48G.フォース ゴー アラウンド
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灰色と砂色のモザイク模様の星から、青白く光を返す衛星へ。
第7惑星フィルアモスの軌道上を離れたパンナコッタⅡは、速度も時速100万キロを切り、目的地であるベルオルまで残り10分のところまできている。
その周囲では、全長10メートル台の小型メナス集団と6機から成るエイムチームが交戦中だ。
無数に放たれる青いレーザーを背に、赤と白のヒト型機動兵器が短機関銃を乱射している。
両腕マニピュレーターの2挺分、併せて秒間200発の42ミリ弾がバラ撒かれ、発砲の衝撃がコクピット内に響いていた。
「当たれ当たれ当たれ当たれ当たれって言ってんでしょうがこんちくしょー!!」
50G、1秒で490メートルもの加速力を見せ付ける敵機を、オペレーターと同期した照準システムが追う。
アクティブセンサーが電子妨害で敵を追わない為、光学センサーとオペレーターが自力で追尾しなくてはならない。
秒速5,000メートルに調整された砲弾が、目まぐるしく変わる敵予測位置へと撃ち込まれるが、メナスには決定打を与えられない。
相手の動きは早いだけではなく、人間並みかそれ以上の複雑なマニューバを見せる上、シールドが強固な為に一発二発弾を中てても貫けないのだ。
『クッソ! 隊長は!? あの女どこ行ったぁ!!?』
『右30! いや110!? 左300!!? ダメだ全然追えない!』
『対艦レーザー砲がオーバーロード……冷却――――――アッ!?』
『グーンツお前シールドに近づき過ぎだ! 船沈めるぞ!!』
他の4機も船と併走しつつ、必死になってメナスを追い払っていた。
パンナコッタⅡは船体上部に出てきた球体砲塔でレールガンを撃ちまくっている。
白と赤の機体、メイのエイムは弾を使い果たして再装填中。黒と紫のラヴのエイムはシールドをメナスの荷電粒子弾で吹き飛ばされた。
キングダム船団から抽出された自警団員も善戦していたが、それでもメナスは相手が悪い。
青いレーザーがメナスの一体を撃ち抜き爆散させ、そこを突破し別の個体が船へと迫る。
荷電粒子の光弾が大量に飛来し、ヒト型機動兵器を掠めて船のシールドを叩き弾けていた。
甲虫のような形状の自律兵器は、時にシールドでレーザーを受け流しながら出鱈目な機動を繰り返す。
『来るんじゃねぇバケモンが死ねやぁあああああああ!!』
モニター内を跳ね回る射撃指揮装置の表示を無我夢中で追い、アサルトライフルを撃ちっ放しに。
肩部や脛部のマニューバブースターが断続的に炎を吹き、姿勢制御機能が自動で機体を回転させる。
レーダーシステムと管制人工知能が後方直上からの攻撃を警告し、オペレーターは機体を反転させブースターを一瞬吹かし位置を変え反撃。
同時にすぐ脇を荷電粒子弾が行き過ぎ、続けてメナスが節足のようなマニピュレーターを開いて突っ込んで来た。
咄嗟に発砲するが、秒速8,000メートルの砲弾は全てメナスのシールドに弾かれる。
回避する間もなく、そのまま両機は激突。
衝撃でシールドがダウンすると、6本のマニピュレーターでエイムに直接喰らい付こうとするメナスだが、
直前に灰白色のエイムが発砲。
真上からメナスを撃ち抜いたかと思うと、その勢いのままに飛び蹴りを入れメナスを叩き出し、追い討ち気味にレールガンを叩き込んで吹き飛ばした。
「グーンツ! モールドに付いて立て直すまで援護だ! そっちは私がやる!!」
灰白色に青の機体、唯理は最大推力で次の敵機へと飛ぶ。
瞬間最大50.5G。一見してスマートな身体に、体感で7G以上の重力加速度が圧し掛かっていた。
脚部、背面部のブースターの反動で、暴れ馬のようにのたくるヒト型暴走兵器。
それはメナスを追い真後ろから砲弾で穴だらけにすると、直後に反転しながら後方に迫っていた個体を肩の長砲身レーザー砲で薙ぎ払う。
