。殺風景ではあるが、それがまたよい。殺風景はつまらないが純粋に見たいものが見える。時間を忘れそうな麗らか日常。今は無関心だったあのころはもう忘れてみよう。そんな前向きな気持ちが心の底から沸いてきた。だが、その前に言わないと分からないであろう阿呆と天才の入り交じった秀才を治していこう。
「いいか凌。部活に入るときは時間に縛られることになる。それでお前の計画も丸潰れになる可能性が高い。それを承知の上で行っているのか?」
「問題ない。写真部は週一の活動だ。それに写真部は色々と利点が聞く」
「利点?写真とるだけだから何もないんじゃないの?」
「いや、写真部は唯一の行動無制限の活動が出来る部なんだ」
燕学園には生徒立ち入り禁止の部屋や場所がある。そこに立ち入り許可となっているのは生徒会と写真部なのだ。だからと言って写真部に入る生徒は少ない。制限があることはなにかがあるに違いない。そう思う生徒が多いからだ。だから葉磨謙三郎のような生徒は珍しがられる。
「さらにそれを利用して報道部は写真部に写真を依頼することも少なくない。写真部は写真を撮りそれを報道部に渡し、料金として報道部しか知らない情報を獲ることが出来る。唯それを知っている生徒が極めて少ないために写真部はただ写真をとる部活と勘違いされるケースが多い。写真部の真相を知っているのは生徒会と四天王と一部の二年だろうな。」
「ただ入った部活がそないな危ない部活とは思いもせえへんかったわ」
目を丸くする葉磨謙三郎。
しかし無駄に長い名前である。作者である自分でさえ何故こんな長い名前なのかと首を捻りたくなる。今更後悔。それは置いといて話を戻そう。
弘太は葉磨謙三郎の肩に手を置いた。
「普通は皆思わない。貴殿は正しい」
「あれ?結局なんなんだ?」
琉杜は首を捻っていた。異常なほどに琉杜の理解能力は低かった。そこで颯人は琉杜に助言した。
「お前はお得意の型でもしていろ」
「いや、そういう訳にもいかねぇだろ?」
「琉杜が真面目なこと言ってる」
「まさかのまさか、だな」
「・・・入部ってどうするの?」
全てを無視して紅葉が葉磨謙三郎に話しかけていた。紅葉が積極的になるのも珍しかった。紅葉は皆の意見を否定せずに皆の後につんだって行き過ぎると判断した時には止める。だから積極的な紅葉は新鮮さがあった。
「先生に言って入部届けを貰ってそれを記入して出せばええ」
そういうことなので早速職員室に向かう。
担任に話しをつけ、入部届けを貰う。担任はそれに驚いていたが、笑って了承してくれた。入部届けは簡単なものだった。記入するのは学年、クラス、名前、入部理由だった。皆はまともな理由を苦悩しながら書いていたが颯人は一言だった。
それは・・・『勧誘』だった。
ちなみに魅菜はまともな理由を考えろと颯人の土手っ腹に拳を入れようとしていたが、それになれた颯人はすぐさま琉杜を盾にした。琉杜の鳩尾近くを打ったので蹲る。琉杜は颯人に対して叫ぶが何処からか用意した耳栓を使っていた。それを見ていた凌は弘太の入部届けに落書きしていた。物凄く上手いのだが落書きは落書き。激怒して凌を追い回す弘太。苦笑いしながら見守る紅葉。そして初めて人見知りしないで話をしている魅菜と葉磨謙三郎。
何故か。それは誰にも分からない。颯人たちと何か似ているのかも知れない。だがそんなのはどうでもいい。あの魅菜がここまで自分たちと同じくらい接する人物が出来たならそれは喜ぶところだろう。
そうやってほんの一時の楽しい時間は過ぎ去り、また楽しい時間がくることを楽しみにする。それが人生なのかもしれない。自分はまだ人生の1/5ぐらいしか生きていない。だからここは゛かも゛としておこう。
無事に写真部の入部を認められ明日に活動開始となる訳だが、その前に部長を決めなくてはならない。だがそれはすぐに決まった。何故ならば燕学園には部活動をするものとして決まった規則がある。それは“部長はその部の最上級生でかつ責任感、統率力の優れた者を任命するべし”だ。その規則は学生書に書いてあるので知らないとは言えない。そうなると必然に最上級生の凌となる。部長が決まり、凌が騒ぎだしたところでチャイムがなる。騒いでいる凌をほったらかしにして颯人は皆を引き連れて寮に戻る。
