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Hi-G. -ハイスピードガールズ ディスタンス-  作者: 赤川
5th distance.ウォンテッド
135/205

131G.ロマンチストシステム イレギュラーチェイサー

.


 アクエリアス星系、スコラコロニー。

 聖エヴァンジェイル学園。


 色々あってお嬢様学園なんぞに潜伏中な赤毛の逃亡者、『村雨ユリ』こと村瀬唯理(むらせゆいり)

 その目的は、名門校卒業者としての新たな身分の取得である。

 かと言って卒業までの日々を花嫁修業に終始するつもりはなく、縁あって課外活動部の創設に関わる事となった。

 騎乗部という、ヒト型重機械の操縦技術を磨くのを目的とする活動部である。


 同部は2カ月先の競技会に出場予定であるが、それまでに用意しなければならないモノが数多くあった。

 特に無ければ話にならないのが、使用するヒト型重機械、エイムである。

 騎乗競技においてエイムはその活動団体が自作するのが慣例となっており、聖エヴァンジェイル学園騎乗部もまた、既製品ではなく独自の機体を作るべく準備を行っていた。

 ただし、動力部など一部の部品は自作するのが難しく、外部から調達するということになっている。


 これに関して、学園の職員室はコロニーの警備を委託する私的艦隊組織(PFC)『プロテクト・アディシブ』に必要な物の調達を依頼。

 間もなく、注文の荷物を積んだ輸送艇と随伴のエイムが、静止した箱庭のようなコロニー内へと侵入してきた。


               ◇


 クラウディア・ヴォービス。

 聖エヴァンジェイル学園に馴染めない華奢な金髪の少女は、自らの未来を切り開くべく、手に職付けてエイム乗りになろうとしていた。

 家に将来を決められないように。ただの飾り物として卒業しない為に。


 だが現在、夢に向かう道半ば、そのあまりの困難さに心が折れそう。


「ハー……ハヒィ~……!」


 体操着にブルマという古典スタイルの少女が、屋内運動場で死にそうになっていた。

 体力とスタミナの底だ。

 といっても、別に気合で絞り尽くしたとかいうワケではない。

 少し運動しただけで、アッと言う間にエネルギーを使い果たしてしまうのである。


 お嬢様を上流階級の花として育てる聖エヴァンジェイル学園にも運動関連の科目は存在するが、ちょっとした散歩やウォーキング程度の事しか行っていない。

 それで身体が鍛えられるワケもなく、もはやか弱さ(・・・)を意図的に形成しているレベルと思われた。


 だというのに今現在クラウディアがやらされているのは、ゴムヒモを腰に巻いての引っ張り合いである。


 先生である赤毛のルームメイト、村雨ユリ嬢に(いわ)く、エイムの高機動で生じる荷重に耐える足腰を作るトレーニング、だとか。

 この時代の人々は慢性的な運動不足であるが、それが問題化していないのは、健康的な肉体を維持する手段が別にあるからに他ならなかった。

 苦しいこと辛いことをテクノロジーで回避するのは、人類の叡智の賜物なのだ。

 故に、このトレーニングって本当に必要? という疑いが拭えないクラウディアである。


「くんぬぅうう!」

「あ……ちょ!? ナイトメアさん!? こら! ちょっとまっ――――!!」


 そんな疑問に囚われていると、ゴムヒモの反対側で繋がれている元気女子、ナイトメアが強引にクラウディアを引っ張りだした。

 座り込んでいた華奢な少女が引き摺られて床を転がる。相手は止めても聞きやしない。


 もうやめたかった。


               ◇


