浦島太郎の無謀性について語る話
公園を通りかかると、カメがいじめられていた。小学校高学年ぐらいの四人組が、ひたすらカメを罵倒しながら撮影している。
「カメおら! おら、カメ!」
「悔しかったら首引っ込めてみろや! 爬虫類が!」
「陸で生きたり海にいたりややこしいんだよ! 統一しろ!」
などといじめている。カメを撮影していたやつはそれを複数のアカウントでSNSに上げ始めた。すぐさま自分のスマホでSNSを見てみると、すでにその呟きは2000回RTされていた。
可哀想に思った俺は、その四人組に声をかける。
「おい坊主共、動物虐待はやめておけ。可哀想だと思わねーのか? こいつだって生きてるんだぞ」
優しく諭す。が、こいつらに俺の言葉は届かぬようで、俺を「邪魔すんな」という目で見てきた。
「なんだよお前、児童虐待で通報するぞ!」
「ごめんなさい許してください。でも生き物をいじめるのはよくないと思うんですよ。江戸時代にはですね、生き物をいじめたら死刑だったんですよ?」
「今平成だろ」
「その通りなんですけども」
いまどきの小学生は理論武装が半端じゃない。
だが俺も大人だ。コンビニ帰りの24歳ニートだが立派な大人だ。ここはひとつ、事情を聞いてやるとしよう。
「まず、なんでカメいじめてたんだ?」
問題の本質をズバリ聞く。
すると四人は顔を見合わせ、俺の目をまっすぐ見ながら口を揃えた。
「「「「いやだって、こいつ外来種だから」」」」
直球。160キロストレートをミット無しで受けた気分だ。まさかそんな理由だったとは。
四人はなおも続ける。
「おっさん、こいつ知ってる? カミツキガメって言って、最大50センチにもなって、公園の池の生態系を壊滅危機に追い込んでたんだよ。完全水棲で陸には滅多に上がらないから、わざわざ引き上げて池の生態系を救っていたんだ」
「しかもこいつら雑食だから、放っておくと池はおろか公園全体の生態系に影響を及ぼすことになるんだ。何しろこいつらは哺乳類や鳥類まで食うからね」
「日本生態学会はこいつを「日本の侵略的外来種ワースト100」に指定してるんだよ? 日本から排除すべき外来種だ。千葉県は漁師に依頼して定期的に駆除してるんだよ」
「今は輸入、飼育、販売、譲渡、そして遺棄が禁止されてる特定外来種だ。繁殖力も強いから万が一この近隣にメスがいた場合恐ろしいスピードで増えていくことが予想される。それを避けるためにも逃げられない程度に痛めつけてから警察に通報すべきなんだ」
「「「「分かった?」」」」
もはや俺はぐうの音も出なかった。このガキ共の理論は完璧かもしれない。どこか間違ってる気もするが、正義感に基づいた行動であることは確かに思えた。
しかしそれなら、なぜSNSで拡散したんだ?
「じゃあなんでSNSに上げたんだ、必要なくないか?」
疑問をそのままぶつける。
「こうして情報を付けてツイートすれば、拡散されてこの近隣の住人とかからまた新たな情報が得られるかもしれないでしょ。こういう事態の時は情報を共有するのが一番大事なんだ」
これまた明確な理由に基づいてる。
「そうだ、おっさんも協力してよ。こいつはまだ20センチぐらいだから、大型ではない。それより心配なのは、もしかしたらこいつの親がいるかもしれない事だ」
「親? 大人のカミツキガメってことか?」
「そう。さっき池を見てみたけど、4ヶ月前に比べて小魚の数は減っていたのにプランクトンはむしろ増えていた。これはプランクトンを主食としない捕食者がいるということだ、それも複数の可能性が高い。滅多に陸に上がらないから池の中だと思うけど、もしかすると草むらに潜んでるかもしれないから、一緒に探してほしいんだ」
「わ、分かった、じゃあとりあえず警察を呼ぼう。俺だけじゃ何とも言えん」
俺はスマホを取り出して電話を開く。その時、
「ガサッ」
「!!!!!!」
__________後ろの草むらが、不気味に動いた。