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Hi-G. -ハイスピードガールズ ディスタンス-  作者: 赤川
2nd distance.ドリフト
46/205

46G.オールドウェポン マニアックス

.


 小船団の先頭を行く剣のようなシルエットの船、『パンナコッタⅡ』は、船体上下の左右両舷に5基ずつ並ぶ計20基のアレイよりレーザーを発振。

 左舷側の光線は直進し、右舷側の光線は船体を回り込むように屈折すると、共和国艦隊を薙ぎ払った。

 規格外に強力なレーザーは一撃で戦艦クラスのシールドをダウンさせ、それ以下のクラスの戦闘艦を直撃する。

 重武装船『バウンサー』とステルス船『トゥーフィンガーズ』も追い撃ちの赤いレーザーを叩き込んでいた。

 300隻もの戦闘艦による反撃は、パンナコッタⅡとトゥーフィンガーズによる見えない電子防御と、シールド船『アレンベルト』の防御シールドに阻まれ届かない。

 ここまで十分に加速して来たパンナコッタの小船団と共和国艦隊では500万キロ以上の速度差があり、交戦圏内に入るのは3分間程になると思われた。


 しかし、断固として逃がさない構えの共和国艦隊は、大型艦に搭載していたヒト型機動兵器を発進させていた。

 側面からぶつかって来る勢いのエイム群、その数約500機。

 これを迎撃するべく出撃したパンナコッタのエイムチームは、僅かに6機。


「隊長機唯理より各機、母船の加速に置いて行かれないように注意。あの数に囲まれたら死ぬんで、突出せず船の近くでシールドに近づかれないように迎撃しろ。落とさなくていい。3分ちょっと叩き返せ」


 隊長機である灰白色に青の機体、オペレーターの赤毛娘は小船団の上方に駆け上がる。

 通信に応答しながら、他の機体も船団と敵エイム群の間に入り、船と同じ23Gまで加速した。

 大きな緑の星を背景に、4隻の船と6機のヒト型機動兵器がブースターを吹かし突っ走る。


 進行方向左舷からは、共和国艦隊からのレーザー攻撃とキネティック弾などの実体弾、それらに紛れて有人機と無人機の混成エイム部隊が急接近していた。

 500機ものエイムの中に、凄まじい急機動でレーザーを回避する機体がいる。無人機は人体の耐G限界に囚われない。

 その圧倒的な機動力は、どこぞの赤毛オペレーターに匹敵する。


 頭部の無い灰色のヒト型兵器が2機、交互に鋭く入れ替わりながら突進して来る。その後方には、頭部がある黒い装甲の機体がいた。

 前衛機は比較的簡素な装甲で、後衛のマッシブな機体は複雑な曲面で構成されており、高級な機種であるのが分かる。

 先行するエイムは、両腕部マニピュレーターにアサルトライフルとランチャーを一挺ずつ。後ろのエイムは、肩部に遅滞阻止兵器(ディレイWS)のレーザー兵器を搭載、左腕部はそのまま一体型のレーザー砲になっており、武装から支援型であるのが分かった。

 つまり、指揮官機に無人機『スクワイヤ』が2機という小隊編成だ。


「さて……噂の無人機の性能とやら、試そうか。メイ、ラヴ、行くぞ。私の撃ち漏らしを片付けろ」


『まかせれー!』

『了解……』


 唯理とチームAの2機もブースターの出力を増し迎撃に出る。

 灰白色のエイムが、背面と脚部から白いブラストを吹き敵機へと直進。同時に、左腕部マニピュレーターに装備する砲から、レーザーを連続で発振した。

 2,000キロまで接近した敵エイムに初弾が直撃。しかしシールドで防御した敵エイムは、直ちに回避運動に入る。その動きは恐ろしく早く、高機動による重力加速度は瞬間最大で60Gを超えていた。


