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契約者でフラグ職人な高校生  作者: 高城飛雄
1部 二人の転入生編
21/51

20章  絶賛デジャブ中

凛の自己紹介で、クラスに歓声が上がった。


「可愛い!!」

「というかすごい美人だ!」

「なんか立ち姿がかっこいいよね?」

「名前と雰囲気がぴったり!」

クラス中から大きな声が上がる。

なんだか少し前にも同じような光景を見た気がするけど…。


盛り上がるクラスに、凛は表情こそ変わらなかったものの少し驚いているようだった。

「はいはい、静粛に~」

りさちゃんが手を叩いて場を鎮める。

あれだけ騒いでいても彼女の一言で静かになるのだから、このクラスの統制はやはり侮れない。


それからはお決まりの質問タイム……になるはずが、時間がギリギリになってしまうとのことで、ひとまず解散の流れになった。

「それじゃあ弓月さんの席は、一番後ろの真ん中ね。蒼井君、転校生が二人になっちゃうけど、よろしく頼むわね」

りさちゃんはそう言って、僕にすべてを丸投げしてきた。

こういう態度は担任としてどうなんだろうか?

「了解しました」

それでもまあ言われるまでもないことなんだけどね。


凛がこちらへ向かって歩いてくる。

りさちゃんは自分の授業の準備のため、足早に教室を後にした。

時間的には、今は一限前の休み時間ということになる。

しかし、クラスメイト達は皆一様に転校生に熱い視線を向けており、誰一人立ち上がろうとはしない。

そして注目の的である凛はちらっとこちらを見て少しだけ微笑むと、立ち上がって迎えた僕に声をかけてきた。

「よろしく、雅人」

「う、うん。よろしくね」

思わずいつものように返事をしてしまう。


そしてすぐにしまったと思った。

彼女が躊躇いもなく話しかけてきたので、僕もつい普通に返事を返してしまった。

ちなみに今のやり取りはバッチリとクラスの皆に見られている。

案の定、囁き声が聞こえ始めた。

「なになに?二人は知り合いなの?」

斜め前の席の竹内さんがニヤニヤしながら訊ねてくる。

「ええと、それは……」

何と答えるべきか。

仕事の関係と言うと、何の仕事か突っ込まれてしまう。

僕や凛の仕事のことを知られるわけにはいかないのでこれは却下。

しかし、ごまかすのは無理だろう。

凛は自己紹介をしていない僕のことを、はっきりと雅人と呼んでしまった。

りさちゃんは蒼井君と呼んでいるので、言い訳ができない。

皆が納得できて僕と凛の仕事のことを言わずにおくには、果たして何と説明すればいいのだろう…。


そんな風に僕が言い淀んでいると、目の前の凛が振り返って答えた。

「ええ。以前からのちょっとした縁で」

(認めちゃうの!?)

