表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
契約者でフラグ職人な高校生  作者: 高城飛雄
2部 学園祭編
45/51

21章  騒乱の合宿~二日目・朝~

7月31日 矛盾点修正しました。

 …………。

 ……あれ?

 ……ここは……どこだ?


 うっ……頭が痛い……。

 それになんだか体が重いような……。


 見慣れない薄青色の天井。自宅の寝室とはまるで違う形の照明。


 どうやら合宿棟の一室みたいだけど、随分暗いな。

 もう夜中なのかな……?

 えっと、時計は……って、あれ?


 体を起こそうとすると、額から何かが滑り落ちた。


 これは……タオル?

 どうしてタオルが僕の額に……?

 熱を出した覚えはないんだけど……。


 何気なく視線を手元から持ち上げる。


 …………えっ?


 誰かが、僕の横たわるベッドに頭を預けて眠っている。

 穏やかな寝息を立てて。ゆっくりと肩を上下させて。


 このシルエットは…………琴音?


 暗い空間に慣れてきた眼は、僕の傍らで眠る人の影を浮かび上がらせる。

 それは僕が良く知る幼馴染のもので……。

 この合宿所に宿泊しているとは露ほども知らぬ人物だった。


 どうして琴音がここに……?

 いや、そもそも僕はどうして寝ていたんだ……?

 確か二日目の準備と訓練を終えて、部屋でゆっくりしていたような……。


 自分がこの部屋で眠っていた理由を探るため、僕は記憶を辿っていく。

 目が覚めたときから続いている頭痛の所為で作業は難航するけど、それでも今朝起きたところから順番に少しずつ思い出していく。


 そう。

 今日の記憶は初めて合宿棟の部屋で目を覚ましたところから始まるんだ。



◇◇◇



 ――早朝。


 僕はいつも自宅で起きているのと同じ時間に目が覚めた。

 自宅とは違う色の天井を見て、そこが学校の合宿棟であることも思い出す。


 冬至が近い今の季節では、この時間の外はまだ真っ暗。それでも毎日の習慣というものはなかなか崩せないもので、特に目覚ましなんかを使うでもなく、ルーナが起こしてくれたわけでもなく、自然と目が覚めてしまった。

 まだ日も昇らない早朝。

 当然の如く、隣のベッドに横たわる仁は規則正しい寝息を立てて眠っている。


 いつもならお弁当を作ったりしなければならないのだけど、合宿中はその必要はない。

 まあ、みんなの朝食を作らなければならないから、大変さで言えば合宿中の方が大変なんだけど……。


 朝食の準備は六時半ごろから始めることになっているから、時間はまだ充分過ぎるほどにある。

 そんなわけで、暇を持て余した僕は早朝の散歩をしてみることにした。





(冷えるけど、張りつめた空気がけっこう気持ちいいな……)


