5 心拍数
もう一度、真っ赤な海に目を向けた。燃えるようでいて、でもどこか甘く優しい色合いに見える。
「照らすもの全部、真っ赤に染めちゃうでしょ。それも強引に塗りつぶされるんじゃなくて、ヴェールで優しく包み込まれるような……そんな感じがするから、好き」
「……はい。いい画いただきました」
「え!?」
見ると、ナオヤくんはリスト端末のカメラをこちらに向けたまま、なんと録画モードにしていた。
「や、やめてよ! なんで撮るの」
「とても自然な、僕たち自身のことを話せていたと思います」
「だからこそ恥ずかしいんだけど……!」
抗議の声を向けると、ナオヤくんは録画を停止してくれたみたいだ。かと思ったら、早速再生している!
「もうやめてよ!」
「いえ、やっぱり違うなと思って」
ナオヤくんは、私が思い出に浸って語る場面を繰り返し見ている。
「僕の脳には愛さんの記憶も残されていますが、やっぱりあなたとはぜんぜん違います」
「そりゃ、そうだろうけど……」
「ヒトミさんの方が、綺麗です」
「……へ!?」
今、なんて言った?
振り返って凝視していると、ナオヤくんの方が首を傾げて尋ね返した。
「なぜ驚くんです?」
「そ、そんなこと……初めて言われたもので」
「そうですか。でも事実です」
何度瞬きしても、何度尋ね返しても、ナオヤくんは意見を曲げない。あまりに平然と、何度もそう言い続けるから、こっちが恥ずかしくて焼け焦げそうになってくる。
「僕は、明るくて誰にでも優しく、尚也を好きでいてくれた愛さんには感謝しています。でも、僕と一緒に『実験』をしてくれたのは、ヒトミさんです」
ナオヤくんのまっすぐな視線に、射抜かれるようだった。その視線に縫い止められて、目を逸らすことはできなかった。
「……すみません。心拍数が上がってしまうので、一気に言いますね」
「え?」
「僕にとっては、一緒に寄り道をしてくれて、辛いものを食べて、甘いものも食べて、共通の友人ができて、海に行って、泊まりで遊んで、それに……」
一度、言葉に詰まったようにうつむくナオヤくんは、だけどすぐに顔を上げた。目にいっぱいの涙をためて。
「母と僕の、溝を埋めてくれた……! そうしてくれたのは、愛さんでも誰でもない。あなただ」
ナオヤくんの手がそろりと私の手に触れる。それまでの声音から受ける印象とは真逆の、か細くて、優しい触れ方で。
「ぼ、僕は……その……たぶん、人並みな言葉で恐縮ですが、えっと……できればもっとずっと一緒に実験を続けたいと言うか、実験以外でも一緒にいられたら……友達でいられれば僥倖なんですが、それだけで満足しない自分もいてですね。だから、良ければこれからも定期的に一緒に夕日を見るとかそういったことを二人だけでできればと思った次第で……」
ものすごく、一気に喋り倒している……。息継ぎなしにこれだけ喋る方が心拍数が上がるんじゃないんだろうか。
むしろ心配になるけれど……その見たことないくらい真っ赤な顔に、胸の内で、何かが動いた気がした。扉が開いたというか、重りがついたように動かなかった足が、一歩踏み出した……というかのような、そんな気配。
「ナオヤくん」
「はい」




