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Hi-G. -ハイスピードガールズ ディスタンス-  作者: 赤川
8th distance.ノスタルジア
205/205

198G.タービュランス フロント,レラティブウェイブ

.


 皇国中央星系、央州。

 本星タカ・マッカ・ハラ。

 首都『皇京』。


 サブコミの溜まり場となっている水路沿いの純喫茶『マドンナ』を出た、その後。

 赤毛の予科学生『村雨ユリ』こと村瀬唯理(むらせゆいり)は、裏町から表通りの方へ移動していた。

  『不動伏臥士道会ふどうふがくしどうかい』の協力は得られなかったが、それも複数あるプランのひとつ。

 石長(いわなが)サキ、皇女コノハナサクヤに会うために皇宮へと潜入する手段は、ほかにも考えてあった。


(まぁディーたちの方が先に接触するかもしれないけど。それはそれでイイとして、アマノハバキリには早めに入っておきたいし……。

 他のサブコミュニティの前に、情報業者の方をあたってみるか)


 赤毛の少女はインフォギアでルートを確認。目の前に、他者には見えない地図が空中投影される。

 次の目的地は、皇京中央にある大通りを渡った先にあった。


 皇京は現在、身分制度における一般市民層、民位階級による権利復興運動の真っ最中だ。

 大通りを埋めつくす人々が、大河のような流れを成している。

 四位制度の撤廃 、四位院と皇務省は正当な皇王を認めろ。デモ隊がシュプレヒコールを上げている。


 上空では警士の警備艇(ボート)が並走し、デモ隊を監視していた。武装を向けているのは、明らかな威圧だ。

 制圧する命令待ちか、デモ隊の粗探しをしている最中か。


 唯理は、ちょうど吹きこぼれる寸前に出喰わしたらしい、と判断する。

 ついてない。


 事が起こる前に大通りを越えよう。そう思い群衆の中に入ろうとする赤毛の少女。

 三大国のひとつ、その首都の大通りだけあって、道幅は300m近くある。今は車両通行止めにされているが。

 制服姿の赤毛の少女は、比較的人口密度の浅いところを見極めると、そこへ分け入って行った。



 直後、同じところに飛び込む女子大学生、打海朝灯(うつみあさひ)だ。



「ち、ちょっと待って――――!」


  呼び止めようと声を上げるが、デモ隊の怒声に紛れてほとんどかき消えてしまう。

 容赦なく、横殴りに流れてくるヒトの流れ。

 赤毛の美少女を見失い、周囲は殺気立った人間ばかり。

 ついには突き飛ばされ、路面に膝をついた打海は泣きそうになっていた。


 そこを、赤毛の美少女に強く引っ張りあげられる。


 いつの間にか、村雨ユリと名乗った少女が、横から打海の腰に手を回していた。

 前にいたはずなのに。

 驚きと混乱の女子大生だったが、周囲の騒々しさと、そんな中を有無を言わせず前進する赤毛の意外な頼もしさに、疑問のセリフが出て来ない。


「何かご用ですか? そちらのサブコミュニティには協力を拒否されたと思いましたが」


 逆に、赤毛の少女の方が打海へ質問を発していた。

 特に責めるような口調ではないのだが、後ろめたさのある女子大生には、その抑揚のない声色が少し怖い。


「あ、あの……臥島(がじま)さん……私達のリーダーが、戻ってもらうようにって…………」


「横柄な物言いを反省した、そんなワケではありませんよね。

 ヴァッサイの調達グループに自分たちが支援されている立場なのを思い出した、そんなところですか」


 まさしく。お山の大将の浅はかな考えを見抜く赤毛の少女である。

 だがそんなことより、打海には直近に大きな問題が迫っていた。


 村雨ユリのご尊顔が近すぎる。


(ひえぇ…………肌キレー! 目もキレー! 唇なんでこんなエロカワイイ!? 鼻の形良すぎん!? 声とかずっと聴いてると鼓膜と脳みそヤられそうなんだけど!!)


