EXG.ジャンピングラッシュ ラビットシンボル
8月2日はバニーの日だった短編です。
こちらはなろう用の修正やら何やらで遅れてお届け……
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天の川銀河で最大の勢力を持つ、シルバロウ・エスペラント惑星国家連邦。
その中央星系、サンクチュアリが自律兵器群『メナス』によって攻め落とされたことで、銀河全域640億という有人星系に混乱が波及する事となる。
ヒト型機動兵器による騎乗競技会に参加していたお嬢様の学び舎、聖エヴァンジェイル学園の騎乗部と支援組織の創作活動部も、大会の開催地から学園のあるアクエリアス星系に急ぎ戻らねばならなかった。
学園の宇宙船、ディアーラピスは騎乗部と創作部の少女たちが役割を決め、時間ごとの担当シフトを布き運用していた。
華奢な体躯の金髪少女、クラウディアは騎乗部の部長として、本船の船長などを任されている。
正直、移動困難者の200人近くを抱える現在、そういう重責を背負わせるのはやめてほしいと思うのだが。
そうは言っても、実質的に一番大変な実務は赤毛のマネージャーが担ってくれているので、ここは自分も頑張らねば、とは思っているクラウディアである。
してその赤毛、今日も今日とて素っ裸で寝ていて起きてそのままシャワーに入って行ったが、そろそろ船橋に来る頃だろうか。
できれば頼もしいルームメイトが来るまで、何も異常事態が起こりませんように。
などと、船長席のクラウディアはそんなことを祈っていたが、
「お待たせしました。操舵代わりますね」
「ちょっと待てコラそこの赤毛ぇ!!!!」
船橋後部のドアから颯爽と入って来た赤毛娘を見て、ルームメイトの金髪はお嬢様を捨てた暴言をお吐きになられていた。
「どうされました? クラウディアさん」
「ど、『どうされました』ってユリさんがどうされました!? ああああアナタその格好よ!?
…………ホントどうした? ました??」
軽くパニックになるスレンダー金髪に対し、赤毛の少女はいつも通りの落ち着きぶり。
そのあまりの平静さに、もしや自分の方がおかしいのでは? と迷うクラウディアである。
が、まじまじと見直してみても、やっぱり狂っているのは赤毛の方であろうと思う。
その格好は、胴周りの括れにピッタリ張り付き、胸の膨らみの下半分のみを下から支え、お尻のボリュームと形の良さを露わにさせる、凶悪なスタイルをより一層引き立てる魅了の装備。
バニースーツ(赤)であった。
なお、ウサ耳、しっぽ、カフスといった付属品も隙なく身に付け、ハイヒールと網タイツがただでさえ長い脚をいつも以上に肉感的に際立たせている。
「ロゼさん、船内の状況を教えてください。船の機能と乗員に問題は出ていませんか?」
「ありませんねぇ。船団の他の船にもトラブル無し。メナスがいつ出て来るか分からないことを除けば……ま、静かな航海なんじゃないです?」
「エリィさん、フローズンさん、よろしければ船の直掩に出ていただけますか? 30分で構いません」
『必要かしら? 今のところ何も兆候はないのでしょう? 準待機で良いのではなくて?』
「経験上、何も無い時が一番危ないんです」
テキパキと指示を出しながら、船橋の前方にある操舵席まで歩いていく赤毛バニー。
いつも通りに仕事をするルームメイトもそうだが、何故か柿色メガネも、通信画面のドリルツインテも、火器管制席にいる本場ライケンの黒ウサギ少女さえ何も言わない。
あれ? いつの間にかあの娘の格好はアレで良い事になってたっけ?
