78G.ハイヴェロシティ レッドバレット
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汎用ジェネレーターを中心として、前後に超伝導モーターとタイヤを配置しただけという乱暴極まる、この時代ではとうに廃れたはずの自動二輪車。
その後、重力制御機やマニューバブースターを含めた追加装備を経て、ようやく作戦を遂行し得る水準の性能となる。
赤毛娘の突撃兵仕様、戦闘用大型自動二輪車だ。
オペレーターのフィスにより、センサー走査から電子妨害でカムフラージュされ、自動二輪ヴィークルに乗った村瀬唯理は単身で旗艦フォルテッツァへ向かった。
エネルギーシールド無しで真空中に出るのは、高速で飛来する浮遊物に直撃されかねない恐れがある行為だ。
また、万が一フォルテッツァのセンサーに捕捉されれば、最悪の場合レーザーで撃たれる危険もあるだろう。
しかし細心の注意を払った末、赤毛娘の二輪ヴィークルは無事にフォルテッツァ内に侵入成功。
船に接触した時点で唯理の最上位権限が有効になるので、艦隊司令艦橋にいるテログループに何かを気付かせる事もない。
そこから艦内トラムの軌道チューブを爆走し、艦橋へ殴り込む直前に災害対応システムを起動させスプリンクラーの雨を降らせた。
至る現在。
艦隊司令艦橋への奇襲が完全にハマり、ハンドレールガンの連射で私的艦隊組織『スカーフェイス』の兵士たちを薙ぎ倒す船外活動スーツの少女。
しかし完璧な攻撃とは言えなかった。
(ズレた!? いや外した!!?)
テログループのリーダーと思しき傷面の男。その胸のど真ん中を狙った唯理の射撃だが、結果として片腕を吹き飛ばすに留まったのである。
水飛沫を上げ横滑りするヴィークルからの不安定な射撃、十分な試射の出来なかったハンドレールガンという武器。
これらの要素があったとはいえ、銃の居合いとも言うべき必殺の一撃、『叢雲流抜砲術』は完全に殺せるタイミングで入っていた。
にもかかわらず仕留め損なったのは、傷面の男が着弾の寸前に動いた為だ。
とはいえ、それが故意によるものか偶然かは、唯理にはこの際どうでもいい。
何故なら、次の射撃で確実に殺すのだから。
「殿下ぁあああああ!? おのれ下郎がぁああああああ!!!」
生憎そうもいかなかったが。
戦闘用スーツを着た年嵩の女が、絶叫しながらレーザーライフルを二輪ヴィークルの少女へと向けてきた。追従する兵士が他にも複数。
少し離れた所に立っていた為、唯理の掃射範囲にはいなかった者達だ。
急発進する二輪ビークルをレーザーで追い討とうとする熟女、カナンと部下達だが、その熱量は極端に低下していた。
スプリンクラーの水煙と雨粒で熱エネルギーが吸収される、ブルーミング現象によるものだ。
当然狙ったし、それで安心する赤毛娘でもない。
広大な艦隊司令艦橋を二輪ヴィークルが突っ走り、蹲る艦橋要員の脇でタイヤが水を跳ね上げていた。
二輪ヴィークルを駆りながら、唯理は片手でハンドレールガンを発砲。高速連射モードで射出された6.72ミリ電磁弾体は、レーザーと違い降雨の影響をほとんど受けずに秒速800メートルという砲口初速で複数の戦闘用スーツに直撃する。
だが、レーザーのほかデブリの直撃も想定した重装甲のスーツは、破壊されるに至らなかった。
味方を盾にしたスカーフェイスの兵士は、その間に傷面の男や倒れた仲間を引き摺って収容する。
(逃がさない! この場で仕留める!!)
