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契約者でフラグ職人な高校生  作者: 高城飛雄
2部 学園祭編
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16章  試験の結果。早い方がいい?遅い方がいい?

僕の家で勉強会が開かれてから六日後の金曜日。


月曜日から今日まで、毎日2,3教科の期末試験を受けて、今ようやく最後の科目である90分の数学を受け終えたところだ。


周囲ではクラスメイトが言葉にならない呻き声を上げたり、精根尽き果てたかのように机に突っ伏していたり、頭を抱えて「大丈夫、大丈夫」と全く言葉とは裏腹な雰囲気を発していたり、力なく腕を垂らして空虚な笑いを漏らしていたり、どこからどう見ても号泣している人がいたり、窓枠に手をかけて友人に止められている人がいたり、etc……。


(相変わらず、試験直後のこの時間は地獄絵図だな……)


僕は年に3度見られるクラスの惨状に、苦笑いを浮かべる。


いつもと変わらないように見えるのは、一番前の座席で欠伸をかみ殺している親友や隣席の後ろで楽しそうに話している二人の女性、あとはノートに何かをメモしているクラスの代表くらいだろうか。


僕はこの時間、苦笑いが絶えることはなかった。





秋鷹高校の定期試験では最終日の最後の科目、これは決まって数学なんだけど、これが終わってから四時間後、つまり夕方の四時までには、全教科の高得点獲得者と総合点数の上位二十傑が発表されることになっている。


外部の予備校講師やOBのアルバイトなんかも雇って、総勢200名余りで答案の採点を行い、驚異的な早さで結果を公表するんだ。

いやいや、うちの高校は教師陣も優秀な方々ばかりだな…。


その間の四時間強生徒たちは何をしているのかというと、試験の手応えに一喜一憂しながらも、間近に迫った文化祭に向けての準備を進めている。

中には現実逃避気味にすごい熱気で励む人も出てくるのだけど、まあ眼の端から零れる雫は見なかったことにしておくのがマナーだ。

間違ってもハイテンションな理由を訊いたりしてはいけない。


「うおおおぉぉ!!。盛り上がってきたぜーっ!!」


僕のクラスでも一人、瞳を潤ませながら猛烈な勢いで製作中の看板へ筆を走らせている男子がいる。

普段からお調子者な安田くんだ。

だけどこれほどテンションのメーターが振れ切った彼を、僕は見たことがない。


「あの、安田さん…?どうかなさいましたか……?」


あ、雪姫さんが彼に声をかけてしまった。

なんだかそこはかとなく嫌な予感がする…。

周りにいたクラスメイトもぎょっとして振り返る。


「え、二条さん!?ええと、何かこの俺に御用ですかな?」


彼は突然かけられた声に驚き、相手を見てさらに赤面が加わった。

その所為で言葉使いも可笑しなものになっている。


「い、いえ…。いつもよりも安田さんの声が大きかったものですから……」


雪姫さんはそんな彼の応答に多少引き気味のようだったけど、口調からは本当に心配している節が窺えた。

クラスメイトを常に気にかける雪姫さんの性格、とても優しくて素敵なことのはずなのに、この瞬間に限っては完全に裏目に出ていた。


「そ、そうですかな…?俺はいつも通りですが……?」


案の定、彼は額から汗を流し、口調もたどたどしいものに変わってしまった。

誰の目から見ても、彼が異常をきたしているのは明らかだ。


いや、そもそも原因が解っているからみんな触れないでいたのだけどね…。


「雪姫、それ以上訊かない方がいいわよ」


追加で問いかけようと口を開きかえた雪姫さんに、彼女の後ろから凛が近づいてくる。

どうやら寸でのところで雪姫さんを止めに入ろうとしてくれたようだ。


「凛さん…?」

「雪姫、彼の異常は、直前まで私たちみんながやっていたことに関連することよ。あまり触れないでいてあげた方がいいわ」


(あ、ダメージ入った…)


振り向いて彼から視線を外した雪姫さんの後ろで、安田君がわかりやすくショックを受けて崩れ落ちている。


雪姫さんを止めようとした凛の言葉は的確に彼の傷を抉った。


「さっきまで……。あっ!」


凛に言われてようやく気がついたようで、雪姫さんは orz ←こんな感じになっている彼の方へ振り向いた。

そして彼女自身も膝を折って頭を下げる。


「あの、ごめんなさい!試験が上手くいかなくて、それを忘れようとあんなに張り切っていたんですよね?」


(あ、止め刺した…)


