神隠し
山奥にあったとある村には、「三年ごとに、十二歳より若い子供を神社に一人で参らせる儀式をしなければ村に天災が降りかかる」という言い伝えがあった。村の者は皆それを信じていて、天災を恐れて必ず三年ごとに子供を神社に一人で参らせていた。しかし、数十年に一度ほど、神社に参った子供がいつまで経っても帰ってこないという事があり、その時は墓を作り、そして神社に小さな石の塚も作ったという。ある年に、子供を神社に参らせる儀式をしなければならないという事で、村で最も若かった十一歳の子供を参らせる事になった。その子供の親もその儀式の経験者だったため、あそこの木がざわざわ鳴って怖かっただとか、神社の境内が暗くて不気味だったとか、そういう話を子供にした。
そして儀式の日が来た。子供は親の体験を聞いていたため、儀式について恐怖心は持っていなかった。ちょっとした肝試しだと思っていた。鳥居をくぐる。森の小道を通る。石段を上がる。そこまでは普通だった。しかし境内に入った時、いきなり空の色が真っ赤になった。
建物を囲むように太い通路があり、その通路の外側、右には高い木があり、左には石の灯籠があった。通路にも色々な物が落ちている。コマ、メンコといった子供の遊び道具のようだった。どれも空の赤色に染まっていた。その外側にはただ暗闇だけがあった。ふと空を見ると、空の赤色より赤い雲が浮かんでいた。何故か、「ヨウコソ アソンデイキナサイ」という字にも見えた。子供はその辺りにあった物で遊び始めようとした時、空からギシリ、という音が聞こえた。また空を見ると、雲の形が変わっていた。「カエラセマセン」という字にも見えた。子供は急に怖いと思って、来た方に振り反ると、来たはずの道が暗闇のなかに消えていた。
帰れそうにもないと思って、謎の声が響く中子供は呆然としていたが、気がつくと目の前に古そうな着物を来た女の子が居た。しかしその女の子はどう見ても普通の子供ではなかった。髪が顔にかかっている訳でもないのに、妙に顔が暗くて見えない。そして体自体も半透明である。子供は一見して、まるで幽霊のようだと思った。
そう思っている間に女の子は高い木の方に行き、木に登り始めた。しばらくすると女の子は木から降りてきた。その手には二枚の葉っぱが握られていた。そしてその二枚のうち一枚を子供に差し出した。子供は少し気味悪がっていたが、女の子が急かすような素振りを見せたので、受けとることにした。その葉っぱは手に収まるくらいの大きさの、若い葉のようだった。
葉っぱを受け取った瞬間、また空からギシリ、という音が聞こえた。空を見ると、「フタリデアソビナサイ」という字にも見える雲があった。その文字を見ている間に、女の子はどこかに行ってしまった。仕方がないので女の子を探しに行くことにした。
女の子は案外すぐに見つかった。建物の後ろ側に居たのだ。女の子は白い線で描いた円の中に居た。その内側には白い文字で「クモガクレ」と書かれてあった。女の子は手招きをした。どうやら、円の内側に来い、ということなのだろう。子供は円の内側に入った。
少し辺りを見回してみると、建物と反対側の暗闇、その中に六つの人の姿が浮かび上がっていた。皆、女の子と同じく顔はあまり見えず、体も半透明であった。全員棒立ちで、動くような様子もなかった。
暗闇の方を見ている時に、女の子の方から微かに何かの音が聞こえた。どうやら葉っぱを千切る音だったようだ。女の子はしばらくすると葉っぱを千切るのをやめた。そして千切った葉っぱを子供に見せた。葉っぱは人のようなかたちをしていた。同じものを作れ、ということなのだろう。子供もしばらくすると、少しいびつではあるが同じように葉っぱを人のような形に千切り終えた。子供が葉っぱを千切り終えると、女の子は葉っぱを地面に置いて、葉っぱに何かを書き始めた。そしてすぐに書き終え、それを子供に見せた。名前が書かれているようであった。子供もそれを真似して自分の名前を書いた。
そうすると、女の子は急いで建物の裏から出ていった。子供も女の子を追った。女の子が描いた円の外側に出た時、また空からギシリ、という音が聞こえた。空を見ると、「ドコニイッテイタンダイ」という字にも見える雲が浮かんでいた。それを見ている間に女の子は、薄暗いものの微かにここに来るまでに通ってきたはずの道が見える方に走っていた。ここに来たときにすでに消え去っていたと思っていたのに、その時は確かにあった。女の子は持っていた葉っぱを後ろに投げ捨て、薄暗い方に走り込んで、そして見えなくなった。子供は女の子を追おうとしたが、その時横の方からギシリ、ギシリという音が聞こえて、同時に横の方に「ニガサナイ」という文字が現れた。子供は恐ろしいと思って、すぐに薄暗い方に向かって走り出した。
走っている間にもギシリ、ギシリという音は鳴り続け、止まるどころか鳴る間隔がどんどん狭くなっていた。そして気付けば目の前にも「ニガサナイ」の文字があった。子供は神にもすがるような思いで葉っぱを上に投げ上げた。その瞬間に目の前の文字が消えた。その隙に一気に前に走り、薄暗い所の中に走り込んだ。
変な音がどんどん小さくなってきた。ふと後ろを見ると、神社が少しだけ赤がかって見えた。「ツカマエタ」の文字が少しだけ見えたような気もした。暫くするとその赤みも文字も消え、薄暗い中に建つ神社しか見えなくなった。安心してその場に腰を下ろそうとしたとき、横の方からガシャン、という音が聞こえた。そちらの方を見ると、骨がいくつも転がっていた。人の頭蓋骨にしか見えない物もあった。子供は逃げるように山道を駆け下りた。
子供が帰ってきたのは、子供が神社に向かった次の日の夜のことであった。子供にとっては数時間のことにしか感じられなかったが、気付かない内にそれほどの時間が過ぎていたらしい。子供は親に神社での恐ろしい体験を話したが、親は、神社で寝てしまって怖い夢でも見ていたのだろう、と言うばかりで、全く信じなかった。そんなことがある筈がない、一緒に着いていくから神社がそんな所じゃないことを確かめよう、とも言った。しかし子供にはもう神社に行きたいとは少しも思えなくなっていた。赤い空、空に浮かび上がる真っ赤な字、不思議な女の子、六つの人影、葉っぱの人形、行く先を塞ぐ赤い字、そして骸骨、神社での恐ろしい記憶はしっかりと子供の心の中に刻まれていた。
それから七日後、突然村の空からギシリ、という音が聞こえた。
今から七十年程前に、山奥のとある村で突然大雨、地滑り、崖崩れ等の災害が前触れもなく起き、村人が住み続けることができなくなるほどの被害を村に与えたという。村人は別のところに移り住むことを余儀なくされた。
後に調査で村の跡地に訪れた人は、そこで不可解な物を見たという。村の跡地の真ん中辺りにまで神社の建物が滑り落ちていて、さらにそれを取り囲むように赤い地層が「ユルサナイ」の字にも見えるふうに露出しており、さらにそれの周りを六つの石の塚らしきものを取り囲んでいた。また、建物の上には女児のものと思われる骨がまとまって乗っていた。
また、この村出身のある老人が、子供の頃の神社で体験したという恐ろしい話を、何かある毎に子や孫に話しているという。
ジャパニーズ・ホラーのような何かを意識した結果こんなのが完成した。