次の瞬間、撃たれる前に気配を感知し、フットアームを踏み付け脚部3箇所のブースターを噴射。予測弾道から一歩逸れた。
荷電粒子弾を撃たれると同時に、ほぼ同一の射線でアサルトライフルを発砲。砲弾を集中させ、シールドを撃ち抜き、本体も爆散させる。
そうして、次の荷電粒子弾を胸部ブースターを吹かし回避。反転すると、自分からメナスへ突っ込みビームブレイドを抜き放つ。
『ユイリ! あんまり飛ばさないで!!』
「これくらいなら問題ないからエイミー、大丈夫」
パンナコッタⅡのエンジニア嬢から切羽詰まった声で言われるが、実際のところ本当に問題なかった。
自重の7倍、秒速69メートルの荷重が唯理に圧し掛かるが、今日まで鍛え直した身体はその中でも操縦を可能にしている。
だが、それでもまだ唯理にとっては、「悪くない」といった程度でしかない。
21世紀の武人達は、10Gもの負荷に耐えて人類の脅威と戦っていたのだ。たかが7Gでどうしたというのか。
唯理もまだまだ、限界には程遠いと感じていた。
『アレが隊長か!? どうしてプロエリウムにあんな動きが出来るんだよ!!?』
『メナスを早さで追い詰めるとか……ありないだろ』
『ターミナスの時と比べ物にならない…………』
エイムのオペレーター達は自分の身体で重力加速度を感じるからこそ、唯理の異常性を理解していた。
ネザーインターフェイスでシステムと同期し反応速度が上がるにしても、あんな戦場を支配するような戦闘は出来ない。
メナスの放つ強力な電子妨害の影響下で、どうすればそれほど正確な射撃を、しかも超高速で機体を流しながら行う事が出来るのか。
第一、5G以上の荷重が圧し掛かる中で冷静にエイムをコントロールする事など出来ないし、6Gではまともな意識を残す事も出来ないだろう。
7G環境で戦闘機動をこなせる者を人類とは呼ばない。
それは『メナス』というのだ。
部下やオペレーターの仲間がドン引きしている中、灰白色のエイムは敵機を殴殺し続ける。
その8割を殲滅したあたりで、遂にパンナコッタⅡのレーザー砲がメナスの軽空母を直撃。シールドを剥ぎ本体を撃ち抜いた。
『パンナコッタでも軽空母タイプならどうにかなるわね』
と、場違いに穏やかな笑みで言う通信ウィンドウのマリーン船長。
船の性能あっての事だが、電子戦闘、砲撃戦、共に完封である。メナス母艦を単独で撃沈する宇宙船など、エイムオペレーター達だって聞いた事ない。
800キロメートルという比較的近い距離で爆発する異形の船を見ながら、エイム乗り達は皆「この船には化け物しかいないのか」などと失礼な事を思っていた。
それから間も無くパンナコッタⅡは衛星ベルオルの防空圏内に侵入。またしても灰白色のエイムが特攻し、対空火器を少々破壊して船の進路を開く。
打ち上げられるレールガンやキネティック弾、レーザーの歓迎を受けながら、船とエイムは衛星表面へと強行着陸を果たした。
◇
第7惑星フィルアモスの第3衛星、ベルオル。
星系が惑星改良に着手する以前から存在した自然の衛星だが、フィルアモスの発展と平行して有効利用しようという計画が持ち上がり、真球状に造成され居住環境が整えられてきたという経緯がある。
その大きさと質量は地球の衛星である月の7割程度だが、内部は宇宙船やコロニー構造体同様の物を備えており、閉鎖環境である事を除けば惑星上とほぼ変わらない生活が可能だった。
『基本的によくある地下都市だな。衛星の中に3辺が10キロくらいの大穴を作って階層化してある』
「前に降りた砂漠の星みたいに?」
『んあ? イラオスか? 規模が違い過ぎるな。ここに比べりゃあそこは単なる穴倉じゃね? っとユイリ、進行30度にコンタクト』
「あいあい」
そんな話しをしながら、灰白色のエイムに乗る赤毛娘は施設の陰から飛び出してきた敵機へ発砲。バラバラになりながら迫る機体を、最後に左腕部の物理シールドユニットで殴り倒した。
なんとも緊張感が無いが、相手が無人機な上にリモートでコントロールもされておらず、電子妨害で簡単に弱体化できるのだ。
