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魔王のお仕事

……懐かしい、夢を見た。

それは、今から約8年前の出来事。

共に時を共有していた幼なじみとの別れの……


「ベルライト様」


「ん、どうした?」


いつの間にか自室に入っていた俺の秘書、ティファー(美女)に不意に声を掛けられ、若干動揺しながら返事をする。


「いえ、何やら顔色が優れていないようでしたので」


「……気にしなくていい。それより、今日のスケジュールを」


「はい。本日は朝食の後に樹林の奪還作戦の会議、午後には、ベルライト様が希望した、人間界の資源の調査が予定されております」


「分かった。ありがとうティファー」


彼女は一礼すると部屋から出ていってしまった。

別に、そこまで畏まる必要は無いんだけどなぁ……

もちろん、以前彼女に友達に話しかけるような話し方を促してみたりもした。しかし、「私は、ベルライト様の部下ですので」と一蹴されてしまったのだ。最近では実は嫌われてるのでは無いかと本気で考えてる程だ。


「はあ、本当に堅苦しいなぁ、魔王ってのは……」


魔王。そう、俺は魔王なのだ。

魔界を統べる悪の権化、人間の世界の征服者、人類の討伐対象。

決してどれもいいイメージとは言えないものばかり。

俺は別に魔王になりたかった訳じゃない。そもそも、俺が魔王になるなんて思ってもいなかった。

何故なら、先代魔王……俺の父が死ぬなんて思ってもいなかったから……。

魔王と言うものは不思議な事に、死ぬと次期魔王となる者に自動的に『不老』の能力を授ける。

この『不老』の能力を授ける事が魔王になる条件で、授かった瞬間に寿命という概念が消え、半分不死になるのだ。もちろん、授けるとそこから一切老けなくなる。つまり、幼年期で授かると子供の姿のまま、高齢期で授けると老人の姿のまま半永久的に生きていなければならなくなる。

俺は青年期である1年前に授かったので運が良かったらしい。


「ベルライト様、お食事をお持ちいたしました」


「ん、ありがとう」


戸をノックし、入ってきたのはティファーだ。

先ほど部屋を出てから朝食を持ってくるまでが早かったのは恐らく既に支度が済まされていたからだろう。

ちなみに今日のメニューはサンドウィッチサンドだ。

サンドウィッチと言うものはその名の通り、砂漠地帯に生息する魔術を扱う魔物の事だ。見た目は人間そっくりだが、肉食で人間も魔物も見境なく襲いかかってくるので魔界でも人間界でも討伐対象となっている。

ちなみに肉は絶品で、魔界ではかなりの人気を誇る食料である。

サンドウィッチサンドとは、パンでサンドウィッチの肉を挟んだ食べ物なのだ。


「今日のサンドウィッチは雷系の魔法を使ってたんだな」


サンドウィッチの肉は生前使ってた魔法によってアクセントが変わる。例えば今食べている肉は口の中がピリピリ痺れる。風系の魔法を使っていれば、口の中がスースーするし、火系の魔法なら加熱しなくても自身の熱で焼かれるので、肉の熱が保たれるのだ。

但し、土系の魔法と水系の魔法には注意だ。土系は食べると口の中がジャリジャリするし、水系はそもそも肉の味が水で消されてしまう。

ちなみにサンドウィッチの肉には魔力を高める効果もあったりする。


「ごちそうさまでした」


少々行儀が悪かったかもしれないが、サンドを口いっぱいに頬張り、飲み込んでから手を合わせた。

あ、ちなみにサンドは3つあって、俺はそれを実に30秒で平らげた。昔からこのくらいのペースで食べていたので、初めのうちはティファーも驚いていたが、もう慣れたようで表情1つ変えない。

