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勝つたびに君を忘れる  作者: ナオ


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2/12

2話「誰を選ぶ?」

 白い空間は、そのままだった。

 何も変わっていない。


 ただ――ひとり、いない。


 さっきまで、確かにそこにいたはずの男。

 名前も、顔も。


 ……思い出せない。


 ナオは眉をひそめた。


「……おかしいだろ」


 自分の口から出た声が、少しだけ掠れている。


「消えたやつ……覚えてるか?」


 誰も答えない。

 沈黙。


 いや、違う。


 答えられない。

 それが分かる。


「顔、思い出せねえんだけど」


 別の男が言う。

 苛立ちと、焦りが混ざった声。


「私も……だ」


 女のひとりが、小さく呟く。


 ナオはゆっくりと息を吐いた。


 記憶が消える。


 違う。

 削られてる。

 雑に。

 乱暴に。


「……さっきの」


 ナオは言う。


「流れ込んできたやつ」


 サチが、わずかに頷いた。


「他人の記憶」


「多分」


「……多分って」


 ナオは顔をしかめる。


「確定じゃないのかよ」


「断定できるほど、優しくないでしょ。このゲーム」


 即答だった。

 その言い方に、引っかかる。

 ナオはサチを見る。


「……慣れてるな」


 一瞬。


 ほんの一瞬だけ、サチの視線が揺れた。


 すぐに戻る。


「そう見える?」


「見える」


「気のせいじゃない?」


 軽く流された。


 けど、違う。

 こいつ何か知ってる。


 もしかして……


 “経験してる”?


 そこまで考えて、ナオは思考を止めた。


 今はそれどころじゃない。


『次のゲームを開始します』


 天井からの声。


 間を与えない。

 息を整える暇もない。


『第二ゲーム。「多数決の空白」』


「……またかよ」


 男が舌打ちする。


『ルールを説明します』


 床に円が浮かび上がる。


 淡い光。

 その中に、四つの位置。


 自動的に、足が動いた。


 ……いや、動かされた。


 ナオは舌打ちをこらえる。


『各プレイヤーは、1名を選択してください』


『選ばれた者が“最多”となった場合、その者は排除されます』


 空気が凍る。


「は?」


「ちょっと待て……」


『なお、選択は非公開です』


『ただし――』


 一瞬の間。


『誰が誰に投票したかは、結果として開示されます』


 ナオは目を細める。


 最悪だな。


 完全な信頼破壊ゲーム。


「つまり……」


 男が言う。


「一番票が集まったやつは、死ぬってことか」


「そうなるな」


 ナオは答える。


「で、誰が誰に入れたかはバレる」


「ふざけてんのか……」


 女が吐き捨てる。


「じゃあどうすんだよ」


 沈黙。

 誰も口を開かない。

 当たり前だ。


 今ここで“名前を出す”ってことは――


 敵を作るってことだ。


 ナオはゆっくりと周囲を見る。


 3人。


 さっきより少ない。


 当然だ。


 けど。


 減った実感が、薄い。


 ……気持ち悪い。


「……全員バラければいい」


 ナオが言う。


 全員がこちらを見る。


「票が分散すれば、最多は出ない」


「同数ならどうなるかは分からないが……少なくとも集中は避けられる」


「……確かに」


 男が頷く。


「じゃあそれで――」


「無理でしょ」


 サチが割って入る。


 あっさりと。


「は?」


「この人数で完全にバラける保証ある?」


 ナオは黙る。


「誰か二人が同じやつ選んだら終わり」


「……それは」


「それに」


 サチは続ける。


「“誰に入れるか言わない”ってことは、信用できないってことでしょ」


 空気が重くなる。


「結局、疑い合いになる」


「さっきより、ずっと悪い」


 ナオは息を吐く。


 ……その通りだ。


「じゃあどうすんだよ」


 男が苛立つ。


「誰か一人決めるのか?」


 その言葉。


 一瞬、空気が止まる。

 ナオは目を細める。


 ……来たな。


 この流れ。

 自然に“犠牲者を決める”方向に誘導されてる。

 気持ち悪いくらい、スムーズに。


「……なあ」


 ナオはゆっくり言う。


「これ、本当に“最多だけ”か?」


「は?」


「ルール、ちゃんと聞いたか?」


 全員が固まる。


 ナオは続ける。


「“最多となった場合、排除”って言っただけだ」


「同数最多の場合は、どうなる?」


 沈黙。


「……あ」


 誰かが声を漏らす。


 サチが、わずかに笑った。


「いいとこ見るじゃない」


 ナオは視線を向ける。


「気づいてたな」


「まあね」


 軽く返す。


 ……やっぱりだ。


 こいつ、速い。


「つまり」


 ナオは言う。


「全員同数にすれば、回避できる可能性がある」


「2対2でも、1対1対1対1でもいい」


「“最多が一人”じゃなければいい」


 空気が少しだけ変わる。


 希望。


 ……いや。


 まだ薄い。


「でもよ」


 男が言う。


「誰が誰に入れるか、結局分かるんだろ?」


「あとで揉めるだけじゃねえか」


「それも含めてゲームだろ」


 ナオは短く答える。


 そのとき。

 サチが、ぽつりと言った。


「……ねえナオ」


「ん?」


「もしさ」


 一拍。


「これ、“同数でも全員アウト”だったらどうする?」


 空気が凍る。


 ナオは、サチを見る。


 その目。

 試してる。

 完全に。


 ナオは、ゆっくりと口を開いた。


「そのときは」


 一瞬。


「全員で外すしかないな」


「は?」


「投票しない」


 沈黙。


「……そんなの」


「できるかよ」


 男が言う。


 ナオは肩をすくめる。


「できるかどうかじゃない」


「やるかどうかだ」


 そのとき。


『選択を開始してください』


 パネルが現れ、名前が並ぶ。


 ナオは、指を止めた。

 ほんの一瞬。

 サチを見る。

 目が合う。


 ――読めない。


 こいつ、何考えてる?


 ナオは、小さく息を吐く。


 そして選択した。


 静寂が重い、嫌になるくらい。


『結果を開示します』


 全員が、顔を上げる。


 その瞬間ナオは確信する。


 このゲームは、さっきよりも――


 人間を壊しにきている。

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