内心で驚愕しながら、僕は凛を眺めた。

「ふぅん。仲良しなの?」

嫌らしいニヤニヤを収めることなく、竹内さんは質問を続ける。

「そうね……」

凛は顎に指を当てて考え込む。

そんな彼女に、頼むから余計なことは言わないで、と心内で念じる。

しかし、そんな僕の祈りが通じることはなく、彼女は表情を変えずにあっさりと爆弾を投下した。



「雅人になら、背中を預けられるわ」



まるで何とも思っていないかのような抑揚のない口調。

しかし、クラスを騒然とさせるには十分だった。


ポカンとした表情をする竹内さん。

だがそれも一瞬のことで、彼女は他のクラスの皆と同様、その後の騒ぎの一員となった。


「背中を預けるって、どんな仲だよ!?」

「弓月さんかっこいい!」

「そんな弓月さんに信頼されてる蒼井君も素敵―!!」

「モテ男は死ねばいい……」

「あいつはどんだけ美少女を囲めば気が済むんだっ!!」

「羨ましすぎる…!」

「しょうがないじゃない。雅人くんはあんたらと違ってモテるんだから」

「男は顔だけじゃない!」

「性格とかでも勝てないと思うけどね…」


わいわい騒ぐクラスメイト達を目の当たりにして、僕は心底ため息を吐きたくなった。

「大騒ぎになっちゃったわね」

肩を落としている僕に凛が何事もなかったかのようにそう言ってきたので、僕は本当にため息を吐いた。

「凛……」

「ごめんなさい。正直に話し過ぎたかしら」

申し訳なさそうな顔になる凛。

そんな顔をされたら、文句も何も言えるわけがない。

「いいよ。いずれわかっちゃうことだっただろうから」

僕は微笑んで彼女にそう言う。

すると凛はほっとしたようで、再度微笑みを浮かべた。


教室内はモテるモテないの論争で騒ぎが続いているが、発端である僕たちへは今のところ火の粉は飛んでこない。

凛との会話が一段落したところで、立って話していた僕たちの方に二人の人物が近づいてきた。

「雅人さん、私も混ぜてもらってよろしいですか?」

「お前はどこまで手を広げれば気が済むんだ?」

僕の後ろから雪姫さんが、凛の後ろから仁が歩いてきて、僕の両脇に立つ。

そのとき、凛の視線が一瞬雪姫さんを捉えた。

心なしか表情が厳しい気がする。

しかし僕がその理由に思い至る前に、彼女の視線は僕に戻り、表情も元に戻った。

「雅人の友達?」

いつもの無表情で訊ねてくる。


それに先に応えたのは仁だった。

「ああ。俺は堺仁之助。仁と呼んでくれ」

「わかったわ。よろしく、仁」

彼女は仁の方へ顔を向けて頷く。

仁は少し驚いた表情になったが、すぐに元のきりっとした表情に戻ると、右手を差し出した。

凛も彼に倣って右手を差し出して、しっかりと握手をしていた。

手を放した仁は感心したように頷いた。

「しっかりしてるんだな」

「ありがとう」

凛も少し笑みを浮かべて頷いている。

今のやり取りにどんな意味があったのか知らないが、どうやら二人は気が合うようだ。


仁の手を放した凛の前に、今度は雪姫さんが進み出る。

「私は二条雪姫と申します。よろしくお願いしますね、弓月さん」

「そう。やっぱりあなたがあの……」

一礼した雪姫さんを見て、凛は何かを呟いたが、聞き取れなかった。

それは雪姫さんも同じだったようで、顔を上げた彼女は困惑した表情をしている。

「ああ、ごめんなさい。なんでもないわ。気にしないで頂戴」

凛は微笑んでそう言い、仁のときとは逆に彼女の方から右手を出した。

「よろしくね、雪姫。それと、私のことは凛でいいわ」

「わかりました、凛さん」

雪姫さんは笑顔で凛の手を取ると、柔らかく握手をしていた。


未だ騒ぎの収まらない教室。

廊下では、何事かと覗く生徒もいる。

そんな騒がしいクラスの中で、僕たちはお互いに笑顔を浮かべていた。





「ときに雅人」

突然、仁が僕の方を向いて口を開いた。

「なに?」

僕も彼の方に向き直る。

「これだけの騒ぎだ。何があったのか、二つ隣のクラスにも噂が届くのは時間の問題だと思わないか?」

………。

………………。

「……先にメールしておいた方がいいかな…?」

「それが賢明だろうな」


仁のアドバイスで、僕は噂が広まる前に報せておくことにした。

誰にかって?

もちろん生徒会長様にだ。

また教室に乗り込んでこられるのは勘弁してもらいたいからね。


彼女に前もってメッセージを送った結果、お昼休みに屋上に来るようにとの勅命を受けた。

当然、逆らうなんてことはしない。



それから数時間後。



「雅人。今どうしてここにいるか、わかる?」

「ええと……事情を説明するため……?」

「惜しいけど違うわ」

「それじゃあ……」

「事情を“包み隠さず”説明するためよ」

「……はい」


さて、いきなり情けない姿を晒すことになってしまって申し訳ない。

でも逆らうわけにはいかないので、しばらくご容赦願います。


「それで、彼女は?」

「うん。彼女は弓月凛といって、僕のクラスの新しいクラスメイトで……」

「そんなことは知ってるわ!」

「す、すみません…」

「どうしてまたあなたのクラスに、連続で、転入生が来たのか聞いてるのよ」

「えっと……それは先生に訊いた方が……」

「もちろん訊いたわよ。でも、上からのお達しだの一点張りで答えてくれなかったのよ」


腕を組んで仁王立ちしている琴音は、額に青筋を浮かべている。

僕は正座して彼女の前で座らされているわけだ。

ちなみにここは屋上で、現在はお昼休み。

まだお手製の弁当も食べてません。


「先生が答えられないことは僕にも答えようが……」

「ないとでもいう訳?彼女はあなたの知り合いで、この中途半端な時期に、二条さんと立て続けに、偶然あなたのクラスに転入してきたと、そう言いたいの?」

「いえ、そういうわけでは……」

僕は助けを求めようとちらっと後ろに立つ面々を見る。

しかし、凛も琴音の迫力に圧倒されているし、雪姫さんは困ったような顔で傍観を決め込んでいるし、ルーナに至っては影から出てくる気配すら見せない。

「雅人」

「は、はい!」

少し余所見をしていた僕に、琴音が呼びかける。

思わず背筋が伸び、彼女の顔を見上げる形となった。

びくびくしながら彼女の表情を窺った僕だったが、彼女のいかにも心配そうな憂いを帯びた表情を見てハッとした。

「私たちには話せないようなことなの…?」

「………」

「弓月さんがただの転校生じゃないのは状況から予想できるわ。それがあなたに関わりがあるということもわかる」

「………」

「私はあなたが心配なのよ…。ルーナのことは知ってるし、そのことであなたが何か危ない目に遭っていることも知ってる」

「………」

「今回も……そういうこと…?」

琴音の言葉に正直に答えていいものか、僕は迷った。

だから振り返って凛の方を見てみる。

すると、彼女は真面目な顔でしっかりと頷いてくれた。

琴音と雪姫さんは一般人だけど、僕たちの仕事に無関係ではない。

そのことは彼女も知っているのだ。

彼女がいいというのなら、隊長も許してくれるだろう。

僕は凛の正体と僕との関係、そして僕たちの仕事のことを明かすことにした。



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