目に見えて震え、そのまま倒れ伏す安田くん。


「安田ーっ!」

「しっかりするんだ!」


彼の友人が駆け寄る。

それから安田くんは友人に抱えられ、一旦教室を出て行った。

教室中は誰もが今の一幕を見つめ、変な緊張感が漂う。



しかし、続く雪姫さんの言葉がきっかけで、変な緊張感は面白おかしい空気に変わった。


「安田さん、いきなり倒れてしまって、どうしたんでしょう?」

「……雪姫、今のは素だったの?」

「そういう凛は、さっきのわざとだろ?」


雪姫さんの天然発言に、凛、僕とツッコミが続き、様子を見守っていたクラスメイト達が笑った。


やがて戻ってきた安田くん一行も調子に乗りすぎたと苦笑いで流し、この件は終了。


再び和気藹々と文化祭の準備に戻っていった。







時刻が四時に近づいてくると、生徒たちは段々ソワソワし始める。

試験の「速報」と呼ばれる、成績上位者発表が目前に迫ってきているためだ。


そんな雰囲気は僕のクラスも例外ではなく、クラスメイト達は徐々に作業が手に付かなくなってきたようだ。


そんな空気の中、一人の生徒が教壇に立った。


もうこのパターンは何度も見てきたのでお馴染みになりつつあるけど、もちろん登壇したのはクラスの実質的支配者、久藤さんその人だ。


「みんな、ちょっと手を止めて聴いてもらってもいいかしら」


満足に手を動かしていたのはほとんど数人くらいだったのだけれど、そこは事情知ったる彼女のこと、嫌味なんかを混ぜたりして無意味な時間を使ったりはしない。


クラスの面々が大方自分に注目しているのを見て取った久藤さんは、いつもの真面目な調子で語り始めた。


「みんな、試験お疲れ様。先週の勉強期間は有効に使ってくれたかしら?」


彼女の問いかけに、所々で肯定とお礼の声が上がる。


「どうやらみんな上手く活用してくれたみたいね。それじゃあここからが本題よ」


笑みを浮かべた久藤さんを、全員が注視する。


「前に、『秘策がある』って言ったわよね。その秘策を、これから発表します」


誰もが息を呑み、彼女の続きを待つ。

久藤さんはゆっくりとクラス全体を見渡して、しばらく間を取った後、口を開いた。



「来週一週間、我々2ーAは、合宿を行います!」



(が、合宿!?)


彼女の言葉に驚愕したのは僕だけではなかった。

クラスのあちこちで驚きの声が漏れる。


笑っているのはただ一人、首謀者である久藤さんだけ。


「期間は来週の月曜日から金曜日までの四泊五日。敷地内の合宿棟の二フロアを借り切って行うわ。内容は準備と接客・調理指導よ」


(よ、四泊だって!?)


なんと、久藤さんは平日全てを学校で寝泊まりし、一日中準備と訓練に費やさせようというのだ。


ちなみに合宿棟というのは、学校敷地内の端にある宿泊施設で、主に部活動や委員会の合宿に利用される施設だ。

夏などは多くの団体が利用するため、同時に百人程宿泊できるくらいの部屋数が用意されている。

僕はまだ一度も入ったことがない棟だ。


クラス中が騒然となっているところに、久藤さんはさらなる燃料を投下した。


「ついでに言うと、食事は毎日雅人君が作ってくれるわ」


(聞いてない!そんな話、一言も聞いてないよ!)


僕はぎょっとして異議を唱えようとしたが、時すでに遅く、クラスメイト達は早くも来る合宿に意識を飛ばし始めた。



「蒼井君の御飯が食べられるの!?」

「やるやる、やります!」

「楽しそうじゃん。いいんでない」

「美少女と一つ屋根の下……」

「フロア違うけどな」

「ちょっと男子、変なこと考えてないでしょうね」

「変なことではない!男の夢だ!」

「あんたらの夢なんて、消し飛べばいいのよ」

「ひ、ひどいっ!?」



様々な言葉が出てくるが、どれもこれも肯定的なものばかりだ。

最早、僕の調理担当は決定事項として扱われている。


久藤さんに厳しい視線を向けるが、彼女はむしろ面白そうにウインクを返してきただけだった。


「雅人、あなたいつの間にそんなこと決めてたの?」


右から凛が問いかけてくる。


「ううん、初耳…。また久藤さんにしてやられたみたい……」


僕はため息を吐きながら答える。

凛はそれだけで事情を察したらしく、こちらもまた面白そうにニヤッと笑みを浮かべた。


「雅人さん…。私も手伝いましょうか?」


雪姫さんが左から苦笑いで言ってくれる。


「ありがとう…。できればお願いしたいな…」


およそ四十人分もの食事を作らなくてはならないという未来に、僕は恐々としながらため息を吐くばかりだった。





そんな風にクラスがざわざわと騒がしくなっていたところ、突然一人の男子生徒が後ろの扉から顔をのぞかせた。

冬だというのに汗を流し、息も荒くなっている。

きっと走ってきたのだろう。


彼は少しの間息を整える間を置いてから、教室中に響く声で叫んだ。


「“速報”が出たぞ!」


その言葉に、ざわついていたクラスは一瞬で静かになる。

全員が久藤さんに視線を向け、話の途中だった彼女の指示を仰いだ。


「細かいことはまた後で。取り敢えず、“速報”を見に行きましょうか」


久藤さんは穏やかな声でそう言うと真っ先に、歩いて教室を出て行った。


直後、クラスメイト達が一斉に立ち上がって教室の扉を抜けていく。

残されたのはマイペースな仁や僕、それに勝手を知らない雪姫さんと凛の四人だった。


「僕たちも行こうか」


僕は両隣の二人に呼びかけ、教室の前で立ってこちらを見ていた仁に眼を配ると立ち上がる。


「はい」

「ええ、結果が楽しみだわ」


二人も続けて立ち上がり、こちらへ歩み寄ってきた仁と一緒になって、四人で“速報”を見に教室を出た。





その後、先に出たはずの久藤さんやクラスメイトの波にいたはずの竹内さん、笘篠さん、そしてどこから現れたのか琴音も一緒になって、勉強会を行った8人で結果を見に行った。


先に簡単な結果を知らされていたらしい琴音は、


「驚くわよ」


と一言呟いたけど、大集団の列を並んで結果を見た僕は本当に驚くことになった。





取り敢えず、総合得点の結果だけお知らせしておこうと思う。

 

 全十二科目 順位 総得点1200点満点

 

 蒼井雅人  2位  1130点

 柊琴音   4位  1032点

 二条雪姫  5位  1028点

 堺仁之助  8位  1002点

 久藤真奈  11位  988点

 弓月凛   13位  972点


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