偽
何が起きたか理解するまで
少し時間がかかった
「美晴?」
いたずらっ子のような顔でこっちを見て
もう一度彼女は私にキスをした。
「え…」
なぜ、どうしてという質問で頭が一杯だった
「美晴のこと私も好きだよ」
自分でもわかっていた。
彼女の「好き」は彼氏への「好き」とは
別なものであることを
なのに止めることは出来なかった
私は彼女を抱えて
そのままベッドに連れていった
抵抗することなく
「重いよー?」なんて無邪気な顔をする
愛おしくてしかたなかった彼女を
次の瞬間にはこの手で壊したいとすら思った
締め切ったカーテンから僅かに外の光が差し込みベッドを照らしていた。
真っ黒なベッドカバーの色は
真っ白な彼女の肌を美しく魅せた。
華奢で真っ白で不健康そうな彼女の体
今でも覚えている。
それから彼女はくすぐったいと笑うが
無視して彼女に優しく愛撫をし始めた。
最中の彼女の声も吐息も全てが愛おしかった
「愛してる」と何度言ったか分からない
彼女と一緒にどん底に落ちていくような
感覚で幸せだった。
終わった後タバコを吸っていると
ベランダに彼女は私の服を着て出てきた
後ろから抱きついてきて
「よかった?」
と笑って見せた。
彼女はまるで悪魔のようだと思った
自分を必要としてくれる存在がきっと欲しかっただけなのはわかっていた
それなのに私は甘えて嘘でも偽りでも
彼女に騙されたふりをした。
それから彼女の家を後にした
彼女が自分を本当に好きなはずはないのに
錯覚してしまうほど彼女は「ふり」が上手かった。天性なのだろう
それから彼氏に手をあげられる度
彼女が私を必要とする度
この関係は続いた。
夏の終わりも近づき始めたある日
またいつものように彼女の家に向かっていた
家について少し話しをして、
いつも通りベッドに向かった。
「美晴、突然なんだけど付き合わない?」
何を言ってるのかわからなかった
今思えば、彼女はいつだって唐突で
私の都合なんて無視だった。
大体彼女の行動や発言は理解出来なかった
私は何回この悪魔に振り回されるのだろうか
「彼氏と別れた」
いつもより低い声のトーンで彼女は言った
私はただぼーっと天井を見つめていた。
蝉の音がうるさかった
空気が蒸し暑かった
夏の匂いがした
今でもどこかの天井を見ると
彼女の部屋や匂いあの時の夏の蒸し暑さ
全てが蘇ってくる
付き合ったところで彼女の気持ちは
私だけに向かない。
付き合ったところで何も変わらない。
彼女に普通の恋愛が出来るはずがないのだ
そうなってしまったことですら
イラつきを覚えた。
何分天井を見ていたかわからない
「美晴!!!」
彼女の声で我に返った
その時決めたのだ。
たった一瞬で決まってしまう
彼女が私の名前を呼ぶだけで迷いがなくなる
「名前だけは他の人とは違う 」
なんて都合のいい言い訳を作り上げる
そうして私はまた甘えて
嘘と偽りだらけの彼女のそばに
寄り添うことにした。