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勝つたびに君を忘れる  作者: ナオ


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5/12

5話「君は、誰だ」

 違和感は、すぐに来た。

 じわじわじゃない。

 はっきりと。

 目の前で。

 

「……で、どうする?」

 

 サチが言う。

 声は、いつも通り。

 落ち着いてる。

 冷静で、無駄がない。

 

 でも。

 ナオは、眉をひそめた。

 

「……何がだ」

 

「次の動きよ」

 

 サチは当然のように言う。

 

「このまま黙ってても、またゲームが始まる」

 

「それまでに、整理しておいた方がいい」

 

 正しい……完全に。

 

 何も間違ってない。

 

 なのに。

 

 ナオは、妙な引っかかりを感じていた。

 

「……お前」

 

 一歩、近づく。

 

 サチは、ほんの少しだけ警戒したように目を細める。

 

 その反応。

 

 それがもう、おかしい。

 

「何?」

 

「いや……」

 

 ナオは言葉を探す。

 

 違う。

 こんな距離感じゃなかった。

 さっきまで。

 

 もっと前から。

 ――もっと近かったはずだ。

  

 今のこいつは。

 

「……誰だよ、お前」

 

 ぽつりと、こぼれた。

 

 サチの表情が、わずかに動く。

 

「……は?」

 

「意味分からないんだけど」

 

 即答。

 迷いなし。

 

 その反応に。

 ナオの中で、何かが決定的にズレた。

 

「いや」

 

 ナオは首を振る。

 

「違う」

 

「そういう意味じゃなくて――」

 

 言葉が、続かない。

 うまく説明できない。

 

 ただ、確実に。

 

「……お前、俺のこと」

「そんな目で見てなかっただろ」

 

 沈黙。

 

 サチは、ナオを見る。

 まっすぐに。

 少しだけ、眉を寄せて。

 

「……初対面に見える?」

 

 その一言でナオの中の何かが音を立てて崩れた。

 

「……は?」

「だから」

 

 サチは繰り返す。

 

「私たち、初対面でしょ?」

 

 空気が止まる。

 ナオは、何も言えなかった。

 というより言葉が、出てこない。

 そんなはずがない。

 さっきまで。

 あれだけやり取りして。

 殺し合って。

 組んで。

 

 なのに。

 

「……覚えてないのか」

 

 やっと、それだけ出た。

 

 サチは少し考える。

 

 ほんの数秒。

 

「何を?」

 

 完全に、抜けている。

 ナオは目を閉じた。

 理解する。

 あのとき。

 サチが失った記憶。

 それは――

 自分との関係だ。

 

「……クソ」


 小さく吐き捨てるとサチが眉をひそめる。

 

「何?」

 

「いや……」

 

 ナオは首を振る。

 言っても意味がない。

 今のこいつには。

 全部、初めてだ。

 

「……状況整理するぞ」

 

 ナオは言う。

 

「お前、名前は?」

 

「サチ」

 

「ナオだ」

 

「知ってる」

「さっき言ってたでしょ」

 

 淡々と返される。

 距離は完全に、他人だ。

 ナオは奥歯を噛む。

 

 ……これが、このゲームか。

 勝つたびに。

 削られる。

 関係が。

 積み上げたものが。

 

「……最悪だな」

 

「同感」

 

 サチは軽く頷く。

 その仕草。

 どこかで見たはずなのに。

 もう、それすら曖昧だ。

 

『次のゲームを開始します』

 

 声。

 まただ。

 間を与えない。

 

『第四ゲーム。「選択の重さ」』

 

 ナオは顔を上げる。

 

 サチも同じ。

 

『ルールを説明します』

 

 床に光が走る。

 今度は、二つの円が向かい合うように。

 

『各プレイヤーは、互いに一つ質問を行います』

『質問に対して、必ず回答してください』

『ただし』

 

 一瞬の間。

 

『嘘をついた場合、“最も大切な記憶”が消去されます』

 

 ナオは息を止める。

 ……来たな。

 核心。

 

「……最も大切……か」

 

 ナオは呟く。

 

「分かるのかよ、そんなの」

 

「分かるんでしょ」

 

 サチが言う。

 

「このゲームは、そういうの外さない」

 

 ナオは小さく笑う。

 確かに。

 今まで外してない。

 嫌になるくらい、正確に削ってくる。

 

『質問を開始してください』

 

 沈黙してしまう。

 

 ナオとサチが、向かい合う。

 距離が近い。

 

 でも……遠い。

 さっきより、明らかに。

 

「……じゃあ、俺からだ」

 

 ナオは言う。

 

 サチが頷く。

 

「どうぞ」

 

 ナオは一瞬だけ迷う。

 何を聞く?

 何を確かめる?

 そして。

 決める!

 

「……お前」

 

 間がある。

 

「俺のこと、どう思ってる?」

 

 サチは、少しだけ驚いた顔をする。

 

「……は?」

「質問、それ?」

 

「ああ」

 

 ナオは頷く。

 

 サチは考える。

 ほんの数秒。

 そして。


「……正直に言うわよ」

 

「言え」

 

「危ない人」

 

 即答だった。

 

「頭が回るし、躊躇がない」

「味方にすると厄介」

「でも」

 

「敵にすると、もっと厄介」

 

 ナオは、何も言えなかった。

 正確だ完璧に。

 

 でも。

 

 それだけだ。

 それ以上が、ない。

 ナオは、小さく息を吐く。

 

「……そうかよ」

 

「次、私」

 

 サチが言う。

 

 ナオは頷く。

 

「来い」

 

 サチは、まっすぐナオを見る。

 その目は冷静で。

 計算していて。

 そして――

 

「ナオ」

 

 少し躊躇も見られる。

 

「私たち、前に会ったことある?」

 

 ナオは、止まる。

 その質問。

 直球で逃げ場なし。

 嘘をつけば何かが消える。

 本当を言えば……何かが壊れる。

 ナオは、ゆっくりと息を吐いた。

 

 そして。

 

「……ある」

 

 そう答えた。

 

 サチの目が、わずかに揺れる。

 

「……どこで?」

 

「分からない」

 

 ナオは続ける。

 

「でも」

「何度も会ってる気がする」

 

 沈黙。

 

 サチは、ナオを見ている。

 じっと深く。

 

 そして。

 

「……そう」

 

 小さく呟いた。

 その声は。

 ほんの少しだけ。

 さっきより、柔らかかった。

 

『判定を行います』

 

 ナオは目を閉じる。

 嘘はついていない。

 大丈夫なはずだ。

 

『両者、真実を確認』

 

 ナオはゆっくり目を開ける。

 サチを見る。

 

 サチも、こちらを見ていた。

 その距離がほんの少しだけ。

 

 縮まっていた……気がした。

 

 ナオは、小さく息を吐く。

 まだ、全部じゃない。


 少しだけ戻った。

 ……かもしれない。

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