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東雲大和のものがたり  作者: 佐藤 一
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第八話 初めてのものがたり

「ハッピーバースデー!! 雪ちゃん!!」

 真実を雪ちゃんに教えた数日後。無事にこの日を迎えることができた。

 場所は、京ちゃんの部屋だ。

「えぇ? 今日はテストの勉強会だったんじゃ??」

 入口にて、突然のサプライズに目を見開いて固まる雪ちゃん。

 確かに、二日後にはテストを控えている。もちろん勉強はしていない。

「ふっふっふ。これぞサプライズ!! 雪ちゃん、驚いた?!」

「・・・・これ、私のために・・?」

「そうだよ! 京ちゃん一人暮らしだから、自由に出来るんだ!」

 おそらく、色とりどり、豪華な装飾などが目に入ったのだろう。

 大いに戸惑ってくれている。

「ささ、入って入って!」

 雪ちゃんの腕を引いて部屋に入っていく。

 部屋の中には、エプロン姿で料理を運んでいる京がいる。

「・・・・お邪魔します」

「・・・・おう。適当に座れよ」

 どこかぎこちないやりとりを交わす二人。

 とても、楽しい会の雰囲気には見えない。

「京ちゃんの部屋って、いつ来ても何にもないよね~」

「おい、なんで突然ケンカを売ってきた」

 京ちゃんの家の間取りは、1Kの平凡なものだ。

 必要最低限の生活用品と、テレビが床に直に置かれているだけで、娯楽品も、所々に巻数がそろっていないマンガが落ちているだけ。

「ほんとに、女の子感0ですね」

 ぐるっと、飾り付けで誤魔化された部屋を見回した雪ちゃんも、バッサリとこの部屋を切り捨てる。

「いや、お前らにだけは言われたくねえ!!」

 それに負けじと京ちゃんも私達を非難する。

「む、それは心外ですね」

「どの口がそんなこと言うんだ・・・・普通の女の子は日本刀や長刀を自室に飾らないんだよ!!」

「確かに。雪ちゃんの部屋って、部屋と言うよりかは歴史博物館って感じだよね」

 西暦時代に書かれた書物でギッシリ埋った本棚や三叉槍が収められたショーケースが思い浮かぶ。

「やまとちゃん、それは言いすぎじゃない??」

「いや、あの部屋はそれがピッタリだ」

 かぶりを振る雪ちゃんに追い打ちをかける。

「ふ、二人して!! だとしたらやまとちゃんの部屋が一番おかしいでしょ?!」

「そ、そんなこと無いよ!!」

 追い詰められた雪ちゃんが反撃にでてきた?!

 でも、普通の女の子代表の私に限って・・・・

「ねえ京ちゃん。なんで目をそらすのさ?!」

「いや・・・・まあ、個性があって、良い感じだと、俺は思うぜ・・・・?」

 ものすっごく目が泳いでいる。

 あ・・・・れ? そんなに私の部屋、酷いかな??

 ちょっとオタクなだけなんだよ? ほんとだよ?