 基本的な重力制御機が、50Gを体感で7G程度に抑えるという。

 この時点で並みのエイム乗りでは操縦がおぼつかず、生命維持に問題が出ると言うのだから、なるほど無人機というのは凄まじい性能を有していると言えた。

 これに対しては、電子対抗装置(ECM)による妨害波(ジャミング)収束(スポット)攻撃が有効とされているが。


「反応が単純過ぎる」


 唯理は敵機に直進する軌道を取りつつ攻撃し、3斉射後に無人機へ直撃を喰らわせて見せた。

 今のところジャミングは使っていない。とりあえず様子見のつもりだったので。

 故に、通常の射撃で一手一手相手の反応を読み、動きの変わる一瞬を狙い本命の一撃を合わせたのである。

 右腕部に装備したアサルトライフル型のレールガン、その固め撃ちをまともに受け、無人僚機(スクワイヤ)は中破。

 機能不全に陥った所を、黒と紫のエイムが担いだ高出力レーザー砲にて撃ち抜いた。


 灰白色に青のエイムは、撃墜した敵機を一顧だにせず次の目標へと攻撃開始。

 今度は先にジャミング波を当て、動きを鈍らせた直後に一瞬で撃墜する。

 指揮官機は状況を理解する暇も無かっただろう。

 無人僚機(スクワイヤ)という守りを無くしたところを、3機のエイムから立て続けに発砲を受け吹き飛んでしまった。

 チームAの勢いは止まらず、パンナコッタⅡやバウンサーのレーザーに追い回される共和国のエイム部隊を片っ端から叩き落す。


「この程度なら問題ないな。チームBはこのまま定点防御。私たちは遊撃を続ける」

『ねぇタイチョー!? どうやったらジャミング無しにスクワイヤを狙い撃ちにできるのよ!? この前から思ってたけど未来予知でもしてるの!? ていうかシミュレーションと全然動き違うし!!!』

「攻撃も回避も加速に任せて単調なマニューバしか取らないから、予測はできるよ」


 テンションを上げた桃色髪の姉さんが悲鳴を上げるように言う。

 赤毛の方はサラッと答えるが、無論そんな簡単なワケがなかった。エイムのシステム以上の反応速度に、相手の動きを見切る洞察術と想像力があってこそだ。

 実際には、無人機へ電子対抗装置(ECM)のジャミングを(スポット)で当てるのもひと苦労だし、人間が追い切れる加速度ではないし、回避軌道アルゴリズムも常に進化しているような代物である。

 そんなモノと真っ向勝負する事自体が前代未聞なのだ。


 唯理が射撃で無人機(スクワイヤ)の軌道を変えさせ、衝突コースに乗せられた2機が一瞬動きを止めた。

 それをパンナコッタⅡのレーザーが2機纏めて撃ち抜く。

 シールド船アレンベルト以外の3隻は、レーザー兵器や迎撃用レールガンのディレイWSを派手に打ち上げていた。

 遠距離からの攻撃はシールドに阻まれ、強力な防衛火器とエイムチームに迎撃され接近も許されない。

 既に共和国艦隊とパンナコッタⅡの小船団は最接近距離を過ぎ、速度で圧倒するパンナコッタ側が突き放しつつあった。


 この状況に、共和国のエイム部隊は大量投入している無人機の特性を活かした戦術に出る。

 すなわち、エイムそのものを質量弾に使った自爆攻撃だ。

 有人の指揮官機以外、300機近いヒト型機動兵器が回避軌道を取りながら小船団に突っ込んで来た。

 灰白色のエイムは真っ正面からこれを迎え撃ち、ジャミングを撃ちレーザーとレールガンを乱射しビームブレイド4刀を振り回し、片っ端から無人機を撃墜。

 船団とその他の護衛機も、あらん限りの弾幕を形成して敵集団を削りまくる。

 あたかも、それは迫る端から壁が弾け飛ぶようだった。


 その後の共和国艦隊が完全に沈黙したのは、攻撃の手を全て失ったからか。

 それとも、たった4隻相手に大損害を被り唖然とでもしているのか。

 一瞬の激突を凌ぎ切った小船団は、見る間に艦隊を突き放していた。


『みんなお疲れ様。急かして悪いけど、また誰かさんに進路を塞がれる前にワープに入るわよ。すぐに帰って来てね』


『やれやれ忙しいこったな。ぼちぼち惑星の引力が混ざってワープ計算とか厳しいから加速止めるぜ。さっさと船に戻れよー』


 パンナコッタⅡと他の船やエイムチームに目立った損害は無かった。終始防御シールドを展開してアレンベルトが消耗し、チームBのエイムが流れ弾で片腕を吹き飛ばされた程度だ。