二輪ヴィークルを急停止させる唯理は、船外活動スーツの大腿装甲に付けた弾倉を剥がしハンドレールガンに再装填。直後に射出モードを最大荷電に変更した。
レールガンの銃身が中央から分裂し、上部を上向きにスライドさせ電磁レールを開放する。
帯電により上下のレール間にスパークが走り、甲高いノイズが唸りを上げていた。
両手持ちに切り替えた赤毛のライダーは、意識と同期する照準システムでスカーフェイスのリーダーを捉えると、弾道予測の結果を待たず勘だけで引き金を引く。
その弾体速度は、速射モードの約3倍。
秒速にして約2,500メートルにも達していた。
「うわッ……!?」
流石に反動でひっくり返る赤毛娘。ヴィークルに跨ったままの姿勢では無理があったようだ。
一方で、スカーフェイスの方はひっくり返るでは済まなかった。
リーダーの傷面を自分の身体を盾に守ろうとした兵士は、レールガンの弾体に掠められただけで、装甲スーツを破壊され重症の憂き目となったのだから。
「レールガンだぁ!? よくもあんな原始的な武器で! この放水はいつまでやってんだいさっさと止めな!!」
「認証が外されてる! アクセスできない!!」
「バスティアンが重症です! 殿下のお怪我も……!!」
「ッ!? コンバットボットを突っ込ませな! 撤退するよ!!」
オペレーターデスクを遮蔽物にしていたスカーフェイスの女兵士は、あまりにも想定外の事態であると判断して撤退を決める。この間も赤毛娘がハンドレールガンを連射し、デスクに大穴を穿っていた。
スカーフェイス側は随伴させていたヒト型戦闘機械に赤毛ライダーを足止めさせ、射撃の矛先を逸らした隙に退く構えだ。
「チィ!? ダナさんこっちはブリッジで交戦中! コントロール、セキュリティーの移動ルートを最優先に開放! テログループの逃走を阻止し他の乗員へのルートは遮断!!」
『侵入者のIDを識別できません。光学映像に異常検知。侵入者の捕捉不能』
「フィス!」
『連中の居るエリア丸ごとこっちで隔離する! ユイリはコンバットボット片付けろ来てんぞ!!』
豪雨の中を温いレーザーが奔り、艦橋中央の大型ホロモニターを迂回してヒト型戦闘機械が駆けて来る。
唯理は二輪ヴィークルを後退させ、ヒト型戦闘機械を撃ち倒しながら母船の仲間に通信。これを受けて待機中だったメカニックの姐御が保安要員と共に旗艦に乗り込み、同時にオペ娘がシステムを操作しテログループを追い詰めにかかった。
「クソッ!? 焼き切れ! 『ハングドマン』にも支援させな!!」
「カナン後方に敵!!」
「ボットをクローズドオートにしてぶつけろ! 乗っ取られるくらいなら使い潰していい!」
フォルテッツァのコントロール権限が正常に戻り、そのまま侵入者に牙を剥く。
通路の隔壁が逃げ道を塞ぐが、兵士のひとりが円盤のような物を投げると、それが枠ごとに外向きへ展開しながら壁面へと張り付いた。
「コンバットボットでもワーカーボットでも何でもいいから押し込め! 諸共連中をバラバラにしろ!!」
そんなドン詰まりのスカーフェイスに追撃をかける、キングダム船団の保安要員。
先頭に立ち部隊を率いるダナの姐御も、ゴツい戦闘用スーツを装備しレーザーライフルを発砲。
赤い光線が無数に閃き、金属製の屏風のような遮蔽盾を立ち上げるスカーフェイス側と通路の角を挟んだ銃撃戦となった。
◇
「セキュリティーは全員差し向けろ! 近くに連中の船があるはずだ! 全ての火力で吹っ飛ばしてやれ!!」
雨上がりの艦隊司令艦橋では、怒りに染まる船団長が部下の艦橋要員に指示を飛ばしていた。問答無用でスカーフェイスの母艦を吹っ飛ばすつもりである。
しかしここで、復帰したばかりのズブ濡れオペレーターから報告が。
「れ、レーダーコンタクト! 左舷側複数ヶ所に重力異常、移動体および熱反応感知!!」
「なんだ!?」
レーダー画面はセンサーの捉えた情報を反映し、次々と重力制御とブースターの出す発熱パターンの発生位置を表示していた。
いずれも、つい数時間前に資源採取を行いデブリワームと遭遇した小惑星帯の内側だ。
大小様々な小惑星に遮られ、光学観測までは出来ていない。
スカーフェイスの船が潜んでいたか、と思う船団長だったが、詳細なデータを見て考えを改めた。どれも小規模で、小惑星自体が動いていると考えられる。
欺瞞か撹乱か、あるいは直接攻撃か。
「攻撃準備! 移動物体にレーザー砲照準! いつでも撃てるように――――――――!!」
いずれにせよ、小惑星ならフッ飛ばしても構うまい。
