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契約者でフラグ職人な高校生  作者: 高城飛雄
2部 学園祭編
51/51

27章  混乱の合宿~三日目・夜②~

遅くなりました…(汗)

 二十五分後。


「ハァ……」


 ダッシュで走り通したおかげで上がった息を整える。

 大きく吐き出した一息には多分、ため息も含まれていたんじゃないかな。


 あれからほとんど走り通した後、再び合宿棟の前まで戻ってきた僕たち。

 三か所にあたりをつけ、各地を急いで探し回ったんだけど、未だに秘密の書かれた文書とやらは見つかっていなかった。


 葉擦れ池にも、桜広場にも、カフェテリアにも。

 どこを探してもそれらしいものは全く見当たらなかったんだ。

 木の上や屋根の上、池の中まで探したのに。

 うぅ、腕が冷たい。


「まずい……これは本当にまずい……」


 さすがに焦ってきたのか、凛はさっきからそんな言葉を漏らしている。

 いつも冷静な彼女が本気になるほど知られたくない内容だったのだから、タイムリミットが迫って焦るのも当然だろう。


 でも、彼女の声から疲労の色は窺えない。

 これだけ走ったというのに凛は疲れていないのかな?


「凛、どうするの?」


 ようやく息を整えた僕は、近付いていって声をかける。

 刻限は迫っているのに、もう隠し場所の候補は思いつかないんだ。


「どうしよう……アレがばれたら……」


 だけど凛は僕の声が聴こえていないようだった。

 目を見開いて、蒼白になった顔でうわ言のように呟いている。


「凛?」


 もう一度呼びかけたけど、動揺しきっているようで反応はない。

 頭が真っ白になってしまっているのかもしれないな。


 そして、凛はとうとうしゃがみこんでしまった。


(そんなに知られたくないことなのか……)


 僕は青白い顔で頭を抱える彼女を見て、どうにかしてあげたいと思った。


 僕の恥ずかしい話というのがどんなものか、僕自身も予想がつかない。

 最悪ばれてしまってもしょうがないかなと思うし、久藤さんは良識ある人だからあんまり危ない秘密は暴露したりしないと思う。


 でも目の前で震える凛を見ていると、僕のことはともかく彼女の秘密は守りたいと思うんだ。

 凛が知られたくないと思うことを晒させたくはない。


 まだ間に合う。絶対に見つけよう。

 そう思い、別の候補を思い浮かべようとした。

 そのとき――。


『雅人くん、弓月さん、タイムリミットまであと二分よ』


 合宿棟の窓から、久藤さんが拡声器で呼びかけてきた。


 あと二分。


 隠し場所の見当も付いていないこの状況においては絶望的な短さだ。


「どうしよう、どうしようっ!」


 膝をついて頭を抱える凛はもう震えることしかできない。

 気が動転してしまって冷静な思考を失っている。

 これじゃあもう、凛は動けない。


(あと二分。このままじゃあ……)


 僕は焦る心をどうにか鎮めて考えを巡らせた。


(大事なものを隠す場所。三十分以内に、確実にたどり着ける場所……)


 思考をフル回転させて、文書の隠し場所を思い浮かべる。


 時間は刻一刻と迫り、心の中で焦りがどんどん大きくなっていく。

 緊張で鼓動が早まり、心音が頭の中で大きく響く。

 ドクンッと響く度に、胸が締め付けられるような緊張は大きくなっていった。


(くっ! 久藤さんはいったい何処に……)


 そうして、悔しさに歯噛みしながら久藤さんを見上げて――。




 一つ、引っかかった。




(あれ?)


 仮に久藤さん本人が文書を隠したとして、それが時間内に回収されたと確認するためにはどうするのだろうか。

 時間切れになったとき、それをどうやって発表するのだろうか。


 当然、発見するその場を目撃しなきゃいけないだろう。


 だけどそこに誰か別の人を配置しておくわけにはいかない。

 もしその人が文書を覗き見てしまっては困るから、必ず久藤さん本人がその場を見ていなければならないはずだ。


(でも当の久藤さんは僕らのすぐ上にいるわけで……)


