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契約者でフラグ職人な高校生  作者: 高城飛雄
2部 学園祭編
46/51

22章  騒乱の合宿~二日目・夕~

遅くなってしまい、スミマセン…。

◇◇◇



 琴音と雪姫さん、そして二日目担当の調理班のクラスメイト数人と一緒にその日の朝食を作り、起きだしてきた四十人余りできれいに食べ尽くした後――。

 日中は昨日と同じように班別の作業と訓練を行った。


 僕は午前中、調理班の皆に二種類のパスタの調理指導を行い、午後は仁や凛と一緒に接客の訓練をしていた。

 正直、接客までやらなければならないのはとても不本意なんだけど、久藤さんの「料理長は接客しないなんて誰が言ったの?」という一言で完全に逃げ道を塞がれてしまった僕は、抵抗を諦めて接客訓練にも励むことにした。

 この間、調理班の指導は雪姫さんと交代して、彼女の得意分野であるところの和食系統の調理指導をしてもらっている。

 後は衛生管理の徹底や班員各自が作った料理の味見なんかも任せてしまった。


 それについて後でお礼と謝罪をしたら、


「雅人さんはお忙しいんですから、もっと頼っていただいて構いませんよ?」


 と笑顔で言われてしまった。気を遣わせちゃったみたいで申し訳なかったな……。


 ともあれ、準備と訓練自体は特に問題やハプニングなんかも起らず、二日目の作業は滞りなく終えたはずだ。





 それから初日と同じく、調理班全員で人数分の夕食を作って振る舞ったのもしっかりと覚えている。

 この日の食事のメニューは、直前に雪姫さんが美味しい揚げ方を伝授してくれていたヒレカツだったのだけど、ボリュームたっぷりなのに余分な脂が切られていてヘルシーなヒレカツは、男子からも女子からも大盛況だった。

 結果、一人二枚プラスアルファと見積もっていたヒレカツはあっという間に完売。

 仁をはじめとした運動部男子からの物足りないとの声もあったけど、概ね疲れて空っぽになっていたみんなの胃袋を満足させることができたようだ。


 食事の後、各自部屋に戻るみんなの表情が満足げなものだったのを見て、雪姫さんが嬉しそうに笑っていたのを良く覚えている。


「みなさんに美味しく食べて貰えて嬉しいです」


 そう言って笑顔を浮かべる雪姫さんに、僕も頷いて返したのを、しっかりと覚えている。



◇◇◇



 うん。

 やっぱりこの辺りはハッキリと覚えている。


 目を覚ました直後にも、この辺の記憶はしっかりとしていた。

 今日の準備は順調に進んで、何の問題も無く夕食を終えた。それは間違いない。


 だとすると、残る可能性は夕食の後になるな。

 食事を終えて、後片付けを終えて、雪姫さんと軽く訓練の進捗状況について話し合って……。


 それから僕は部屋に戻ったはずだ。

 そのときの時間は確か八時前だったと思う。

 そして、現在の時刻は深夜零時を回った直後だ。

 この部屋で目を覚ましたのがおよそ三十分前だから、十一時半ごろまで僕は意識を失っていた、ということになるかな。


 つまり、八時ごろから十一時半くらいまでの、およそ三時間強の間に、僕はなにか気を失うような事態に遭遇したのだ。

 しかも、そんな僕を琴音が看病するほどの何かが。


(それにしても……)


 目が覚めたときから気になっていたのだけど、ズキズキと痛む妙な頭痛が一向に消えないんだ。


 気を失っていたのだから、頭痛ぐらいあって然るべきなのかもしれない。

 だけど、頭の内側が痛む普通の頭痛とは違うんだよね。


 もっとこう……後頭部をどこかに打ち付けたかのような鈍痛が……。


「う……ん……?雅人……?」


 眉を寄せて顔を顰め、後頭部を摩っていた僕の後ろから、小さな声が聴こえてきた。


「あ、ごめん。起こしちゃった?」


 空を見るためにカーテンを開けていた所為で、室内は月明かりに照らされている。

 丁度琴音が眠っていた枕元にも、淡い月光が当たっていたはずだ。


「ううん……大丈夫よ……」


 琴音は寝惚け眼を擦って一つ大きな欠伸を漏らすと、トロンとした瞳で僕を見上げる。


 ちょっと無防備すぎやしないかなー、なんてことを僕が考えていると……。


(っ!?)


