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88G.マスストラグル バイオレーター

.


 天の川銀河、スキュータム・流域(ライン)

 共和国圏、デリジェント星系(グループ)本星宙域。


『033防衛ライン壊滅! 032防衛ライン消耗率80%! 031防衛ライン損耗率30%! 030防衛ライン艦隊交戦開始!!』

『フロイングへの全面飽和攻撃効果認められず! メナス流出は継続中!!』

『フォートナイト05大破! 08、04大破! 03は未確認タイプと交戦――――いえ大破! 大破しました! 現在は01が応戦中!!』

『どうして要塞型の迎撃システムが10秒持たず破壊されるんだ!?』

『サテライトフリートが後退中! 002防衛ラインの戦力低下25%!!』

『衛星軌道艦隊が勝手に動く!? 命令も無しに配置から動くなと言え!!』

『サテライトフリート、フラグシップに応答無し!!』

『030防衛ライン壊滅! 029及び028防衛ライン無人艦隊交戦開始します! 029ライン消耗95%! 029ライン壊滅!!』

『オービットフリートより防衛地点からの離脱申請が――――』

『軌道艦隊と衛星艦隊のコントロールを剥奪しろ! 以降防衛司令部の直接の制御下におく!!』


 灰色と青の星を背景に、赤い光線と緑の光弾が無数に飛び交い、花火のような爆炎が発生しては拡散して消えていく。

 デリジェント本星を無数に覆う艦隊と防衛兵器は、その外側から猛攻により見る見るうちに食い潰されていた。

 生物のような機械の()れ、正体不明の自律戦闘兵器群、『メナス』の攻撃によるものだ。


 当然ながら、星系地方政府と星系艦隊は、総力を挙げて迎撃に臨んでいる。

 しかし、天の川銀河の銀河先進(ビッグ3オブ)三大国(ギャラクシー)や、その他の惑星国家でも、メナスに対する防衛戦を成功させた例は全くと言ってよいほど存在しない。

 今の人類は、メナスが去るか来ないのを祈る事しかできないのだ。


 だが、現実に襲われている者は、ただ祈っているワケにもいかない。

 私的艦隊組織(PFC)と無人兵器で構成される星系艦隊約15万隻は、メナス群艦隊約250万を相手に戦略的撤退を繰り返し、本星軌道上の最終防衛線まで後退していた。

 星系の中心となる第2惑星近傍宙域から3つある衛星の公転軌道上には、強力な防衛機構も配置してある。

 『フォートナイト』、それ一基で主力宇宙戦艦50隻分にも相当する戦闘能力を持つ、全自動戦闘要塞だ。

 特殊機体と思しきメナスの個体に、ロクな抵抗も出来ないまま破壊されていたが。


 無人兵器艦隊による防衛線は次々と破られ、鉄壁といわれた高価な自動要塞も役に立たず、私的艦隊組織(PFC)は逃げ腰になり司令部に船の操作権限を没収される。

 もはや逆転の目は無く、このまま戦えば全滅は必死だ。


「OF-288-102グループが艦列より離脱します! メインフレームアクセス拒否! ダミーキーです!!」

「中央に報告! 脱走艦と報告したら後は放っておけ!!」

「025防衛ライン交戦! メナス群がブロッカーフィールドに接触! 小型メナス約10,000機の撃墜を確認! 後続止まりません!!」

「メナス先頭集団ボーラ3迎撃システムの射程圏内に入ります! 攻撃開始!!」

「突破された無人艦は軌道艦隊に合流! 戦力を最終ラインに集中させろ! ボーラ迎撃施設は全て全自動に設定、残ったブロッカー弾とキネティック弾は全て放出してしまえ!!」