 そこまで考えて、僕は閃いた。


 窓からニヤニヤと僕らを見下ろす久藤さん。

 あの場所から見下ろすことが出来るのは、今この場の周辺だけだ。


 つまり、例の文書はこの近くにあるということ。


 思い至って、僕はすぐに周囲を見渡した。

 合宿棟の入り口前はちょっとした広場になっていて、何かを隠しておく場所はほとんどない。

 だけど――。


「あれだ!」


 たった一つだけ、条件に合う場所があった。


 合宿棟前の広場の中央に置かれた灯篭のような置物。

 周囲を細やかな生垣で囲まれていて、さほど目立つ代物ではない。


 だけどそこは、窓の上から見下ろす久藤さんの目と鼻の先だ。


『あと一分よ』


 隠し場所がわかった瞬間、久藤さんの無慈悲な声が聴こえてきた。


「嫌ああぁ!」


 途端に、脇で凛が嫌々と悲鳴を上げ始める。


 僕はすぐさま行動を起こした。

 ほんの数メートル先の灯篭に駆け寄って、目的の物を探す。

 足元の生け垣をかき分けて、灯篭をぐるりと一周して、そして中を覗きこんで――。


「あった!」


 それは、灯篭の屋根裏に張り付けてあった。

 電球の上の、とてもじゃないけど目立たない場所に。

 一つの便箋が、そこにはあったんだ。


『はい、終了! 雅人くん、よく見つけたわね。本当にギリギリだったけど、ちゃんと時間内だから挑戦は成功よ!』


 僕が便箋を取り出すと、斜め上方からそんな声が届いた。


 ぎりぎりで間に合ったみたいだ。

 安心して、ほっと胸を撫で下ろす。


(ハァ。よかった……)