 その瞬間、鈍い痛みと共に何かが頭の中で光った気がした。

 咄嗟に痛みの残る後頭部に手を当て、眼を閉じる。


(なんだろう……。今、何か……)


 一瞬、どこか水辺の様な光景が浮かんだのだ。

 でも目の前の水面からは白い靄が漂い出ていて……。


 瞼を開けた僕の視界には、未だぼーっとしていて、眠そうに欠伸を漏らしている琴音の姿があった。

 彼女は完全に覚醒してはいないのか、こっくりこっくりと首を揺らしている。


 やがて、琴音はもう一度眠りの園へ旅立ってしまった。

 起こした身体はぼふっと音をたててベッドに沈み、上半身が倒れ込む反動で脚が僅かに持ち上がる。


(またっ!?)


 再度眼の奥に光が瞬き、どこかで目にした映像がフラッシュバックする。


(えっ!?)


 今度のものは衝撃的だった。



 なにせ、タオルで体を隠しただけのあられもない姿の琴音が、顔を真っ赤に染めながら僕の首元に回し蹴りを見舞う瞬間だったのだから……。



 そうして、僕は後頭部の頭痛の原因と共に、すべてを思い出した。



◇◇◇



 ――夕食後。


 僕は部屋に戻って本を読んでいた。

 仁はお風呂に行ってしまって部屋にはおらず、かといって入れ違いになるわけにもいかないので部屋から出られなかったんだ。


 だけど、僕はそのことを特に嫌だとも思わなかった。

 寧ろ丁度いい読書時間だなと思ったほどだ。

 いくらなんでも、仁が部屋にいるときに一人で本を読んでるなんてことにはならないからね。


 そんな風に、僕が窓際の一人掛けソファに座って三十分くらい読書をしていると、やがて仁が部屋に戻ってきた。


「雅人、上がったぞ」

「ああ、お帰り、仁」

「お前も風呂に行って来たらどうだ?今なら割と空いてると思うぞ?」

「うん、そうだね。それじゃあ僕も行ってこようかな」


 仁に促され、僕は読んでいた本を閉じて立ち上がった。

 そうして鞄からお風呂セットを取り出し、合宿棟一階にある大浴場に向かったんだ。


 合宿棟の廊下にはほとんど人はいなかった。

 それは大浴場の前まで来ても同じで、どうやらみんなは食事の前にお風呂を済ませていたらしい。

 僕は一人で男湯の暖簾を潜り、脱衣場の中に入った。





「ふぅ……。温まるな……」


 シャワーで一日の汗を流し、体をきれいに洗った後、僕は湯船に浸かって大きく息を吐いていた。


 熱めに設定されたお湯が、体を芯から温めてくれるようでとても心地いい。

 この合宿棟のお風呂は、別に温泉というわけではない。

 だけど自宅のお風呂ではできない、体を伸ばしきった態勢になれるこの広さが、大きな浴場ならではの利点ではないだろうか。


 そんな感じで、僕が大きい浴槽を満喫していると、大浴場の端から小さな声が聴こえてきた。

 ちらっと視線を向けると、腰元にタオルを巻いた二人のクラスメイトが、清掃時に使用する関係者用出入り口の扉の前で何かコソコソとしていた。


「……よし……これを使えば……」

「マジかお前……本気でやるつもりか……?」


(なんだろう……)


 なんだかこの場に似つかわしくない不穏な声音が気になって、僕はゆっくりと二人に近づいていく。


「ふっふっふ。この瞬間のために、わざわざ管理人室から鍵を失敬してきたんだぜ……」

「おまっ……それってばれたら不味くね?」

「もちろんヤバいとも。だがそんな危険を冒してでも、俺はやるべき価値があると見る」

「何をやるって?」


 ニヤニヤとしつつも妙に誇らしげにしている右側の男子生徒(安田くん)と、心配そうに止める素振りを見せながらも表情はノリノリな気持ちを隠しきれていないもう一人の男子生徒(対馬くん)、二人の背後にそっと近づいて声をかけると、二人は目に見えて体を震わせ、ゆっくりと振り返った。

