表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
契約者でフラグ職人な高校生  作者: 高城飛雄
1部 二人の転入生編
20/51

19章  弓月家の女性は決断力が高すぎると思います

「やあ諸君、全員揃ってるな?」

僕たち五人が久しぶりの再会に盛り上がっていたところで、作戦室にそんな声が響いた。

その声を聞いた僕たちは、一斉に口を閉じて室内正面に備え付けられたモニターを注視する。


そこには長い髪を無造作に伸ばし、不適な笑みを浮かべる女性の姿が映されていた。

「うむ、こうして君たちの元気な姿を見られて嬉しいよ」

女性はそう言ってニヤッと口角を持ち上げる。


彼女こそ、このSEFUの隊長にして、凛の母親でもある弓月椋ゆづきりょうさんだ。

とても三十代後半には見えないくらいに若々しい。


「隊長」

凛がモニター上の母親に呼びかける。公私混同は避けるため、ここにいる間は凛も隊長と呼んでいる。

「どうした、凛?」

彼女は、実の親に対するにしては厳しい視線を向けて言った。

「その格好はなんですか?」

「これか?これはイタリア製の…」

隊長が自分の着ている服について自慢げに語ろうとするが、

「そんなことは訊いていません。部隊を率いる指揮官なのですから、もっとふさわしい服装をしてください」

「……ごめんなさい」

「わかったら、着替えてきてください」

「……今?」

「当然です」

娘にバッサリと切られ、すごすごと席を立って画面の外に消えていく。

凛は僕たち四人を振り返ると、申し訳なさそうに頭を下げた。

「すみません。少し待っていていただけますか?」

文句を言える者などおらず、全員が頷いた。



五分後。

先程までのカジュアルな服装から、SEFUの制服に着替えた椋さんが、モニターの前に座る。

「やあ諸君、待たせてしまってすまないな」

凛がため息を吐く。

僕たちは苦笑いでそれを迎えた。

「今日君たちに集まってもらったのは、君たちにいくつか報告があるからだ」

皆の顔が真剣なそれに変わる。

椋さんの顔も真剣だ。

「まず一つ目。先日の雅人の始末した影の件だが…」

「俺の方から皆に話しておきました」

大佐が答えるように口を開いた。

「そうか。では一つ目の件はいいだろう。次に二つ目」

全員が隊長の言葉に耳を傾ける。

「すぐにというわけではないが、お前達に要人の警護任務にあたってもらう」

「要人警護ですか?我々が?」

正宗さんが疑問の声を漏らす。それも仕方ないことで、僕たち五人のチームは科学では解明できない事件や事故の調査、解決を担当している。そのため、要人の警護任務などは別のチームがあたることがほとんどだ。

「ああ、今回の警護対象は少し特殊でな。君たちにやってもらいたいのだ」

「特殊な要人ですか……。どんな方でしょうかね」

那智さんが小首を傾げている。

「悪いが詳細については今話すことはできない。任務にあたるのは先のことなので、追って情報を開示する」

「了解しました」

「了解」

僕と凛が口を揃えて頷く。

要人警護なんてやったことはないけど、僕たちが任務に充てられるくらいだ。きっと公にはできない人物なんだろう。

そう思って僕は納得する。


「それで三つ目というのは…?」

凛が次の報告を訊くため、椋さんに訊ねる。

「ああ、三つ目は雅人からだ。雅人、頼む」

「はい」

僕は前に進み出ると、足下を見て声をかける。

「ルーナ、出てきてくれる?」

すると、僕の影から彼女が現れる。

『ええ雅人、あのことよね?』

誰も驚くことはない。

それも当然のことで、僕がこの部隊にスカウトされたのは彼女の存在に依るところが大きい。だから部隊の人間のほとんどが、ルーナの存在を認知しているんだ。

「うん。皆にも話してほしい」

『わかったわ』


ルーナはこちらを見つめる皆をぐるりと見回すと、彼女が先日学校の屋上で話してくれたことを、皆にも語りだした。

『先日の鬼子の一件以来、雅人の住む街の周辺で影の気配が色濃くなっているわ』

「………どういうことだ?」

大佐が訝しむ表情で彼女を見つめる。

『そうね。簡単に言ってしまえば、何らかの原因があって影の世界との境が曖昧になってきている。そのために今までよりも多く、より強力な影の世界の者が現れるかもしれない。そういうことよ』

「……その原因って?」

凛が訊ねる。ルーナはしおらしく答えた。

『悪いけど、それはわからないわ。わかっているのは、今後あの街の周辺でより多くの影が現れるかもしれないってこと』

皆は押し黙ってしまう。

「そうか。貴重な情報をありがとう」

隊長が代表してルーナにお礼を言った。

ルーナは一度微笑み、僕の方をちらっと見てから、また僕の影の中に戻っていった。



「さて。彼女の報告通りなら、何か対策を講じるべきかな?」

隊長が皆の意見を聞くために、そう言ってくる。

「そうだな。雅人の力はよく知ってるが、同時に二カ所でってことも考えられるしな……」

大佐も腕を組んで考える。

「誰かもう一人、雅人君の街に待機させてみるのはいかがですか?」

那智さんがそう提案する。

「二人いれば、援護もできますしね」

凛も那智さんの意見に賛成のようだ。

「だが、誰が行ってどう雅人と連携するかが問題になってくるな……」

正宗さんが顎に手を当てている。


皆が頭を悩ませていると、隊長が何か思いついたように切り出した。

「よし。それでは凛。お前が雅人のサポートに回れ」

「えっ……私……?いいですけど……学校は?」

「そのままでもいいし、転校してもいい。それほど遠いというわけではなかろう?」

「ええ……そうね……」

母親に転校を勧められて、凛は大いに悩んでいるようだった。

「凛、無理して来なくてもいいんだよ?僕なら大丈夫だと思うからさ」

僕は凛にそう言った。

いきなり転校は辛いだろうし、学校まで遠くなるというのも辛いだろう。

しかし、凛はしばらく考え込んだ後、不意に僕の方をちらっと見てから母親に向き直って意思を伝えた。

「わかりました。私は……」





こうして、凛は僕の街に引っ越してくることになった。

当面の間は一人暮らしをして、落ち着くまでこっちにいるらしい。


その日の招集は解散になり、次の一週間後の土曜日。

凛はこの日に引っ越しをして、僕の街にやってきた。



そして明くる日の月曜日。

「はーい、皆おはよう」

朝のHRの時間になって、理沙ちゃんが教室に入ってくる。

クラスメイト全員が理沙ちゃんに注目する中、彼女はニヤリと笑った。

「ふふん。今日はまた良いニュースがあるのよ」

教室が湧き立つ。

口々に何事かとささやき合っている。

「はいはい、静かに。それじゃあ入ってきて」

理沙ちゃんが教室の外に目を向ける。

すると、その扉からショートヘアの女の子が入ってくる。

クラスに歓声が上がる。それを理沙ちゃんがなだめる。


教室が静まるのを待って、颯爽とした雰囲気の少女は自己紹介を始めた。

「弓月凛です。よろしくお願いします」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