 共和国で用いられる最上級大型戦艦、ゴッドハンド級の艦橋(ブリッジ)も戦場のような(あわただ)しさだった。

 共和国の意匠を表す丸みのある外殻、前後に長い艦体、下部が平たく、後部両舷に三角形の補助推進機と武装ユニットを搭載している。

 旗艦『クベーラディーバ』、全長1,300メートル。

 その艦橋(ブリッジ)は、デリジェント星系の防衛司令部を兼ねていた。


 しかし、そんな司令部の役割も終わりに近付きつつある。

 今や星系にある全戦力を指揮する立場となった司令官は、それらを旗艦のいる最終防衛ラインに集結させた。

 もはや、できる事は多くない。


「ボーラ3の軌道防衛線を突破される前に全艦撤退! 例外(・・)は無しだ!!」


「了解……SF415からSF711は基準点45度方面より本星宙域を離脱、OF115からOF311は本艦の編隊に加えます」


 司令が命令を出すと、女性オペレーターが僅かに迷ったような間を置いてから、命令に沿った通信を各方面に送る。

 有人の艦隊は、星系の防衛を放棄する事になっていた。

 足下(あしもと)の惑星にいる、逃げ遅れた大勢の住民を残して。


 デリジェント星系艦隊は無人戦闘艦をメナスに特攻させ、そのほぼ全てを自爆させる間に宙域を離脱。

 恒星の側面を全速力で抜けると、強力な重力圏内であるにもかかわらず短距離ワープを実行した。

 とにかくメナスから、あるいは見捨てた星から、一刻も早く逃げ出すかのようだった。

 約50,000隻の残存艦隊と難民の宇宙船団は、陣形とも呼べない密集した状態で共和国中央本星系へ向かう。

 本国へ支援を求める為だったが、実際にどうなるか先行きは不透明だ。


 そんな艦隊の旗艦艦橋(ブリッジ)に、問題の共和国中央からの通信が入ってきていた。


               ◇


 真っ暗な空間の中、光源となるのは文明の照明装置などではなく、適当な金属ケースを受け皿に使った()き火のみだ。

 不安定に揺れる炎が、周囲にある物の明暗をクッキリと分けている。

 炎により浮き彫りにされるのは、雑多な資材を壁際へ除けて空けられた中央の広いスペース。

 そして、除けられた資材やコンテナの上に陣取る大勢の人間達だ。


「イィエェエエエエエヤァアアアアアアア!!」

「ウーハー!!」


 ドドンッドドンッ! ドドンッドドンッ! ドドンッドドンッ!! ドドンッドドンッ!!

 ドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコ!!

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――――!!


