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欠落人間  作者: 神無月
5/17

高校時代続きです。

暗いお話ですがぜひ読んでください


梅雨が終わると夏の少しジメジメした空気

まるで何かが自分にまとわりついているような

そんな空気をあなたは好きだとよく言ってたね。

あなたにどれだけの暗い得体の知れないものが

まとわりついていたのかと思うと

悲しくて仕方ない。

今日はあなたの好きだった音楽を聴きながら

読んでみようと思う。

そうしたらあなたの見ていた世界が見えるかも

浅はかな考えかもしれないけれど。



_______________________________________



約2年間の留学生活は突然終わりを告げた。

父だ。

私の人生はこの人にどれだけ左右されるのか

アメリカ生活に慣れ始めていた頃呼び戻された

その当時は何故かわからなかったけれど

今ならわかるかもしれない。


日本に帰ってからの私はまた例年通り

[空っぽ]だった。

高1年生の時隠れて始めていた水商売の世界に

逆戻りしていた。

きらびやかなドレスに高いハイヒール、

ヘアメイクさんにセットされた綺麗に

巻かれた長い髪。

自分よりも1回り2回り年上の男性を相手に

若くて無知な私が話す。

夜に家を出て夜中に送りの車で帰ってくる。

幸いなことにお酒を飲むことが大好きだったので天職かとはじめは思っていた。

嘘だらけの偽りの世界が居心地よかったのだ。


ずば抜けて容姿端麗なわけではないが、

平均よりはそこそこ超えていたし、

何より若かったのでお客さんに困ることは

ほぼ無かった。


だけど、お酒に溺れれば溺れるほど

嘘を塗り重ねれば重ねるほど

もうひとりの自分は崩れていった。


この頃から自分に変な感覚が起き始めていた。

自分のしたはずのたった数分前の話が

覚えていなかったり、感覚がなかったのだ。

その上、水商売をする自分を応援する自分と

水商売をしている自分への自己嫌悪。


お客さんの本数が増えるにつれお店も転々とした

私は一つの場所で長くうまいこと

続けられなかった。

突然辞めたくなり飛んでしまう。


私のお客さんにはみんな共通することがあった

面倒見がよかったのだ。

お酒に酔って辛くなり、自殺未遂をしたり

薬でフラフラになっていても

会いに来てくれて励ましてくれた人や

ご飯に連れていってくれた人。

「下心があったんじゃないの?」

そう言われても仕方ないと思う。

それが水商売だから

けれど私は自分のお客さんだけは

大切にしたかった。

下心なんてむしろ感じたことすらなかったのだ。

よくある枕営業。

最初の頃とても拒んでいた。


お店をついに歌舞伎町に移してからは

「枕なんて絶対しない」

そんな誓はいつの間にか消えてしまった。


その当時の彼氏と喧嘩した後

お店のお局からの圧力に負け

人生で初めて歌舞伎町で私は脱いだ。

とても無理矢理なお客さんで

絡みにくいお客さんだったが、

お店の常連でありそんな私のわがままは

聞き入れられることは無かった。


「私のことを本当に好きな人だけに抱かれたい。」


何人に嘘を並べても、何人に愛してると言っても

私はこれだけは守っていたつもりだった。

自分はどうであれ相手が私を好きじゃない限り

体は許したくなかったのだ。

自分の存在価値を見つける為にセックスをしていたようなものだ。

情けない話だがそうしていた。


言われるがままに服を脱ぎ

ホテルでお客さんを体を見られている間

吐き気さえ覚えた。

携帯を出し、写真を撮ろうとするお客さんを

必死に止め言われた通りベッドに入った。

ベッドの上ではお客さんは物凄く優しいようで

愛のない愛撫をしだした。

頭の中は悲しみでいっぱいだった。


どうしてこうなってしまった?

どこで間違えてしまった?


