第3話 課せられた任務
シンリはギルドの宿泊棟、通称『天杯の宿』にある自室へと転移した。
ギルドに併設されたこの施設は、ギルドの隊員や旅人などが依頼の準備や何らかの事情で首都に滞在するときの為に作られたものだ。
白と茶色の家具で統一されたシンプルな部屋に、シンリは立つ。
「う~い……いま帰ったぞ~……」
まるで酔っ払いのような事を言うシンリだが、返事をする者は誰もいない。
そう、シンリは一人暮らしなのだ。今回のことといいスフィアの時のことといい、このシンリという少年は口数は少ないが随分気さくな性格のようだ。
「腹は……減ってない。……寝よう。…ダ~イブ」
ボフンと、音を立ててベッドに飛び込む。
「……あ、【綺麗好きな妖精】」
何かを思い出したかのようにシンリは魔法名を呟く。
シンリの体が衣服を含めて淡く輝き、付着していた汚れを落としていく。
【綺麗好きな妖精】とは自分や他の人や物を綺麗にする魔法で、旅人などに風呂の代わりとして浸透している魔法だ。
「さ……寝よ」
シンリはフードを外さないまま掛け布団に潜り込むと、すぐに寝息を立て始める。
シンリが寝て数分後。シンリの部屋の扉が静かに開く。
隙間から顔を覗かせるのはシンリの義母であるスフィアの姿。
スフィアは音を立てないように浮かびながらシンリに近づき、顔を覗き込む。
ちなみに、スフィアのこの魔法は【悪戯な風使い】という魔法で、効果は何かを浮かせたり飛ばしたりする魔法だ。
フードですっぽりと顔を隠し、口を一文字に閉め、寝ている様子のシンリ
「やっぱり寝ちゃってたか……」
「……ところがどっこい……」
と、寝ている筈のシンリが急に口を開く。
「わっ……と。起こしちゃった?」
「……いぇーす。……で、何か用でも……?」
シンリは特に気にする素振りもなく、スフィアに問いで返す。
「……依頼よ。それも、超大物からのあなた指名の依頼」
瞬間、シンリの部屋の雰囲気ががらりと変わる。スフィアの気迫は若くしてギルドマスターを務めるだけあり、凄まじいものだ。といってもこれは、スフィアの仕事中のスタイルなのだが……。
「――っ…」
咄嗟の事ながらシンリは素早く反応し、スフィアに向き直る。
「いい? 依頼主は王族よ。それで依頼内容なんだけど、まずはこれを見て」
スフィアは先程の封筒をシンリに渡す。
シンリは封を切ってあるそれの中身を取り出し、一番上の紙を見る。
「……俺指定で『王立魔法学園に入学し、王女の護衛依頼』……?」
「シンリ。この依頼、王からの直接の依頼よ。受けてもらえる?」
……余談だがこの国の国王の支持は厚い。王の座に就任したときに貴族の領地内での重税に規制を設けた事や、奴隷制度を廃止させた事、さらに他国との戦争において圧倒的な強さを以て勝利を治めた事が彼の支持に繋がるのだろう。
かくいうシンリ自身も、暁天として王と肩を並べ、敵軍に立ち向かった過去がある。その時もシンリには及ばないものの、他を遠く寄せ付けない働きを見せていたのだ。
その王からの直々の依頼だ。シンリの返答は既に決まっていた。
「やだ」
空気が、凍った
「……一応、理由を聞いておこうかしら……?」
スフィアはシンリの予想外の返答に、額に青筋を浮かばせ、顔をひくつかせながらも冷静に問いかける。
「む、まず……ここ」
一番目の書類に書いてある報酬額を指差す。
「『報酬は1日金貨10枚とする。』……ね。まさかとは思うけど、額に不満でもあるのかしら?」
「……ざっつ、らいと」
シンリの返答に、スフィアの青筋が一本増える。
「ちなみに学園って何年くらい通うか知ってる?」
「……多く見積もっても、1年k「4年間よ」4……? 4……!?」
若干苛ついているのか、シンリの発言に被せる。
当のシンリはというと、余程4年間という期間に驚いたのか、何度も反復している。
なぜシンリがここまで驚くのか。それは、シンリが魔法を身につけた所まで遡る。
――この世界での魔法は、習得の難易度、魔法の規模に準じてランク付けされている。
下から、下級魔法→中級魔法→上級魔法→最上級魔法→極級魔法→神級魔法となる。
因みに魔法学園で習う魔法は上級魔法までで、才能のある人材が最上級魔法に到達するのだ。それでも最上級魔法を習得出来るのは学生の中でもほんの一握りの人材である。その上の極級魔法や神級魔法など、習得出来るのはひとかけらの才能に溢れた人物だけだろう。
シンリは齢9歳にして神級魔法を習得し、『暁天の黒珠』として前線で活躍していた。
そんなシンリだからこそ、一般常識に疎く、4年もかけて魔法を学ぶとは夢にも思わなかったのだ
そのことを知っているスフィアは額の青筋を鎮め、同時に放っていた気迫も霧散させた。
「まぁ、まだ理由はあるでしょうけど期間のことは良しとしましょう。……そうね。じゃあ明日、答えを聞こうかしら?」
「ごめん、一晩考えてみるから……本当にごめん」
スフィアにむけ、頭を下げる。
「謝る必要なんてないわ。……また明日ね?」
「ん……良い、夢を」
部屋を出ていくスフィア。シンリはベッドに横になり、【悪戯な風使い】を使って書類を浮かせ眺める。
「……期間は、4年間。任務開始は7日後か……。うん?」
書類に書かれた内容を確認していたシンリがある2つの文に目をつける。隅の方に小さく『働きによっては特別ボーナスを設ける』『入学金、及び必要経費については、国王が全額負担』の一筆があったのだ。
「よし、やろう」
シンリの決意は固まった。決意も何も、単純に金の誘惑に釣られただけなのだが……。
白色の机に書類をまとめておくと、シンリは掛け布団をかけ、フードで見えないが、目を閉じる。
───数分後、白と茶色の家具で統一された部屋で、シンリは眠りについていた。
その時、寝返りを打ったと同時に、シンリの顔を隠していたフードが外れる。
寝ていたのは、艶のある長い黒髪を後ろの方で無造作に縛り、左目に黒い眼帯をつけ、その姿を見た者は頬を紅潮させてしまうであろう整った容姿をした、それ程年をとっていない、1人の少年の姿だった────
これでも短いかな~といった感じです(泣)
いやはや、小説を書く、文章を考えるというのは本当に難しいですね~
それ故にやりがいも大きいし、私はそこが好きなんですけどね?