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契約者でフラグ職人な高校生  作者: 高城飛雄
1部 二人の転入生編
17/51

16章  姫様も甘えたい年頃なのです

放課後。

僕は誰もいない屋上でのんびりと過ごしていた。


今日は何かと忙しい日のようだ。

朝には尾ひれの付いた噂のせいで琴音に尋問され。

休み時間のたび、僕と雪姫さんに質問の嵐。

それが仁の妙な配慮のせいで、途中から別の噂に変わり。

やっと解放されたと思ったら、もう放課後だ。


時刻はそろそろ17時を回るころだろうか。

段々と太陽が西に傾きつつある。


「こんな日はまだまだ何かが起こる気がするな」

僕はぼんやりと街を眺めながら独りごちた。


『雅人、ちょっといいかしら』

僕のすぐ隣にルーナが姿を現した。


学校にいる間、僕らは誰に見られているかわからない。

だから本来、ルーナは姿は見せないようにしている。

そのルーナがこうやって僕の隣に立つのは余程のことがあったときだけだ。


「うん、なんだい?」

僕は何かよくないことでも起きたのかと思い、真剣な面持ちで訊ねた。

『これは確かなことではないから、今言うべきなのかはわからないけど……』

そう言いながら、ルーナは肩を寄せてくる。

「……歯切れが悪いね。何があったの?」

『………』

彼女は僕の腕を取り沈黙した。

そのまま何も切り出す気配がない。

「……ルーナ?……どうしたの?」

『………』

彼女は何も言わないまま、今度は指を絡めてきた。


僕は自然と顔が熱くなるのを感じた。

唯でさえ、ルーナは神秘的でとても美しい姿をしているのだ。

そこに女性らしい柔らかな感触と、細く長い指の心地よさが加わり、なんともいえない甘い雰囲気を作り出している。



「あの…ルーナ……?」

僕は彼女の行動の意味が解らず、取り乱した声を上げてしまう。

彼女はそれから上目使いで僕を見上げ、微笑んだ。

『ふふ…。雅人、可愛いわね』


………。

ああ……そういうことか……。

つまり……。


「からかうのはそのくらいにしておいてもらえると助かるよ…」

僕が呆れた口調で言うと、彼女は意地の悪い笑顔になった。

『そうね。スキンシップはこのくらいにしておきましょうか』

「スキンシップって……」

『あら、嬉しくなかったの?』

「そりゃあ……僕も男だし……」

『素直でよろしい』

ルーナは意地の悪い笑みから一転、無邪気な笑顔に変わった。


「ハァ…。それで……さっきの気になってたことは何だったの?」

ため息とともに彼女に訊ねる。

『えっ?』

何を言われているのかわからないといった表情をした。

僕は不満を隠さずに問い詰めた。

「だから、何か気になることがあったから姿を見せたんでしょ?」

『あ、ええ…。そうね……』

「まさか、さっきのがしたかったから出てきたなんて言わないよね」

『ま、まさか。それだけじゃないわよ』

「つまり、その一面もあったと?」

『うう……。雅人のいじわる』

僕が突っ込んでいくと、さっきまでの余裕はどこへやら。

すっかり大人しくなってしまった。


「それで、どうしたの?」

このまま彼女を責め続けても話が進まない。

僕は可愛い顔でむくれる彼女に、先を促した。

『そうね…。なんとなくなんだけど……』

ルーナもいい加減少しは真剣な態度になり、話を切り出した。

鬼子グリムを排してから、この街に潜む影の気配が強くなった気がするのよ』

これには僕も驚いた。

彼女の心配が的中していた場合、これは大変なことだ。


街に潜む影の気配が強くなるということは、それだけ契約者が出現する可能性が高まるということだ。

全員が全員、悪事を働くとは限らないが、影は欲深い者のところに現れる。

契約者が続出すると、この街にとどまらず国中で危険な目に遭う人が増えてしまうだろう。


また基本的には、契約者には契約者しか立ち向かえない。

それだけ影の世界の住人の力は強大だ。

普通の人間が立ち向かうためには、相応の訓練と鍛錬が必要になる。

一人で契約者に対抗できる人間は、日本には十人もいない。



「それはあの人にも話しておいた方がいいかな?」


ルーナの言ったことがどこまで当たっているかはわからない。

しかし、危険には早めに手を打たないと被害は拡大してしまう。

そして、その“手を打つ”ことのできる人物を僕は知っていた。


『そうね…。話しておいた方がいいんじゃないかしら』

ルーナも大人しく頷く。

僕たち二人だけでは手に余ることになるかもしれない。

そうなってからでは遅い。

僕は携帯のアドレス帳の中から、普段最も敬遠する人物の番号に電話をかけた。


………。

………………。


『やあ、雅人。週に二度もお前の声が聴けるなんて嬉しいよ』

「恐縮です。お忙しい中すみません」

相変わらず妙な人だなと思いつつも、一応上司なのでしっかりと対応しておく。

『変な人だとか思ってないよな?』

「いえ、思っていません」

おしい。

『それならいい。それで、何か用事か?』

「用事も無しに上司に連絡をとる方はいないと思いますが」

少し嫌味も言っておく。

『可愛いお前からは用事がなくても連絡が欲しいくらいだがな』

通じなかった。やっぱりこの人は苦手だよ。

「考えておきます。それで、少し気になることがあるのですが…」

『ほう。お前の予感は当たるからな。丁度今週末に召集をかけるつもりだったから、そのときにでも報告してくれ』

「了解しました」

『では、仕事の話はこれくらいにして。最近のお前の様』

「それでは失礼します」

無理矢理電話を切る。

放っておくといつまででも喋る人だから、このくらいで丁度いいのだとわかっている。


「今週末の召集の時に報告することになったよ」

僕は隣のルーナにそう伝える。

『そう、わかったわ。それまでにもう少し探っておく』

「よろしくね」

『そのかわり雅人、今晩私の髪を梳いてもらってもいいかしら?』

「うん。いいよ」

『うふふ…。なら頑張るわ』

彼女はご機嫌になって、またも僕の腕をとった。


僕らはそれからしばらく赤く綺麗な夕日を眺めた。

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