 その表情からは、どちらも先程までの笑みが消え、引き攣った笑いが浮かんでいる。


「あ、蒼井……。どうしたんだ……?」

「お、俺たちに何か用か……?」


 どうやら二人は先程の会話を無かったことにしたいらしい。

 でも、こんな場所で鍵がどうのなんて話をしているのを聞けば、二人が何をしようとしていたのかは解ってしまうよね。


「二人とも、高校生になって覗きは犯罪だよ?」


 取り敢えず、最初から止めを刺しに行くつもりで問いかけてみた。


「の、覗き!?い、いや……。俺たちは別にそんなことは……」

「そそそうだぞ、蒼井。別に覗きなんてしようとは……」


 案の定、二人は顔を青くして震えている。


「それじゃあ、その手に持ってる鍵は何なのかな?」


 僕は今度、少し穏やかな声音でそう問いかける。


 安田くんの掌に置かれている鍵には、ハッキリと『大浴場・関係者用出入り口』と書かれており、それが目の前の扉を開くための物であることは一目瞭然だ。

 そして、この扉は向かいにあるもう一つの大浴場に直接繋がる扉である。


「ぐぅ……」


 ぐうの音も出ないという言葉があるけど、安田くんの口からそれだけは漏れ出てきた。

 対馬くんは蒼白な顔で口をパクパクとさせており、こちらは本当に何も言えなくなっている。


 二人の絶望的な顔を見ていると、なんだか僕が二人をいじめているみたいに思えてきた。


「ハァ……。見つからないように返せるといいね」


 だからその場は見逃してあげようと決め、僕は踵を返しかける。





 しかし、この甘い判断が寧ろ、安田くんのプライドを刺激してしまったらしい。


「あ、蒼井……。お前はいつもそうやって……」


 逆恨みにしか思えないけど、安田くんはそんな言葉を漏らして僕を背後から羽交い絞めにした。


「対馬っ!ドアを開けろ!」

「なっ……ちょっと!何するんだよ!」


 僕が暴れて離れようとするのを抑えて、安田くんは対馬くんに扉の鍵を投げ渡す。

 対馬くんはそれを危なく落としそうになりながら受け取ると、戸惑いの表情を浮かべて固まる。


「蒼井……。お前には悪ぃが生贄になってもらうぞ」

「えっ!?そんな……ちょっと……」

「対馬、早くドア開けろ!」

「お、おう!」


 安田くんの勢いに呑まれた対馬くんは振り向いて扉に鍵を差し込み、回す。

 ガチャっという音が開錠を知らせ、対馬くんはノブを捻って白い金属製のドアを開いた。


「そらっ!」

「うわっ!?」


 瞬間、安田くんが全力で僕をドアの向こうに押し入れる。


「じゃあな、蒼井!」


 そして石造りの床に僕が倒れ込んだ背後からそんな声が聴こえ、扉が閉まった。

 すぐにガチャっと、今度は施錠の音が聞こえてくる。


「痛てて……」


 床に転がされた痛みに耐えつつ、僕は体を起こす。

 そして、すぐに後悔する。



「雅人……さん……?」



 肘をついて顔を上げた僕の目の前に立っていたのは、雪姫さんだった。

 その白く綺麗な肌を、惜しげもなく晒した姿で。

 当然だ。ここはお風呂場なのだから。



 顔が一瞬で茹で上がるのを感じ、眼を逸らせばいいのに硬直して動けなくなる。


 そして……。


「嫌あああぁ!!」


 聞いたことのない程大音量な雪姫さんの悲鳴が、浴場中に広がった。


「雅人。あなた、何をしているのかしら?」


 ショートカットの少女凛が、蹲った雪姫さんの隣に立ち、僕を極寒の眼差しで見下ろす。


「い、いや……。これには訳が……」


 慌てて立ち上がり、後ずさって僕がここへ入ってきた扉に寄りかかる。

 そのまま手探りでドアノブを探し当て、捻ろうとするが当然動かない。


「あ、あれ!?なんで!?」


 だけど、パニックになってしまった僕は先程鍵を閉められてしまっていたことなど忘れ、懸命に扉を開こうとする……。


「ま~さ~と~?」


 そんな無駄な努力も、背後から聴こえてきた身も凍るほどの声に止まる。


 そして、恐る恐る振り返った僕の目の前に、彼女はいた。


「お、鬼さんですか……?」

「誰が鬼だってー!?」


 いつだかと同じ台詞と共に、あられもない姿の琴音が放った回し蹴りによって、僕は女子用大浴場の床に沈んだ。



◇◇◇



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