そう考え、クレイモア級超戦艦『フォルテッツァ』に攻撃を指示しようとした船団長だが、そこで気付く。
「――――――――待て! 全船団に緊急離脱を指示! ブレイクショット・エフェクトだ!!」
小惑星帯の中で複数同時に、そしてバラバラの方向に動き出した巨大な質量の塊は、至近に浮いていた別の岩塊に衝突すると、また別の小惑星にぶつかるのを繰り返していた。
この連鎖反応の拡大を、『ブレイクショット・エフェクト』と言う。
恒星系の外環を形成する小惑星は、ビー玉のような小さい物から直径100キロメートルを超える巨大な物まで存在していた。
それらが無軌道に飛んで来るなど、並みの宇宙船なら悪くすれば簡単に押し潰されてしまう事態である。
『面舵90まで! サイドブースターいっぱい!!』
『シールド最大出力! 左舷に集中しろ!!』
『「ギャラクシーボール」よりキングダムコントロール! 退避経路を指示してくれ! そちらで統制していないのか!?』
『2,000メートルのオブジェクトが本船とコース被る!? 緊急避難する!!』
『「バタフライアーチ」! こっちの進路を塞いでいるぞ先行優先権を確認せよ!!』
キングダム船団を構成する30万隻の宇宙船は、大慌てで船首を振り小惑星帯から離れ始めた。
迂闊に攻撃などすれば、破裂した小惑星が更にランダムな暴走のドミノ倒しになると、宇宙船乗りなら誰でも理解できる。
原因を叩く事など二の次であり、つまり逃げる時間を稼ぐというスカーフェイスの狙い通りだった。
◇
ようやく人質の身分から解放されたかと思えば、今度は小惑星帯で発生する致命的な人災。
自身も艦隊司令艦橋もズブ濡れのままそれらに対処する艦橋要員だったが、そのすぐ脇では戦闘が継続されていたりする。
二輪ヴィークルを爆走させる赤毛ライダーと、ヒト型戦闘機械十数機によるものだ。
「キャァアア!?」
「ごめん!!」
女性オペレーターの真横を、時代遅れの二輪車が唸りを上げて駆け抜けていく。驚かせてしまったので、赤毛も駆け抜け様に謝っておいた。
突っ走りながら、同じような速度で併走するヒト型戦闘機械をレールガンの最大荷電で銃撃。ヒト型機械は上半身から吹っ飛ばされ、飛び散った機械部品が艦橋内を跳ね回る。
逃げ惑う艦橋要員は右往左往だ。
そしてここに来て、赤毛の少女が持つハンドレールガンが砲身を中央から最大に開放していた。最大出力モードではない、過熱状態による強制冷却モードだ。冷却ファンが白煙を噴いている。
ヒト型戦闘機械はまだ残っていた。
唯理は太モモの力だけで二輪ヴィークルの車体を締め上げ身体を固定すると、レールガンを握るのとは逆の手でレーザーガンを引き抜き発砲。
同時にヴィークルを遠隔操作で動かし、直径1メートルに近いタイヤでヒト型戦闘機械をひき潰した。
先に脚を焼き切られたヒト型機械に、逃げる術は無い。
「フィス、状況は!?」
『スカーフェイスのクソバカどもが小惑星帯でブレイクショット起こしやがった! 船団は今各個に避退中! フォルテッツァの中の連中はダナとかセキュリティーとやり合いながら格納庫に向かってる! 多分小惑星帯の中にいる母船に逃げる気だ!!』
足下のロボットの頭にレーザーを撃ち込みながら、赤毛の少女は通信でオペ娘から情報を得る。
残りのヒト型戦闘機械は保安要員の別働隊が駆け付け処理していた。
唯理は船外活動スーツのヘルメットを開放して一息つく。
送られてくるデータを情報端末で確認すると、目の前に艦内で起こっている戦闘の映像が映し出された。
テログループ、スカーフェイスは専用の道具らしい円形の枠で隔壁を次々と焼き切り、移動を繰り返している。
保安部隊へ応戦する姿勢も、明らかに手馴れた兵士のモノだ。
遺憾な事に、キングダム船団の船員では対処し切れないと思われた。
「…………この時代にもまともに戦争できるヤツらがいたか」
『あ? ユイリなんて??』
「いやなんでもない。マリーン船長、次は向こうが突入部隊の援護に打って出ますよね。先にラビットファイアを展開します」
『わかったわ、あの娘たちを発進させたらユイリちゃんを拾うから』
唯理の見立てでは、スカーフェイスは今の段階でも何をして来るか分からない怖さがあった。
唯理がその立場ならまだ状況を引っ繰り返すし、相手にもそれが出来得ると考える。
故に、体勢を立て直す間を与えず叩いておきたい。
殴れる時に殴っておくのが赤毛娘の流儀だ。
オペ娘より、パンナコッタがフォルテッツァの上部格納庫に着けるというデータが送られてきた。到着時間や最寄の気圧調整室の情報など手回しが細かい。
