4章 転入生
りさちゃんに呼ばれ、女の子が教室に入ってきた。
艶のあるセミロングの黒髪に吸い込まれるような黒の瞳、驚くほどの小顔ときれいな白い肌。背はそれほど高くないけど、細くくびれた腰、すらっと長い脚も相まってとてもスタイルがいい。
二条さんと呼ばれた彼女は教壇の脇まで来ると、黒板に“二条雪姫”と流れるような字体で書いて、
「二条雪姫と申します。家の都合で京都の学校から転校してまいりました。どうぞよろしくお願いいたします」
と優雅にお辞儀をした。育ちがいいお嬢様みたいだね。
見た目の可憐さもあって、クラスは男子のみならず女子も彼女の動作に魅入っていた。
が、静寂はすぐに破られた。
「すっげー可愛い!!」
「肌白ーい。どうやったらあんなふうになれるのかな?」
「こんな可愛い子なかなかお目にかかれないよ」
「すごい、お姫様みたい!」
予想をはるかに上回る美人の出現に、クラスが大騒ぎになってしまった。
こうなると、転校生への質問タイムとなるのは当然というもので、
「二条さん、どのあたりに住んでいるんですか?」
「好きな食べ物は?」
「何か好きなスポーツを教えて!」
「趣味はなんですか?」
あらら、これは収拾つかないな。案の定、二条さんも突然の質問の嵐に混乱してしまっている様子。
ここで、さすがにりさちゃんが場をおさめるべく、声をあげた。
「はいはい、ちょっとストップ。そんなにいっぺんに答えられるわけないでしょ。それにそろそろ授業開始時刻になっちゃうから、質問は3つまで。はい、挙手!」
りさちゃんの号令を受けて、みんな一斉に手をあげる。
挙げてないのは仁のほか、数人ぐらいだ。かくゆう僕も手をあげているわけで。
「そうねー…。じゃあまずは斎藤くん、次が久藤さん、最後が蒼井くんね。はい斎藤くん、どうぞ」
選ばれちゃったよ…。
りさちゃん、さっきのお礼のつもりなのかな。一番プレッシャーのかかる最後だなんて…。
指名が済むとみんなが手を降ろした。質問者に熱い視線を送り、いい質問が出るのを求めている。
「えぇーと…。じゃあ質問です。趣味や得意なことはなんですか?」
うん、一つ目としては無難でいいんじゃないかな。割と答えやすいし。
「そうですね…。趣味というほどではありませんが、本を読むのは好きです。得意なことですと、お料理ですね。和食とお菓子作りには自信があります」
おおー、と声が上がる。おそらく料理が好きだということについてだろう。
うん、彼女の作るお菓子や料理は是非僕も食べてみたいな。
それに、活花やお茶を点てるみたいなことを言われなくてよかったな。それじゃあ見たまますぎるからね。
「はい、じゃあ久藤さんどうぞ」
りさちゃんが次を促す。久藤さんは笑みをたたえながら、というかにやけながら
「はいはい!二条さんの好みの男性のタイプは?」
途端、教室がざわめく。
……なんというか、これも定番だよね。
「だ、男性のタイプですか?」
二条さんは頬を赤らめながら、胸の前で手をもんでいる。
うん、とっても可愛らしいこの反応もある程度予想はできてたけどね。
彼女はたぶん、照れながらも真面目に答えるんじゃないかな。
「ええと…、優しくて頼りになる男性がいいです…」
おおー、とまたしても声があがる。
たぶん、今日から男子は変わるだろうな…。
「はいはい、静かに。じゃあ最後蒼井くん。きっちり締めてね」
りさちゃんが壇上から声をかける。
しれっとハードル上げてくれちゃって。
愚痴ってもしょうがないので、僕はその時思いついた質問をした。
「二条さん、京都ではどんな学校に通ってたんですか?」
彼女は僕の質問を聞くと微笑み、
「私立清仲女子高等学校というところに通っていました。京都駅から電車で15分くらいの場所にあって、春は桜が、秋はモミジが構内に広がってとてもきれいなところですよ」
嬉しそうに語る彼女に少し安心して、僕はさらに続けた。
「それはとても魅力的ですね。写真は残ってますか?」
「はい、手元の携帯電話と、家には現像したものもあります」
「後で是非見せてくださいね」
「もちろん、いいですよ」
そう言って、二条さんはやっと自然な笑顔を見せた。
さっきの照れた感じの表情もいいけど、やっぱり笑顔がとても可愛らしい子だな。
「はい、質問タイムはここまで。蒼井くんなかなかやるわね。二条さんはお疲れ様。それで、二条さんの座る席なんだけど…」
りさちゃんはそう言い、教室を見回した。
「一番後ろになっちゃうんだけど、奥から2番目の蒼井くんの隣でいいかしら?」
このクラスは男子の方が2人多く、一番後ろが廊下側と窓側から2番目の二か所が空いていた。
それでこっちになるということは、多分任せたってことなんだろうな。
「はい、問題ありません」
そう言って、二条さんがこちらに歩いてくる。
「うん、それじゃあそこでお願いね。蒼井くん、後は頼むわよ」
「了解しました」
それきり、りさちゃんが教室を出て行った。
僕は立ち上がって隣まで来た転入生に、
「僕は蒼井雅人。よろしくね、二条さん」
と軽く自己紹介をして、手を差し出した。
「こちらこそ、これからお世話になりますね。蒼井さん」
少し大げさに言って、差し出した手を軽く握ってくれながら二条さんが答えた。
「僕にできることならなんなりと。それと、僕のことは雅人って呼んでほしいかな」
「それなら私も雪姫と呼んでください。その方が親しみやすいですから」
「わかった。それじゃあ雪姫さん、よろしくね」
「はい、よろしくです。雅人さん」
そう言って雪姫さんは微笑んだ。ここまでで一番いい笑顔だったな。
恋愛&バトルものです。
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