 合宿棟から適当に、のんびりと構内を歩いていく。


 さすがにこんな早朝に出歩いている人がいるわけもなく、静かで鳥のさえずりだけが微かに響き、同じ学校の敷地内とはいえ昼間とはまったく別の場所のように感じた。

 と、そんな風に僕が学内の道を歩いていると……。


「雅人?こんなに朝早くから何をしているの?」


 突然背後からかけられた声に振り向くと、ランナーズウェアにサングラス姿の凛が立っていた。

 軽く息を切らしているところから察するに、早朝のランニングといったところだろうか。


「おはよう、凛。僕はちょっと目が覚めちゃって、散歩してるとこだよ。凛は朝から走り込み?」

「ええ。少し走っておかないと目が覚めなくて……。もう習慣みたいなものなのだけどね」

「へぇ……それはなんというか……凛らしいね」


 彼女がアメリカにいたときは、毎日厳しい訓練に明け暮れていたらしい。

 日本に来てからは当時のような過酷な訓練はしていないそうだけど、代わりにある程度体を動かさないとフラストレーションが溜まってしまうのだそうだ。


「この後の朝食は雅人が作るのよね?」


 ふーっと大きく息を吐いてから、凛が訊ねてくる。

 既に荒くなっていた息は整えられており、口元には微笑みさえ浮かべている。


「うん、そうだよ。まあ、一人で作るわけじゃないけどね」


 苦笑いで答えた僕に、凛はふっと笑って眼を閉じると、


「そう。それなら期待しておくわね」


 と言ってゆっくり歩き始める。

 彼女はそのまま僕とすれ違うと数歩先で足を止め、顔だけで振り返った。


「それじゃあ、私はトレーニングを続けるわ。また後でね」

「うん。引き留めちゃってごめんね。ランニング、頑張って」


 頷いて手を振る僕に、凛は小さな笑みを返して前に向き直る。

 それから彼女は左手で額へ持ち上げていたサングラスを下ろすと、ゆっくりと走り始め、段々と速度を上げて去っていった。





 午前六時。

 構内の散歩を切り上げて合宿棟に帰ると、食堂へ続く廊下の前で雪姫さんにばったり会った。


「あ、雅人さん。おはようございます」

「おはよう、雪姫さん。早いんだね」


 こちらに気付いてゆったりとお辞儀する雪姫さんに、僕も手を上げて応じる。


「はい。もうすぐ朝食の準備が始まりますから。それに、雅人さんも早いですね?」


 僕と雪姫さんは、二人で並んで食堂の方へ足を進めながら話す。


「あはは、まあそうだね。なんかいつもの癖でさ。同じ時間に目が覚めちゃったんだよ。だからちょっと構内を散歩してきたんだ」

「なるほど、そうだったんですね。私も同じです。自然と目が覚めてしまって」


 そう言って、雪姫さんはニコリと笑みを向けてくれる。

 今日も雪姫さんの笑顔は素敵だな、なんて思ったり。


「そういえば私が起きたとき、凛さんが既に部屋にいなかったんですが……。雅人さんは何かご存じないですか?」


 それから少し心配そうな表情で、凛の不在を明かす雪姫さん。

 僕は彼女を安心させるためにも、凛が部屋にいない理由を語った。


「凛なら外で会ったよ。日課の早朝トレーニングだってさ」


 あっさりと答えた僕のセリフに安心したのか、雪姫さんがほうっと息を吐く。それからまた笑顔になる。


「……そうですか。それなら凛さんのためにも朝ご飯は沢山作っておかなくてはいけませんね」

「うん、そうだね。四十一人分となると大変だけど……」


 前向きな雪姫さんに、思わず愚痴を零してしまう僕だけど、彼女はそんな言葉にもポジティブな答えを返してくれた。


「大丈夫ですよ。調理班の方が手伝ってくれるそうですし。それに、久藤さんは助っ人も来てくれると仰っていましたよ?」

「助っ人……?」


 しかし、最後に彼女の口から漏れた単語が引っかかる。


 誰だろう……。

 久藤さんが言うくらいなのだから、頼りになるだろうというのは間違いないけど……。





 かくして、僕たち二人は穏やかに会話を続けながら食堂に足を踏み入れた。

 そこには既に件の助っ人が来ているとも知らずに……。


「あら二人とも、もう来たのね」


 かけられた声は僕らの良く知る人物のもので……。


「琴音!?」

「あ、琴音さん。おはようございます」


 僕の驚きの声と、雪姫さんの落ち着いた挨拶の声が同時に発せられる。


「おはよう、雅人、二条さん」


 琴音の返した朝の挨拶に、雪姫さんは微笑みを浮かべる。どうやら彼女は助っ人が琴音であると知っていた、若しくは予想できていたようだ。


 僕はというと、琴音までもがこの合宿棟に来ているとは知らなかったし、生徒会の仕事が忙しいから顔を出すこともないだろうと思っていた。

 だから思いがけないタイミングでの邂逅に、心底驚いてしまったのだ。


「久藤さんに頼まれたのよ。雅人と二条さん、それに数人のクラスメイトだけじゃ人数分の食事を作るのは大変だろうから、手伝ってくれないかってね」


 僕の疑問を先読みしたかのように、琴音は朝の食堂に立っている理由を答える。

 確かに琴音がいれば一人あたりの負担は確実に減るだろう。


「それじゃあ、昨日の夕食にはどうしていなかったの?」


 だけどそれならばどうして、初日の夕食作りの段階で参加していなかったのか。僕はさらなる疑問を投げかける。


「夕食は調理班全員で作るんでしょう?それなら特に私がいる必要もないじゃない?だから、私はこの二日目の朝食から参加することにしていたのよ」


 それに対して帰ってきた答えは、至極筋の通った理論だった。

 確かに、僕と雪姫さん以外は分担制にしている朝食作り以外は、彼女がいなくても人手が足りないということにはならないだろう。

 それに琴音自身もお昼や夕方は自分の作業が忙しいだろうから、必ずしも同席できるわけじゃないと思う。


「それに……その……私自身も、できるだけみんなと一緒にいたいのよ。……勉強会を一緒にしたみんなで……」


 頬を赤く染めながら恥ずかしそうにそう言う琴音は、とても可愛らしく見えた。


(そうだよな……。あのメンバーの中では琴音だけ別クラスだもんな……)


 僕は顔を赤くして俯く琴音の頭を軽く撫で、羞恥に眼を細める彼女に笑みを向けた。


「手伝ってくれてありがとう、琴音」

「一緒に頑張りましょうね、琴音さん」


 僕の言葉に続いて、雪姫さんも笑顔を向けている。

 僕が手を放した後、琴音はまだ恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていたけど、僕と雪姫さんを交互に見て微笑みを浮かべる。


「うん。よろしくね」


 そうして笑った琴音も交えて、それから少しの間三人で軽くおしゃべりをした。


 やがて食堂に入ってきた調理班の担当の子らと一緒に、総勢八人で四十人余りの朝食を作り始めた。

 およそ一時間半かけて作り上げた朝食は、ランニングを終えてシャワーを浴びてきた凛や、野球部の朝練を終えて戻ってきた仁他、クラスメイト達に大好評を博した。



◇◇◇



 うん……。

 そうだったな……。


 確かに琴音はこの合宿棟に宿泊していたんだった。

 僕や雪姫さんの負担を軽くしようと、久藤さんの計らいで来ていたんだった。


 よし……。ここまでは思い出すことが出来たぞ。


 あれから僕は、膝元に頭を預けて眠っていた琴音を隣のベッドに横たえ、窓際のカーテンの隙間から外の星空を見上げていた。

 暗く、静かな室内で集中して記憶の糸を手繰り寄せていった結果、僕は朝方の一幕や琴音がこの場にいる間接的な原因を思い出すことに成功している。


 だけど……。

 問題はここからだ。


 琴音がこの合宿棟に寝泊まりしている理由は思いだせた。

 だけどまだ、僕がこの部屋で目を覚ました理由、そして琴音がそんな僕の傍らで眠っていた理由が思い出せない。

 重要なのは寧ろこちらの方だ。



 僕は未だにじくじくと痛む頭、後頭部を抑えて、再度記憶の海に船出することにした。


今回から文章の書式を少し変えてみました。


「前の方がいい!」とか「今までのも編集しろ!」などの意見がありましたら、お知らせください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