赤毛ライダーは船外活動スーツのヘルムを再び閉鎖すると、二輪ヴィークルの後輪を空回りさせ強引に180度ターン。
「こっちは船団を退避させてから砲で支援する! 構わんから連中を宇宙の塵に変えてやれ!!」
憤懣やる方ない船団長の横を駆け抜け、返事代わりに親指を立ててみせる唯理。
排水中で未だに水の溜まっている艦内の大通路を、波を掻き分けるかのような勢いで格納庫へと向かう。
◇
保安部隊の恨み骨髄に至る追撃にもかかわらず、テログループ『スカーフェイス』の制圧部隊は見事 フォルテッツァを抜け出していた。
艦内のコントロールを完全に取り戻され散々足止めをかけられた上で、力尽くで突破したのである。見事と言って差し支えない。
下部格納庫から飛び出した輸送艇は、進路上に銀の煙幕を展張しながらぶつかり合う小惑星目掛けて飛ぶ。
フォルテッツァと船団長による怒りの艦砲射撃で消し飛びかねない状況だが、側面が開放された特殊部隊仕様の小型宇宙船は、小惑星を遮蔽物に使いその中へ逃げ込もうとしていた。
それを追うのは、キングダム船団の自警団部隊に先駆け出撃した即応展開部隊、『ラビットファイア』のエイム5機である。隊長機は諸事情で遅れている。
『私もすぐ出るけど、合流するまでそっちで追い込みをかけろ。可能ならリーダーがいる小型艇を最優先で叩き落とせ。戦術的に不利と感じたら構わず撤退していい。判断は副隊長に任せる』
「R201了解しました」
ラビットファイアの副隊長、金髪保母さん兼業のサラも、ヒト型機動兵器を駆りキングダム船団を飛び出していた。
赤毛の隊長から指示された通り、逃げるスカーフェイスの小型輸送艇を追撃中だ。
小惑星が乱れ飛ぶ高い空間密度の中を、背面や脚部からブースター炎を噴出したヒト型機動兵器が30G以上の加速で突っ走る。
激突すればエネルギーシールドを持つエイムでも一発大破の状況だが、ここ最近赤毛の鬼隊長にお尻を叩かれ鍛えていたので、速力を落とさず紙一重で巨岩を躱わしていた。
「R203、対象は補足できてますか?」
『しっかり捉えてECMも仕掛けてるんですけど、相手のスピードが落ちません! 効果率高く出てるし対抗されてる反応も無いからフルマニュアルで動いているのかも……』
『ハンッ……この密度の中をマニュアルで飛ばすってか。ウチのボスがピリピリするワケだな。旗艦に乗り込んだ手際といい、ここで逃がすと後々面倒臭ぇ事になるわ多分』
見た目ロリ巨乳のファンが指向性の電子妨害を放つも、スカーフェイスの輸送艇は全く速度を緩めない。
宇宙、ましてや小惑星がランダムに乱れ飛ぶような空間でセンサー類を妨害されるなど、目隠しをして障害物競走をやるようなものだ。
操縦者の腕は相当なモノと考えられる。
その一連の行動から垣間見えるスカーフェイスの力量に、小柄な褐色ツーテールが猛獣のような笑みを浮かべていた。
赤毛の隊長が危険視するのも当然で、是非にでもこの場で息の根を止めておきたい相手だ。
ラビットファイアは輸送艇への距離を詰めつつある。
どれほど操縦者の腕が良くても、機動兵器であるエイムと降乗性特化の兵員輸送艇では性能が違った。特に、小惑星に対する回避能力の差が決定的だ。
またエイムの見通し線上に輸送艇が出れば、即座に秒速30万メートルの光線で撃ち抜かれるだろう。それが分かっているから、スカーフェイスの小型艇も撹乱煙幕を撒き散らしながら、小惑星の間というギリギリの進路を選び飛んでいた。
それも、近づいてしまえば無意味だ。
「R201より102、目標を捉え次第そちらの判断で撃ってください」
『R102了解……』
無表情美女の駆る重火力エイムは、いつでも大出力の対艦レーザー砲を撃てる状態だった。
もうあと幾つかの小惑星を迂回すれば、障害物が少ない空間に出る。
そうなれば、逃げ場を無くしたスカーフェイスの輸送艇も姿を晒す事となり、
『サラさん艦砲レベルの熱反応が正面――――――――!?』
「全機ブレイク!!」
直前の電子戦機からの緊急通信で、自分たちの方こそが射線上に誘い込まれたのを悟る事となった。
【ヒストリカル・アーカイヴ】
・セーフガード
緊急災害対応システム。貿易における緊急輸入制限措置の事ではない。
宇宙船などの設備内で破壊的な問題が発生した際に、自動で対処するシステム全般の事を言う。
出火ひとつ取っても、区画の閉鎖、内部酸素の放出、消化剤の散布、自動機械による応急修理や人命救助などがセーフガード・プロトコルにより包括的に行われる。
感想、評価、レビューを秒速2,500メートルでぶつけてください。