 腰を抱き寄せられて密着した状態。

 必然、打海のすぐ間近に、極めて強い美貌が迫る事となる。

 生まれてこの方お目にかかった覚えのない美少女の存在に、打海は溺れそうな心境だった。


「すいませんが、先に行きたいところができましたので。

 そちらのヒトにも、そうお伝えください」


「そ、それはちょっとぉ……。臥島さん怒ると思うんですけど……」


 しかし、村雨ユリは打海の心境など知ったことない様子で、ペースを変えずにデモ隊の中を突き進む。

 これで赤毛も忙しい身。役に立ちそうもない伝手より、他に有望なルートを見つけたいと考えるのが当然だ。

 よって、かわいい系のお姉さんに頼まれたところで、予定を変える気は全くないのである。


 毅然としてこう言われてしまえば、力でも、立場でも、サブコミメンバーの女子大生に、出来ることはなかった。

 流されるままだ。

 情けないな、と思い、それをこの少女に知られるのを惨めに感じた。



 などと、気分が沈んでいるのを、状況は許してくれない。



『――――社会安全法違反ー! 略式執行ー!!』

「ぅわあああああああああ!!」

「警棒ヤロウは消えろー!!」

「公共の正義ヅラしたファシストがー!!」


 そこは、デモ隊と警士隊の圧力が限界まで高まる最前線であった。

 特にこれといった切欠なども無く、警士隊は規定に則りデモ隊の排除を開始。

 しかし、デモ隊も公権力を恐れる段階はとうに過ぎ去っており、当たり前のように反抗の構え。

 もはや、こういった乱闘も皇京では馴染んだ光景となっている。

 事態は沈静化するどころか激しさを増す一方なのだが。


 別の待機班から武器を受け取る、デモ隊の最前列。

 暴徒鎮圧用のテイザーガンやスタンランチャーを正面に向ける警士隊の列。

 撃ち合いになり崩れる双方。だが、それで怖気付かない気合の入ったデモ参加者は、逆に警士隊へと突っ込んでいく。

 主に、武闘派のサブコミュニティーに所属する者たちだ。


「くたばれフォーサーの××カス野郎!!」


 その中の誰かが、バトンのようなモノを警士隊のド真ん中めがけて投擲。

 煮え滾る怒りと共に放られたそれは、放物線を描くの途中で両端から気体を吹いて回転し、


 空中で青い炎を吹いて大爆発を起こす。


「わぁああああ!?」

「ぎゃぁあああああ!!」

「クソが分解爆弾だと!!?」

「発砲許可! 発砲許可! 撃て撃てぇ!  射殺しろぉ!!」


 爆発した一帯は、ヒトも物も警士隊も薙ぎ払い、空白地帯となっていた。

 一方で、場は更に混乱し、頭に血が上った警士側は無差別発砲まではじめる。

 明確な害意を以って殺されかけたのであれば、手心を加える理由もない。

 流れ弾は、攻撃に参加しなかった人々にまで飛び火。

 大勢の人間が逃げ惑い、入り乱れる事となった。


「ま、マズい……! 完全に巻き込まれてる――――わっ!?」


 打海も大荒れなヒトの流れに翻弄されかかるが、一層強い力で赤毛の美少女に引き寄せられ、その場から連れ出されていた。

 心強いが、どこかで破裂音が鳴るたびに身がすくみ上がる。

 一刻も早く、この危な過ぎる場所から離れたい。

 ただ引っ張られるだけではなく、打海も自ら足を動かし、ただ隣の美少女の足を引っ張るまいと進んでいった。


「マシンヘッドまで持ち込んでるのか。めんどうな……」


「…………はい?」


 その美少女は、いま何と言ったのか。

 周囲の騒音もあり、よく聞き取れなかった。

 だから聞き間違いか? と、目を丸くする女子大生だったが、すぐに聞き間違いなどではなかった事を理解(わか)されられる。


 群衆の頭の高さより、更に上の方。

 見上げるとそこに、白と黒に塗り分けられた鉄板の塊がそびえ立っていた。


 全高5.2メートル。

 皇国首都警士隊、機甲歩兵二八式『ケビラクシャ』。

 ドラム缶で五体を作り上げたかのようなマシンヘッドだ。

 股間部に小口径のレーザータレット、胸部に拡声器、肩にキャノンランチャーを装備した、対人対デモ隊仕様の機体であるのが見て取れる。

 