 船長やオペ娘に言われてパンナコッタⅡの格納庫に戻ると、すぐに小船団は増速を停止。慣性航行で時速700万キロ超の速度のまま、11番惑星の引力圏に沿って緩やかに軌道を変える。


 ハイスペリオン星系での作戦に残されたのは、約45時間。

 パンナコッタⅡと3隻の船は、またしても危険なダイレクトワープを敢行すると、次の難所である第8惑星宙域へ突入する事になる。

 今し方の戦闘など、序の口に過ぎない。

 本当に大変な事となるのは、これからだろう。


 それは誰しも分かっていた事ではあったが、この後に続く現実は、何もかもが遥かに想像を超えていた。


                 ◇


 ハイスペリオン星系、第8惑星の警戒宙域手前にワープアウトしたパンナコッタⅡと他3隻。

 だが、それから間もなく解析し切れないほど小さな探知システムか何かに引っ掛かったらしく、様々な勢力がわらわらと集まって来ていた。

 何せ普通はやらない星系内のワープだった為に、相当怪しい存在と見られたらしい。

 更に、ここからは減速に入る関係上、徐々に接敵時間も長くなる事となる。


『カムフラで大艦隊に見せかけるけど、虚仮脅しにもならんねぇ! 嫌がらせくらいにはなるかね!!』


「距離9万、右15度上29度に皇国艦隊数1,600! 距離19万の所にどこかのPFO数50! 14万4,000キロにハイスペリオン星系艦隊! 所属不明が20万キロ地点に100ばかし! その他多数! 回避軌道出すぜ、ロケーターをスノーに転送!!」


『全シールドジェネレーターを最大運転に、防御フィールド全周展開。各船とのトリガータイミングを同期』

『ジェネレーター01より04まで全力運転開始します。ジェネレーター、コンデンサ共にシールドブレードへ接続待機』


『近づく野郎は片っ端からブッ飛ばすぞ! 今度こそワシのハードバンチャーをブチかましてくれるわい!!』


 船首に向いた減速用ブースターを燃焼させる4隻は、それぞれが戦闘体勢に入る。

 船橋(ブリッジ)のディスプレイには、小船団を中心として第8惑星と周辺の艦隊の動きが表示されていた。

 それは、先ほどの共和国艦隊が微風に感じる程度の戦力となっている。

 パンナコッタⅡも、その性能を遺憾なく発揮するのはここからだ。


 その一方で、


「ユイリは『フィルアモス』降下まで待機だからね?」


『大人しくしてるのよー』


「…………分かってますよぅ」


 エンジニアのメガネ少女と通信越しの船長にダブルで釘を刺され、憮然とするほかない赤毛。

 唯理は僅か30分程の休憩を挟み、再びヒト型機動兵器に乗り込んでいた。

 エイムチームは次の出撃を控え、整備を行いつつ待機中だ。次の出番は第一の目的地である第7惑星近傍であるのが望ましい。

 本来ならば先の戦闘と同じく敵機接近に備え、また減速しつつある小船団の近接防御に出なければならないのだが、ギリギリまで出撃は待つ事となった。

 300隻相手でも結構危なかったのに大丈夫か? と唯理は思うが、かといって第7惑星を目前にエイムチームが致命的なダメージを負うと、降下に支障が出るので仕方ないというのは分かっている。


 剣のように鋭い高速船が、規格外のレーザー砲を連続で三斉射した。

 屈折してから船首方向に広がる青い光線は、進路上にいたどこぞの艦隊を追い散らす。

 200メートルクラスのクルーザー、500メートルクラスの巡洋艦、そして800メートル超の主力戦艦クラスといった戦闘艦艇が攻撃を受け、火を噴いて蛇行していった。

 その一方で、射線から外れている他の勢力は、四方八方からパンナコッタらの小船団へ砲撃を叩き付ける。

 防御は今まで通りシールド船アレンベルトが受け持つが、今度は一方にシールドを集中するというワケにも行かず、また被弾数も桁違いに多い。攻撃を受ける度にシールドが白み、味方の砲撃と連動してカットオフされる、と非常に忙しない事になっていた。