 内心で大きなため息を吐いて、僕は手にした便箋を見つめた。


 と、次の瞬間――。


「雅人!」

「うわっ!」


 突如、駆け寄ってきた凛に抱きつかれた。


「よかった……。ほんとによかった!」

「ちょっと凛!?」


 凛は僕の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめてくる。

 比較的小柄な凛だけど日頃から鍛えている彼女の力は強くて、それでいて女の子特有の柔らかさみたいなものもちゃんとあって。


「うぅ……まさとぉ……」


 泣き出してしまった凛の見たこともない弱々しい一面は、これまで彼女に抱いてきた印象を良い意味で崩してくる。


 なんていうか、すごく可愛らしかったんだ。


『はいはーい。二人とも、お疲れ様。約束通り、その秘密は非公開のままよ。雅人くんも弓月さんも、命拾いしたわねぇ』


 凛に抱きつかれた状態の僕を、さらにニヤニヤを深めた久藤さんが揶揄する。

 僕は顔だけをそちらに向け、苦笑いで応えておいた。


 久藤さんは僕にパチッとウインクを一つすると、それ以上何も言わずに窓の向こうへ姿を消した。

 僕と凛だけが、その場に残される。


 安心して気が抜けたのか、凛は未だオロオロと泣き続けている。

 いつもの強気な態度からするとこんな凛の姿は物凄く貴重で、いつになく保護欲みたいなものを掻き立てられる。


「ほら、凛。もう大丈夫だから」


 そんな風に、僕は彼女が泣き止むまで髪を優しく撫で続けた。


 冬の夜にも拘らず、どういうわけか温かかったな。







「さっきのは、その……忘れて頂戴」


 しばらくして、ようやく立ち直って離れた凛は恥ずかしそうに顔を逸らした。


 冷静沈着で大胆不敵な彼女がここまで顔を赤くするのは珍しく、それだけに凛の羞恥が相当なものだとわかる。


「うん、わかってるよ。さっきのは見なかったことにする」


 付け込むような真似をするつもりはないし、人間知られたくないことの一つや二つはあってもおかしくないからね。


 凛は僕の返事に安心したのか、ほっと息を吐いて笑みを浮かべた。

 少し赤いままの頬を緩ませて、いつもの凛々しい笑顔になる。


「改めてお礼を言うわね。雅人のおかげで、本当に助かったわ。ありがとう」

「どういたしまして。土壇場でわかってよかったよ」


 僕も微笑みで返した。

 すると、凛は少し悔しそうな表情に変わる。


「そうね。私もまさかスタート地点に隠されているとは思いもしなかったわ」

「ほんとだよ。『三十分でも十分可能性がある』なんて、すごく紛らわしいこと言ってくれたから」

「必ずしも嘘ではないところが策士ね。真奈……やっぱり侮れないわ」


 なにやら凛の中で久藤さんへの警戒度がグングン高まっていっているらしい。


 確かに久藤さんはやたら段取りが良いし、根回しも早い。

 今回のように人の裏をかく発想力も持ち合わせている。

 絶対敵に回したくないタイプの人だ。


「でも、他人の嫌がることをするような人じゃないと思うよ?」


 根拠はない。

 久藤さんの為人を把握しているわけでもない。

 同じクラスになったのも今年が初めてだし、中学が一緒だったなんて事実もない。


 でも、何故か久藤さんは信用できる人のような気がしたんだ。

 今回の学際準備期間で、彼女が精一杯クラスの皆を楽しませようと頑張る姿を目にしているからかもしれない。


「ええ。私もそのことに異論はないわ。真奈は信頼できる」


 どうやら凛も、僕と同意見のようだった。

 幼い頃から沢山の大人に囲まれてきた凛がそう言うのだから、きっと間違いない。


 凛に絶対の信頼を置いていると自負する僕は、彼女の言葉に確信を以て頷いた。







「ところで、雅人はあの絶望的状況の中、よくもまあ諦めずに捜索を続けられたわね」


 自分たちの部屋へ帰るため、揃って合宿棟の入り口へ歩いているところ、凛は少し呆れたように漏らした。


 諦めが悪いのは別に悪いことじゃないと思うんだけどな……。


「不本意な形で秘密を暴露されるのは、誰でも嫌だからね」


 なんとなく納得できない気がするも、僕は当たり障りのない答えでお茶を濁しておいた。

 凛を助けたかったというのが本音だったんだけど、それを本人に言うのはちょっと憚られたからね。


 だってそういうことを直接言うのって、なんか照れるじゃないか。


「あら、雅人にも暴かれたくない秘密とやらがあるのかしら?」


 と、僕の内心の葛藤など露知らず、すっかりいつもの調子を取り戻した凛は不敵な笑みを浮かべて見つめてきた。

 その眼に、悪戯心が宿るのが見て取れる。


「いや、それが心当たりなくてさ。自分でも気付かないような恥ずかしいことだったら聴かれちゃうのは嫌だし、取り敢えず誰にも見せないでおこうかなーなんて」


 一応正直なところを話しておくことにして、僕は苦笑いを浮かべる。


 凛はあからさまに不満そうな顔になった。


「……唯の一つも恥がないというのも、面白くないわね」

「いやいや、面白くないって……」


 不穏な台詞に苦笑いが深まってしまった。


 凛はそのまましばらくジトーっと僕を見つめた後、目にも留まらぬ速さで僕の持っていた便箋を奪い取った。


「あっ!」

「さて、雅人の恥ずかしい話というものがどんなものなのか、確かめてみましょうか」


 あっという間に便箋を開き、中から二枚の紙を取り出す。


(このままじゃあ不味い!)


「ちょっと待ったー!」


 慌てて僕は凛に迫り、彼女の手から便箋を奪い取ろうとする。

 でも彼女はヒラリと身を躱し、手を伸ばして僕の腕を掻い潜った。

 とんでもない瞬発力だ。


 僕の抑えようとする手を躱しながら、凛は器用に折りたたまれた紙を開いていく。


「あっ……」


 しかし、凛が文書に視線を落とした一瞬、彼女の動きが止まった。


(今だ!)


 僕はその瞬間を逃さず、彼女の手から文書を取りあげた。

 そしてハッとして振り向く凛に背を向けて、奪い取った紙に書かれた文章を目にする。




 二枚の紙にはそれぞれ、簡潔にこう書かれていた。




『蒼井 雅人

 時折、誰もいない屋上などで何者かと対話するかのような独り言を呟くことあり。

 唯の独り言なのか、それとも何か痛々しい理由があるのかは現在調査中』


『弓月 凛

 スマホの待ち受けが「スーツ姿の蒼井雅人とのツーショット」であることを確認。

 人知れず眺めて、頬を緩める姿も確認されている。意外に乙女な模様』




 二枚の文書、特に自分のことについて書かれた方を目にして、僕は息を呑んだ。


(ルーナと話しているところを見られていた……!?)


 その事実に動揺してしまった所為で、僕は凛の方の秘密には殆ど意識が向かず、また背後から迫る殺意に気付けなかった。


「雅人……。どうやら本気で死にたいようね」


 身も凍るような戦慄を覚え、僕は瞬時に青褪める。


 錆びついた機械のようにゆっくりと振り返ると、その先に見たのは――。







 この日、僕の記憶はここで途切れてしまった。


 そして深夜に目覚めたとき、僕は休憩スペースのソファで横になっていた。




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