3話「誰が、誰を…」
静寂が嫌になるくらい、静かだった。
『結果を開示します』
その声は特に、クリアに響く。
ナオは息を止めた。
隣に、サチの気配。
近い。
なのに――遠い。
画面が、浮かび上がる。
名前。
矢印。
誰が、誰に入れたか。
全部、出る。
逃げ場はない。
『開示します』
次の瞬間。
線が表示された。
ナオ → 男A
サチ → ナオ
男A → サチ
女 → ナオ
空気が止まる。
……は?
ナオは、一瞬理解できなかった。
そうじゃなくて、理解したくなかった。
サチが。
自分に、入れてる。
「……おい」
男Aが低く言う。
「お前、サチに入れたのか」
ナオは動かない。
視線だけ、サチに向ける。
サチは、何も言わない。
ただ、こちらを見ている。
……なんだその顔。
驚いてもいない。
焦ってもいない。
まるで――
最初から分かってたみたいな顔。
「ナオ」
女が言う。
「なんでサチに入れてないの」
ナオは、ゆっくり口を開く。
「……分散させるためだ」
「全員バラければ、最多は出ない」
「だから――」
「でも」
サチが、遮る。
静かに。
「バラけてない」
一拍。
「結果、見たでしょ」
ナオは言葉を失う。
……そうだ。
バラけてない。
ナオに、二票。
最多。
つまり――
『最多票を確認』
無機質な声。
『対象者を排除します』
ナオの心臓が、跳ねる。
……俺か。
ここで終わりか。
こんな、くだらないミスで。
クソが。
ナオは、息を吐いた。
……仕方ない。
そう思った、そのとき。
『――条件を再確認します』
空気が、わずかに揺れる。
ナオは目を細めた。
……?
『最多となった場合、その者は排除されます』
ゆっくり。
区切るように。
『ただし』
全員の視線が、天井に集まる。
『最多が複数存在する場合』
一瞬の間。
『該当者全員を排除します』
凍る。
空気が、完全に止まる。
「……は?」
誰かが、かすれた声を出す。
ナオは、画面を見る。
ナオ 2票
サチ 1票
男A 1票
……いや。
違う。
違う。
これ。
“複数”じゃない。
ナオは、息を詰まらせる。
サチを見る。
サチも、こちらを見ている。
そして――
ほんのわずかに、笑った。
その瞬間。
ナオは、理解する。
こいつ。
分かってた。
最初から。
「……お前」
ナオの声が低くなる。
「やったな」
サチは、何も言わない。
ただ、視線を逸らさない。
逃げない。
『排除を実行します』
ナオは、目を閉じた。
……終わりか。
そう思った、その瞬間。
違和感。
――来ない。
何も起きない。
ナオは、ゆっくり目を開ける。
全員、立っている。
誰も消えていない。
「……は?」
男Aが声を上げる。
「なんで……」
『条件未達成』
声が落ちてくる。
『排除は実行されません』
沈黙。
数秒。
意味が、遅れて理解される。
ナオは、眉をひそめた。
……条件未達成?
じゃあ。
このゲームの“本当の条件”は――
サチが、ぽつりと呟く。
「ねえ」
全員がそっちを見る。
「これ」
一拍。
「“誰かを殺すゲーム”じゃないよ」
空気が、変わる。
「“誰かを選ぶゲーム”でもない」
ナオは目を細める。
サチの声は、静かだった。
でも、確信があった。
「“選ばないこと”が条件」
沈黙。
ナオは、ゆっくり息を吐く。
……なるほどな。
だから。
自分は、間違えた。
“選んだ”時点で。
「……最初から、分かってたのか」
ナオが聞く。
サチは、少しだけ考えてから答えた。
「半分くらい」
「残りは、確信に変わった」
「お前の動きで」
ナオは苦笑する。
「利用されたってことか」
「そうなるね」
あっさりだ。
ナオは視線を落とす。
……やられた。
完全に。
でも不思議と、嫌じゃない。
むしろ――
少しだけ、安心してる自分がいる。
……なんでだよ。
『第二ゲーム、終了』
『生存者、四名』
声が響く。
ナオは、サチを見る。
サチも、こちらを見る。
その目。
やっぱり、どこかおかしい。
知りすぎている。
慣れすぎている。
ナオは、小さく呟く。
「……お前、何回目だ」
サチは、少しだけ目を細めた。
「さあ」
一拍。
「何回だと思う?」
ナオは、答えなかった。
答えられなかった。
ただひとつだけ、分かる。
このゲーム。
思ってるより、ずっと深い。
そして。
サチは――
その“奥”を知っている。