 また、攻撃を取捨選択して幾らかを他の船に流し自力で防御させ、アレンベルト自身はシールド発動によるジェネレーターの負荷を減らしている。

 宇宙船の戦術データリンクは、こういった細密な連携を可能としていた。


 とはいえ、それはつまりスペックいっぱいいっぱいで稼働している、という意味でもある。


 惑星の引力圏に沿って、緩やかに進行方向を変え続ける小船団。減速しているが、未だに600万キロ台という超高速圏にいる。

 空気抵抗の無い真空中なら――――――引力の影響はあるにしても――――――いくらでも加速し続けられるとはいえ、デブリなどの浮遊物体と衝突するイレギュラーを想定すれば、気が狂ったような速度といえた。

 しかも惑星と艦隊の至近距離で、戦闘機動中につき予測進路はリアルタイムに変化する。対物レーダーの監視に駆り出されたエイミーなどは生きた心地がしないのであった。


 恒星と16の惑星と、それらに付随する衛星の持つ引力圏。

 単純かつ巨大な質量による3次元空間への干渉は、スクワッシュドライブという数億キロメートルに超光速で針の穴を通す作業を凄まじく困難にさせる。

 何より、惑星や小惑星帯、コロニーといった物理的な障壁を越えるような航宙技術ではない。

 ワープするには進路を確保する必要がある。

 その為に、灰色に曇る星の衛星軌道上を突っ走っていると、霞む大気層の向こうから徐々に次の星が見えてきた。

 距離にして約1億1千万キロ、第一の目的地である第7惑星である。

 それは見通し線上に輝き障害物も無く、また大きな引力圏の間近で空間が安定しており、どうにか短距離ワープが可能な状況だった。


「スキャン終了! ワープアウト先は見つかったけどバウンサーがまだコンデンサのチャージ出来てねぇ!」

「もう……特殊な装備にパワーを割き過ぎじゃないの?」


『ジェネレーターは別じゃい! 言われんでもオーバードライブ状態でチャージしとるわぁ!!』

『主機副機共に出力125%! コンデンサ充填率15%!!』


 スクワッシュドライブによる空間圧縮回廊の設定をしたいフィスだったが、生憎と他の船がワープ直後のため蓄電出来ていなかった。

 マリーン船長は、バウンサーという船のシステム上の問題では、と眉を(ひそ)めるが、ウォーダン船長は声を大にしてこれを否定する。


 進行方向右舷、第8惑星の反対側からはハイスペリオン星系艦隊の高速艦が接近していた。

 追撃に適した駆逐艦以下フリゲートやクルーザーといった優速艦、その数33隻。

 両サイドにヒレを持った四角い戦闘艦が、レーザーを撃ちながら小船団を星に押し付けようとプレッシャーをかけて来る。

 更に、母艦の加速に乗りエイムも飛び出し、小船団に取り付こうとしていた。

 対空火器が紫電と光線を放ち、シールドを張るヒト型機動兵器が弾き飛ばされる。

 その友軍機を援護すべく、星系艦隊の戦闘艦が怒涛の一斉射。

 後方の惑星大気を穴だらけにする艦砲射撃に晒され、アレンベルトの強化シールドが負荷限界を超え消失した。

 すかさずシールドを最大出力にしたパンナコッタⅡが間に入り盾になる。


「ひゃー!? 何百テラジュールってエネルギー量だよ! この船ならともかくアレンベルトはよくもってたね!?」

「こっちも結構な勢いでシールドヘコんでるけどな! ダナこれ展開範囲広げて大丈夫か!? 引力圏の湾曲誤差修正、スクワッシュドライブのルート特定データ送るぞ!」

『このクソ忙しいのにワープ設定なんてやってらんねぇよ!?』

『黙ってやらんかぁ! ここでワープせにゃ1億キロ延々とタコ殴りじゃろうが!!』

「コントロール! 私のネザーズにジェネレーターのステータスをリアルタイムで表示しろ! シールドはノーマルベクターを外向きに30度偏向! ジェネレーターが5割切ったらソリッドからサプレッションモードに切り替えるぞ!!」

