空気帝国
むかしむかし あるところに
ゆたかな 国がありました。
国をおさめる 王様は
とてもやさしく よい人で
くる日も くる日も
みんなが しあわせに
くらすためには どうすればいいか
それだけを いっしょうけんめいに
かんがえて いました。
王様の 家来たちもみんな
王様と同じくらい やさしく
きよく ただしい心をもった
りっぱな 人たちでした。
家来たちと ちからを合わせて
すばらしい国を つくった王様は
しかし ある日
もし じぶんがしんでしまったら
この国は どうなるのだろうと
ふあんに なってしまいました。
「わたしが ながく生きられたら
この国は もっと良くなるだろう。
だれか だれか
ながく 生きられるには
どうすればいいか しらないか」
王様の めいれいで
家来たちは 国じゅうに
ながく生きられる ほうほうを
さがすため おふれを出しました。
そして おふれをききつけた
西の森の おくに住む
としをとった ひとりの魔女が
王様のおしろに やってきました。
「おお 西の森の魔女よ。
そなたは よいほうほうを
しっていると いうのか」
「ええ そうです王様。
わたしが まほうをかければ
王様はこのさき しなず
としをとることも ありません」
ただし と魔女はいいました。
「このまほうは のろいです。
王様は ゆうれいになるのです。
王様のからだは
ものに ふれられず、
王様のすがたは
くもりなき まなこにしかうつらず、
王様のこえは
きよくただしく すまされたみみにしか、
とどくことは ありません」
「それは つまり
わるい にんげんとは
はなせなくなると いうことか」
そのとおりだと 魔女はいいました。
「それに いったい
なんのふつごうが あろうか。
わたしの家来は みんな
よいものたち ばかりだ」
そういって わらった王様は
魔女に まほうをかけるよう
まようことなく たのみました。
魔女が じゅもんをとなえると
王様のからだは すきとおって
まるで ゆうれいのような
ふしぎなすがたに なりました。
「これで 王様はこのさき
えいえんに しなず うえず
おいることも ありません」
「おお なんとすばらしい
ありがとう 魔女よ」
王様は おれいをいいましたが
魔女はそれに こたえることなく
そのまま かえってしまいました。
魔女にはもう 王様のすがたは
みえなくなって いたのです……。
ゆうれいのように なった王様は
それでも きよく ただしい家来たちと
国を よりよいものに かえていきました。
じゅうねんがすぎ……
にじゅうねんがすぎ……
まほうのおかげで 王様は
なんねんたっても かわりませんが
家来たちは そうもいきません。
としおいて いんたいする人もいれば
びょうきになって こきょうに
かえってしまう 家来もいました。
そうして いなくなった人のかわりに
家来の こどもたちが
そのあとを ついでいきました。
どれほどの ねんげつが
すぎさったでしょうか。
「王様に おかれましては
きょうも ごきげん
うるわしく……」
ある日のことです。
ぎょくざのまえで 王様は
家来たちと かいぎをしていました。
しかし そのとき 王様は
家来のうちの 何人かは
王様のすがたが みえていないことに
きづいて しまったのです。
かれらはおやから あとをついだ
にだいめ さんだいめの 家来でした。
わかくして くろうもなく
家来のちいと けんりょくをてにいれ
こころが よごれてしまった
そんな わかものたちでした。
これはいけないと おもった王様は
かれらを おいだしてしまおうと
ほかの家来たちに めいれいしますが
わかものたちは いいました。
「王様は わたしたちに
でていけだなんて いっていない。
あなたたちは うそをついている。
王様はそんなことを いっていない」
もちろんそれは うそでしたが
かれらは そういいはりました。
そして 同じことを
いいはる わかものは
家来たちの なかでも
すくなく なかったのです。
王様の めいれいに
よい家来たちと わるい家来たちが
いいあらそいを はじめましたが
けっきょく うやむやなまま
かいぎは おわってしまいました。
たとえ 王様が
それを黒だと いっても
家来のうちの はんぶんいじょうが
それは白だと いいはれば
それは白に なってしまうのです。
このときはじめて 王様は
しんじていた 家来たちが
わるいこころを もつものたちに
とって かわられつつあると
きづきました。
それから王様と よい家来たちは
わるい家来たちを おいだそうと
ひっしになって がんばりましたが
ひにひに こころのよごれた家来が
ふえていって しまいます。
あるものは おかねにつられて
あるものは むすめをさらわれて
あるものは ふりょのじこにあって。
こころのきよい 家来たちは
じょじょに じょじょに
ゆっくりと わるい家来たちに
むしばまれて いきました。
つきひは ながれ……
ある日のこと。
「王様に おかれましては
きょうも ごきげん
うるわしく……」
とうとう こころのきよい 家来は
ひとりも いなくなってしまいました。
王様は ぎょくざに
たしかに すわっていましたが
家来たちは だれも
王様のはなしを ききません。
王様の すがたは
もう 見えていないのです。
王様の ことばをむしして
かってなことが つぎつぎと
きめられて いきます。
「だれか だれか
わたしの すがたが
みえるものは いるか。
わたしの こえが
きこえるものは いるか。
たのむ だれか
やつらを とめてくれ」
くやしくて 泣きながら
王様は しろじゅうを
さがして まわります。
じぶんと はなしができる人を――。
しかし だれも
王様のすがたに きづきませんでした。
こころのきよい人は ひとりのこらず
王様のしろから おいだされていたのです。
王様はなげき かなしみながら
しろをでて 人をさがしにいきますが
王様が わるい家来たちを
おいだそうと しているあいだに
国はすっかり わるくなって
みんなのこころも あれはてていました。
「だれか だれか
わたしのこえは きこえるか。
この国を すくっておくれ。
わるい家来たちを おいだしておくれ」
しかし 王様のこえは
もうだれにも とどきません。
王様はかなしくて なきながら
だれかを さがしにいきました。
むかしむかし あるところに
ゆたかな 国がありました。
でも
りっぱな王様が 魔女に
のろいを かけられたので
国はそのまま ほろんでしまいました。
しかし 王様はふじみです。
えいえんに しなず
えいえんに おいず
いま このときも
だれか だれかと
人をさがし
なげき かなしんで
いることでしょう。
「だれか だれか
わたしのこえが きこえるか」
「だれか だれか
わたしのすがたが みえないか」
こんど 王様がやってくるのは
あなたのところ かもしれません。