 情けなくて泣きそうになっているクラウディアの一方、そんなトレーニングを課している赤毛の方は、これでも目一杯配慮していたりする。

 ゴムヒモの綱引きだって、遊びを取り入れたつもりなのだ。

 つもりなのだが、現状を見る限り、どうもそれが上手くいっているようには見えない。


 これ以上この押せば倒れそうなお嬢様どもを、どのように鍛え上げたものか。

 ローグ大隊ではチンピラ兵を「このお嬢様どもがぁ!」などと罵倒しながら尻蹴っ飛ばしたものだが、本物のお嬢様はその軟弱さも想像を絶する。

 ぐったりと床に倒れるブルマ娘を眺めながら、首を傾げざるを得ない唯理だった。


               ◇


 そうしていまいち成果に乏しいトレーニングを終え、寮に戻った後のこと。

 赤毛の少女は寮監のシスターより、荷物が届いている、とのお知らせを受けたのだが、


「わたし達では良く分からないので、騎乗部の子に実際見て確認してもらった方が良いだろう、という事になったのですが…………。

 ユリさん、大丈夫ですか?」


 なにやら不安そうな若いシスター、ヨハンナ先生。

 荷物というのは、騎乗部が製造するエイムに用いる主要部品の事であった。

 そして、学園側に要請した張本人である赤毛娘やスレンダー金髪少女に、中身が注文通りか直に見て確認して欲しいというお話。


 そもそも、手っ取り早い調達ルートだったとはいえ、学園長のシスター・エレノワなどは外部からヒトを入れるのは反対だったらしい。

 ましてや、その部外者を女子生徒と会わせるなどというのは、本来あってはならない事だという剣幕だとか。


 かと言って、教師やシスターの中にエイムについて詳しい者もいない。

 最終的に、実際に何が必要かを知る生徒たちに確認させる他ないだろう、という結論に収まったそうだ。

 前述の通り、非常に気が進まないという事でもあったが。


「そういうことなら、私だけ行って物を見てきますか。出来れば騎乗部と創作部の子たちには、オンラインで見て欲しいのですが」


「……学内ネットワークの使用は、原則教職員のみです。村雨さんひとりで確認は出来ませんか?」


「出来なくはありませんが……」


 諸事情(・・・)により学園の生徒と部外者の接触は最低限に抑えたい学園側。

 唯理はエイムの部品に関しては、素人より多少知っている程度で、目利きには少し不安がある。

 情報端末(インフォギア)を用いて唯理の目線で他の部員に機材を確認させたいが、それすら学園の規則ではダメだという。


 ではどうしよう、とエイムの製造担当者たちに相談してみたところ、こちらは当然のように全員で実物を見たいとの要望。

 結局、シスターヨハンナ付き添いの元、騎乗部と創作部のほぼ全員で運び込まれた機材を見に行く流れとなった。


               ◇


 私的艦隊組織(PFC)『プロテクト・アディシブ』の輸送機は、学園の寮棟裏手に着地していた。

 だがそこは、学園側が許可した着地場所ではない。

 PFCが勝手にここに降りたのだ。


『はー、相変わらず良い趣味してるわ。コロニーに惑星の地表を再現するとか、フリッチのお遊びはよぉー』


 輸送機に随伴していたヒト型機動兵器も、その隣に(たたず)んでいる。

 普段の仕事場であるコロニーの外を思い浮かべながら、吐き捨てるように言うオペレーター。

 その周囲では、何事かと窓から顔を出す女子生徒たちが、全高15メートルの巨人を見上げていた。


『おお!? 若い女の子たちが! おいおいおいハイソサエティーズマジでイイ趣味してるッスねー!

 こんな最果ての宙域に金かけたコロニー作って、何も知らないスレてない娘を飼育(・・)しているワケだぁ!