『メインメカニックの命令を確認、メインフレームのジェネレーター情報をネザーインターフェイスにフィードバックします。

 レポート、現在グラヴィティーシールド減衰73%、低下中。フォースシールド減衰89%、低下中。偏向角度30度へ調整。艦体ダメージ0%、全機能問題無し。シールドジェネレーター過負荷、出力80%、低下中』

「スノーちゃん、多少船体が踊っても(・・・・)構わないから、他の船をフォローする位置をキープ。なんならシールドごとぶつけちゃって」


 そのパンナコッタⅡの船首船橋(ブリッジ)では、クルーの娘たちが全力で船を操作していた。

 火器管制を受け持つメガネエンジニア嬢は、撃ち返されるレーザーの量に悲鳴を上げる。普通の船なら50回はデブリと化している威力だ。

 ワープの準備で忙しいオペ娘も、ゴリゴリ減っていくジェネレーターの出力表示に生きた心地がしない。いくらパンナコッタⅡの装甲が尋常でなく強固とはいえ、シールドが尽きた後で強度を試したいとは思わなかった。

 共有通信では重武装船バウンサーの船長が怒鳴っていた。無茶振りされるオペレーターは涙目になっている。

 機関士兼メカニックの姐御はジェネレーターの数値に神経を尖らせながらシールドをコントロール中だ。防御システムが常にシールドを維持しようとする特性上、ダメージによる減衰は即ジェネレーターの負荷に跳ね返り、過負荷がかかり続ければ強制停止(スクラム)状態となる。

 パンナコッタⅡのシールドジェネレーターは戦艦クラス以上の出力を持っていたが、かと言って33隻の戦闘艦と20機のヒト型機動兵器から滅多打ちにされている現状では、暢気に構えていられないのだ。

 それに、既にいっぱいいっぱいの他3隻のフォローに入れるのもパンナコッタⅡだけだ。

 小さな操舵手が船を横滑りさせ、味方船への射線を遮る。


『マリーン! 合図で船を横にどかせ! 今度こそ本当にハードバンチャーをお見舞いしてやるわい!!』

「それはいいけどスクワッシュドライブコンデンサーの方は?」

『もう終わっとるわ! ワープに付いて来られると邪魔じゃろう、肝を冷やしてやるんじゃ!! 中央砲右40度回せ! 連中を射界に入れるんじゃぁ!!』


 剣のような白い船は、飛来するレーザーをシールドで乱反射させていた。

 が、不意に大きくロールして位置を変える。

 その下から現れた黒い武装船は、船体上部へ押し出した長い砲塔を旋回。

 船の右舷に砲口を向け、


『充填加速率88%! 予定出力267ギガワット!!』

『ECCM最大! レーダーにイルミネーターデータリンク! 集束レンジ設定距離50キロ! ターゲットウィンドウ解放準備よし! 安全装置解除! オヤジさん撃てます!!』


『っしゃぁあ! ハードバンチャー叩っ込めぇええええ!!』



 煮え滾った灼熱の奔流が、エイム部隊と艦隊のど真ん中を貫いた。



 軍用の高出力シールドが抵抗も出来ず吹き飛ばされ、ヒト型の重金属の塊が半ばまで溶解する。

 それより遥かに強固であるはずの戦艦のシールドも、2隻3隻と纏めて撃ち抜かれていた。


 パンナコッタⅡが敵の武装を狙い破壊しているのを差し引いても、通常のレーザー兵器とは比べ物にならない威力である。


「ビーム砲? バウンサーって、荷電粒子砲を搭載している??」


 エイムのコクピットにいた赤毛娘は、ディスプレイに映る映像と解析データに目を丸くしていた。

 自身もエイムでビームブレイドを多用するが、光学集束(レーザー)砲や電離プラズマ砲以外に荷電粒子(ビーム)の砲熕兵器を人類が(・・・)持っているとは思わなかったのだ。

