表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勝つたびに君を忘れる  作者: ナオ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/12

1話「共有された嘘」

 目が覚めたとき、ナオは自分がどこにいるのか分からなかった。


 白い。

 やけに白い。

 床、壁、天井も、全部同じ色で塗り潰されている。


 落ち着かない。


 妙に息が詰まる。


 窓はない。


 時計もない。


 音も――ない。


 ……いや。


 違う。


 気配だけは、ある。


 目の前に、人がいる。


 四人。


「……ここ、どこだよ」


 誰かが言った。

 男の声だった。


 少しだけ、震えてる。

 ナオはゆっくり顔を上げる。

 視線を横に流す。


 そこで止まった。


 ひとりの女。

 同じくらいの歳。

 三十前後。


 落ち着いた目をしてるくせに、妙に冷たい。


 ――知ってる。


 ……いや、違う。


 そんなはずない。


 でも、どこかで見た気がする。

 胸の奥が、少しだけ軋んだ。


「……どこかで会ったことある?」


 気づいたら口に出してた。


 女は、ほんの少しだけ目を細める。


「さあ」


 一拍。


「ないんじゃない?」


 あっさり。


 だけど、ほんの少しだけ間があった。


 そのとき。


 カチリ。


 音。


 全員が一斉に天井を見る。


 黒い穴。


 いつからあった?


『ゲームを開始します』


 感情のない声。

 スピーカーか。


 それとも、もっと別の何か。


『第一ゲーム、共有された嘘』


 次の瞬間。


 ナオの手の中に、何かがある。


「……んっ?」


 カード。

 いつの間にか握っていた。

 裏返す。


 真の文字が1つだけ。


 周りも一斉にざわつく音。


『全員、自身のカードを確認してください』


『カードには「真」または「嘘」と記されています』


 ナオは顔を上げる。


 誰がどっちかは分からない。


 当たり前だ。


『これより、質問を提示します』


『あなたたちは――』


 ……静かな間がある。


 わざとらしいくらいの間。


『このゲームを、理解していますか?』


「は……?」


 思わず声が漏れる。

 意味が分からない。


『回答はYESかNO』


『全員一致で回答してください』


 ……は?


 理解しているかって。


 そんなの――。


『「真」のカードを持つ者は正しい回答を選択すれば生存』


『「嘘」のカードを持つ者は誤った回答を選択すれば生存』


 空気が変わる。

 重くなる。

 誰も動かない。


 ナオはゆっくり周囲を見る。


 四人。


 誰が真で、誰が嘘かは分からない。


 でも。


 ひとつだけはっきりしてる。


 全員、同じ答えを出さなきゃいけない。


 なのに。


 正解はバラバラ。


「……ふざけてるな」


 小さく吐き出す。


「気づいた?」


 さっきの女。


 サチ……か。


「これ、全員生き残るゲームじゃないよ」


 ナオは目を細める。


「最初から、何人か切る前提」


 その通りだ。


 ……多分。


「ちょっと待てよ!」


 別の男が割り込む。


「これ無理だろ!?」


「どうやって合わせんだよ!」


 うるさい。


 けど、間違ってない。


 ナオは一度目を閉じる。


 考える。


 YESかNO。


 全員一致。


 真と嘘。


 ……どっち選んでも、誰か死ぬな。


 クソみたいなゲームだ。


 ……いや。


 待て。


 引っかかる。


「……なあ」


 ナオは顔を上げる。


「この質問、雑すぎないか」


「は?」


「“理解しているか”って、基準がない」


 全員が黙る。


「全部理解してる必要はないだろ」


「少しでも分かってると思えばYESでもいい」


「逆に、分からない部分があるならNOでもいい」


 沈黙。


「つまり」


 息を吐く。


「どっちでもいける」


「YESでも、NOでも」


 ざわめき。


「……マジかよ」


「じゃあ……」


「合わせられる?」


 ナオは頷く。


「多分な」


 サチを見る。


 目が合う。


 ……こいつ、分かってるな。


 ナオは少しだけ口元を歪める。


「NOでいく」


「“まだ理解してない”で統一」


「それなら両方成立する」


 誰も反論しない。


 余裕はないけど……やるしかない。


『回答を入力してください』


 パネルが出る。


 YES。


 NO。


 ナオはNOを押す。


 迷いはない。


 他も押していく。


 静かだ。


 妙に静かすぎる。


『全員一致を確認』


 ……よし。


 少しだけ空気が緩む。


 けど。


 なんか、おかしい。


『判定を行います』


 ナオは眉をひそめる。


 違和感。


 嫌な感じがする。


『――条件未達成者を排除します』


「は?」


 その瞬間。


 ひとりが、消えた。


 何も残らない。


 音もない。


 気配ごと消えた。


「……は……?」


 誰かが震える。


「なんでだよ……」


「成功しただろ……!」


 ナオは動かない。


 ただ、見ている。

 その場所を。


 そして。

 頭の奥に、何かが流れ込む。


「……っ」


 知らない景色。

 知らない家。

 知らない記憶。


 ……でも、感情だけは分かる。


 後悔。

 強烈な後悔。

 ナオは息を詰まらせる。


「……今の……誰のだ」


 サチを見る。


 あいつも顔を歪めてる。


「……感じた?」


「……ああ」


 一拍。


「敗者の記憶」


 その一言で、全部繋がる。


 ナオは拳を握る。


 理解した。


 このゲーム。


 ただ生き残るだけじゃない。


 勝つたびに。


「……削られるな」


 人間が。


 そのとき。


『第一ゲーム、終了』


『生存者、四名』


 ナオはサチを見る。


 サチも見ている。


 言葉はいらない。

 分かる。


 ここから先は。

 もっと、酷い。

 ナオは息を吐く。


「……生き残るぞ」


 サチは小さく笑う。


「当たり前でしょ」


 その笑い方が、少しだけ――苦かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