 光と闇のコントラストの中、速いテンポで打楽器のような音が打ち鳴らされていた。

 そこに混じる男達の奇声。

 原始的な祭りのように、その場にいる者は全員が光と音に没頭している。


 音の調子が変わったのは、闇の中から新たな人間たちが現れた為だ。

 それも、コンテナの上や資材ケースの上にいる者とは違う。

 ある者は大柄で、ある者は筋肉質、小柄ながら鍛えられた肉体、あるいは筋張った痩躯、メタリックなサイボーグ、爪と牙を持つ種族、など。

 そういった人並みならぬ身体には、フェイスペイントやボディペイントが(ほどこ)されていた。

 衣服も、この時代の普段着である環境(EVR)スーツなどではない。

 カーゴパンツやボクサーパンツのような物を身に着けていたが、基本的に上半身は裸だった。


「アンガー暴れろー!」

「バックスラッシュ! いいとこ見せてくれよー!!」

「ボーンズ! グロい壊し方すんなー!!」

「ローガーン! ローガーン! ローガーン!!」


 諸手を挙げ、己をアピールし周囲を(あお)る新たな登場人物たち。

 周囲のギャラリーからは歓声が上がり、単純な打音がテンポを上げる。

 肉体派の男たちは身体能力の自慢でもするように、打撃の素振りをし、転がっている資材用コンテナを強引にひっくり返し、前方宙返りを決め身軽なところを見せ付けていた。


 そんなパフォーマンスで盛り上がっていたところ、再び周囲の雰囲気が変わる。

 ただし、今度は憧憬と熱狂ではなく、(あざけ)りと哀れみを含んだモノだ。


「生っちょろいキングダムの野郎が戦えんのかよ!?」

「記憶は保存してきたかー? 脳が潰れたらお終いだからなぁギャハハハハハ!!」

「人間が分解されるのを見るのは大好きだぜー!!」

「せいぜい笑わせてくれやー! ブハハハハ!!」


 反対側の暗闇の中から出て来たのは、先に出てきた男たちに比べれば、至って普通で精悍な者たちだった。

 誰を見ても筋肉質で(たくま)しい。身体にペイントはしていないが、服装はズボン系のみと、やはり最小限なモノだ。

 異様なギャラリーに囲まれている事で、表情にはやや緊張が浮いていた。


 更に、ここでまた、(はや)し立てる雰囲気が大きく変わってくる。

 キングダム船団側の後方から、新たな参加者が入ってきた為だ。

 それも主役級。


 ひとりは、小柄なツインテールの少女に見えるが、その実は高重力適応人類『ロアド』人の、大人の女。

 鈍い金髪に褐色肌、小さいが鍛えられたカラダにご立派な胸の、コリー・ジョー=スパルディアだ。

 なお、ヒモのような極小マイクロビキニは仕事着である。


 ロアド人と並んで出て来たのは、桃色の長髪を跳ねさせた地球由来人類『プロエリウム』の女だった。

 肉付きの良い健康的なカラダを跳ねさせるように歩く、勝気な面構えの美女。

 レザーのハイレグ水着のような格好で登場した、メイフライ=オーソンである。


 そして最後に姿を見せる、ミディアムヘアの赤毛の少女。

 引き締まり、メリハリも激しいカラダには、ビキニ水着とパレオのようにシンプルな布を縛り付けている。

 そんな雑な隠し方で、たわわ(・・・)に実った部分が色々零れ落ちそうになっていたが、当人には全く頓着した様子が無く。

 堂々としなやかに歩みを進めるのは、21世紀出身の少女、村瀬唯理(むらせゆいり)だった。


 極上な美女美少女3人の登場に、騒いでいたギャラリーのテンションも爆上げする。

 サルのような盛り上がり方だ。


               ◇


 私的(PFC)艦隊組織(『スカ―フェイス』)に利用されながらも、キングダム船団と合流した、ノマド『ローグ』船団。

 その乗員は、怠惰、無軌道、身勝手、暴力的、と厄介者としての全ての要素を備えており、キングダム船団は多大な迷惑を被っていた。

 自由船団(ノマド)の間には互助協定がある為に、安易に強制排除(パージ)も出来ない。

 また、強行手段に出た場合、ローグ船団が暴走する事も考えられた。


 そこでキングダム船団側は、ローグ船団のローカルルールに乗る事とする。

 ローグ船団は、通常の船団と違い旗船船橋(ブリッジ)が統制しているワケではない。実際は、あるカルト集団が裏から支配しているのだ。

 そのカルトは、非常に原始的で野蛮な、実力(・・)至上主義を掲げている。現行のローグ船団のリーダー達も、その蛮勇さを認められて全乗員の上に君臨していた。

 キングダム船団はカルトの精神的指導者、ライケン人の巫女『G』の協力を得て、ローグの実質的なリーダー達を『群王の儀式』へと引き摺り出す。

 ローグ船団の基本的なルール。

 それは、最も強い者が()れを率いるという事だ。


 キングダム船団からは、比較的荒事に慣れた者が儀式の為に集められていた。

 小柄なツインテール、跳ねた桃色髪、そして赤毛娘も参加者として殴り込んできたワケだが、ツインテと桃髪は赤毛の露払いが主な任務である。

 保護者たちは唯理を参加させたくなかったのだが、こと格闘戦でこの娘以上に強い者がいなかったので、是非もなかった。


               ◇


「ウォーぅねえちゃーん! いいもん見せてくれるのかー!? ヒョォオオオウ!!」

「ウォオオオ! ()()で踊らせてやれグース!!」

「ケニスのダンナに食われても知らないぜぇお嬢ちゃーん!!」


 儀式への参加にはドレスコードが設けられており、誰もが半裸のような格好をしている。

 相手の土俵で戦ってみせる必要から、赤毛娘も扇情的に過ぎる(よそお)いをしており、飢えた野郎どもは血管切れんばかりに興奮していた。


「ウググググ……! ゆ、ユイリのあんなに肌を出したのをあんなヒト達に見せるなんてぇ……!!」


「落ち着いてエイミーちゃん…………」


 カメラ映像で見ていたパンナコッタ船橋(ブリッジ)のエンジニア少女も、興奮やら怒りやらで大変な事になっていたが。

 夜叉のようなエイミーの表情に、めったな事では動じない船長のお姉さんも引き気味だ。

 そして、例によって映像記録中なオペ娘は何も言うまい。


 儀式の会場は、ローグ船団の旗船(フラグシップ)内となっていた。

 キングダム船団側からは、参加者以外にもいざという時(・・・・・・)に備えて自警団(ヴィジランテ)などがギャラリーに混じり待機している。パンナコッタからもメカニックの姐御が来ていた。

