13章 噂が広まるのは思いのほか早いという話
その後、ルーナと雪姫さんと三人でおしゃべりしながら朝食を食べた。(ルーナは朝は食べないけど)
二人とも本当に楽しそうにしゃべっている。
というか、さっきまでの二人の間で散っていた火花はどこに行ったのだろうか。
そんな疑問が何度か浮かんできたが、訊ねてどうなるかわかったものではない。
僕は彼女達の変わり身ようにコメントすることは決してしなかった。
ところで、昨日僕は気を失った雪姫さんを自宅に帰すことなく、僕の家に運び込んだ。
そのまま何事もなく(当然手を出したりはしてないし、仮に出した場合はルーナに殺されるだろう)朝まで目覚めることはなかった。
ちなみに、お風呂に関しては、朝食の後でうちのシャワーを使ってもらった。その間、僕は二階の書斎に閉じ込められていたから詳細はわからない。
こうなると、このまま一緒に学校に向かう流れになるのは当たり前のことだった。
僕の家は駅からは違う方向にあり、割と広い通りに面して建っている。
人も車も多く行き交う通りを使って登校する。
そうなれば当然、同じ学校の生徒に見られることもあるのだろう。
ましてや雪姫さんは万人が認める美少女転校生だ。
つまり何が言いたいのかというと、こういうことである。
「二条さん、今朝蒼井君と一緒に登校してたのはどういうこと?」
「友達が言ってたんだけど、二人が雅人君の家から出てきたって…」
「二人は付き合ってるの?」
「昨日は雅人君の家に泊ったんだって?いいなぁ…」
教室に入った途端、質問攻めである。
それはもうクラスの女の子が僕らの周囲を囲んでひたすらに問いかけてくる。
っていうか、僕の家に泊まることはいいことなのかな…?
ご飯をご馳走することくらいしかできないけど。
「あの…えっと……これには事情が…」
などと雪姫さんが必死に弁解しようとするが、彼女たちは止まらない。
女子生徒たちに囲まれて質問の嵐に翻弄されている。
僕はというと、ひとまずそこからは逃れて様子を眺めている。
「お前はバカだな雅人」
後ろから仁が失礼な声をかけてきた。
「バカとはひどいな」
「バカはバカだ。女子を家に泊めて一緒に登校するなんて、傍から見ればできてるとしか思えん。まあお前の場合、誰が相手でも同じことをしかねないがな」
腕を組んで呆れた口調で咎められる。
「そうなんだ…。雪姫さんには悪いことしちゃったかな…?」
未だ暴走する女生徒達のなかでもまれる雪姫さんに目を向ける。
「………おまけに鈍いってのがまた罪作りだよ……」
仁が何かボソボソ言っていたが、よく聞こえなかった。
そのとき、雪姫さんと目が合った。
彼女から助けを目で訴えられる。
雅人さん、助けてください!
ごめん、ちょっと僕には無理そうだ。
僕は苦笑いして両手を顔の前で合わせた。
ちらっと見えた雪姫さんはショックを受けて涙目になっていた。
そうしてまたすぐ女生徒の群れに飲まれる。
あの中に再度入っていく勇気は無い。
それから少し離れて、仁の側に立つ。
「いいのか?いつものお前なら彼女を助けるだろうに」
仁に訊ねられるが、僕は首を振った。
「いいんだ。雪姫さん、すごく楽しそうだから…」
「そうか」
騒ぐクラスメートに囲まれている雪姫さんの目は、確かに少し潤んでいたが、とても自然な笑顔を浮かべていた。
「ところで雅人」
突然仁が口を開く。
「なに?」
僕が先を促すと、仁は人の悪い笑顔で僕に聞いてきた。
「あれだけの騒ぎになるんだから、当然校内で噂になるよな?」
……………あっ……。
「お前にそんな噂が立って、黙っているはずがないやつが一人、この学校にいなかったか?」
………………………。
「仁」
「何だ?」
「僕、ちょっとお腹が痛くなってきたから保健室に…」
「いや、もう手遅れだ」
仁の視線の先、教室の後ろ側の入り口から、物凄い殺気が流れてくるのを感じた。
大変長らくお待たせいたしました。
適宜投稿を再開したいと思います。