そんなことばかり考えていた。

いろんな事をやるくせに度胸もないのが私だ。


セックス中どんなことをしたかは覚えていない

相当嫌な思い出なんだろう。

終わった後ベッドの上にお金を捨てられ

それを半泣きで拾いホテルを後にした。

その後も当時同棲していた彼の元に

帰らなければいけなかった。

喧嘩していたけれどそんなの関係なく

彼に会いたくなった。


彼は少し精神的にも弱く、とても優しくて

面白い人だった。

異性に可愛い、愛おしい そう感じるのは

彼が初めてだった。

3年近く引きずってしまった元彼のことも

忘れられる存在だった。

正直顔がとても好きだったというのは

抜かせなかった。

彼のやることはなんでも許せてしまった。


彼の元に帰りすぐ私は抱きついた。

明け方の鳥の声がする時間に

髪を乱した水商売の女が帰ってきても

彼は優しく

「さっきは言いすぎたごめんね」なんて言う。

私が何をしてきたかなんて疑っていない

彼を愛していた本当に大切にしたかった。

彼の優しさも彼の感じる悲しみさえも大事だった


彼には自分のしたことを打ち明けなかった

打ち明けるのが怖かった。

もうこれが最後にしようとその時は思っていた



それからその例のお客さんに会うことが怖くなり

結局私は歌舞伎町から逃げた。

薬で震えが止まらなかったり、お酒に溺れて

営業後区役所通りを泣きながら毎日歩いて

そんな生活が限界だった。


それでも水商売というのは一度入ると怖い世界

なかなか抜け出せないのだ。

親からの援助も無かった為一人で

生きていくお金が必要だったのだ。

歌舞伎町をやめてから1ヶ月は

彼が貯金を崩して養ってくれていた。

けれど結局六本木に移ったのだ。


六本木は歌舞伎とは全く違う空気感だった

とにかく私は馴染めなかった。

見た目は六本木寄りとは言われていたが、

性格が他のキャストと合わなかったのだ。


きらびやかな世界それはただの偽りだ。

最近は何故かキャバ嬢が流行っていたりしている

水商売をファッションのようにしている子でさえ

私の周りにもいる。

私は天職だと思っていたが思い知った。

私には合わなすぎる。

結局最後にすると思っていた枕もしていたし、

嘘を並べて嘘の自分を作り上げ

段々自分がわからなくなってしまっていた。

お小遣い稼ぎの水商売と本気の水商売は

何もかも違う。

お客さん1人の大切ささえ違う。


それでも私が水商売をして良かったと

思うことがある。

私のお客さんたちに会えたことだ。

綺麗事ではなく本当にひどかった私の為に

お金を使ってくれて、

私生活のサポートもしてくれたり

悩みも沢山聞いてもらった。

大人が近くにいなかった私には大切な存在だった

自分のお客さんとは枕をしたことがなかった。

正確に言うと私が本当に

「私のお客さん」と思っている人だ。

最早それはお客さんと言うより父のような


水商売は私は反対する気は無い。

けれど、水商売に溺れて自分を見失っている子は

やめた方がいいと思う。

[弱ければ狂わされ食われてしまう]

そんな職業だ。


私ははじめてのバイト自体水商売だったので

ほかを知らなかった。

知っていたらなにか違ったのだろうか


結局六本木も辞めることにして

気づいた頃には都内の風俗店にいた。

この頃の自分は思い出せない

プライベートな友達にも色んな嘘をついていた

バレないように隠れるように過ごしていた

最愛の人にも嘘をついていた

壊れていた。

毎日増える左腕の傷、部屋に散らかった薬

誰にも言えなかった

死にたいと何度願ったかもわからない。

死ぬ勇気がないくせに


嘘の言葉を並べ、嘘の言葉を返され

愛のない愛撫をして、汚かった

まるで真っ暗な底の見えない所に

落とされていく感覚だった。


ある日お酒に溺れ帰っている時気づいたのだ

あぁ、私は壊れてしまった

自分でそう思った。

鏡に映るやつれて細い自分の姿。

この世の全てを呪っているような目

今思えば異常だった


この頃は特に記憶が飛ぶことが多かった。

突然気づいたら病院にいたり

気づいたら血が流れていたり

気づいたら吐いていたり。

お酒を飲んでいなくてもこんなことが続いていた


最愛だった彼を私は見放してしまった。

壊れていく私に耐えかねていたのに

気づいてしまったのだ


本当に大切にしたかった

本当に壊したくなかった

手放したくなかった。

彼は今でも全く別の次元の存在だ。

元彼に対しての感情とは比べ物にならない

私が重荷になっていた。

私がしっかりしてればあの手を離すことは

無かったかもしれない。

後悔ばかりが残ってしまった

はじめて、好きな人を自分から手放した。


どんなに願っても自分は弱く変われなかった

傷跡を見る度に自己嫌悪に陥り、お酒に溺れる

繰り返しだった。

結局私は自分に甘かったのだ。


母と別々に住むようになってから夢を見ていた

ある夢を何度も。

母が暗い部屋で包丁を持ち私を何度も刺す夢だ

この夢を見る度に私は自傷をして

現実から逃げていた。

どんなに逃げようとしても

母の記憶がまとわりついてわたしを離さなかった


ついには諦めてしまった。

全てを捨てるようになっていた。

欲しかった愛も、家族も。


私はどうしたらよかったのだろう

どうしたらこんなことにならなかったのだろう



また明日ね。

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