 チックショーもっと早く中に入りたかった!!』


 エイムの一機、増設重装甲機に搭乗しているオペレーターのモラムは、興奮してコクピットの中で身体を揺すっている。

 なにせ、全周ディスプレイに何人も映っているのは、揃いも揃って美しく愛らしく清楚で可憐な美少女たちだ。


 スコラ・コロニーの警備を委託されている『プロテクト・アディシブ』は、半年(ハーフTL)のローテーションで人員と船を入れ替えていた。

 担当期間中は、コロニーに張り付いて離れない。

 しかし、品質管理(・・・・)の観点からコロニー内への立ち入りは許されていない。

 一切の変化が無い宇宙の日々を、快適で退屈な宇宙船内で過ごすのみ。

 今回の輸送に3人も付いて来たのもそれが理由で、つまるところ暇潰しになれば何でも良かったのだ。


 そんなところにきてこの光景は、あまりにも(まぶ)し過ぎた。


『おい絶対に余計なことはするなよ。コロニー内に入るのも特例だ、問題を起こしたら実入りのいい仕事を失いかねないからな』


 だというのに、通信で入ってくる無粋なむさい野郎の声。

 エイムチームのリーダーである、サルーだ。

 環境(EVR)スーツも船外活動(EVA)スーツも着けず、ラフな格好でタフガイを気取っているだけの単なる小者、というのがランケルら若手の評価である。


 しかしその注意が聞こえなかったかのように、ランケルはコクピットのハッチを開放した。

 エイムの胸部から颯爽と出てくる痩せ型の男の姿に、異性の存在に慣れていないお嬢様方が驚きを露にする。

 口元を押さえたり、目を丸くして窓の陰に隠れたり、とリアクションは様々だ。

 ランケルは少し得意な気分になった。


『何やってんだランケル! ここのお嬢様どもと接触すると大問題になるぞ! 中に戻れ!!』


 だというのに、また水を差す隊長気取り。

 ランケルはそれを無視した。

 エイムの外に向け、胸いっぱいに空気を吸い込む。

 宇宙船内の調整された混合気体とは違う、爽やかで瑞々しく生きた空気。

 麗しの少女たちが存在する大気は、身体の脳や下半身に響くような(かぐわ)しさだった。

 いずれもランケルの主観でしかなかったが。


 そうしているうちに新たに姿を現したのも、また最上級の美少女たちだ。


「お疲れ様でございました。荷物はこちらですか?」


「あの、何故ここに着地を……? 確か、敷地の境のゲートの方にお願いしていたと思うのですが」


 先頭を歩く赤毛の少女が、物怖じもせず輸送機を指差しヒト型機動兵器を見上げている。

 制服の上からでもスタイルの良さが一目瞭然だが、それだけではなく姿勢の良さにも見惚れるほど。

 落ち着いた自然な振る舞いが、生まれついて高貴な淑女であるのを感じさせた。


 すぐ後ろを歩いている古風な聖職者の格好をしている女性は、通信で言い難そうに抗議している。

 色気の欠片もない格好だが、それが(かえ)って微かに垣間見える美しさを際立たせているようだった。

 まだ若く気弱そうだが、責任感は強いようだ。


 他にも、子供っぽいが華奢な身体付きが庇護欲をそそる金髪の少女、長い髪を螺旋に巻いている気の強そうな少女、仕草や表情が明るい魅力に満ちている少女、といった面々が輸送機の前に集まってくる。

 見ていると、ランケルは制服フェチに目覚めそうだった。


「うわぁ……CGRのツインフォースジェネレーターだぁ。コンデンサ内臓式ですよ!」


「でもアルマさん、このサイズではわたし達エイムのフレームに収まりませんよ?」


「フェデラルとドヴェルグワークスのジェネレーター、とかは良いとして、スモウの制御素子なんてどこで手に入れましたの? 皇国が流出を知ったら公安が一騒ぎですわ」


「この共結シリンダー……自作より良い物でしょうか?」


「基本的に自作するものですしね。明確な規定こそありませんけど、後から成績を疑われる物を使うのは避けた方がよろしいかと」


 輸送機の後部ハッチから中に入るお嬢様生徒たちは、積荷を確認しながら賑やかに話をしている。

 その光景を見ているだけでも胸がざわめくランケルだが、フと女子の集団からひとりだけ離れている少女の存在に気が付いた。


 それは運命である。


 丸い内巻きになった乳白色のボブカットに、クルッと丸まった小さな茶色のツノ。

 柔らかそうな四肢に、幼さを強く残す愛らしい容貌。

 なにより、滲み出る儚げな雰囲気。

 対照的に眼差しは好奇心に満ちており、無垢な少女が何かを強く求めていると感じさせる。


 PFC『プロテクト・アディシブ』のレギュラーオペレーター、ランケル・カクサンタンは、乳白色のゴルディア人の少女と自分は()うべくして逢ったのだ、と確信していた。


「とりあえず全部運び出しましょう。ここで選定する必要はないでしょうし。お願いできますか?」


『承知しました。モラム、コンテナコントロールで外に出すからガイドしろ。ランケル、いつまで遊んでいる、事故が起こらないように待機しておけ。お嬢様方に怪我ひとつさせるなよ』