先ほどまで相手取っていたメナスに比べれば、うっかり緊張感を欠きそうな相手。
他のエイム乗り達も、特に苦労せず警備ドローンを排除していた。
唯理のエイムを先頭に、地表スレスレをパンナコッタⅡとエイムチームが進む。向かう先は地下都市への入り口だ。
上空を見ると、メナスと各勢力の艦隊が激しい戦闘を続けている光景があった。いずれも数十万キロ単位離れた宙域での事だが。
そのおかげで、救出部隊のパンナコッタⅡやエイムチームは比較的自由に動けるのだから、不幸中の幸い。感謝せねばなるまい。
ものの5分もしないうちに、一行は平たいドームのような建造物の前に到着。これが、地下都市の蓋という話だった。
平たい、とは言ってもそれは全体の比率で見た場合の事。その外縁部は高さ150メートル、中央で300メートルを超えている。
ドームも周辺の何かしらの施設も、どれも灰色や黒で彩りの欠片も無く殺伐としていた。
『フィスちゃん、中と通信は?』
『やっぱダメだな、完全に封鎖してやがる。これもしかして対ECMモードなんじゃねーの? システム乗っ取りを警戒したロックダウンなら、そこまでやるかもなー』
『ダナちゃん、あっちの船と連絡は?』
『良くない。アレンベルトもバウンサーも深刻なダメージを負ったらしい。「フリットタイド」に所属の分からない艦隊も確認出来るという連絡だ。向こうは一旦応急修理の為に中間点で停船するそうだ』
パンナコッタⅡを施設に寄せ、マリーン船長は次の行動を選択する。エイムチームは周辺の警戒だ。
オペ娘のフィスは目的の人物と連絡を試みるが、今までと同様に反応が無し。中継する施設自体が沈黙しているという状況。
メカニックのダナは別行動中の船と連絡を取るが、囮となった3隻は艦隊を振り切ったものの船体に損傷を負ったとか。一刻も早く目的を達して合流する必要があった。
『それじゃ、プランBね。直接本人を確認するしかないわ。フィスちゃん、施設をコントロール出来る?』
『ユイリ、搬入口のターミナルに接触してくれ。閉鎖してるからリモート出来やしねぇ』
「ちょっと待った、ラヴ、ターミナルにアクセス。メイと私で援護する。グーンツ、モールド、パックスはパンナコッタの護衛だ。
どんな防衛システムに引っかかるか分からない。集中しろ」
白と赤のエイムがパンナコッタの上から飛び降り、黒と紫のエイムが施設の脇にある大扉へと向かう。
灰白色に青のエイムは、最後尾に付き後方の警戒だ。
ずいぶん手馴れた行動に見えたが、マリーン船長もダナも何も言わない。
エイムと同色の黒い船外活動スーツを着たラヴが、コクピットから地面に降りて端末のカバーを引き上げる。
下から出てきた黒い板に指を触れると、スーツのインターフェイスと端末が同期。更に、通信を経由しパンナコッタⅡのオペ娘がアクセスした。
端末はロックされていたが、フィスなら開錠は難しくない。早々にセキュリティーを抜けると、搬入口の大扉を開口させた。
内部は格納庫も兼ねているらしく、駆逐艦ならギリギリ入れそうな広さと設備がある。
唯理とメイ、ラヴの3機は搬入口内に入り安全を確保、次にパンナコッタⅡが後ろ向きに進入し、扉の前をグーンツらのチームBが防衛に入った。
ハイスペリオン星系での残り時間は、42時間から43時間。
ここまで散々苦労してきたが、まだ目的はひとつとして達成していない。
◇
メイとラヴ、それに唯理のエイムは、一旦パンナコッタⅡの格納庫に戻る。次の行動の準備を整える為だ。
格納庫の駐機ステーションにエイムを停めると、オペレーターの少女たちは船首にある船橋へ。
そこで都市内の捜索について打ち合わせる事となっていた。
桃色ロングヘアの喧嘩屋と長い黒髪のクール美女は、ふたり揃ってぐったりしている。
赤毛の方も多少の疲労は感じていたが、以前と違い動くのに支障は無さそうだった。
「メインフレームはやっぱダメだった。ここからアクセスできたのはハンガー周りだけな。
