表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勝つたびに君を忘れる  作者: ナオ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/12

4話「それでも組むしかない」

 静かだった。


 さっきまでのやり取りが嘘みたいに消えている。


 消えたんじゃない。

 壊れた。


 ナオはゆっくり息を吐く。

 視線を上げる。


 三人。

 また減った。


 当たり前なのに、どこか実感が薄い。


「……なあ」


 ナオは口を開く。


「さっきのやつ」


 少しの間があった。


「思い出せるか?」


 残った男が顔をしかめる。


「……いや」


「なんか……いたのは分かるけど」


「顔も名前も、出てこねえ」


 ナオは頷く。

 やっぱりだ。


 消えたやつは記憶ごと削られていく。


 しかも関係の薄い順から。


「……クソだな」


 ナオは小さく吐き捨てる。


「自分が削られてるって分かるのに」


「何が消えたか分からない」


「気持ち悪すぎる」


 誰も否定しない。


 できるわけがない。


「……ねえナオ」


 サチの声にナオは顔を向ける。


「さっきの」


「誰に入れた?」


 来たな。


 真正面で逃げ場なし。

 ナオは一瞬だけ目を閉じる。


 そして、目を開く。


「……お前だよ」


 空気がわずかに揺れる。

 サチは、表情を変えない。


「理由は?」


「頭が回る」


「一番、生き残りそうだった」


「だから潰した」


 そのまま返す、嘘はない。

 隠す意味もない。


 サチは、ほんの少しだけ息を吐いた。


「そっか」


「納得」


 あっさり。

 軽い。

 ……軽すぎる。


「お前は?」


 ナオが聞く。


 サチは迷わない。


「ナオ」


「やっぱりか」


 ナオは苦く笑う。


「理由も同じ?」


「ほぼね」


 サチは肩をすくめる。


「あなた、危ないから」


「早めに消すべきだった」


 ナオは小さく笑う。


「ずいぶん素直だな」


「嘘ついても意味ないでしょ」


 その通りだ。

 結果は全部出る。

 このゲームでは。


 ナオは視線を落とす。

 そして、上げる。


「……で」


「どうする?」


 一瞬の間。


「組むか?」


 空気が固まる。


 残った男が顔を引きつらせる。


「は?」


「正気かよお前ら」


「さっき殺し合ってただろ」


「だからだろ」


 ナオは淡々と言う。


「お互い、一番危険なのは分かってる」


「逆に言えば」


 一拍。


「一番、読める」


 サチが小さく笑った。


「……なるほどね」


「信用じゃなくて、“理解”で組むってこと」


「そういうことだ」


 ナオは頷く。


 信じる気はない、けど。


 読める相手の方が、マシだ。


「……私はいいわよ」


 サチは即答する。


「裏切るけどね」


「分かってる」


「その前提で組む」


 ナオも返す。

 歪んだ合意。

 この状況じゃ、それしかない。


『次のゲームを開始します』


 声が落ちる様に響く。

 間を与えない。


『第三ゲーム。「欠けた記憶」』


 ナオは目を細める。


 ……来たな。


『ルールを説明します』


 床に光が広がる。

 複数の“断片”が浮かび上がる。


 映像。

 音。

 感情。


 どれも、曖昧。


『各プレイヤーは、自身の記憶を一つ選択してください』


『選択された記憶は消去されます』


 空気が凍る。

 残った男が声を荒げる。


「ふざけんなよ……!」


「もう十分だろ……!」


 無視。


『なお、選択された記憶は、他プレイヤーに共有される場合があります』


 ナオは息を止める。

 最悪だ。


「……選べってか」


「何を忘れるか」


 サチが呟く。


「重要な記憶を捨てれば弱くなる」


「でも」


「他人に渡れば、武器になる」


 ナオは舌打ちをこらえる。


 よくできてる……本当に。


 クソみたいに。


「……ナオ」


 サチが言う。


「一つだけ、いい?」


「なんだ」


「あなた」


 一瞬止まるがすぐに話す。


「私のこと、どこまで覚えてる?」


 ナオは止まる。

 その質問。

 妙に、引っかかる。

 どこまで?

 何を基準に?


「……さあな」


 ナオは答える。


「会った気はする」


「でも、それ以上は分からない」


 サチは、ほんの少しだけ目を伏せる。

 すぐに戻る。


「そっか」


 それだけ。

 ナオは違和感を覚える。

 今の反応はまるで、何かを確認して失ったみたいな。


『選択を開始してください』


 パネルが現れる。

 記憶の断片。

 どれも、曖昧。


 どれか一つを選べば。

 確実に、何かが消える。


 ナオは目を閉じ、考える。


 何を捨てるか。

 何を残すか。


 ……違うな。


 このゲームは。


 “何を捨てさせたいか”だ。


 ナオは、ゆっくり目を開く。


 サチを見る。


 サチも、見ている。


 その目。

 やけに、静かだ。

 怖いくらいに。


 ナオは指を動かし、選択する。


 その瞬間。

 何かが、消えた。


 ……軽い、嫌な軽さだ。


「……何だこれ」


 ナオは呟く。


「何消えた?」


 分からない、分からないのが、分かる。


 最悪だ。

 横を見る。


 サチ。


 その顔が、ほんの一瞬だけ歪んだ。


「……おい」


 ナオが声をかける。


 サチは、ゆっくりと顔を上げる。


「大丈夫か」


 その問いに。


 サチは、少しだけ考える。


 そして。


「……うん」


 そう答えた。


 でも。

 その目は明らかに、何かを失っていた。


 ナオは、息を詰める。


 ……今、こいつ。

 何を失った?


 そのとき


『記憶の共有を開始します』


 声が落ちると、ナオの視界が揺れて流れ込んでくる。


 強制的に入ってくる誰かの記憶。


 断片。

 そして――

 ひとつの光景。


 ナオは、息を止めた。

 そこにいたのは。


 ――自分と、サチだった。


 笑っている……今とは、違う顔で。


 距離が、近い。


 名前を呼んでいる。

 自然に。

 当たり前みたいに。


「……は?」


 ナオの声が、震える。

 横を見る。


 サチ。


 その顔が、青ざめていた。


「……それ」


 ナオが言う。


「お前の、か?」


 サチは、答えない。

 答えられない。


 ただ。

 小さく、震えていた。


 ナオは理解する。


 今、こいつが失ったのは。


 多分――


「……俺か」


 サチの肩が、わずかに揺れた。

 その反応で、確信する。

 ナオは、言葉を失う。


 つまり……このゲーム。


 勝つほどに。


 関係が、消えていく。


「……クソだな」


 ナオは吐き捨てる。

 サチは、何も言わない。


 ナオを見る目が。


 ほんの少しだけ。


 さっきより――


 遠くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