6 勇気
耳まで赤いナオヤくんの顔を覗き込みながら、徐々に、近づいていった。おそるおそる、その指をちょこんと握る。すると最初は柔らかく、そして徐々に力をこめて、握り返してくれる。
「ふぇ……っ!?」
こんなにも戸惑う声も、珍しい。だけどすぐに、彼はたどたどしく、私の肩にそっと手を添えた。そして……
「好き、です」
彼の声が、消え入りそうだった。だから消えないうちに、私も答えた。
「うん、私も」
息を呑む声が、耳元で聞こえる。
好き。
ようやく、わかった。理屈じゃなくて、心に直接突きつけられたように。
「私……ナオヤくんが好き。深海くんに似ているからじゃない。ナオヤくんが、今まで会った誰よりも優しくて、繊細で、そして自分の命や運命と向き合う勇気ある人だから。世界で一番、凄い人だと思うから」
「それは……過大評価です。僕は、あなたがいなければ何もできませんでした」
それは違う。背中を押されて、揺り動かされていたのは、いつだって私の方だ。彼が一歩踏み出す勇気を見せてくれるから、知らなかったことに気づけた。
そして、もう一度だけ、甘えたいと思ってしまっていた。
「……あのね、お願いがあるの」
「何ですか?」
そう言うと、一旦離れて、リスト端末を操作した。そして私と彼の間に、『実験リスト』を表示させる。
さっき加地くんや弓槻さんたちと話し合って、項目がだいぶ増えている。その、最後にもう一行付け足した。
「これは……」
「これを実行するのは、私だけ。ナオヤくんも、弓槻さんも加地くんも、やる必要はない。だけど……勇気がほしい。一人だけじゃ、できないかもしれないから」
リストと、私と、ナオヤくんは交互に見て、ほんの少し眉を下げていた。色々と、心配をかけているんだろうと思う。
だけど、私がやらなきゃいけないことだ。そして、ナオヤくんとおばさんの姿を見て、私も立ち向かわないといけないと、そう思った。
勝手なお願いだったかと、不安になって顔を上げると、そこにはナオヤくんの穏やかな笑みが待っていた。清流のような、曇りのない面持ちだった。
「僕の勇気なんて、あなたに比べれば微々たるものだ。それでも良ければ、ありったけ持って行って構いません」
そう言うと、今度はナオヤくんが大きく両手を広げて、私をまるごとすっぽりと腕に収めてしまった。そのまま、ぎゅぅっと、力一杯締め付ける。
「うっ……痛い痛い! 強い!」
「ありったけの勇気なので」
「ありったけじゃなくていいよ。ちょっとでいい、ちょっとで!」
笑い声と共に、ほんの少し腕が緩まる。一瞬絞め殺されるかと思ってじろりと睨み上げるけど、すぐに、やっぱり笑ってしまった。
片手でリスト端末を操作する。もう一つの、二人だけのファイルをそっと開いて、指でそっと、マーカーラインを引いた。
リストに残っていたうちの、二つ。
『きれいな夕日を見る』『強く抱きしめる』……この、二つに。
「……どうか、頑張って」
「うん……ありがとう」
そう答えて、私は……私たちは、お互いにもう一度強く、互いの温もりをその腕に刻みつけた。