 一通り目を通した後、輸送機の外に出た赤毛の少女は、エイムのオペレーターに荷物の運び出しをお願いする。

 リーダーのサルーは、コンテナ自体が持つ移動機能をエイムから遠隔操作し、荷物を輸送機の外に出そうとしていた。

 別の一機が、万が一を考えてコンテナの移動を外から補助する。

 更に別の一機が、事故に備えて作業を監視する、はずだった。


 ランケルは、乳白色のゴルディア少女、プリマ・ビスタの両サイドからエイムの腕部マニュピレーターを伸ばし、追い込むようにして(すく)い上げてしまった。


「え? え? え!?」


 ワケも分からず混乱している間に、逃げ場を無くし機械の手の平に足を乗せるプリマ。

 重装のエイムは乳白色の少女を、胸の前で解放されているコックピット、そこから身を乗り出した痩せ型の男のところまで運んでいく。


「さぁおいで、優しくしてあげるよ」


 ランケルは手が届く位置まで来ると、とろけるように優しく話しかけながら、プリマの手を取りコクピット内へと引き込んだ。


『バカ野郎ランケル!? おまえ一体何してる!!?』


 エイムチームのリーダー、サルーの激昂は今までの比ではない。


 元々従順な方ではなかったが、スコラ・コロニー内に入ってからのランケルは、もはやコントロールを失った無人機のような有様だった。

 今までは多少勝手な行動をしても、仕事上で越えてはならない一線だけは侵さなかったものを。

 ところが今回は、それを完全に飛び越えていた。


「プリマさん!?」

「え? ビスタさんが? なんで??」

「どうして生徒がエイムに乗せられているんですか!?」


 気が付いたら友人が(さら)われており、騎乗部と創作部の面々は状況に付いて行けずに、ただエイムを見上げていた。

 シスターヨハンナは、預かっている生徒が連れ去られて蒼白になっている。頭の中には、一瞬で湧き上がる様々な悪い想像が。


「あ、あ、あ、あの……! お、降ろしていただけますか!?」


「キミ、このコロニーの中を上から見下ろしたことある? 遊覧飛行しようか。なかなか綺麗な景色だよ」


 コクピット内は、それほど広いスペースではない。

 引っ張り込まれた乳白色の少女は、是非もなく痩せ型の男の膝に座るような姿勢となっていた。

 前席を使わせる気は、ランケルにはない。

 それに、身体を震わせながら願うプリマのセリフも、まるで聞いちゃいない。

 身勝手にもランケルの頭の中では、ロマンチックなフィルターがかかっていた。


『返事をしやがれランケル! テメェのクビだけじゃすまないんだぞ! こんな事して船に戻れると思っているんじゃねーだろうな!!?』


 通信では(うるさ)い上司が喚き散らしていたが、今のランケルは寛容な心でそれを受け流せる。

 愛が心にゆとりを与えていたのだ。

 それに、サルーが言うような事態になるとも全く考えていない。


 ランケル・カクサンタンはハイソサエティーズほどではないが、それなりに財力のある企業家の息子だ。

 裕福な家で何不自由なく育ち、甘やかされてきたバカ息子でもある。

 それが父親のコネでいったんは就職したものの、極めて不真面目な勤務態度により、早々に退職へ。

 その後、本人の希望でエイムオペレーターの職に進む事となる。これも、父親のコネだ。


『だいじょうぶだいじょうぶ心配し過ぎだってサルー、スノースクリーンの時もパパと社長が片付けてくれたじゃないか。

 それに彼女は怒らないさ。俺たちは愛し合っているんだ』


 全く緊張感の無い調子で、ランケルはサルーからの通信に返答していた。

 愛し合っている云々は、何ひとつ根拠の無い自信による妄想だ。


 バカ息子を引き受ける代わりに、PFC『プロテクト・アディシブ』は融資と仕事上の便宜をランケルの父親から受けられる事になった。

 スコラ・コロニーの警備も、そうやってありつけた大きな利益の見込める仕事のひとつだ。

 ランケルは、職場においては何ら特別扱いはされない。他の社員と同じ待遇である。

 ここを追い出されたら次は無く、またエイム乗り以上に格好を付けられる職業も無いと分かっているので、ランケルもその立場は受け入れた。

 一方で、会社が父親との繋がりである自分を切る事も無い、と確信していたが。父もまた、自分のいる会社を見捨てる事もあるまい、と。


 増設装甲を纏うエイムは、重力制御を効かせて軽く浮き上がると、微かにブースターを燃やして移動を始めた。

 50G、秒速490メートルもの加速を可能とする機動兵器としては、止まっているようなもの。

 ランケルなりの、懐に抱える少女への気遣いということらしい。


 空飛ぶヒト型機動兵器など、か弱い少女にどうにかできるものではなかった。

 連れ去られた少女、プリマ・ビスタを知る創作部の友人たちやシスターは、ただ動揺しながら飛び去るエイムを見送る他ない。


 例外は赤毛の偽装お嬢様で、事が起こると同時にすぐ後ろにあった学生寮の一階窓から中に突入し、他の女子生徒が仰天する中を爆走すると、3階窓から勢いをつけてジャンプ。


「は……ハァ!? なんスか!? え? どうやっ――――」

「失礼します。使ってないようでしたらこちらのエイム、少しお借りできますでしょうか?」


 仲間の暴走とリーダーの剣幕で思考停止(フリーズ)していたエイムに飛び付くと、唯理はコクピットへ乗り込んでいた。

 そのままオペレーターの返事も聞かず、相手の首へ腕を巻き付けるようにしながら背後に密着し、ヒジ関節動脈絞め(チョークスリーパー)

