15章 デキる男はサービスも忘れない
雪姫さんが秋鷹高校に転入してきてから三日。
僕たちのクラスは休み時間ごとに多数の見物人に囲まれていた。
転入してきた美少女を一目見ようとする男子しかり。
僕と雪姫さんの尾ひれの付いた噂を聞きつけて、僕らをじっと観察する女子しかり。
もっとも男子たちは、廊下に居座るような真似はしなかったが。
男子連中の方はともかく、女の子たちがどうしてここまで噂を気にするのかは解らないけど、授業の合間ごとに教室を取り巻くのは止めて欲しい。
僕はそこまで外聞を気にする方ではないけど、さすがにこれでは気が休まらない。
「だからと言って追い返すわけにもいかないしな……」
僕は3限終わりの、本日3度目となる衆人環視のなか、独りごちた。
特にやることもないので、自分の席に座って窓の外を眺める風を装っている。
噂のもう一人の標的である雪姫さんは、外からの視線を気にしながらもクラスの女の子たちとおしゃべりに興じている。
クラスの皆も、どこか浮かれた雰囲気は持ちながらも、普段と変わらないように振る舞っている。
ほんとうに普段と変わらないのは、おそらく一人だけだ。
僕が当の人間にちらっと眼をやると、視線を感じたのかこちらを振り向いた。そしてそのまま席を立ち、こちらへ歩いてくる。
「どうした雅人。俺を見ていたようだが、何か用でもあるのか?」
仁は僕の横に来るなり訊いてきた。
………心なしか、廊下から女の子の悲鳴が聞こえた気がした。気のせいだろう。
っていうか、一瞬見ただけなのに、どうして気付いたんだろう?
そんな僕の疑問など知るはずもない仁。
「なんだ?視線が多すぎて、彼女とイチャイチャできないのが寂しいのか?」
そんなことを妙に真顔で問いかけてくる。
「からかうなよ、仁。そんなんじゃないって説明しただろ?」
「はは、そうだな。お前に彼女がいないというのは………この俺がよーく知っている」
今度はこんなことをわざとらしく大きめの声で言った。
またも教室の外から高い悲鳴が聞こえる。多分気のせいだと思う。
「あのなぁ……」
「わかっているさ、雅人。お前が人目を気にするということは。それでも我慢できなくて俺のことを見ていたんだろう?」
あまりにもわざとらしい台詞回しだ。しかし…。
「見て見て!蒼井君と堺君。すごく仲がいいよね~」
「ほんとほんと。どこか危ない雰囲気だけど……」
「………あの二人なら……いいかも……」
「………」
とうとう教室の中からも聞こえてきてしまった。もはや気のせいではない。
様子を窺ってみると、すでにクラスの女性陣はほぼ全員がこっちに注目している。
雪姫さんも隣の久藤さんに何やら耳打ちされて、顔を赤らめている。
雪姫さん!あることないこと吹き込まれちゃ駄目だよ!
僕は小さくため息を吐いた。
見ると仁は、人の悪い笑みを浮かべている。しかし、僕以外からは見えるはずもない。
そろそろ限界だろう。時間も時間だし。
「仁。冗談はそのくらいにしてくれよ?」
僕が呆れ口調でそう告げると、仁は微笑んだ。
「そうだな。4限ももう始まるし、サービスはこのくらいでいいだろう」
「あはは…」
サービスって……。
それを聞いた教室内外の女生徒たちは我に返り、慌てて授業の準備に戻った。
雪姫さんも隣に戻ってくる。
彼女はまだ顔を赤く染めながら、僕たちに声をかけてきた。
「あの…。お二人は…その……愛し合っているのですか…?」
「っ!?げほっ…げほっ…」
「あっははははは!」
雪姫さんの質問に、僕は咽て、仁は大笑いしていた。
そんな様子を、雪姫さんは恥ずかしそうに見ている。
「違う違う。久藤さんにどんなことを吹き込まれたのかは知らないけど、さっきのは冗談だよ」
ようやく息を整え、誤解を解きにかかる。
横では仁がまだお腹を抱えて笑っている。
「そうなんですか…。それなら良かったです」
雪姫さんはそんな僕たちを交互に何度か見て、胸を撫で下ろしたようだった。
「それじゃ、俺は戻るかな」
「ああ。仁、ありがとう」
僕は仁にお礼を述べた。
さっきの一幕は、僕と雪姫さんの噂を早く沈静化させるためにしたことなのだと、僕は気付いていた。
……そのために別の疑いをかけられる真似をするのはどうかと思うが。
「さて、何のことだ?」
仁はそうやってとぼけると、振り返って歩き出した。
ここで僕は、さっきの雪姫さんの言葉で気になるところを訊いてみることにした。
「ところで、さっき言った“良かった”って、何が良かったの?」
「え!?いえ、それは…あの…」
おろおろしだす雪姫さんを見つめていると、教卓の前あたりで仁が盛大なため息を吐いた。
各話とも、短くてすみません…。
切りのいい場所で切ると、どうしても短くなりがちで…。