「そんなことより。京、ごめんなさい!!」

「そんなことよりって・・・・」

 ここで突然雪ちゃんが、凄い勢いで頭を下げる。

「すごく大変なんだって事、全く知らなくて、あなたを責めてしまった。本当に、ごめんなさい!!」

 潔く、自分が悪かったという雪ちゃん。

 悪くなんか無いんだ。だって、こんな世界の真実、予想出来る訳が無い。

 私ですら、未だに実感がないんだから。

 でも、そんな事ですら自らの非だと言って謝罪する。

 皆が雪ちゃんについて行く理由が良くわかる。

「ほんとだよ。こっちは、大変なんだぜ?」

 まさか、雪ちゃんにそんなことを言われると思っていなかったのか、照れて赤くなった顔を必死に隠しながら、皮肉を言う。

 組織と、親友とのジレンマの中で、私と雪ちゃんを守ろうとしてくれた不器用な彼女もまた、強い女の子なんだ。

 私なんかより、ずっと。

「ごめん、なんていらねえよ。互いに、大事なモノを守ろうとした結果だろ?」

 照れくさそうに語る。

「京ちゃん、格好いいよ~」

 私は思わず、その横顔に見ほれてしまった。

「ばっかにしてんのか?!」

 照れ隠しだろう。京ちゃんが私の顔を優しくはたく。

 雪ちゃんは・・・・

「うん。そう、ですよね・・・・」

 自分に言い聞かせるように、何度も、何度も頷いていた。

「さあ! 今日はパーチーだよ?! しんみりしないで、騒げ騒げ!!」

 オレンジジュースがたっぷり入ったグラスを持って、乾杯の音頭をとる。

「雪ちゃん、誕生日おめでとう!! ハッピーバースデー!!」

「お、おめでとう、雪」

 ちゃんと目を見て言わないとだよ、京ちゃん? 何を照れているんだか・・・・

「あ、ありが・・・・とう」

 もじもじと、顔の前で指をいじりながらか細い声でお礼を言う。

 こっちもか!! 

 雪ちゃんなんて、立派な誕生日会とか家でしてもらってそうなのに。

 そんな事を思っていると、何を考えているのか察した雪ちゃんが、少し寂しそうに口を開く。

「こういった誕生日会は・・・・六歳までの誕生日は、それはそれは豪勢で、両親や家の関係者も、ほぼ全員で祝ってくれていたんです」

「へ、へえ~雪ちゃんの家の関係者って言ったら相当だよね・・・・」

 想像して、圧倒されてしまう。

 乃木家関係者っていったら、『新』の構成員のほとんどだ。

 乃木を筆頭とした名家を中心に作られた『新』

 いわば乃木は『新』の中枢なのだから、それも当然と言えば当然・・・・??

「・・・・」

 京ちゃんが難しい顔で雪ちゃんを見つめている。

 前に聞いたことがあった。京ちゃんの家は、色々複雑みたいだから・・・・

「でも、七歳からは、父も、皆さんも急に祝ってくれなくなって。それ以来、母と二人で、小さなケーキを買って食べるのが慣例になったんです」

「どうして七歳から??」

「分かりません。まあ、何かと独自の慣例が多い家ですからね。私も幼心に泣く泣く割り切ったもんです」

 あっけらかんと笑顔で言っているけど、本当は、すっごく悲しかったんだと思う。

「よ~し! じゃあ、これまでの分、たくさんたくさん祝ってあげる!!」

「今までの分って・・・・でも、ありがとう」

「朝まで騒ぐぞ~!!」

「いや、それは勘弁してくれ。隣の人、怒ると怖いんだからな」

 ちょっと調子に乗りすぎたみたい。

 マジな目の京ちゃんに忠告される。

「ご、ごめん。冗談だよ・・・・あっ! ケーキ出さなきゃね!!」

 危ない危ない。忘れるところだった。

「京ちゃん、冷蔵庫どこだっけ?」

「どこだっけ、も何も場所知らねえだろ。ちょっと待ってろ」

 そういって立ち上がった京ちゃんは、ワンルームを出て、玄関の方に向かう。

 その途中、小さなキッチンの横に置いてある冷蔵庫から、白い箱を取り出し、大事そうに抱えて持ってきた。

「そういえば、ケーキ手配したの京ちゃんだよね? どんなのにしたの?」

 白い箱を机に置いた京ちゃんは、私の質問を無視して、かわりに見よ! っとばかりに蓋を勢い良く開ける。

 三層にもなるケーキは、一番下が純白で濃厚なホイップクリームで、二層目が濃いブラウンのチョコレート。一番上にはオレンジやイチゴ、メロンにブドウといったフルーツが色彩見事に置かれている。

「わあ~すごいね!!」

「こんなケーキ、みたことありません」

 驚く私達を見て、京ちゃんは誇らしげに胸を張ると、

「そりゃそうさ。手作りだかんね」

 え・・・・?? 何かの、聞き間違い、かな??