そんな不可思議空間に、騒ぎ立てる自分の方がおかしいような気がしてしまい、金髪船長はプリプリ揺れるウサギのお尻を黙って眺めている他なかった。
◇
担当シフトが終わり、船長はシスターに、操舵手兼副長は学園の王子さまに交代する。
それから食事を摂り、またシフトに入り、休憩時間にお菓子を作り、エイムで宇宙空間に出て船団周囲の哨戒飛行を行う、としていたが、この間もずっと赤毛はバニーだった。
やはり、誰も何もその格好について言及する事はない。
村雨ユリのカラダのあちこちが弾んで揺れて躍動するのを気にしているのは、クラウディアだけのようであった。
「な……なんなの?」
就寝時間となり、いつもの100倍疲弊した華奢な金髪娘がベッドへと倒れ込む。
ハッキリ言って、同性さえ惑わすあの赤毛娘がその肢体を丸出しにしてあれこれ動いていると、見ている方が精神を削られるのだ。
まさかこれからはあのバニースタイルが標準とか言うのではあるまいな。
慣れる前に衰弱死せんだろうか。
そんな明日からの戦いを予感し、恐れと若干の胸の高鳴りを抱えて床に就くクラウディアであったが、
「それでは、おやすみなさいクラウディアさん。お疲れさまでした」
「ああ……はい、お疲れさまでした――――ってなんじゃい!!?」
自分の隣に赤毛バニーが寝そべって数秒後に、仰天して飛び起きていた。
「わ、どうされましたクラウディアさん?」
「だからユリさんがどうされたのよ!? え? なんでここで寝るの!? ていうかそれ脱がないの!!?」
クラウディアのすぐ横には赤毛のウサギがそのままの格好で、気だるげにカラダを横たえている。
声にも常の張りが無い、なんとなく甘い響きが混ざっていた。
柔らかに微笑んではいるが、横向きに寝ているので、大きなふくらみがムギュっと押し潰され、腰から脚にかけて描かれるラインも艶めかしく感じられる。
それら絶景を一望し、華奢な金髪の喉が無意識にゴクリと鳴った。
「脱ぐも何もクラウディアさん、わたしはウサギなのでこの格好が普通ですよ?」
「はぁ!?」
そのウサギ、とうとうおかしなことを言い出すが、どうしてもムチムチしたところに目が行ってしまうクラウディアは、そのセリフを半分聞き逃す。
おかしい。振り返ってみれば何もかもがおかしい。
これはアレだ。つまりそういう事なのだろうと、働かない頭で核心に迫るクラウディアだったが、
「ウサギは寂しいと眠れないので、寮でもいつも一緒に寝てくれていたではありませんか。
今日はダメなのですか?」
「へぇ!? い、いや待ってそんな既成事実はなかった、はず! え? ゆ、ユリさんちょっとなに!!?」
トロけるような声色の赤毛バニーが、いつの間にか妖艶な笑みを浮かべて、クラウディアの上に覆い被さって来た。
ズシっと、重く圧し掛かるたわわな部分と、絡み合うようになってしまう肉付きの良いおみ足。優しく頬に添えられる、ひんやりとしてスベスベの手の平。
心臓が爆動するクラウディアは、本能的な恐怖に駆られて押し返そうとするが、何故か全く力が入らない。
「ちょちょちょっとぉおお!? ゆ、ユリさんユリさんユリさん!? これは一緒に寝ると言うには近過ぎません!?
だいたいユリさんってこういうタイプではないでしょ!? こういうのはエル会長とかがさぁ――――!!!!!」
「ごめんなさい、クラウディアさん……。どうもわたくし、発情期に入ってしまったようでして…………。
クラウディアさんの体温で、催してしまったみたいですね」
「どういうことなの!!?」
「どうって……つまり、今日もよろしくお願いします、ってことです♡」
上気した顔の赤毛娘が、舌なめずりして下にいるルームメイトに襲いかかる。
その圧倒的に顔が良い美少女バニーが視界いっぱいに迫り、もはやクラウディアは何も考えられず、ただ唇を塞がれる息苦しさを受け入れる他なかった。
◇
「クラウディアさん、クラウディアさん? 大丈夫ですか??」
「…………あ、はい」
そして、起床時間である。
寝苦しそうにしていたルームメイトの顔の上から枕を取り上げ、赤毛の少女が眉を顰めていた。
当然ながら、トチ狂ったような赤いバニースーツなどではない。グラマラスなカラダのラインこそクッキリ出るが、創作部謹製の環境スーツ姿である。
既にシャワーも浴びてしまったようで、宝石のような光に透ける長い赤毛が少し濡れていた。
そこにウサ耳もない。
「クラウディアさん、お疲れですか? 少し遅く入っても大丈夫ですよ? シャワーで目を覚まして来てくださいね」
枕をベッドの端に置くと、少し困ったように笑いかける赤毛の少女は、先に部屋を出て船橋へと向かった。
残されるクラウディアは、やや錯乱した頭の中を整理しながらノロノロとベッドを出て、温いシャワーを浴び寝汗を流す。
そして自分の環境スーツを手に取ると、
「夢オチぃいいい!!」
やるせない万感を込めて、全裸の華奢金髪がスーツを投げ捨て八つ当たりをしていた。
【ヒストリカル・アーカイヴ】
・バニースーツ
胸の下から胴周り、お尻にかけて身体に密着するようなデザインを基礎とした一連のスーツ。
胸部から上、また脚部の肌が露わになるような気密性に乏しい構造だが、脚に関してはストッキングや網タイツを組み合わせる場合もある。
これに加え、頭部にウサギの耳を模した装飾品、臀部も同様にウサギの尾を模したアイテムを装着し、これらがバニースーツの基本的構成となる。
古くはプロエリウムの起源惑星の発祥と言われているが、これを身に着けた姿にはライケン種レプス族に近い特徴が散見され、プロエリウムが宇宙に進出する以前に旧ライケン種の接触があったのではないかという仮説が立てられている。
現代においても、女性サービススタッフにこれを着用させる施設は時折見られる。
8月2日はバニーの日。
・発情期
生物が生殖行動を強く求める傾向のある時期。
プロエリウムなどはワンタイムライン通して生殖可能だが、ライケン種など発情期が自然発生する種族は、この期間も決まっている。
現代では、投薬などである程度コントロール可能。
赤毛の猛獣にも存在するかは不明である。
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