 オペレーターの呼吸と血流を同時に阻害し失神させると、雑にコクピットの底へ転がし、自分が代わりにシートに着いた。


 唯理としても、単に荷物を運んできたPFCが、最初から誘拐目的で動いていた、とは考えていない。

 だが、PFCが仲間の誘拐犯を庇うことは考えられる。

 無力化は保険であり、自分で救出に向かう手段(エイム)の確保の為だ。


『お、おいお前一体何をして――――モラム!!?』

「さて……これが使えるといいけど」


 部下がバカな事をしたと思ったら、今度は赤毛のお嬢様がもうひとりの部下のエイムを乗っ取るという。

 サルーはもう何から手を付けていいか分からない。


 そんな戸惑いの通信を聞かなかったことにし、唯理は自分の情報端末(インフォギア)からエイムにアクセスし、以前手に入れたツールを起動。

 コクピットのディスプレイにセキュリティ警報の表示が出るが、お構い無しに暗号解読を開始した。

 それはネザーインターフェイスの個人認証を破る為の物で、常に最新のツールが必要な界隈においては、多少信頼性が落ちる代物だ。

 それでも、エイムのセキュリティ自体が高度なモノでもなかったのか、どうにか認証の突破に成功。

 ディスプレイの異常を知らせる表示が消え、赤毛のお嬢様がコントロールを掌握した。


「クラウディアさん、プリマさんを連れ戻しに行ってきます。皆さんを纏めて、少しお待ちいただけますよう。あとシスターヨハンナを落ち着かせてあげてください」


『はいぃ!? え? 「連れ戻す」って……!? ってユリさんあなたどうやってエイムに――――』


 なにぶん時間が無いので、クラウディアの疑問に答えている余裕も無い。

 赤毛のお嬢様はアームとペダルの感触を軽く確認すると、重力制御のみで機体を地上から離す。

 筋肉の塊のような、(イカ)つい五体のヒト型機動兵器。

 それが地上の寮棟や生徒たちに被害が出ない高度まで上がると、ブースターの出力を上昇。

 学園の上空にて、炎を背負ったヒト型兵器がもう一機へと襲い掛かった。





【ヒストリカル・アーカイヴ】


・フリッチ

 バカな金持ちという意味。権力を乱用する権力者という意味にも使われる。

 主にハイソサエティーズを差し、並の資産家や為政者には用いられない。


TLタイムライン

 天の川銀河における標準的な1年を表す単位。ハーフなら半分の半年。

 多様な文化、社会を内包し、個々人の行動の自由が高度に確立された現代においては、ヒトの集団が一定期間拘束され同じ活動をするといった不合理で不自由な事はまず行われない。

 一年を表すタイムラインについても、現在では同期信号のような意味しかない。


・CGR/フェデラル/ドヴェルグワークス/スモウ

 兵器類を手掛ける重機械メーカーの名称。

 CGR(ケープ・ギャラクティカ・リパブリックの略)、共和国系企業。

 フェデラル(フェデラルアームズの略)、連邦系企業の老舗。

 ドヴェルグワークス、三大国圏外最大手と言われる企業。

 スモウ、皇国本星の企業。高い技術力と評されるが皇国軍内でのみ用いられ外部流出はしない。


・共結シリンダー(共有結合バルブシリンダー)

 エイムの関節駆動部(アクチュエイター)などに用いられる部品。

 原子間の電子対の共有を利用した結合力を、シリンダーの両端から任意に発生させるというメカニズム。

 エイムの関節駆動は超電導モーターとファイバーストリングスによる制御で行われるが、関節部を固定する場合において共有結合は無類の強固さを発揮する。


・スノースクリーン

 雪の惑星。水が豊富、平均気温が摂氏0度前後、等の条件から一年を通して降雪が多いが、晴天時は美しい光景が広がる為に観光スポットとして有名。

 別名、銀河のスノーホワイト。





感想(アカウント制限ありません)、評価、レビュー、お嬢様的に廊下を走ってはいけません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 先が気になる展開で次が待ち遠しいです [一言] バカちんが馬鹿なことしてる… 下手したら、親元から離れて以降死ぬまで異性とすれ違うことさえなかった…なんて人が出てきそうな世界だし、ある意味…
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