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1章〜温室〜
1980年 10月 4日
松田 順郎という俺が生まれた。
何時に生まれたかなんて知らない。
俺にはすでに兄弟がいた。
姉貴と兄貴。
俺は末っ子だった。
家は裕福だった。
親父が大企業の社長だからだ。
金持ちというところもあるのか、欲しいものはなんでも買えた。
今思えば、幸せだったかもしれない。
だが、ガキの頃の俺には決して幸せとは思っていなかったんだろう。
いくら温室の中で育っても何かが足りない。
心の中でそう思ったんだろう。
金持ちのもあって、幼稚園から私立に通ってた。
末っ子だから、先生は俺のことを兄貴たちの末っ子として俺をみていた。
先生たちの目は俺をみるたびに疲れた顔にしてた。
兄貴たちは相当、先生たちに苦労かけてた。
それはワガママだった。
温室に育った兄貴たちは自己中心だった。
決して、自分の考えを曲げない。
姉貴も。
温室に育った樹木は傷つかない。
でも、立派に育ったとは決して言えない。
兄貴たちがいい例だ。
俺はこの温室から抜け出したかった。
そして、抜け出せるきっかけを掴んだ。