第4話 最強の本音
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某所
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―――空が茜色に染まり、紅と蒼と銀の月が地平線から顔を覗かせる夕暮れ。
紅い右目に、眼帯を左目につけた少年……シンリは名前の無い――否、『今は』名前の無い、小高い丘のある草原に1人、佇む。
辺りをぐるりと森に囲まれ、旅人すらもおよそ寄り付かないであろうひっそりと開けた場所。それがシンリの立っている場所だ。
シンリは丘の斜面に腰を落とし、膝を抱える。所謂『三角座り』の体勢だ。
草原に一陣の風が吹き抜ける。シンリの艶のある黒髪も風になびく。
しかし、シンリは風になびく髪を止めようとはしない。空虚な目で草原を見つめるばかりだ。
この日、シンリは依頼で1人の男を殺した。その男は何十人もの人間を無差別に殺めていた大量殺人犯で、さらに殺した人物を老若男女を問わず自身の欲望の捌け口として扱う精神破綻者だった。
今日シンリが殺していなかったら、さらに多大な被害を被っていたことは想像に難くないだろう。
そういった意味では、シンリは当然の行動をしたといえる。
しかし、当のシンリの表情は暗い。
(……今さら、血にまみれた俺が、こんなことを思うのはおかしい……理解してる。……あの男だって生かしておけばさらに大変なことになっていた……。これも理解してる。……でも、それでも俺は―――)
「―――……殺したく、ない……か」
不意にシンリが言葉を紡ぐ。
これは、常に戦いに身を置き、心を殺して最強の座に立っているシンリという1人の人間の本心であった。
出来るなら殺したくない。しかし、自分には他の人より多くの力がある。そういった地位にある。だから殺したくない気持ちを抑えて、殺して、非情に撤する。
ここは、そんなシンリが本音を吐き出せる場所だ。
「……誰かを傷つける、こんな力…なんて……」
『要らない』この一言が出て来ないのは、シンリの地位故だろう。
シンリは目を閉じ、過去を思い出す。
――重圧に押し潰された村
――そこかしこから上がる悲鳴
――潰れた、原型の無いヒト
――そして、全身を真っ赤に染め上げている――
「……はっ。くそ、思い出しても、仕方ないってのにな……」
どこか、自嘲を孕んだ口調で呟く。
シンリ回想するのを止め、その目には、もはや何も映ってはいない。
燃えるような紅い瞳は陰り、光を宿さない。
シンリは三角座りのまま、膝に顔をうずめる。
どれだけそうしていただろう。日は完全に暮れ、3つの月と数多の星々が輝きを強める。
「……甘いか。……『殺したのなら、その分を背負わなければならない』『殺したのなら、生き続ける。それがせめてもの贖罪』」
シンリの発言は、自分に言い聞かせるようだった。
これらは、シンリの両親からの言葉。そして、壊れそうな彼の心を繋ぐ大切な言葉だった。
「……そろそろ帰らないと……【約束されし安住の地】」
転移魔法を用い、シンリは天杯の宿の自室へと帰っていく。
──シンリ入学まで、あと5日の出来事であった……