 人類が宇宙に出て2,500年も経っているとは思えない異様な雰囲気に、キングダム船団側は参加者も自警団(ヴィジランテ)も呑まれ気味だ。場所も空気も完全アウェイである。


 儀式の参加者が出揃い、ギャラリーが一頻(ひとしき)り騒いだところで、高所にある作業用通路に白一色の少女が現れた。

 ローグ船団にライケン人の伝統を伝え、その儀式を司る巫女、『G』である。


「G!」

「G!!」

「G!!!」

「G!!!!」


 同時に、ローグ船団の乗員の間で一斉に上がる『G』コール。

 金属板で囲われた空間が、唱和する声でビリビリと震えていた。


「戦士よ、勇敢なる者達よ! ここに集いし食物連鎖の頂点に挑むケモノ達を称えよ!

 王たる者の証を立てるは、その力を示す以外に道は無し! ケモノに言葉は不要! (さか)しらに上辺の理と徳を説くなかれ!

 我こそは群れの王たらんとするならば、ただその力を証明せよ! さすれば群れは本能にて、(なれ)α(アルファ)と認めよう!

 ケモノの仕儀は、この巫女たる()が見届けん!

 さあ荒々しきケモノの戦士たち! (なれ)らの爪と牙を以て生き残るのだ! 最後に残る者こそ、最も強きケモノなり!!』


 堂々と腕を広げ、懐を開き宣言する白装束の少女。

 騒音に負けない朗々とした語り口に、周囲の者たちの興奮はより一層高まる。

 実権の無い指導者ではあるが、カリスマ性は非常に高かった。ローグのリーダー達が道具と見込んだだけの事はあるのだろう。

 実際に、一般の乗員たちは巫女である『G』を信奉している様子が見られた。


「モラルだヒューマニズムだに縛られてる連中が……死ぬほどダセェ悲鳴上げさせてやるぜ」


「ヒトの殴り方ってのを知ってんのかねぇアイツら」


「ケニス、今度も派手にやってくれよ。俺はお前に喰い付かれて血塗れでのた打ち回るバカを見るのが好きなんだよ。頼むぜぇ」


「グルルル…………」


 ボディペイントをしたチンピラどもが、ニヤニヤと(わら)いながら料理(・・)の方法を話し合っている。


 『群王の儀式』は、参加者全員によるバトルロイヤル。自分以外は全員敵。制限無しの殴り合いで、最後まで意識を保ちギブアップもしなかった者が勝者となる。

 だが、今回の儀式は実質的にローグ船団対キングダム船団の構図になっていた。

 要するに、最後に自分の船の者が生き残れば良い。

 今までのローグ船団での儀式も、内輪の誰かが生き残ったところで適当に降参しリーダーを決めている。

 しかし、今回はローグ側は全員で協力し、キングダム船団の挑戦者達を真っ先に叩き潰すつもりだった。


「まずはキングダムのザコ共を並べて素っ裸に剥いてショータイムだ。ローグ船団でのザコの振舞い方ってヤツを身体に教えてやる」


「ローガン、オンナは!? スゲーたまんねぇ赤毛のオンナがいやがる!」


「オウオウオウ一緒にいる2匹もイカすじゃねーか、見物客の前でカワいがってやるぜ」


 ローグ船団のチンピラたちは、自分が暴力と闘争に優れているから、今まで生きてこられたと思っている。それは、船団内に限れば間違いではない。

 そして、規則に縛られる者は縛られない者に、決して勝てない事も知っている。

 なんでもあり、どんな手段でも使う自分たちが、勤勉に素直に生きてきた普通の(・・・)ノマドに負ける道理が無い。


 ペイントされた(ツラ)を醜悪に歪める、ローグのリーダー達。

 既に頭の中は、身の程知らずを踏み潰した後のお楽しみの事で一杯だった。





【ヒストリカル・アーカイヴ】


・ゴッドハンド(クラス)

 共和国圏で用いられる旗艦(フラグシップ)級宇宙戦闘艦。

 星系艦隊などで旗艦を務める為に開発されており、時々の共和国の最先端技術が盛り込まれる。

 実質的に支配企業グループの所有物。





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