行く先々でターミナル開放してくれりゃこっちからコントロール出来るから、やっぱ直接降りるしかなさそうだわ」
船橋に入ると、オペ娘のフィスが床面のディスプレイに地下都市の構造図を表示しながら言う。
メカニック嬢のエイミーは、唯理らエイムオペレーターにドリンクのボトルを持ってきてくれた。
一口含むと驚くほど染みていくのは、この時代の科学飲料の為か、それとも実戦で消耗した故の事か。
とにかく有難く思いながら、唯理の方からも話を進める。
「例の家族がいそうなのは?」
「都市は全20層、多少上下するけど一層あたり約200メートルから300メートル。エイムが入れるな。
上層3つと最下層3つは軍事施設と都市内の生命維持インフラ、居住区はその間なんだけど……下のインフラ施設が避難場所になってるんだよなー。もしかしたらそっちに行ってるかも」
「現状じゃちょっと不明ね」
地下都市内部にはエイムで侵入可能だった。その為、引き続き唯理のエイムチームと元特殊戦部隊員のダナが家族を回収しに行く事になる。
が、いかんせん肝心な要救助者の位置が不明だった。内部のシステムを掌握し、効率良く探すしかない。
メナスとの戦闘後なので、エイム3機は大急ぎで補給を受けている最中だ。ダナ以外に船団から連れて来たメカニック達も、忙しなく動き回っていた。
ヒト型機動兵器を囲むようにクレーンアームが動き、角ばった無骨な装甲を換装し、四角い砲身のレールガンの弾倉を入れ替え、破損箇所に素材を盛り再成形していく。
騒音と熱気の溢れる格納庫内は、今が戦闘中のようだ。
「地下3層までは軍の施設だけど、都市の封鎖でシステム止まってるし素通りする分には問題ないだろ。地下4層からメインフレームに近いターミナルハブを探して、そこからアクセスしてくれ」
「残り時間は42時間あるけど、捜索する時間と艦隊まで行く時間を考えると十分とは言えないわ。急いでほしいけど、みんな十分気をつけてね。
内部でもドローンやセキュリティーボットが動いているかもしれないから」
「了解しました。ここで失敗すると元も子もなし。慎重にいきましょう」
エイムを整備する間、チームAのふたりはパンナコッタ内のキャビンでしばし休憩。メイがパナセンにハマり食い尽くしていたが、ラヴもまたクッキーをひたすらげっ歯類の如く齧っていた。
チームBはひとりずつ入れ替わりで休憩を取り、その間に唯理はエイミーによって医務室に放り込まれていた。
30分後。
ダナをラヴの黒と紫のエイムに同乗させ、チームAの3機は貨物用エレベーターへと進む。
気圧調整機能を持ち、都市内部へ直接シャトルで乗り付けられるほど大型のカーゴだ。エイム3機も何とか納まる。
このエレベーターで地下6層に行き、ネットワークのハブかそれに近いターミナルへアクセスし、一階層ずつ住民の捜索をして行く、はずだった。
ところが、地下3層まで降りたところで、エレベーターのカーゴが突如止まってしまう。
ネットワークから切断され、アクセスしても弾かれた。
機械の唸りが止まり、不意に訪れる静寂。
一体何事かと、皆が息を潜めて周囲の様子を窺う。
「あれ? 軍事階は素通り出来るんじゃなかったっけ??」
『そーだよ、都市がロックダウンかかってるから軍施設も閉鎖されて、セキュリティーシステム回りのクリアランスも停…………あ、ヤベ』
焦りを含むフィスの科白がポカンとしたモノに変わった瞬間、唯理も凡その所を理解した。
要は都市全体が閉ざされたので外部からの侵入者を警戒する必要が無く、軍も大半が出払い閉鎖状態にある為、内部に関してはノーチェックで素通しだった、と。
うんでもロックダウンはさっきわたし達が解除しちゃったしね。
「ラヴ、メイ、一斉射撃」
唯理はふたりに指示を出すと、返事も待たずにブースター点火。
カーゴの扉が開くと同時に、左腕部のシールドユニットを出力最大にして飛び出した。
地面を踏み切る灰白色のエイムは、その勢いで目の前にいた細長い無人機を殴り飛ばす。