こうなると颯人の方が部長にむいていることは言うまでもない。
寮に戻り颯人は宿題に手をつけている。何故かは知らないが颯人の後ろの卓袱台にも同じ教科書が2つある。
琉杜と弘太のものだ。宿題が出る度に二人は颯人の部屋に訪問し、宿題を3人でやる。颯人はいとも簡単に弘太はゆっくりだが着々と琉杜は数分で潰れ颯人に答えとやり方を聞きながら宿題をこなす。琉杜が潰れると先に答えを聞き、その後にやり方を聞く。勿論颯人がそれを許す訳もなく、自分でやれと一点張りに主張する。極めて難しくない限り颯人の終了する時間は短く、終わると卓袱台に座り2人に教えるのだ。颯人にとってそれは日課でもあり暇つぶし。だが、この2人と宿題をすることは楽しかった。
「颯人少しいいか?」
「なんだ?」
「ここがどうしても貴殿と答えが合わんのだ」
ノートの一角を指す。
「ここはここの答えの3を代入する。そうすると必然に面積が出る」
「なるほど」
「なぁ颯人よぉ」
「なんだ?何がわからない?」
「全部」
「論外」
そうして行くうちに6時。寮にいる生徒が食堂に入っていく。廊下が騒がしくなる。
「俺たちも行くか」
歩いていく。他の生徒と共に。
3人は食堂の前に立つ。目の前に広がるのは人込み。その中を掻き分けて進み、急に視界がよくなる。その中央部には幾つかの席が空いたテーブル。そこにいたのは大和撫子な紅葉とサイドポニーにした魅菜と相変わらずニット帽をかぶっている葉磨謙三郎がいた。
「凌は?」
「・・・あっち」
紅葉が指す方向を向く。そこには食堂戦争に加わっている凌の姿があった。
「何があったのだ?」
「ジャンケンや。ジャンケン」
「なんだよそれ」
「凌がね、ジャンケンで負けたやつが皆の夕食を取りに行こうって」
「それでまんまとやられたわけか」
「しまったぜ。俺たちももう少し早く来ればアイツに持って来させたのに」
ちょっと悔しがっている琉杜。実は颯人も少しそう思ったので提案した。
「俺たちもやるか」
「おう!」
「うむ」
「遅出しは負けだ。いくぞ!ジャン、ケン・・・」
「「「ポン!!!」」」
負けたのは琉杜で彼もまた凌と共に食堂戦争の真っ只中にいた。
そもそも颯人が負ける訳がない。なぜならば彼はジャンケンにおいては全戦全勝で無敗の王者と謳われていた。つまり颯人はわざと負けることも可能なのだ。ただこんなことで負けるのは癪なので負けないのだ。
「兄さん少しでもいいから負けたら?」
「いつかな」
「「「・・・・・」」」
少しばかり呆れる一同であった。
しばらくすると2人が帰ってきた。流石に全部持ってくるのは不可能なので何往復はしたのだが。だが本当の戦争はとってくることではなく、この食べる時間だ。なぜならメンバーが集まり、全員で摘めるおかずを食堂のおばちゃんが用意してくれたのだ。更にそこに葉磨謙三郎が入ってより一層に戦争と化していた。
「おい琉杜!それは拙者のだ!!!」
「んだと!テメェ!!!」
「ならオレが貰おう」
「なら私も」
「「横取りするな!!そこの兄妹!!!!」」
「よしよし。いい子だな。そんな二人にはレタス大盛りだ」
「「いるか!!凌!!」」
その光景を見て葉磨謙三郎は惚けていた。
「 ・・・どうしたの?」
「いや、食事がこないに楽しいなんて思いもせえへんかったから。・・・・・こないな気持ちにさせるなんてお宅らほんまに不思議やわ」
一同は箸を止め、笑い出した。
「俺たちで不思議なら世界は不思議だらけじゃないか」
不意に葉磨謙三郎の肩に何かが触れた。見るとそれは颯人の手だった。
「いいじゃないかそれで。なっ、葉」
「颯人、はん・・・・せやな」