「衝撃の発言・・・・??」

 雪ちゃんと目を見合わせて、思わず絶句してしまう。

「おいこら。なにが、衝撃だ?」

 さっきまでとは一転、恥ずかしそうに、

「い、いいだろ? ケーキ作りは、唯一の趣味なんだよ・・・・」

「可愛い顔の女の子が、可愛いこと言ってるよ」

「可愛い言うな!! ・・・・どうせ、笑うんだろ?」

 どこに笑う要素があるんだろうか?

 先とは違う意味で困惑してしまい、雪ちゃんと再度顔を見合わせる。

 すると京がじれったそうに、

「俺、とかなんだ男っぽいことばっか言ってるクセして、実はケーキ作りが趣味です! なんてダセーだろ? 笑えるだろ?」

「いや、全然?」

 なにが面白いのか、ダサいのか、全くもって分からない。

「そのルックスで、家事まで万能なんて・・・・憎い女ですね」

 隣のお嬢様はちょっと目線がおかしいけど・・・・

「ほんとに、何がダサいのかわっかんない。京ちゃんらしくて素敵としか思わないよ」

 そう言うと京ちゃんは、袖で顔を覆って、うつむいてしまう。

「あっ! ああもう。なんで泣いてるんさ?」

「うっ、うるさい! 泣いてない! うう・・・・」

「もう、今日の二人、ほんとに面倒くさい」

「え?! 私もですか?!!」

「うん。どうして?! とかいう反応はやめてね?」

「それは、あまりにもじゃないですか・・・・?」

 なんだって楽しい会なのに二人とも泣いちゃうのかな?

 まあ——二人のいろんな表情が見られて、嬉しいけどさ。

「ほら、京ちゃん、雪ちゃん! ケーキ溶けちゃうよ! 写真撮んなきゃ!!」

 ケータイを壁に掛けて、セルフタイマーを十秒にセットし、

「ほらほら!」

 二人の手を取り、ケーキの前に座る。

「あ、待って・・涙が」

「お、お化粧が・・・・」

「もう時間無いよ!! 3・2・1」

 パシャっという音がして、一瞬の静寂が訪れる。

 そっとケータイを持ち上げて写真を確認する。

「うん。良い写真だね」

 私の右隣には雪ちゃんが、左には京ちゃんがいる。

 二人とも、笑っているけど、目には滴が残り、頬は薄桜色をしていた。

「ちょ、大和! やっぱり消せ、消せよ!」

「やまとちゃん、消して!!」

「絶対、いやだよ~」

 こんなかわいい写真、消せるわけがない!!


 その後は、ケーキを食べて。

「京、作りすぎなんじゃない? 食べきれないわよ」

「ああ? 文句あるなら食わなくて良いぞ」

「まあまあ」

 たわいも無い話をして。

「あ、もうこんな時間だ! そろそろ帰らなきゃね」

 気づけば時計の針は、9と10の間を指していた。

「ああ。また明日。学校でな」

「うん。京ちゃん、また明日ね!」

「・・・・ありがとう。この誕生日会、一生忘れないわ」

 嬉しそうな、でも寂しそうな顔で雪ちゃんが言う。

「何言ってんのさ~雪ちゃん。次は京ちゃんの誕生日だし、それに来年も、再来年もこれから先ずっと、三人で、皆で誕生日会やるんだよ。だから、今日の誕生日会なんてすぐに忘れちゃいなよ!!」

「いや、わざわざ忘れさせる必要は無いと思うけど。まああれだ。来年はもっと美味いケーキ作ってやるよ」

 京ちゃんも私のあとに続く。

 雪ちゃんは少し微笑んで。そして、

「それは楽しみです。来年が待ち遠しいですわ」

 そういって、俯くとまた涙を・・・・

「流しませんからね」

 えっへん、と胸を張る。

 その顔には、もう寂しさはどこにもないように見えた。

「それじゃあ、今日は解散!! また明日!!」

「「やまと(ちゃん)テスト勉強忘れるな(いでね)よ」」

「なんでこんなときだけ息ピッタリなのさ・・・・」



 雪ちゃんとの帰り道。来年はもっとクラスの人を誘おうか、なんて話をする。

 楽しい時間は、あっという間に過ぎ、別れ際。

 残暑の季節には似つかわしい、涼風が二人の間を通り過ぎていった。


 そして・・・・


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