 これまで何度か戦闘を経験した中で、他に搭載した船を見たことがないが、


「荷電粒子砲ってメナスが装備しているだけじゃないんだ…………」


 てっきり人類の敵であるメナス自律兵器群だけが持っているものとばかり。


『メナスの荷電粒子砲は、実際の所はどういう物か良く分かっていません。観測情報から、何らかの物質をエネルギー化して射出しているらしい、という推測だけです。

 恐らく人類の観測外にあるダークマターを粒子原に用いているのではないか、というのが定説ですが…………』


 赤毛娘の疑問に答えたのが、共有通信を開いていた冷静美人のラヴだった。

 技術的な説明をしてくれるエンジニアのメガネ嬢が忙しいので代打である。


「バウンサーが積んでいるのはメナス由来の技術? 人類自前の?」


『通常の……イオンブラスターシステムだったと思いますが』


 詳しくない、と前置きするクールガールだったが、重武装船バウンサーはキングダム船団内でも名が通っているという。


 この船は船団の守りの要であり、船長のウォーダンは兵器マニアでもあるとか。信条は、鍛えられた肉体に最強の武器。

 そんな兵器マニア船長が自分の船に搭載している自慢の逸品が、船体上部に堂々鎮座ましましている『ハードバンチャー』と名付けた荷電粒子加速砲であるらしい。

 レーザーと異なり、ビームは光速の98%程度まで加速された質量体であり、その圧倒的な運動質量と熱量はエネルギーシールドに対して著しい効果を発揮する。


 それじゃなんでそんな有効な兵器がバウンサー以外に搭載されてないのさ、というのは、赤毛娘でなくても当然の疑問であっただろう。


 その主な理由は、既存の実態弾兵器(レールガン)光学集束砲(レーザー)に比して、荷電粒子(ビーム)砲は扱いが難しい手間がかかる微妙な兵器だ、という所に落ち着いていた。

 何せレーザーは電力さえあれば撃てる。システムの損耗や負荷を考えなければ、いくらでも連発出来て、しかも文字通り光の速さで攻撃できる。

 レールガンは弾数に制限されるものの、比較的構造や原理が単純で長く使われてきた実績から信頼性も高く、秒速1万メートル前後の弾速ではあるが使い勝手が良い。エネルギーシールドに対しても有効だ。


 対して、荷電粒子砲は砲弾にあたる粒子原が必要であるし、これを亜光速にまで加速するのに時間と、また別にエネルギーがかかる。即射性と対応力に関して大きな疑問があった。

 そして専用の粒子加速器や荷電された粒子の集束システム、また場合によっては独立した動力や制御システムを用意する必要があり、結果として機構全体が大規模化する。

 レーザーやレールガンの10倍じゃ効かない。


 ちなみに、エイムなどが携行するビームブレイドは5から10メートル程度荷電粒子が収束出来ればよいので、システムも持ち手部分に収まるサイズとなっている。

 その実態は俗に『トーチ』とも呼ばれる溶断工作機の延長にあり、そちらの方が大砲として使うより遥かに普及していた。


 今となっては大型戦艦や軍事施設が対シールド兵器として少数運用しているだけで、個人で所有している例など皆無に等しいとか。

 そんな希少な例外が、重武装船バウンサーである、と。


 威力と手数共にパンナコッタの可変共振動レーザーには及ばないのだろうが、確かに対シールド特性と見た目のインパクトは凄かった。まさか民間改造船がビーム撃ってくるとは思わないだろう。

 追撃して来た星系艦隊は一斉に回避行動に出る。未知のレーザー兵器に加えて荷電粒子砲を相手にするなど、被害が大きくなり過ぎていた。

 しかも、ここで混戦状態なのが――――――小船団にとって――――――良い方向に動く。刺激された私設艦隊(PFO)のひとつと星系艦隊本体が殴り合いをはじめたのだ。

 この機を逃がさず、小船団もキネティック弾やブロッカーといった実体弾をバラ撒き進路を妨害した。


 狙い通り時間を稼いだバウンサーとパンナコッタ他2隻は、この隙に1億キロ先にある第7惑星の近傍宙域へとワープ。

 第8惑星の交戦圏から一気に逃げるが、ひと息吐く暇も無く、そこも新たな戦闘宙域なのである。



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