そうやって賑やかな夕食が終わった。そして、ここは颯人の部屋。一人部屋なので6人入ると狭い。なので、魅菜と紅葉はベットの上でベットに対して垂直で寝転がり、颯人たちと話している。
「なぁ、一つ思ったことを言っていいか?」
「なんだ?」
静まり返る。
「イノセントチルドレンを作ったわけだが、女子の数が少ないような気がする。イノセントチルドレンには魅菜や紅葉がいるが、それだけでは2人が可哀想だと思わないか?」
「かもしへんな」
「私は大丈夫だよ。みんながいるし」
「・・・私も」
「いや、せっかく高校に来たのによく話せるのが俺たちだけではいけない。女子だけで話したい時もあるだろう?だから、な」
「兄さん・・・・に、兄さんがそう言うなら」
「・・・うん」
「なんや?いきなり変わりよった」
「はは。分かりやすいな二人とも」
「凌。ちょっといい?」
「なんだ?」
魅菜と紅葉は凌を廊下に連れ出した。
「うぎぁぁぁああぁぁぁ!!」
凌の悲鳴が寮中に響いた。
「凌先輩いつもあないな感じなんか?」
「まぁな。いつもは琉杜なんだがな」
「・・・はあ」
しばらくすると魅菜と紅葉が戻ってきた。凌の姿はない。
「凌は?」
「自分の部屋で寝て来るって」
笑顔で返された。おそらく2人は凌をボコボコにして何処かに棄てられたのだろうと颯人は確信した。
魅菜と紅葉はベットの上に座りこんだとき廊下から足音が聞こえる。足音は颯人の部屋の前で止った。前に一度こんなこともあったなと思う颯人。扉が少しずつゆっくりと開いていく。扉の向こうには顔を腫れ上げた凌がいた。
「お主また随分とやられたな」
「・・・・手加減なしだ・・・・」
「よく。生きて来られたな。琉杜なら死んでたな」
「なんでだよ!!!」
「顔面、よわいから」
「顔はきたえられねぇだろ!!!」
くどくどと愚痴をこぼす琉杜だが、颯人はお得意の耳栓で完璧シャットアウトしていた。仕方なくその愚痴をいつも酷い目に合わされている魅菜に言ってやろうとしたが、魅菜も同じ耳栓をしていた。見ると魅菜だけでなく琉杜以外、みんな同じものをしていた。
「ん?終わったか?」
「なんでみんな同じ耳栓してるんだよ!!」
「颯人からの支給品だ」
「颯人よぉ。お前酷くないか?」
「いや、そんなことはないさ。お前はお前でいてくれるだけでいい」
その一言で部屋は静寂に包まれる。そんな中凌の一本締めが部屋に轟いた。
「さっ、もう遅いし今日はお開きだ。明日から活動にはいらないといけないからな。今夜はゆっくり睡眠をとってくれ」
「おう・・・・ってもう9時30じゃねぇか!」
「それはいかん!急がねば!寮母に見つかると面倒なことになりかねぬ!!!」
「急ごう!紅葉ちゃん!!」
「・・・うん」
弘太、琉杜、魅菜、紅葉の4人は駆けて部屋を出ていった。
部屋に残っているのは3人。葉と凌はゆっくりしている。
外出禁止時間は10時でそれ以降寮内をうろつけば翌日寮内清掃の餌食になる。見つかっていけない対象として寮長と警備員。一番見つかっていけないのは寮母だ。見つかれば即食堂やら風呂やらの掃除が待っている。しかも寮母は何処からでも現われるという神出鬼没な存在となっており、学生の間では隠密の女王として男女寮に君臨していると噂が絶たない。
「2人ともゆっくりしてていいのか?」
「ワイの部屋は2つ隣りや。すぐに着くからうろたえる必要なしや」
「いや、この時間はみな移動してるからすぐには着かんぞ?」
「まじかいな!そら急がないかん!!」
「凌は?」
「俺はこの上だ。心配ない」
そう言って携帯らしきものを、取り出しボタンを押す。するとベランダの上部から縄梯子が降りて来た。
「ちょっとした細工さ」
そのままベランダから自分の部屋に戻って行った。
「んないな仕掛けありかいな!」
そのまま走り去って行った。廊下から葉の叫び声が聞こえる。
「おらぁ!ワレぇ!!どきや!!」
溜息を吐きつつ開けっ放しの扉を閉めた。外は月光が辺りを照らしていた。
「予習、するか」
結局颯人が寝たのは就寝時間ギリギリの11時だった