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契約者でフラグ職人な高校生  作者: 高城飛雄
2部 学園祭編
47/51

23章  騒乱の合宿~二日目・夜~

 思い出した。

 何もかも、全部。


 大浴場で遭遇した事態を。

 この後頭部の痛みの原因を。

 そして……。


「……すぅ……」


 目の前で穏やかな寝息を立てる幼馴染。

 その服の下に隠された艶やかな姿を目にしてしまったことを。


 琴音だけではない。あの場には、雪姫さんや凛の姿もあったんだ。

 二人のあられもない姿を見上げてしまった。

 雪姫さんの白い肌はきめ細かくて綺麗だったし、凛の細く引き締まった体は本人の立ち居振る舞いも相まって不思議な色気を……。


「って!?何を思い出してるんだ、僕は!」


 一瞬とはいえ確実に浮かんだ三人の艶姿に顔が熱くなっていき、僕は思わず自戒の声を発してしまう。

 がしかし、声を上げたのは軽率だった。


「……ん……」


 眠っていた琴音が薄く眼を開いて、僕に視線を向けてくる。


「……雅人……?」

「こ、琴音……!?」


 こちらを向いた彼女の顔を見ると、再度脳裏に映像がフラッシュバックする。


 琴音は琴音で、明らかに不審な僕の反応に体を起こしてじーっと僕を見つめてくる。

 そして、その眼が次第に大きく見開かれていき、やがて勢いよく立ち上がると一気に詰め寄ってきた。


「雅人!?目が覚めたの?」

「う、うん……。見ての通り……」


 最早苦笑いしか浮かばない僕に、琴音は顔を赤くしながら鋭い視線を向けてくる。


「………」


 物も言わずに睨まれ、僕は眼を逸らすことしかできなかった。


「……雅人、ちょっと座りなさい」

「……ハイ」


 ようやく口を開いた琴音の視線に威圧されながら、僕は大人しく正座する。

 その眼光の鋭さと強烈な迫力に逆らえる者など、果たしているのだろうか。いや、いるわけがない。


「くだらないことを考えて現実逃避を図るのは構わないけど、私は絶対に逃がさないわよ?」

「……ハイ、スミマセン」


 笑みを浮かべた顔を引き攣らせながら、琴音は僕に顔を寄せてくる。

 こうなると、僕にはもう平伏するしか道は残されていない。


 琴音はひとしきり間近で僕を睨むと、腕を組んで見下ろす態勢に変わり、本題に入り始めた。


「雅人、あなたは自分が何をしたか覚えているわよね?」

「……ハイ」


 直前まで忘れていました、なんてことは勿論口にしない。というかできない。怖くて。


「なら、あなたがしたことは巷で犯罪と呼ばれているということも理解しているわよね?」

「……ハイ」


 そう言って安田くんを止めようとしたのは他ならぬ僕だ。失敗したけど。


「あなたが私や二条さん、そして弓月さんの……その……裸を見たことは紛れもない事実よ。……これはわかっているわね?」

「うん。……事実だよ」

「反省しているかしら?」

「……物凄く反省しています」


 まあ、不可抗力の点もあったとはいえ、僕が安田くんと対馬くん相手に油断していなければあんなことにはならなかっただろうと思う。

 それに、もし仮に二人に押し入れられたとしても、冷静に顔を伏せ、落ち着いて説明・対処していれば三人のその……あの姿を見ることなく穏便に済んだのだろう。

 そう考えると、こんなことになってしまったのは僕自身の責任でもあるのだと言える。


 正座してカーペットに両手をつき、深々と頭を下げて琴音に謝罪の意を示す。

 自分が悪いのだから、頭を下げるのは当然の行為だ。


「……わかったわ。悪気があったわけではないみたいだし。今回だけは許してあげる」


 誠意が通じたのか、琴音はそう言ってそっぽを向き、声を柔らかくした。


「……もう今回みたいのはナシにしてよね?……心の準備も無しにいきなり裸を見られるなんて……」


 顔を上げた先で、琴音は顔を赤くして何かブツブツと言っていたのだけど、後半は声が小さくて聴こえなかった。


「えっ?後の方なんて言ったの?」

「なんでもないわよ!」


 訊き返した僕の言葉に対し、琴音はまた顔を真っ赤にして怒鳴りつけてくると、「ふんっ」と顔を逸らしてしまった。


「あはは……」


 苦笑いを浮かべ、渇いた笑いを漏らす。

 容赦してもらえたのはありがたいんだけど、しばらくはまともに顔が見れなくなりそうだな……。


 と、そんなことを考えてため息を吐いた僕は、それから立ち上がって琴音に問いかける。


「琴音。僕が気絶した後、何があったの?この部屋は僕と仁の部屋じゃないよね?」


 それはずっと気になっていたことで、答えによっては色々拙い状況なんじゃないかと思われる質問だ。


 琴音はまだ少し赤い顔を僕に向けると、腕を組んだ姿勢のまま答えた。


「ええ。ここは私が一人で使っている部屋よ。雅人ってば、気絶しちゃって目が覚めなかったんだもの。三人でこの部屋まで運んだのよ」

「あー……それは何とも……」


(それって、着替えさせたのも三人ってことだよね……?)