 単連射パルスレーザーが容赦なくデモ隊の頭上にバラ撒かれた。

 対人用の低出力とはいえ、生身程度は簡単に焼き切られる熱量だ。

 一方的に打ち据えられる群衆の中から、文字通り火が付いたような悲鳴が上がる。


『抵抗すれば発砲も辞さない! 繰り返す――――!!』


 人間相手には過剰な火力でしかないが、命を脅かされた警士側に躊躇はなかった。

 警告も単なる形式的(アリバイ)なモノと化している。 


「ひどい…………」


 体制側の過剰な暴力に、サブコミの活動理由を思い出す打海。正直なところ、あまり活動理念に共感はしていないのだが。

 そんな僅かな使命感も、別方向から2機目、3機目とマシンヘッドが現れた事で、簡単に吹き飛んでしまう。

 狙ったのか偶然か、3機は群衆を囲む立ち位置。

 逃げ場を無くし、人々はいよいよパニック状態となり、


「ちょっとその辺で伏せててください」


「はい……!?」


 そんな場面で、打海の腰に回されていた腕が解かれていた。

 喪失感を覚えて隣に目をやると、その時にはすでに赤毛は消えている。

 目まぐるしい展開に付いて行けず、右往左往する群衆の中でうろたえるだけの女子大生。

 置いていかれた、と絶望する打海の前には、ヒトを蹴散らす様にして、治安の象徴たる白黒の巨人が迫っていた。



 それを後ろから押さえ付け、豪快に引きずり倒す、もう一機の警士隊マシンヘッド。



「ぬにゃー!!?」


 数トンにもなる金属の塊が地面に叩き付けられる、衝撃と轟音。

 それを間近にし、あまり気の強い方ではないサブコミ女子は後ろへ倒れて尻を痛打。

 衝撃で息が止まり身動きも取れなくなるが、その間にもマシンヘッドは倒れたもう一機の頭や腕、脚部を踏み潰していた。


 直後、肩部に装備していたランチャーより擲弾を射出。

 ポンポンポンッ! と軽快な音と共に放り出された弾は、地面に落ちると垂直に跳ね上がり、縦回転しながら煙を吹き出す。

 暴徒鎮圧用煙幕だが、用途に応じて射出寸前であっても成分調整が効くタイプのモノだ。

 現場全体が煙にまかれるが、視界を妨げるだけで催涙効果は付加されていない。


 味方機をスクラップにしていたマシンヘッドの胸部ハッチが持ち上がり、中から姿を見せたのは、ちょっと前に姿を消していた赤毛の美少女だった。

 なぜそんなところに。似ているだけで他人の空似か。いやこんな娘が何人もいてたまるか。

 混乱する打海だが、そんな心理状況などお構いなしに、唯理は再び打海を引っ張り上げた。


「この状況じゃな……。落ち着くまで少しつき合ってください」


「え、あ、はい」


 抱き上げられて、またしても超美顔が極至近距離。

 打海は脳死で返事をしていた。


 唯理としても、やや不本意である。

 どう見ても素人臭いお姉さんを連れて、潜在的敵地(アウェイ)である皇京を歩き回るのはリスクが大き過ぎた。

 しかも、地元民であるはずのお姉さんは、いまいち頼りない。

 だからと言って置いて行くワケにもいかず。


 赤毛と焦げ茶ロングヘアふたり組は、白煙の立ち込める中に消えていく。

 現場の混乱は、熱量を減らしてただ雑然としたモノへと移り変わっていった。

 これもまた、今現在の皇国中央都、皇京における当たり前に見られる光景。


 しかし、この日常風景が嵐の前の静けさになるとは、皇国に住む誰にも想像できなかったのである。





【ヒストリカル・アーカイヴ】


・皇京。

 銀河先進三大国の一角、カンルゥ・ウィジド皇王元首国の中枢都市。

 連邦、共和国より古い歴史があり、入植当初の光景を現在までに残している。

 一方で、文化財保護や景観の保全を理由に都市の整備計画が制約を加えられ、手を入れることのできないエアポケットのような区画も点在する事態となった。


・権利復興運動

 皇国政府と上位階級による、皇国の長い歴史の中で積み重なった著しく不公平な慣行の是正運動。

 合法非合法にかかわらず、現在の皇国は社会的地位の高い人間を極端に優遇する傾向にある。

 その一部上位階級に対する特権の数々が、経済や安全保障といった通常の皇国民の生活を目に見えて圧迫するようになっており、反発が出るのは必然であった。

 しかし、一部特権階級民は自分達への優遇措置を守るために、権力を振りかざして批判的な皇国民への弾圧を繰り返している。


・分解爆発(爆弾)

 圧力差や周囲の物質との反応により分子分解を起こし、一瞬で体積を膨張させる作用を利用した爆弾。

 高い膨張率を持つ物質は個人での流通や売買が規制されるが、対象とならない物質も爆弾として利用できるモノが多く、規制し切れないのが実情である。


・機甲歩兵

 皇国におけるエイムやマシンヘッドの通称。

 皇国は他の国と比較し、兵器の製造、流通は厳格に管理されている。よって、機甲歩兵も原則的に政府機関しか所持できない。また、他国からのエイム等の兵器の輸入も禁止されている。

 機甲歩兵とエイムは同類の兵器ではあるが、皇国は別のモノとして扱っている。


・アマノハバキリ

 フォースフレーム艦隊(フリート)、戦闘旗艦クレイモア級の一隻。

 起源惑星から現在の皇国方面へ向かう移民船団を守った護衛艦隊の中核。

 メナスとの決戦においては我が身を盾にした不退転の戦闘を展開し、獅子奮迅の活躍の末、艦体が真っ二つになるほどの損害を受け大破、轟沈した。

 現在は皇国政府により来歴を伏せられ、皇国中央本星タカ・マッカ・ハラに安置されている。





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