空いたお皿はティファーが下げてくれるので、俺はすぐに寝巻きから黒のズボン、黒の服に着替え、その上からロングコートを纏う。

このロングコートというものは、最近増えている、歳や体付きの割に異常な程に強い黒目黒髪の人間の1人を捕虜にした時に異常に強い剣と一緒に拝借したものだ。

着替えも済んだので、急いで作戦会議が行われる大部屋へと向かった。


☆★☆★


俺が到着すると、すぐに会議は始まった。

各部隊の部隊長から意見が飛び交い、最早聞き取れないものも少なくはない。

だが、それが普通なのかもしれない。なぜならこの作戦は、俺達の暮らしている魔界の土地であり今は人類により制圧、拠点とされてしまった樹林の奪還作戦なのだから。


「やはり、大軍で攻め込むしかなかろう!」


「何を馬鹿なことを!人間側には転生者が何人もいる。下手に数で攻めても全滅するだけだ!」


「ならば、暗殺部隊を!」


「いや、弓兵で転生者を仕留めれば!」


開始5分たらずで既にこの惨状だ。このままでは、更に事態が悪化しそうなので止める。


「静粛に!」


この一言だけで、部屋の中は静まり返る。


「皆の考えはよく伝わった!なので、これより作戦を伝える!まずはメイジ隊、なるべく人間がいない所に向かって上位の魔法を放て。恐らく、転生者がそちらに様子を伺いに行くはずだ。続いて暗殺部隊、転生者がいなくなったことを確認してから拠点へと潜伏、メイジやヒーラーを麻痺毒で行動出来ないようにしてくれ。ゴブリン部隊は、元々樹林を生息地としていたダークエルフ達と共に近距離兵を相手してくれ。弓兵部隊はそれを援護だ!」


「しかし、それでは戻ってきた転生者をどう対処するのですか!?」


「俺が相手を努めよう」


俺がそう言い放つと、先ほどとは打って変わって部屋がざわめいた。


「異論は無いな?では、作戦は7日後の早朝に行う!解散!」


恐らく全員が異論はあっただろうが、強引に切り上げて俺は部屋を立ち去った。


☆★☆★


「本当に、宜しいのですか?」


「転生者の相手?」


「はい」


確かに、ティファーが訊ねてくるのは分かる。

しかし、自分でも分かっているのだ。転生者には勝てない。1対1ならまだしも、多対1となると、いくら魔王でも勝てないだろう。

それに……


「……魔力の方は、どうですか?」


「うん。今日はいい感じだよ。今からにでも偵察しに行ける」


「偵察ではなく調査です。……どうかご無事で……。テレポート!」


ティファーから石を受け取り、魔法で人間界へととばしてもらった。

ちなみに俺は顔バレしてないので変装はしてない。


とばしてもらったのは、人間界で鉱石の類の産出率第1位を誇る鉱山に続く森の中だ。

鉱山には鉱石目的で人間が集まるので少し離れたところにテレポートしないと下手したら人の頭上にテレポートして怪我させてしまう。攻めてきた人間を倒すのは仕方が無いが、害のない人間を倒したらそれこそ言い逃れできない悪の権化になってしまう。


『無事にたどり着きましたか?』


「ああ」


石からティファーの声が響く。

そう、これは通信石といって、人間界の転生者が開発した、他の通信石を持っている者と会話が出来ると言うマジックアイテムなのだ。


『それでは、緊急事態が発生しましたら連絡を』


「分かったよ」


石をしまい、足を進める。生憎道のない場所にテレポートしたが、鉱山の方向は覚えている。なので迷う事はまず無い。

草木をかき分け、進み続ける。

水が流れ、はねる音がする。そう言えば、ここら辺には湖があったはずだ。

……俺、朝から何も飲んでないんだよな……

人間界の湖は綺麗な水だと聞く。俺は飲み水を求め、湖を目指した。


☆★☆★


湖に近付くにつれて、水音も近くなっている。魚が跳ねているのか……?それにしては、水音が一定過ぎる。

さらに近づくと、湖の中に人形のシルエットがある事に気がついた。

なるほど、水浴びでもしてたのか。ならば、例え男だろうが女だろうが見るのはいけない。幸い、湖はそこまで小さいものではない。すぐに退散すれば気が付かれないだろう。

俺は手で水をすくい上げ、口に運ぶ。


「お前、こんな所で何をしてる?」


不意に背後から声をかけられ、驚いてむせ返ってしまう。

振り返ると、そこには剣を携えた黒目黒髪の青年が立っていた。


「……俺はただ、水を飲んでいただけだが?」


「あー、ならアンタ災難だね。俺さ、姫様にこの湖に誰も近づけるなって言われてるんだよ」


青年は剣を抜き、切りかかってきた。

いきなりだったので反応が遅れてしまったが、間一髪で回避する。

内心ホッとすると同時に、もう1度回避の体制をとる。出来るだけ、距離をとるためだ。

しかし彼は空いた距離を一瞬で詰め、俺の足を払った。

書いて字のごとく足元を掬われた俺は転倒。喉元に剣先が突きつけられた。


「強いなぁ、少しくらい手を抜いてもいいんじゃないかな?」


「これでも、結構手加減はしてるつもりだ」


俺は剣を握り、喉元からずらす。両刃の物だったので多少切れはしたがそれほど問題ではない。


「そうか。なら、少し本気になってもらおうか」


すぐに起き上がり、もう1度距離を開ける。彼はもちろんその距離を詰めようとするが、それより先に俺の詠唱が……


「待ちなさい!」


唱え終わる前に少女の声が響いた。



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