 僕はあまりの恥ずかしさに顔が熱くなっていくのを感じた。

 気絶していたとはいえ、女の子三人に濡れた体を拭かれ、服を着せられたのかと思うと、恥ずかしさで死んでしまいそうだ。


「ちなみに、服を着せたのは堺くんよ」

「それを先に言おうよ!?」


 ニヤッと意地の悪い笑みを浮かべながら言った言葉に、思わず必死なツッコミが漏れる。


「なに?雅人は私たちに体を拭いてもらいたかったのかしら?」


 尚も、琴音の意地悪な問いかけは続く。僕は赤くなった顔を逸らした。


「べ、別にそういう訳じゃなくて……。ちょっと気になっただけだから……」

「ふふふ……」

「もう……。ところで、どうして仁がいたのに三人で僕をここに運び込んだの?そのまま仁が僕らの部屋に連れ帰ればよかったんじゃない?」


 このままにしておいたらいつまでもいじられるだろうと思い、話題を変えることにする。

 それはなんとなく訊いたことだったけど、言ってみてからこれは割と大事な事だなということに気がついた。


 そして、返ってきた琴音からの答えは意外なものだった。


「ああ、それは二条さんがあなたを心配したからよ」

「雪姫さんが……?」


 なんだろう。雪姫さんには怒られることこそあれ、心配されるようなことはなかったような……。


「ほら……。雅人が気絶した原因って、私が思いっきり蹴飛ばしちゃったことでしょう?二条さんはそれが気になっていたらしくて、出来るだけ自分の近くにあなたを寝かせて様子を見たいって聞かなかったのよ」


 苦笑いでそう語る琴音は少し呆れているようにも見えた。


「でもまあ、それって二条さんじゃなくて私の所為でしょ?だから結局、私が一人で使っていた部屋にあなたを寝かせることにしたのよ。隣は二条さんと弓月さんの部屋だしね」


 そうだったんだ……。雪姫さんが……。

 悲鳴まで上げさせちゃったのに僕のことを心配してくれるなんて、やっぱりすごく優しい子なんだな……。


「……なんだか雅人は決定的な勘違いをしていそう……。まあいいわ。それで雅人、あなた、どこか痛みを感じるところはない?無いわね?無いならいいの」

「琴音……それ、今思い出した上に、全然気にしてないでしょ?」

「そんなことないわよ?雅人に怪我なんてさせたくないもの。でもあなたは鍛えているから頑丈だって知っているわ。私の知っている雅人なら、あれぐらいでどこかを痛めたりはしないわよね?」


 笑みを浮かべて得意げに語る琴音だがしかし、雰囲気を見れば言いたいことは簡単に解った。

 要するに、『当然の報いよ』ということらしい。まあ否定はしないけどさ……。


 それから琴音は少し真面目な顔に戻ると、左手を腰に当て、右手の人差し指を向けてきた。


「ああ、そうそう。雅人、あなた明日……じゃなくてもう今日ね。しっかり二条さんに謝っておきなさいよ?一番恥ずかしそうにして、それでいて一番あなたを心配していたんだから」

「うん。わかってるよ」


 言われなくてもそのつもりだよ。雪姫さんは絶対気にしているだろうからね。

 僕の返答を聞いた琴音は、振り返って自分のベッドに腰掛ける。


「わかっているならいいわ。はふぅ……。それじゃあもう寝ましょ?また朝食を作るんでしょ?」


 そして欠伸を一つしてから横になる。

 そんな彼女に、僕は最後にもう一度声をかけた。


「あ、ちょっともう一つだけいいかな?」

「何?」

「うん。凛はその……怒っていなかった?」

「さあ、どうかしらね。ふふ」


 眼を閉じながらも口の端を持ち上げ微笑む琴音。

 僕は彼女のそんな穏やかな笑みに一つ息を吐くと、彼女に背を向けて部屋の扉の方へ歩いた。


(さすがにこのままここで眠るわけにもいかないもんな……)


 そんな思考の下の行動だったのだけど……。


「雅人、どこへ行くの?」


 それは部屋の主自身によって阻まれる。


「いや、さすがにここで眠るのは拙いから自分の部屋に戻ろうと思うんだけど……」

「こんな時間に女子部屋の前の廊下を歩いているところを見つかったら、もっとマズイことになると思うわよ?」

「うっ……」


 このままここにいるのは拙いと思う反面、琴音の言葉も的を射ているので無下には出来ない。


(でもやっぱり、このまま琴音の隣で眠るというのは……)


 そんな風に僕が苦々しい顔で悩んでいると、琴音は一つため息を吐いてから、止めの一言を放った。


「朝ここに来てあなたがいなかったら、二条さんは泣いてしまうかもしれないわね」

「…………わかったよ」


 そんなことを言われてしまったら自室に戻るわけにもいかない。


 『女の子を泣かせるのは一番やっちゃいけないこと』だから。


 僕はそのまま足を戻して、目を覚ましたベッドに横になり、眠ることにした。





 当然、そのまま大人しく眠りについたのは言うまでもない。


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