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君はプロトタイプ  作者: 真鳥カノ
chapter6 約束
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7 『スペア』

 家に戻って、すぐに二階へ向かう。自分の部屋じゃない。その手前、家の中で唯一ロックがかかるようになっている、その部屋の前に私は立った。

 小さく深呼吸をして、ドアを見つめる。

 中から音は聞こえない。中にいる人にも、何も聞こえない。

 私の、決心次第だ。

 朝、今日は早く戻ると言っていた。さっきお母さんに聞いたら、もう帰ってきていると言っていた。

 このドアの向こう側に、お父さんはいる。

 小刻みに震える手を押さえながら、私は、ドアロックのボタンを押した。そして……

「ヒトミです」

 はっきりと、そう告げた。

 返事は聞こえない。その代わり、すぐさまロックは解除され、ドアが開いた。

 中にいる人は……お父さんは、室内で唯一の椅子に座って、こちらを見ていた。

「どうした?」

「お父さん、お話ししたいことがあります」

 そう言うと、お父さんは立ち上がり、モニターに映し出していた映画を停止させた。灯りを点けて、もう一脚、椅子を探してくれる。

 だけど、今必要なのは、そうじゃない。

「突然、ごめんなさい」

「いや、いい。何か言いたいことが、あるんだろう」

 覚悟していた、と言いたげな声だ。しおらしいような声が、なんだか釈然としない。だけどそれも違う。私が今、一番言いたいのは……

「お父さん、私は……お父さんにとって、何ですか?」

 お父さんは、一瞬だけ驚いたような目をした。だけど、それすら予測していたように、すぐに元のお父さんの顔に戻った。

「お前は、お母さんと俺にとって、大事な娘だ。愛と同じくらいに」

「ごめんなさい……とても信じられません」

 お父さんは、何も言い返さない。言い募ろうともしない。ただ、黙って私の言葉の続きを、待っていた。

「私の名前が、どうして『ヒトミ』なのか、ちゃんと知ってます。私は……クローン生成管理番号AS655138-1103。その下四桁をとって、1(ヒ)10(ト)3(ミ)……そう、お父さんがつけたんですよね」

「……ああ」

「愛のことは心配ですぐ抱き上げていたけど、私には早く歩けるようになれって言って、一度も抱っこしてくれたことはなかった」

「……そうだな」

「三歳か、四歳の頃……お父さんは、私に言いましたね」 

――お前は、愛の妹じゃない。愛に何かあったら、腕や足、体のどれでも愛にあげる……そのために、生まれたんだよ。

 そして、困惑する私に、更に言ったのだ。

――愛のこと、大好きだろう? なら、愛が困ったときは必ず自分の体を全部使って、助けてあげてくれ

 幼い私に、『身の程』というものをたたき込んだ言葉だった。


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