更に肩部のマニューバブースターを爆発させると、横の無人機にシールドユニットで体当たり。
奥にいたもう一機の無人機へ突き飛ばすと、自らも腕部に仕込まれたビームブレイドを展開し斬りかかった。
つまり、ロックダウンに穴を開けた時点で、メインフレームか専用のシステムがセキュリティーを復活させたワケだ。
急な事態に付いて行けなかったエイム乗りの少女ふたりも、咄嗟にエレベーターの外で待ち伏せていた無人機に発砲。
飛び出した唯理機に反応して混乱気味だった警備の無人機を片っ端から破壊した。
『ぐぁああ! すまんミスった!! アクセス感知されれば何かしらプログラム動くって予想できるだろうにアホかオレは!!?』
「エレベーターは再起動できるの?」
『ちょい待ち……いや無理だ、軍のサブフレームにコントロール持って行かれてる! 端末からはオーバーライドできねー!!』
『床ブチ抜いて直接下に降りればいいんじゃない!?』
『エアロックを兼ねるエレベーターだぞ!? だから外からの進入は軍の検問を通すんだよ!! そこぶっ壊したら都市全体の気密がヤバくなる!! 感知された途端に全部の隔壁が閉鎖されるぞ!!』
「別のルートは?」
『えーと……!? 中央にメインシャフトとエレベーター! 外部に通じてないからコントロール独立してる! アクセスできればこっちで操作できるぜ!!
でも軍施設を通り抜けて4階層まで降りてからじゃねーと――――――――』
「了解、突破する。メイは副座にダナさん抱えてるラヴ機を援護。ふたりとも私に遅れるなよ」
高さ300メートルという狭い空間を、無人機からの砲弾やレーザーを躱わして縦横無尽に動き回る灰白色のエイム。
地下3層エリアは暗く、軍事施設と思しき建物の角に赤色等が明滅してた。
時折放たれる光線とレールガンの紫電で周囲が照らし出され、その一瞬だけ破壊される兵器の姿が露になる。
地下都市外周部のエレベーターは使えず、唯理たちチームAは中央にある軍事施設と繋がりの無いエレベーターを使わざるを得なかった。
メイなどはエレベーターを破壊して直接シャフトを降りればよい、と言うが、宇宙にある施設を迂闊に破壊するのは自分にもそれ以外の者にも危険が大き過ぎる行為だ。大穴を開けた日には都市全体の防災システムが飛び起きると言う。
仮に宇宙空間でなくても、破壊活動には常に熟考を求めたい。
都市中央、メインフレームや生活インフラが集中する都市の脊椎とも言えるシャフトへ向かうには、軍事施設を突破し一階下に自力で降りる必要がある。
そうなると当然、復活したセキュリティーシステムを回避しなくてはならないのだが、赤毛娘は回避ではなく邪魔なら片っ端から破壊する勢いだった。
下半身の大型タイヤで走行し、両腕マニピュレーターが短機関銃になっている無人機型エイムが3機ごとに連なり接近する。
全高が10メートルと低く、明らかに安い作りだが数が多い。そのような運用を前提とした機体なのだろう。
これらがショットガンのような散弾を短機関銃で撃ってくるのだが、唯理は正面から殴りかかった。
もはやこの赤毛にとってシールドユニットは特攻兵器か破城槌である。
シールドとブースターの出力に物を言わせ、転がってくる無人機をボーリングのピンのように吹き飛ばすと、ビームブレイドを振り回して一瞬で八つ裂きに。
あるいはメイの短機関銃×2とラヴの高出力対艦レーザー砲でスクラップにされていた。
警備の無人機と防衛設備を叩き潰して進む3機は、オペ娘から送られてくるロケーター情報に従い軍施設の管理棟へ突入。
エイムが入れるようなビルではないのだが、お構い無しに破壊しながら進むと一階フロアの床を打ち抜く。
その建物は地下4層の行政ビルと同じ位置にあり、通用路を通す関係上で層を隔てるプレートも構造的に脆くなっていたらしい。
オフィスをメチャクチャに荒らし、床を踏み抜き、壁に大穴を開け強引に突き進む灰白色のエイムは、終いには壁面をビームブレイドで切断し、第4層への侵入を果たしていた。




